テレビCM出稿で振り返る ネット系CMの台頭で 市況は様変わり
30年間に及ぶ"平成"においてテレビCMはどう変化してきたのでしょうか。当社のテレビ広告統計データには、この間に出稿されたテレビCMが全て記録されています。その出稿本数は、関東地区スポンサードCM総計で実に4,312万3,199本(7億8,517万6,209秒)に及びます。今回は、CM1本1本の出稿を蓄積してきたその膨大なデータをもとに、平成のCMの"変化"について追っていきます。
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スポットCMシェア拡大の一途
最初に、平成30年の間で、CMの総出稿量はどのように変化してきたのかを5年刻みで確認してみましょう【図表1】。
1989年(平成元年)に25,683千秒だった総出稿量は、翌年以降緩やかに減少し、1993年(平成5年)にバブル景気崩壊の影響からか出稿量としては平成の底を迎えます。以後は増加を続け、最新の2018年(平成30年)では、27,000千秒を超えています。
平成を通じ、スポンサードCMの総出稿量は全体で増加しており、広告主のスポットCM志向が年々強まっていることが分かります。総出稿量の増加に合わせて、スポットCMの割合も89年の63.3%から上昇し、03年には70%を突破、18年では75%に達しました。
一方、タイムCMの割合は、3本に1本がタイムCMであった平成元年から、ちょうど30年で4本に1本の割合へと変化しています。
時代を表わす広告主の顔ぶれ
次に、広告主別の出稿量を時系列で追いながら、30年間のCMのトレンドを確認しましょう。【図表2】は10年刻みの広告主ランキングの推移を表しています。
1989年(平成元年)では、現在でもテレビCMで馴染みのある広告主も多い中で、「日本直販」「日本文化センター」「二光」などのテレフォンショッピングや、たばこのCMを多く出稿していた「日本たばこ産業」など当時ならではの広告主がみられます。
1998年(平成10年)では「NTTドコモ」「日本電信電話」など通信系企業がランクインしています。また当時は携帯電話及びパソコンの新機種CMが多く出稿された時期にあたり、「ソニー」「パナソニック」※1などのメーカー各社のランクインも特徴のひとつです。2008年(平成20年)では、「NTTドコモ」に続いて「ソフトバンク」※2「ケイディーディーアイ」の携帯キャリア3社の出稿が目立つようになりました。また、「ソニーミュージックエンタテインメント」をはじめ、「20世紀少年」や「崖の上のポニョ」が当時ヒットした「東宝」、前年末に発売した「WiiFit」のCMが増えた「任天堂」などエンタメ系企業のランクインもこの頃の特徴といえるでしょう。
2018年(平成30年)には、「アマゾンジャパン」「トリバゴジャパン」、求人サイトの「Indeed」など近年CM出稿が活発なネット系企業がランクインしています。スマートフォンの普及以降ゲーム、ニュースなど様々なアプリ企業の広告を目にする機会も多く、30年の間にテレビCMで取り扱われる商材も変化してきていることが分かります。
一方でCMの長さにおいても変化が見られます。【図表3】では、30年前と今のCM秒数別の出稿本数割合を比較しました。89年には77.7%であった15秒CMの割合は増加を続け、18年現在では83.8%となっています。スポットCMの増加で、30秒CMや60秒以上の長尺CMは割合を減らし、CM秒数は徐々に短くなっている傾向にありますが、近年ではあえて長尺のCMを出稿する手法も見られます。
平成の間で流れたCMで最も長尺であったのは、17年フジテレビの『FNS27時間テレビ』に出稿した「スクエアエニックス ドラゴンクエスト10」で、360秒でした。次点が11年にテレビ東京で放送の『宇宙ニューススペシャル』で出稿した330秒の「ソフトバンク」※2となります。ともに一回限りの出稿として事前に告知があり、インターネット上でも話題になりました。
平成の生活変化を映すCM
CMと生活者との関わりでみると、「91年銀行のテレビCMが解禁」、「98年たばこCMが終了」などCMは世相を表して出稿量や業態を変化させているのが分かります。当社の広告統計では全492種類に及ぶ商品種類を設け、すべてのCMに各商品種類へのカテゴライズを行っていますが、30年の中でも、特徴的な変化をみせた商品種類をピックアップしてみました。
衣/ 洗剤の進化と消臭スプレーの登場
「洗濯用洗剤」は平成30年間において、洗剤タイプの進化に伴い、出稿量も変化しています。93年から出稿量は減少し、98年には10万秒を割りますが、「花王 アタック マイクロ粒子」「P&G ボールド」の粉末洗剤の新商品発売以降、回復傾向となります。
その後、「花王 アタックNeoバイオEXパワー」「ライオン トップ NANOX」などの液体洗剤の新商品投入で10年ごろから再び出稿量が増加。近年では「P&G アリエールパワージェルボール」など第三の洗剤と呼ばれるジェルボールタイプが登場し、さらに出稿量を伸ばしています。
