【徳永 有美のメディア先読み】ネットテレビが変える報道番組のあり方 〜サイバーエージェント 代表 藤田 晋さんの企画から生まれた 『AbemaPrime』キャスター 小松 靖さん 〜
聞き手:フリーアナウンサー 徳永 有美 (とくなが ゆみ)
1998年にテレビ朝日入社。『やじうまワイド』『スーパーモーニング』などのMCを務め、2004年4月から『報道ステーション』のスポーツコーナーを担当。2005年4月にテレビ朝日を退職し、2017年に12年ぶりに現場復帰を果たす。
現在は、AbemaTVの『けやきヒルズ』などでキャスターを務めるほか、BS朝日『スポーツクロス』MCやラジオパーソナリティなど様々なメディアで活躍している。
話し手:テレビ朝日アナウンサー 小松 靖 (こまつ やすし)
1998年にテレビ朝日に入社。入社後は主に報道番組などのスポーツキャスターとして活躍。2007年4月から『やじうまプラス』のメインキャスターを務め、2011年4月から『情報満載ライブショー モーニングバード! 』を担当。現在は、AbemaTVの報道番組『AbemaPrime』のほかに、BS朝日の『日曜スクープ 』でキャスターを努めている。
徳永 有美のメディア先読み 第1回
本連載の1回目のお相手は、徳永有美さんとテレビ朝日に同期入社し、普段からお互いを「ヤス」「ユミ」と呼び合う間柄の小松靖さん。
スマホ発の本格ニュース番組『AbemaPrime』でキャスターを務める小松さんに、地上波やBS、CS、ネット配信などメディア環境が多様化するなかで、これからの報道番組のあり方について語っていただきました。テレビの最前線に立つお二人の、ここでしか聞けない本音トークをお届けします。
『AbemaPrime』の出発点とは
徳永:ヤスと私は、テレビ朝日に同期入社で、私が初めて担当した『早起き!チェック』という番組でもご一緒しました。ヤスはスポーツコーナーの担当でしたが、覚えていますか?
小松:もちろん、覚えていますよ。すごく懐かしいですね!
徳永:あれから20年経ちますが、テレビを取り巻く環境も随分と変わりました。私も昨年、12年ぶりに現場復帰して、現在AbemaTVで『けやきヒルズ』という番組を担当させてもらっているんですけど、これまで地上波しか経験がなかったので、ネットテレビの現場はまったく未知の世界で、毎日が驚きの連続です。ヤスが現在キャスターを務めている『AbemaPrime』は、AbemaTVの開局当初から放送している報道番組ですよね。そこでまずはじめにお聞きしたいのが、そもそもヤスはどういった経緯でこの番組に参加されることになったのですか?
小松:サイバーエージェントとテレビ朝日の共同出資によって誕生したインターネットテレビ局のAbemaTVが開局したのは2016年4月のことでした。一方の僕は、ちょうど羽鳥慎一さんと一緒にやっていた『モーニングバード』が2015年9月に終了したところで、その頃に藤田晋さん(サイバーエージェント代表)から、新しい企画の話を聞いていて、それが後の『AbemaPrime』だったんです。
徳永:じゃあ、番組がスタートするかなり前の段階から、関わっていたんですね。
小松:最初は何も知らされてなかったんだけど、『AbemaPrime』のパイロット版みたいなのも作ったんだよね。僕が英語を多少喋れるからということで、台本にCNN風な決め台詞があったり(笑)、宣伝にも協力していました。その頃から、『AbemaPrime』をやることはすでに決まっていたようで、番組の立ち上げに、いつの間にか参加していたという感じですね。いまでもよく覚えているのは、藤田さんから「地上波テレビで実績のある小松さんが参加してくれると、視聴者に『AbemaPrime』はちゃんとした報道番組なんだと思ってもらえる」と言われたことです。
徳永:『AbemaPrime』は地上波にできないこと、タブーにも鋭く切り込み、ちゃんと作り上げてるなと思うのですが、まずは視聴者に振り向いてもらうことが大事だし大変なこと。でも、ヤスのような知名度のあるキャスターがいれば、分かりやすくアピール出来ますね。YouTubeをはじめとして、いまや誰もが簡単に手のひらから世界に向けて情報を配信できる世の中です。でも、『AbemaPrime』はそういう簡便さとは一味違って、本当によく作り込んでありますよね。
地上波テレビにも負けない本格的な報道番組を目指す
小松:ネットテレビと言うだけで、地上波やBSなどの二番煎じと思われる方がまだまだ多いですし、どうしてもワンランク下のメディアだと思われがちな部分はあります。実際に、地上波はお金もかかっているし、まだまだ華やかな世界だと思います。でも、『AbemaPrime』では、出演者も、スタッフも、セットも、すべての面でトップレベルのものを作りたいという想いがありました。実際に、見た目にものすごくこだわって作っています。誰にでもできる安易な雰囲気だとか、チープな感じには絶対にしたくないというのが出発時点からありました。
