シニアにむけた新たなアプローチ ひと研究所『リビングラボ』スタート(前編)

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シニアにむけた新たなアプローチ ひと研究所『リビングラボ』スタート(前編)

高齢化にともない、ビジネスにおける注目度が年々高まるシニア層。豊富な人生経験を持つシニア層の活性化は単に市場としてだけでなく、社会資源の活用という視点からも重要な課題です。ビデオリサーチひと研究所は今回、社会福祉法人 横浜市港南区社会福祉協議会(以下、港南区社協)と共同で、港南区に住むシニア男性を対象としたリビングラボを立ち上げ、シニア層の姿を読み解くと同時に、地域社会への貢献を試みています。 今回は『ひと研型リビングラボ』を紹介するとともに、立ち上げに関わった当社ひと研究所エイジング・ラボ リーダーの對馬が立ち上げの経緯とその狙いを2回に分けてお伝えします。

前編は「これまでの取り組み」「ひと研型リビングラボとは」「ひと研型リビングラボの特徴」

後編は「ひと研型リビングラボ実例紹介」と「今後の展望」をお伝えします。

シニアにむけた新たなアプローチ ひと研究所「リビングラボ」スタート(後編)はこちら↓

https://www.videor.co.jp/digestplus/market/2016/11/10552.html

これまでのひと研究所「VRエイジング・ラボ」の取り組み

ひと研究所のシニア研究チーム「VRエイジング・ラボ」では、かつてのお年寄りのイメージではとらえきれない、多様なライフスタイルを持つ現代のシニア層の分析研究を進めてきました。まもなく人口の半分が50歳以上になろうとしている日本において、シニア市場の存在感は大きく、そのリアルな姿を捉え続けることは社会的にも重要なテーマだと考えます。当社は、そもそも現在のシニアとはどんな人たちなのかを探るため、老年学の専門家の知見も取り入れながら、定量調査や定性調査を行い、研究を進めてきました。

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エイジング・ラボでは55〜74歳をターゲットとしてシニアを定義し、それぞれの価値観をもとに6つのタイプに分類したのですが、そこで明らかになったのは、従来にはなかった「新型シニア」の存在でした。詳しくは、昨年2月に上梓した「新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!」(ダイヤモンド社)にまとめています。

この分類と新型シニアの発見は、率直に言ってかなり当を得た分析だと自負しています。しかしながら、刻々と変わる社会や時代の流れの中で、彼らのより詳細なプロフィールや行動の傾向、どんなアプローチがより有効かについては、リアルに即時性を持って検証できる場が必要だとも考えていました。シニアに直接会って、話を聞くことができる場がほしい。そして、もし仮説と実態に差異があれば、また新しい兆しや発見があれば、モデルを修正して、より精度を上げたい。

一方で、「シニア市場」が注目され始めて早20年近く、成功とされる事例は数少なく、さらにシニア自体が時代とともに変わっていく中、今までのマーケティングはそろそろ限界で、リサーチの仕方にもなんらか新しい機軸が必要なのではないか、とも感じていました。そうした思いから、シニア層の活性化に取り組んでいる様ざまな企業や地域の活動を調べていく中で出会ったのが港南区社協の「セカンドライフ大学校」でした。

セカンドライフ大学校は、ビデオリサーチが接触したときにはすでに3期目を数えていました。 よりリアルなシニアターゲットに仮説検証や課題解決ができる場を求めていたVRエイジング・ラボと、セカンドライフ大学校から発展して、シニアの社会参加をより活発化する方法を探っていた港南区社協。互いの課題が一致し、港南区社協はシニアの新たな社会参加の仕組みづくりを、我々は単なる調査にとどまらない仕組みづくりをめざしました。それが今回ご紹介する『ひと研型リビングラボ』です。

セカンドライフモラトリアムに注目する理由

図24.jpg『ひと研型リビングラボ』をご紹介する前に、具体的にどんなシニアの姿が見えてきたのか、そして、私たちが注目したシニア層について、あらためて説明しましょう。私たちはシニアを、行動が「積極的」か「慎重・控えめ」かの行動軸と、「変化・刺激」を求めるのか「伝統・保守」を重視するのかといった志向軸の2つの軸で6タイプに分類しました。もともと価値観をベースに分類しているので物事の考え方・捉え方はそれぞれ異なり、それが行動や商品・サービスなどの選択にも影響します。

シニア価値観セグメント 詳細はこちら↓

https://www.videor.co.jp/digestplus/title/2018/01/7717.html

特に、右側の象限に位置する3つは、生活に変化や刺激、新しい情報を求めるタイプで「新型シニア」と呼んでいますが、中でも私たちが注目したのが「セカンドライフモラトリアム」タイプでした。 このタイプは変化や刺激を好む新型シニアでありながら、行動が控えめであまりアクティブではありません。モラトリアムと名づけた通り、今後の人生をどう過ごすか模索しているため、行動が目立たず、従来のシニアマーケティングではあまり注目されていませんでした。

しかし、健康で体力があり、ある程度のお金と自由になる時間もあって、様ざまな面においてポテンシャルは高く、しかもシニア全体の約3割を占める最大多数派でもあります。 このポテンシャルの高さと6分類の中で最もボリュームが大きいことが、このタイプに注目した理由です。とりわけ男性は、長らく仕事人間として生きてきたため、地域や社会とのつながりが薄く、何か活動したいけれどきっかけがない、変化・刺激を求めているが一歩が踏み出せないといった傾向が強く表れていました。私たちは親しみを込めて彼らを「モラトリアムおじさん」と名付けました。