「電気洗濯機・乾燥機」も、ドラム式洗濯機の登場などで商品の進化はありましたが、こちらはそれに連動して大きくCM出稿量が変化することはありませんでした。
このカテゴリにおいて、大きなトピックは、洗濯機で洗うことが難しい布製品に関して、消臭スプレーが普及したことです。
従来は芳香剤やトイレ消臭に関する商品が占めていた「防臭剤」が、98年の「P&G ファブリーズ」発売以降、消臭スプレーの出稿量が多くなりました。続いて、05年には「花王 リセッシュ」が発売し、近年では「P&G 置き型ファブリーズ」「P&G ファブリーズMEN」など多様な形態・機能の商品が展開され、15年以降も再度出稿が上昇をみせています。
食/ コーヒー、お茶の争いに、ダークホースが接近中
89年の段階では「お茶」の出稿量は「コーヒー」の5倍あり大きな差がついていました。それが、30年の間で徐々に差を詰め、18年にはついに逆転しました。お茶パックから、ペットボトル飲料へ商品展開が移る中で、89年には22ブランドの出稿が、02年には年間56ブランドに達するなど商品数の増加が大きな要因となっています。また、健康ブームの到来で「花王 ヘルシア緑茶」「サントリー 黒烏龍茶」などの出稿が増えたことも注目すべき点です。
一方の「コーヒー」は、「ネスカフェ」などのインスタントコーヒーに加え、90年代には「コカコーラ ジョージア」「サントリー ボス」など缶コーヒーのCMが増え、一時50万秒以上の出稿を誇りましたが、06年以降は40万秒を割り、近年はチェーンのコーヒーショップ人気やコンビニコーヒーの普及などに押され気味となっています。
ただ、お茶と同じく「花王 ヘルシアコーヒー」での健康路線や、「サントリー クラフトボス」などのペットボトルコーヒーの登場で多様化もみせており、今後の巻き返しが期待されます。
また、じわじわと上昇しているのが「ヨーグルト・乳酸飲料」です。「ヤクルト」「カルピス」などが90年代の出稿量の中心でしたが、02年発売「ダノン ダノンビオ」、10年発売の「明治 プロビオヨーグルトR-1」などこちらも健康志向の商品がお茶とコーヒーに迫る出稿量まで押し上げてきています。
住/ テクノロジーの発展による変動の大きい家電トレンド
住まいに関しては家電の変動を追ってみましょう。30年で大きく変動したのは「カラーテレビ」です。平成になった当初は出稿量を年々減らし、00年には5万秒を割り込みますが、21世紀に入って以降「シャープ AQUOS」「パナソニック ビエラ」「ソニー BRAVIA」「東芝 REGZA」など主要電機メーカー各社から新機種が出そろうと、一気に右肩上がりに。ピークとなる06年には年間20万秒に到達します。
しかし、地デジ化が完了した11年以降に出稿量は激減しました。近年では4Kテレビの訴求による出稿量の回復が期待されましたが、大きく増加するまでには至っていません。
もうひとつ、特徴的な出稿の変化を見せたのが 「電気掃除機」です。「ダイソン」が小型化を訴求した新機種のサイクロンクリーナー登場に合わせ、11年にCM出稿量を増やして以降、増加傾向になりました。また同ジャンルでは、ロボット掃除機「ルンバ」の登場、13年に布団用クリーナーの「レイコップ」がヒットしたことも、近年の出稿増の要因となっています。
大きく出稿を減らしたものでは「ビデオカメラ・デッキ」が挙げられます。「スタミナハンディカム(ソニー)」「愛情サイズ(パナソニック)」などCMキャッチコピーでも記憶に残るこのジャンルでは、90年のピーク(年間33ブランド・20万秒以上)を境に出稿量が落ち込みました。近年ではムービー録画機能を搭載したスマートフォン普及の影響もあり、年間でもわずかな出稿量となっています。
平成のエンタメコンテンツの盛衰
平成30年の間で、エンタメジャンルの中でも様ざまな流行が発生し、消費者の生活に大きく影響を与えてきました。ここでは映画と音楽・ゲームのCMにフォーカスして、マーケットの盛衰をみてみます。【図表7】
最初に映画の出稿量ですが、平成の中盤まで洋画が邦画を圧倒していました。00年代以降も、「ハリーポッター」、「パイレーツオブカリビアン」などシリーズものが好調で、ピークとなる03年には50万秒以上の出稿となりました。
一方の邦画は、04年「いま、会いにゆきます」、05年「ALWAYS 三丁目の夕日」などのヒット作による出稿を増やしながら、08年には「相棒-劇場版-」「花より男子〜ファイナル〜」などドラマから映画化された作品の出稿も多く、初めて洋画をCM出稿量で逆転します。近年はともに30万秒前後で推移しており、競い合っている形です。