徳永:私たちがテレビ朝日に入社したのは1998年ですが、その頃から考えると、報道番組やメディアを取り巻く環境が本当に大きく変わりましたよね。ちょうど私たちが入社した頃から、動画配信サイトなど、ネットを中心に新しい形のメディアがどんどん登場してきました。今振り返ってみると、迫りくる激震への突入初期だったと言えるのかもしれません。
小松:そうした地上波以外のところで起きていた変化は、当時から地上波の報道番組にも影響を及ぼしてはいたけれども、『AbemaPrime』でネットの世界に実際に足を踏み入れて、初めてその変化の大きさを実感することができました。
徳永:ヤスがキャスターを担当されている『AbemaPrime』は、AbemaTVのなかでも核となる番組だと思うんだけど、実際に出演されていて、どんな点で苦労していますか。
小松:いろいろあるんだけど、一番は「出演者が多い」ということかな(笑)。単に多いだけでなく、ベンチャー起業家の方や、なかなか聞きなれない学問の先生など、皆さんそれぞれの分野の第一線で活躍されている個性的な方ばかりで、僕がこれまでに接してきた「テレビの世界の人」とは少し違っているんですよね。そんな出演者の方々に囲まれていると、これまで自分がいかに地上波テレビの理屈のなかだけで物事を考え、言葉を発してきたかという点に気づかされました。出演者が使う言葉はもちろん、発想も思考もより自由な空間で、ネットの視聴者という、これまでとは異なるターゲットを満足させなくてはいけないので、番組立ち上げ当初は本当に手探り状態でした。
徳永:『AbemaPrime』は、地上波テレビではできない「大人の事情をスルーする」というコンセプトを掲げてスタートしましたよね。それまで地上波では触れにくかったタブーにも大胆に触れていくという点で、番組に出演する際の意識も地上波とは異なると思いますが、そういうコンセプトを体現するにあたっての戸惑いとかはありませんでしたか?
小松:そこは、案外すんなりと順応できたんだよね。もともと刺激を求める素質があったみたいで(笑)。その点では、ぜんぜん抵抗はなかったです。
徳永:そうなんだ(笑)。同期入社の私から見ると、ヤスは入社当初は不器用な印象があったので、それは意外です。でも、『AbemaPrime』で自分の意見も遠慮なく発言している姿を見ていると、ものすごくエネルギッシュで、私の知らない才能がヤスには秘められていたんだなと感じます。
小松:その点では、『AbemaPrime』が僕を変えてしまったんだよね(笑)。自分自身のキャリアの中でも、この番組が大きな転機になっているのは間違いありません。ネットだから比較的自由にモノが言えるというのはもちろんありますが、きっと自分の中でそもそも「灯っていた火種」はずっとあって、『AbemaPrime』という番組に出会ったことによって、その火が燃え立ったんじゃないかなと思います(笑)。
地上波にはないネットテレビの魅力とは?
徳永:そうした意識の変化を起こさせたものは何なのか、もう少し詳しく聞かせてもらえますか。やはりネットというメディアの特性が大きかったのでしょうか?
小松:そうかもしれない。やはりネットでの配信ということで、番組の編成方針や表現のトーン、メッセージ性が、おのずと変わってくると思います。僕も地上波をずっとやっていて、どこかで閉塞感みたいなものを感じていたんですよね。もちろん、地上波の中にもタブーに触れるようなエッジの効いた番組はあるにはあるんですけど、数も少ないですし、もっと自由でもいいんじゃないかと感じていました。多くの地上波番組では、みんなかしこまってしまうところがあるんですよね。番組の中で、もっと自分の感性を率直にぶつけ合ってみたら、違うものが出来るんじゃないのかなって思っていました。反対に、僕からも聞きたいのですが、ユミは地上波と『AbemaTV』とで、出演するときの意識や姿勢は違いますか?
徳永:正直なところ、あまり違いはないと感じています。というのも、いま私のやっている『けやきヒルズ』という番組の場合は、解説者と1対1でやり取りをするという形式もあってか、割りと地上波と同じ気持ちでやっているんですよね。もちろん、『AbemaTV』を見ている人たちの層は地上波の層とは異なるので、視聴者層の違いは意識はしていますが、それでも番組に向き合う姿勢とか考えみたいなところは、メディアが違ってもあまり変わらないですね。ヤスは変えているのでしょうか?