私たちは、このモラトリアムおじさんたちが動き出せば、社会的には人的資源の有効活用になりますし、経済的にも活性化するはず、と考えました。外に出れば、人と触れ合う機会が増えます。話題づくりのために情報収集にも敏感になるでしょうし、見た目にも気を使うようになります。動くことで健康維持も考えるようになるでしょう。そうすると新たなニーズが生まれますし、消費者としてだけでなく働き手として活躍していただければ、ビジネスが循環します。 モラトリアムおじさんは、どこかに"このままではいけない"という思いがあり、社会とつながるきっかけを求めています。

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気持ちはある。けれど、やることが見つからない。そんなモラトリアムおじさんが動き出すためには、最初の一歩を後押しする仕組みが必要です。例えば「家族からのレコメンド」。これも一例です。先述した港南区社協のセカンドライフ大学校では、実際に参加したおじさんたちは最初告知を見た奥さんから"あなた行ってみたらどう?"と勧められて来たというパターンが多くみられたそうです。

『ひと研型リビングラボ』とは

図25.jpgモラトリアムおじさんを家から外に、社会に連れ出すきっかけを新たに設けるために、エイジング・ラボと港南区社協と共同で開発したのが、地域と企業とおじさんをつなぎ、それぞれの課題を解決する場としての『ひと研型リビングラボ』です。「リビングラボ」という取り組みについては、老年学の専門家としてVRエイジング・ラボメンバーに参画している堀内 裕子先生(ジェロントロジー・ライフ・デザイナー/桜美林大学老年学総合研究所連携研究員)から教えていただきました。いろいろな仕組みがありますが、大まかには実際に人々が暮らすエリアで、暮らしを豊かにするサービスや商品の開発・改善や地域課題の解決に向けて産・官・学・民4者が「共創」する活動のことです。アメリカで提唱され、北欧を中心に急速に発展し、近年、日本でもさまざまな事例が見られるようになっていますが、我々が『ひと研型リビングラボ』と名乗るのは、他のリビングラボとは異なる特長をいくつか有しているからです。

『ひと研型リビングラボ』の特長

1 シニア男性に特化

まずは「モラトリアムおじさん」の活性化を第一目的としたため、シニア男性に特化して構築しました。人口の減少が予測される時代に、シニアは大事な社会の資産です。繰り返しになりますが、きっかけが見つけられず動けなかった人たちに行動を促すことができれば、消費や地域の問題解決など、社会のさまざまな面が活性化します。

すでに動いている人たちではなく、動けないでいる「モラトリアムおじさん」たちの変化を求めるモチベーションを刺激し、一歩を踏み出すための背中を押す、そのおじさんたちの活躍をみて、また別のおじさんたちが出てくる・・・という好循環が起こることを目指しています。

2 循環・還元型のスキーム

循環・還元型のスキームを構築したことが、『ひと研型リビングラボ』の最も大きな特長です。一般的な定性調査は企業の課題解決を目的として行われますが、それとは異なり、話し合うテーマは企業の課題と地域住民の課題、両者の解決につながるものに限っています。 「ボランティア」や「地域社会への貢献」というキーワードだけでは、地域社会デビューのおじさんたちにとってはなかなかハードルが高いものですが、そこに「企業の商品やサービス開発」にも寄与する、という要素が加わることで、より自分ゴトとして考えてもらいやすくなります。

逆に、企業色が強いものへの協力にネガティブに反応する人たちも一定数いますが、そういう人にとっては「地域社会への貢献にもなる」ということがメリットになります。 企業は参加して意見やアイデアを出してくれた参加者だけでなく、自治体や行政側(今回で言えば港南区社協)にもインセンティブを提供する仕組みになっています。

自治体や行政は、これを話し合いがされた地域課題解決のための費用として活用する、企業はマーケティング課題を解決するヒントを得るだけではなく、同じ地域に暮らす当事者としてそれぞれの課題と向き合い、社会に貢献することで、事業価値を高めることができます。 ここで生まれたアイデアや解決策を具体化するために、それぞれが役割を果たす仕組み、これが『ひと研型リビングラボ』独自の循環・還元型スキームです。

3 ラウンドテーブル型トーク

上記の特長をより効果的に生かすのが、産・官・学・民4者が同じテーブルを囲んで話し合うラウンドテーブル型トークです。 通常グループインタビュー等の定性調査では、テーブルに着くのはインタビュアーと参加者のみ、課題を持つ企業の関係者はバックルームで一方的に聞いているのが一般的です。『ひと研型リビングラボ』では、関係者全員が同じテーブルに着き、一緒に議論したりアイデアを出し合います。

後編「ひと研型リビングラボ実例紹介」と「今後の展望」はこちら↓

https://www.videor.co.jp/digestplus/market/2016/11/10552.html

ビデオリサーチ「ひと研究所 VRエイジング・ラボ」について

ひと研究所は、株式会社ビデオリサーチの生活者に関する研究を行っているシンクタンク。研究領域ごとにチームを構成しており、今回このシニア男性のリビングラボを企画したのはシニア研究チーム「VR エイジング・ラボ」です。「VR エイジング・ラボ」では「シニア市場の活性化」を目指し、老年学の専門家と共にリアルなシニアを捉えた研究、発信をし、研究で得た知見と豊富な生活者データをベースに、シニアマーケティングの支援・コンサルティングを行っています。

問い合わせ先: hitoken@videor.co.jp

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