音楽とゲームを含む商品種類である「玩具・テレビゲーム」と「CD・LD・DVDソフト」は出稿量こそ「玩具・テレビゲーム」が常に上回るも、この30年間はパラレルに推移しています。ともに最初のピークは98年ごろに発生し、音楽では「B'z」「L'Arc-en-Ciel」の出稿が、ゲームでは「ゼルダの伝説 時のオカリナ」やポケモンシリーズの各種ソフトなど「任天堂」からの出稿が多い時期でした。
それから10年後の08年に機種が進化したゲームは、「Wii」「NintendoDS」関連ソフトで出稿量を再度盛り返し、音楽では同年ベストアルバムを出した「EXILE」「浜崎あゆみ」などの出稿もあり、ともに80万秒近い出稿量に到達しました。
さらに注目すべきは、両商品種類とも08年をピークに平成最後の10年間は右肩下がりになっている点です。これは、08年に日本で発売されたiPhone3Gの影響と考えられます。以降、ソフトとしてのCD及びゲームは、CMの世界においてもオンラインゲームや配信プラットフォーム、定額ストリーミングサービスに押されて現在に至ります。
平成のテレビCM出演タレント総合ランキングベスト30
最後に、平成において最もCMに出演したタレントは誰だったのでしょうか。30年間の出演累積秒数から出演ランキングを出しました【図表8】。
トップに輝いたのは、「上戸彩」です。01年に「日清 カップヌードル」で初めてテレビCMに出演して以降、「ソフトバンク」「AOKⅠ」などを中心に同一企業で長く出演を続けました。
中でも07年から出演の「ソフトバンク」は総出演量の40%以上を占め、トップになる大きな要因となりました。直近の18年では若者を中心に流行した動画投稿アプリ「ByteDance TikTok」にも出演。新元号になっても変わらず多ジャンルでの出演が期待されます。
総合2位は男性トップとなった「木村拓哉」です。93年に「大塚製薬 オロナミンC」でテレビCMに初出演して以降、「TBCグループ」「日本中央競馬会」などのCMに出演しました。その他でも「トヨタ自動車」「富士通」「ニコン」など、こちらも同一企業での長期起用が出演量を押し上げる結果となりました。総合3位は、男性2位の「所ジョージ」です。「ミスタードーナツ」「大正製薬 ZENA」に加え、「日本宝くじ協会」の出演が印象に残っているのではないでしょうか。
総合4位は「三菱UFJ銀行」「積水化学」などのイメージキャラクターに起用されている「阿部寛」。両者の特徴としては、平成元年から30年間毎年欠かさず出演CMが出稿されている点であり、コンスタントなCM出演が上位にランクインした要因と考えられます。総合5位は女性2位の「綾瀬はるか」で近年は「日本コカ・コーラ」「パナソニック」など東京五輪スポンサーのCM出演が目立ちます。ベスト30に平成生まれのタレントは残念ながら「ランクインなし」という結果になっています。
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CM TOPICS
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昭和から平成へ、年の途中で元号が切り替わることになった1989年において、昭和最後のCMとなったのは、テレビ東京で出稿の『ホテルニュー岡部』(1月7日朝6時44分)でした。その後1月8日はCM出稿がなく、丸2日空いて平成になって最初のCMはフジテレビで流れた『シード コンタクトレンズ』(1月9日朝6時00分)と記録されています。平成最後の日となる2019年4月30日最後に流れるCM、及び新元号最初の日となる5月1日に初めて流れるCMについても注目です。
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平成30年間でのタレント出稿ランキングにおいて、平成生まれタレントで最も高かったのは49位の「武井咲」(平成5年12月生まれ)でした。07年の「八景島シ−パラダイス」での初出演を皮切りに多くのCMに出演し、最新の18年は「ハズキカンパニ− ハズキル−ぺ」への出演が記憶に新しいです。次点で「桐谷美玲」(平成元年12月生まれ)が全体76位で続き、男性の平成生まれ最上位は「石川遼」(平成3年9月生まれ)で全体151位でした。
今回、平成のCM出稿をまとめるにあたり30年分の広告統計データを集計した結果、非常に興味深いデータを多数発見することができました。紙面の都合上割愛した部分については、別途WEB上での「Digestplus」にて今後発信していく予定です。
今回は関東地区を対象としましたが、広告統計データでは関西と名古屋も同様にデータ累積を続けており、12年10月からはBS放送、また18年4月からは一部CMにおいて全国規模でのデータ提供も開始しています。今後、新元号に入っても広告統計データを皆さまにご利用いただき、データを通じてCMの変化やトレンドについての気づきを引き続きお届けできればと考えています。
テレビ事業局 テレビ事業計画部 宮﨑 拓志
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