小松:僕は変えているんだよね。まあ、ユミはいつも自然体だからね。昔からわりと自由な性格だったし、逆に言うと、地上波からはみ出した部分があって、もともとがネット向きだったのかもしれないと思う(笑)。でも、よくよく考えてみれば、そもそも相手にしているのは同じ「人間」なんだから、地上波とかネットだとか、無理に分ける必要はないんだよね。
徳永:そうですね。ただ、地上波とネットでは、やはり使う言葉のニュアンスなど、微妙に違ってくることはあるとは思うんですけど...
小松:もちろん、マーケティングとして狙う層が地上波とネットではどうしても異なってくるからね。ターゲットとなる層に合わせたニュアンスの使い分けは当然必要かなと思います。
徳永:では、ヤスが出演しているBS朝日の『日曜スクープ 』のときは、『AbemaPrime』のときとも違います?
小松:違いますね。BSの場合は、視聴者層の年齢が比較的高くて、普段から地上波や新聞などのニュースに触れているような人が主なターゲットになるので、きっちりした言葉使いや表現を意識しています。でも、ときどきもっと自由にやりたいという衝動にかられて、ついつい『AbemaPrime』のときのクセが出ることがあるのですが(笑)。
徳永:そのウズウズしている感じが、番組を見ていたらすぐに分かります(笑)。『AbemaPrime』で普段からいろいろな出演者を相手に喧々諤々の議論をしているので、ついその百戦錬磨で仕掛けたくなる感じがBSでも出ちゃうんでしょうね(笑)。もっとここ掘り下げていきたい! みたいな感じで。
小松: 『AbemaPrime』は、視聴者からのコメントが「ニコニコ動画」みたいに画面上に流れてきて、僕たち出演者も番組中もずっと見ることができるんですよ。そうしたリアルタイムで視聴者の声を聞きながら放送しているので、感覚的に言うとライブをやっているような感じなんです。毎日そんなことをやっていると、視聴者が今どんな気持ちでいるのかを自然と意識するようになってきちゃったので、『AbemaPrime』以外の番組でも、もっとツッコんで深掘りしてみたくなっちゃうんだよね(笑)。
ネットテレビならではの反響の大きさ
徳永:いまやAbemaTVを代表するキャスターに成長されたと思うのですが、その発言の反響も大きすぎて戸惑うこともあるのではないですか?
小松:もちろん戸惑うこともあるけれど、『AbemaPrime』のような番組に関わった者の宿命かな、と受け入れています。反響が大きいというのはありがたいことですしね。ただ、反響が大きいのは僕の意見や感性うんぬんと言うよりは、あくまでも『AbemaPrime』という番組自体が、視聴者の求めるものを敏感に察知して発言できるような環境になっているからだと思います。実際に、自分が意見を発言している場合も、どこかで視聴者が感じることを代弁しているような感覚があるんです。もちろん、自分の意見としての発言もしてはいるのですが、そこには常に視聴者の声が反映されていると感じるんですよね。 徳永:あくまで視聴者第一ということですね。その後の反響の大きさを考えて言葉や表現を必要以上に抑えたりする必要はないですよね。
小松:そうですね。もともと『AbemaPrime』は、藤田社長の「オピニオンを担う報道番組を作りたい」という思いから始まっているので、番組制作スタッフを通じて「どんどん意見を言ってほしい」「感情をあらわにしてほしい」と言われていたんです。僕は、期待されるとやっちゃうタイプなんで、遠慮なくやらせてもらってますね(笑)。
地上波とネットの大きな違いとは?
徳永:地上波テレビとAbemaTVのようなネットテレビでは、やはり視聴者層の違いがあります。非常に大雑把に言えば、「高齢層は地上波」「若年層はネット」というように分かれているように思います。小松さんは、地上波とネットとの分断を感じることはありますか?
小松:残念ながら、感じます。僕は基本的には「地上波側の人間」なので、地上波テレビは一部の若者のなかでは「オワコン」になりつつあると言われたりしていて、そうした風潮はやっぱり寂しいです。地上波テレビは社会インフラとして絶対になくならないものだし、なくしてはいけないものだと思うし、一方で、ネットは地上波のニュースに疑問を感じたり、もっと深いところまで知りたいという人たちの受け皿になっていると思いますね。
徳永:若者からお年寄りまで、視聴者層も幅広く多様化するなかで、ニュースの切り口ってどう考えればいいのでしょう?ネットの視聴者は、いわゆる「アンチリベラル」な人が多いみたいなイメージもあります。
小松:たしかにイメージ的にはそう言われますが、実際のところは必ずしもそうとも言えないと思います。私はレッテル貼りをしないよう心掛けていますし、ネットでニュースに接している人のほとんどは実は普通の生活者だと思います。そう考えれば、必ずしも地上波とネットでニュースの切り口を変える必要はないはずなんじゃないかとも思ったりするんです。
報道キャスターとしてのあり方と行く末
徳永:この先、あらゆる番組がネットで見られるようになっていき、どんどんテレビとネットの融合が進むと思いますが、それに関してはどう考えていますか?
