電通×ビデオリサーチ マルチスクリーン時代の動画視聴者像に迫る
〜INTER BEE CONNECTED 企画セッションより〜
2018年11月14日(水)〜16日(金)の日程で、音と映像と通信のプロフェッショナル展「Inter BEE 2018」が幕張メッセで開催されました。その中で「INTER BEE CONNECTED」の企画セッションとして、当社は株式会社電通と「マルチスクリーン時代の動画視聴者像」と題して講演を行いました。
昨年の「Inter BEE 2017」内のセッションでもメディア利用について当社と電通の共同研究を紹介しましたが、今年は、その中でも「動画視聴」にフォーカスして、電通と共同で研究した「ソーシャル・シークエンス分析」から最新の結果を発表しました。
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当セッションの構成として、若年層のテレビ離れの現状を捉えた上で、第一部は「若年層において、ネットはテレビ視聴に取って代わろうとしているのか」、第二部は「デバイスとしてのテレビは一周回って動画映像視聴の受け皿になりうるか」をテーマに、電通との共同研究の成果が発表されました。
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ネット動画視聴の主戦場は自宅内
第一部の冒頭では、電通の「通勤・通学中のメディア利用に関する調査」並びに、当社の「MCR/ex」を用いた「ソーシャル・シークエンス分析」(以下SSA)や「ビデオリサーチわかものラボ独自調査」を通して、若者の生活実態、中でもネット動画の視聴実態の特徴に迫りました。そこからは通勤・通学時など、自宅外で動画を見る時間はそう長くなく、現状、自宅内でスマートフォンでの視聴がメインであることがわかりました。
若者ほど宅内で動画を見ている事実と、動画視聴はリラックスタイムに付随していることをファインディングスに挙げています。進行役である電通の奥氏も「皆さんの感覚と逆の現象に驚かれることでしょう」と意外な実態を伝えました。
これらの話を受けて、当社の石松は、特に顕著な男子高校生のネット動画視聴を例に挙げながら「従来の印象以上に、ネット動画が見られている。早いうちに映像文化の原体験をどう作るかは重要なテーマになる」と、若者の変化に対応することが肝要だと述べました。
テレビ離れは"睡眠"が影響!?
次に、若年層のテレビ離れの原因について、再び「MCR/ex」で検証します。「ネット利用に食われている」というのが一般的な仮説ですが、データから主要因と結論づけることはできず、むしろ注目すべきは「睡眠時間の増加」と電通の美和氏は言います。ネット利用も増えているものの、2009年頃から就寝時刻が前倒し、この9年あまりのうち、1日の睡眠時間はM1(男性20?34歳)で43分、F1(女性20?34歳)で33分長くなっています。
この様に、睡眠時間が増える傾向がみられ、テレビを消す時間も早まっていることがデータ上確認できました。その背景は「ベッドでも使えるスマホが浸透したことで、シームレスにメディア利用から睡眠に入っていけるようになった」(渡辺)、「働く女性が増え、日中の疲れを翌日へ持ち越さないように早く就寝するようになった」(美和氏)などの仮説は考えられますが、検証はこれからの課題として残りました。
また、奥氏、石松ともに、メディアのアプローチの策を練るのに、メディア以前にユーザー自身の生活行動・習慣を認識し、そこにくさびを打っていくことが大事と語りました。
テレビ受像器への回帰の動き
第二部は、「デバイスとしてのテレビでの動画視聴」の実態を理解するために、SSAより生活行動とテレビ視聴の特徴に基づき作成した9つのクラスターについて、渡辺が紹介しました。それぞれのクラスターのシークエンスデータのうち動画視聴にフォーカスすると、一部のクラスターにおいてテレビ受像器でネット動画を視聴している傾向がみられます。
これらのクラスターの中には若者だけでなく年齢層の高い男性なども含まれており、「ネット動画を大きい画面で見たい」「テレビで見たい番組がやっていない時間帯だった」など、視聴したきっかけ・動機は異なることが推測されます。このような背景があることを踏まえ、「テレビ受像器への回帰的な動きも継続的な分析が必要」と渡辺が述べました。
引き続き、美和氏から、ネット接続されたテレビでのネット動画視聴の実態について、説明がありました。電通の「テレビ受像器でのネット動画視聴調査」でわかったことは、テレビ受像器のネット接続は3割、ネット動画サービスを直近一ヶ月で利用した人は12.6%とマジョリティではないものの、若い人ほど「テレビ自体を持っていれば、ネット接続もしている」というケースが多くみられたと言います。
過去、遡ってみると、2015年頃よりテレビのネット接続が徐々に増えており、動画サービスの開始・普及とテレビ買い替えのタイミングが一致したことがネット接続を促進したと考えられます。現在はテレビ受像器で利用するサービスや機器の普及もあり、テレビ受像器での視聴を前提に動画サービス自体を利用し始めるケースも少なくないようです。また、「音楽」などのジャンルを中心に「エンターテインメント」コンテンツは視聴時間も長く、利用者にとってはこのような視聴スタイル、サービスに大いに満足していることもデータで明らかになりました。
一方で、テレビでネット動画を見る人は、放送のリアルタイム視聴時間が短く、テレビでのネット動画視聴がテレビ視聴に影響を与えていることがわかりました。
この実態を踏まえて、石松が「動画を見る手段が増え、事業者側はその価値を新しいものと捉えがちではあるが、従来からあるサービスの置き換えと解釈する方が妥当であるかもしれないという視線も重要」と生活者の行動や動機に向き合い、捉え直すことをアプローチとして提言しました。
更に、テレビでのネット動画利用の実際のシーンとして、電通の「テレビ視聴スタイル観察調査」での2サンプルの事例をVTRで確認しました。美和氏の言うようにテレビでネット動画を見ることが「自然に生活に溶け込んでいる」と実感させられる映像であり、「今後の5Gの環境下ではどうなるのか」と奥氏も通信環境変化に伴う生活行動の変化の可能性を示唆しました。
業界全体が持つべき課題とは
最後に、全体を通じて感じた課題感をそれぞれ語りました。石松は「テレビのパーソナル化などテレビの中での奪い合いは昔からあったが、今はテレビが別のものに置き換わっ
ている。その行動について少し遡って考えた方がいい。それも機能面だけでなく、生活行動や生理的に受け入れられるかどうかは大きな要素である」と述べました。
また、渡辺からは「ベッドの上がくつろぎの場と考えると、スマートフォンを前提にそこにどうコンテンツを持ち込むかが重要かもしれない」というオケージョンを軸にしたアプローチを提案しました。美和氏は、若者にフォーカスして、「男子高校生の動画視聴の多さは、衝撃だったのでは。この人たちが10年後どうなるのか、この可能性をどう奪い合うのか考えるのがメディア事業者の課題」と述べています。
最後に奥氏が「研究はまだ途中。23時台のテレビの編成を考えるなど目前の課題もあるが、そもそもの夜の過ごし方など生活行動の実態も含め考える必要がある。ユーザーはこちらが思っている以上に動いている」との発言で全体を締めました。
ここで発表したソーシャル・シークエンス分析の概観について、登壇者のひとりである当社ひと研究所の主任研究員 渡辺庸人の新たなコメントを交えてお伝えします。
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