行動ログの裏側を紐解く 〜「ログ×インタビュー」で迫るカスタマージャーニーのリアル
様ざまなタイプのログデータがマーケティングに活用されるようになり、従来からの「アンケート調査」や「インタビュー調査」ではわからなかったリアルな生活者の動きを捉えられるようになってきました。「ログデータがあれば、調査はいらない」という論調も時折見かけます。でも本当にそうなのでしょうか?ログに現れるのは基本的に行動の痕跡です。行動を間近で見ている自分の家族でも、何かの折に本人の言葉を聞いて「そんな風に思っていたなんて知らなかった」という場面がよくあるように、深い理解のためにはやはり「なぜそうしたの?」「それでどう思ったの?」という"アスキング"が必要なのではないでしょうか。
そんな発想から、今回私たちはログデータにインタビューを組み合わせることで、より一層価値の高い知見や発見を得ることを目指して、テレビ、PC、スマホ、タブレットのログを取得している「VR CUBIC」のモニターにデプスインタビューを試みました。
今回のログデータを使ったデプスインタビューの調査課題は、ログの強みを活かせるよう、「カスタマージャーニーの把握」とし、商品カテゴリーはブランド選定の際に比較的しっかり情報収集すると思われる「美容液」と「スマートフォン」にしました。3ヶ月以内にそれらを購入したモニターを選び、ログからその人が接触したメディアとコンテンツを特定して、実査では、実際にそのサイトやCMを見てもらいながら、なぜそのコンテンツを見たのか、見てどう思ったのか、そのコンテンツのどんなメッセージが響いたのかなどを聞き出していきました。今回は2ケース(2人)の限定的な実験調査ではありますが、興味深い気づきや意外な発見が得られました。例えば、スマホの機種変更をしたケースNo.2(下図参照)の方はずっとauユーザーだったのですが、ログを見るとソフトバンクのサイトも何度も訪れていたので、てっきりキャリア変更も検討しているのだと思っていました。ところが、インタビューで聞いてみると、auで欲しい端末が在庫切れしたので、他社にあればauにもいずれ入荷するだろうと思って、頻繁に在庫チェックをしているだけだったのです。 そんな、"聞いてみないとわか2らない事実"がいくつもありましたので、その一端を紹介します。
ケースNO.1 美容液購入のジャーニ
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ケースNo.1からの気づき
①ログから想定した対象者イメージが、実際にインタビューした結果、大きく修正された
▶ この方は、気になったブランド毎に、性質の異なる情報が得られるサイトを順次チェックしておりインタビュー前は、非常にロジカルに検討している人なのではないかとイメージされました。
▶ しかし、実際にインタビューしてみると、文字情報はあまり重視しておらず、パッケージの印象や、口コミサイトの★の数、テスターを使ったときのテクスチャーなど、感覚的な要素による判断が目立つ方でした。
▶ インタビュー前は、サイトの閲覧状況と情報×選択セグメントの「トレンドフリーク」(=感覚派)という属性がアンマッチに見えたのですが、実際にはそれぞれのサイトの中でも目をつけているところは、やはり「トレンドフリーク」らしい感覚的な部分であり、ログを見る際にもこうした心理的な属性を把握することが有益であることを実感しました。
②サイトの情報の中でも、注目された箇所、されなかった箇所が把握できた
▶ 様ざまなまとめサイトや公式サイトを見ている中で、この方が注目しているのは、商品パッケージや、ビフォーアフターを対比した写真など、情報性とビジュアル性の高い箇所が中心でした。逆に、説明テキストは流し見になりがちな様子。
▶ テキスト中心の口コミサイトでも、評価を示す★の数や本文中の「!」など、ビジュアル要素に目が行っていました。
▶ 人によって刺さる情報の違いを踏まえ、ブランドやサイトの特性に合った表現が必要だと思わされました。
③ブランドが"頭の中の買い物カゴ(=検討リスト)"に入るプロセスがリアルに把握できた