小松:その流れはもう止められないです。これからは、いま以上にいろんな方向性のメディアや番組が出てくるんじゃないかと思っています。
徳永:そのとき、報道番組のキャスターには何が求められるのでしょうか?
小松:いまの社会がどんな風潮になっているのかを読み取る力が、ますます大切になってくると思います。そのためには、やはり情報収集力が大切だと思います。僕の場合、メインの情報収集源はやはりネットになりますが、なるべく多くの情報に触れることも大切だと考えますので、地上波テレビも見ますし、新聞も読みます。偏った情報収集ではダメで、世界を俯瞰して見て、いま、世の中がどっちに向かっているのかを肌感覚として分かっていないといけないかなと思います。それがあるとないでは、同じニュースを伝えても、視聴者への伝わり方は、まったく変わってくるのではないかと思っています。「ネットの意見なんて、特殊な意見だから気にしなくていいよ」と言う人もいますが、僕たちが考えるよりも、現代人はネットでの情報収集が上手だし、決して馬鹿にできないと思いますよ。
これからの報道番組のあり方とは
徳永:これからの報道番組には何が求められると思いますか?
小松:ネットテレビはお茶の間で自然に流れているものではなく、わざわざ見にいくものです。視聴者の能動的に参加しようとする熱量がまったく違います。「絶対見なければいけない」「これは絶対に見逃せない」という番組にしていかないと、なかなか地上波には勝てないですから。
徳永:『AbemaPrime』の場合、地上波やBSといったテレビだけでなく、他の動画コンテンツやスマホアプリにも勝たなきゃいけないですからね。
小松:『AbemaPrime』には、人間の本質としての「知りたいという欲求」を叶えるという信念があります。そういう信念のもとで、この2年間、保守、リベラルといった、特定のイデオロギーに囚われずに数え切れないほどのネタを放送してきました。そうしたなかから自然と選別されていった結果が、いまの『AbemaPrime』の番組カラーになっていると思います。
キーワードは視聴者との「絆(きずな)」
徳永:ところで、ヤスは視聴者の数は気にしますか?というのも、私自身は、ものすごく数字を気にしていて、AbemaTVは「すごく面白い番組をいっぱいやっているから、もっと視聴者数が増えるといいな」と心から思っているからなんですけど。
小松:もちろん、気にしています。ただ、現時点では絶対数では地上波に敵わないですよね。だから、数ではなく、視聴者1人ひとりの心にどこまで深く届いているかが重要だと思っています。番組を通じて、もっと視聴者との「絆」が深まればいいなと。これからは、そうした絆をどう構築していくかが重要になってくるのではないかと思っています。
ネットの報道番組はどこに向かうのか
徳永:最後になりますが、私はインターネット側の報道番組の今後がどうなるのか、ある種の危機感を覚えているんですが、小松さんはどう考えていますか?
小松:どうなるかは正直、僕にもよく分からないですよ。でも、とても大事な問いですよね。考えられるとすれば、ネットと地上波というメディアの違いがますますなくなってきて、最終的には番組内容の勝負になっていくだろうということです。当たり前ですが、地上波だろうと、ネットテレビだろうと、つまらない番組は淘汰されていかざるをえない。先日、ネットの専門家から聞いた話では、ネット業界は少しずつ変わるのではなく、ある時点で急激に大きく変化する業界なんだそうです。だとすれば、変化するとなればすぐに大きく変化するのでしょう。僕たちも覚悟しておかないといけませんね(笑)。しかし、いくら変化しても変わらないものがあります。それは、「取材して、ウラ取りをして、撮影して、編集する」というテレビ報道で培ったノウハウです。このノウハウは一朝一夕で備わるものではありませんし、これがないと、そもそも報道番組自体が成り立ちません。各報道番組は「お店」のようなものです。原材料は同じでも、お店によって料理の仕方は異なります。つまり、同じニュースでも、番組ごとにどう料理して視聴者に届けるのか...これからの報道は、その独自性が問われるようになるのではないでしょうか。いずれにしても、テレビのあり方、報道のあり方は急激に変化しています。そんな時代に、AbemaTVというネットとテレビの最前線で仕事をさせてもらっている僕も、徳永さんも、ある意味とてもラッキーだと言えるのではないでしょうか。
徳永:その通りですね。これからもその変化を楽しみながら、頑張りましょう。今日はどうもありがとうございました!
小松:こちらこそ、ありがとうございました!
(了)