ケースNo.1では、美容液の検討に当たって様ざまなサイトを閲覧していますが、決め手になった決定的な表現があった訳ではなく、 ? 様ざまな情報サイトや雑誌など、多くの情報源で推薦されている ? 口コミサイトでも高評価な書き込み(星の数や「効果がありました」といった書き込みなど)が多い など、そのブランドに関するポジティブな表現と数多く接する中で、徐々に「このブランドは良さそうだ」という判断が形成されていっている様子が見受けられました。 確かに、こうした"多数決的な判断"は、ネットショッピングではよく行われていることかも知れません。 こうした、一つ一つの接点では決定打がなく、それが積み重なって、徐々に候補ブランドになっていく様子がクリアになったのは、ログベースのインタビューならではないでしょうか。
ケースNO.2 スマホ購入のジャーニ
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ケースNo.2からの気づき
④自分が見たいと思っていない時に出る広告は、ほとんど見ていなかった
これだけ長期間、頻繁にスマホについて検索しているので、広告もその関係のものが多く出ていると思うのですが、ほとんど広告は見ていないとのこと。その理由を尋ねると以下のような答えが返ってきました。
実は、広告については、ケースNo.1の美容液購入者でも同じような発言がありました。
今回の2名のように、目的を持って能動的に情報をハンティングしているケースでは、"情報収集モード"になっていない時には、たとえ広告が目に入ったとしてもクリックされにくいのかもしれません。 クリックされなくても、何らかの情報が記憶に残ればよい、という場合もあるでしょうが、スマホのように能動的な利用が中心のデバイスにおいては、今後は、ターゲットのニーズに合った広告を「ニーズに合ったタイミング」で出すことが重要になっていくのかもしれません。リターゲティング広告においても「誰に出すか」だけでなく、「いつ出すか」⇒検索された直後にいかに素早く出すか、といったことが問われてくるのではないでしょうか。
実験調査第1弾を終えて
ログ×インタビューのメリット
ログ×インタビューをやってみて、通常のインタビューと最も違うと感じた点は得られる情報の「立体感」です。 人は、自分が"感じたこと"は比較的長く覚えていますが、そう"感じさせた"刺激物の具体的な様子については明確には覚えていないことがほとんどです。なので、カスタマージャーニーを探るインタビューでは、どんな接点で、どんな風に意識が変わったかは把握できても、その時の広告のどんなクリエイティブがどう良かったのかまでわかることは稀なのではないでしょうか。 逆に、クリエイティブの評価調査では、普段とは違った実験室的な環境の中で、「きちんと」見てもらっての評価なので、やはりリアルな態度変容とは異なります。 それが、ログ×インタビューでは、態度変容を起こさせた広告やサイトをその場で見せて、その時どこを見たのか、どの表現が気持ちを動かしたのかを実際に特定することができました。この、要所要所で、更にグイッと掘り下げられる「深掘り感」はVR CUBICならではの醍醐味だと感じられました。
ログ×インタビューまでの流れ
このように、非常に興味深い知見が得られる可能性のあるログ×インタビューですが、一方で、現状では実施までにいくつかのハードルがあるのも事実です。
▶ 膨大なログを実際に見てみないと、対象者に適した人がモニターの中にいるかどうかがわからない
▶ 事前のWEB調査では特定商品の購入者がいても、検討した痕跡がログ上に見つからないなど、適切な調査対象者が見つからない場合もある
上記のような点から、特定ブランドのジャーニーを追おうとすると難しいケースが多いかもしれませんが、同一カテゴリーのユーザーについて、「アクセスするサイトをどう選んでいるのか」「サイトのどこを見ながら検討しているのか」「どんな表現が購入の決め手になったのか」などが把握できれば、例え競合ブランドの購入者であっても、大きな学びになるのではないでしょうか。
現状、VR CUBICモニターへのインタビューについては、以下のようなステップを考えています。
商品・サービスのカテゴリーによって、実施の可否も変わってきますので、ご興味がある方はお問い合わせください。
※CUBIC×定性調査研究チーム VR CUBICパネルを活用し、生活者のデジタル化に関する知見を抽出することを目的に部門横断的に結成された研究開発チーム。