『北海道ニュースUHB』 放送外の新しいビジネス創出のために 地方発のニュースをマネタイズする 北海道文化放送 加藤 雅俊さん vol.2
北海道文化放送 加藤 雅俊氏
前回の記事はこちら(Vol.1)
地方発のニュースを全国へ
―新しく「ネット向けニュース配信ビジネス」を始めてみて感じたことは?
面白いと思うのは、テレビの視聴率とは違って、そのニュースがどれだけ見られたか、ページビュー(PV)や平均の視聴時間など、細かな粒度の数字で出てくる点ですね。結果が明確なので、意外なニュースが視聴を集めることもあります。
―「放送」の評価基準とは違いますからね。
ネットの場合、テレビとはコンテンツの作り方から全然違うと思います。そもそもローカル局が放送で取り扱うニュースは「地産地消」が基本で、地域の情報を地域の人に向けて発信するものです。一方、ネットのニュースとなると地域の情報を全国に向けて発信するわけです。そういう点で、提供するニュースの見られ方は違いますし、ニュースの見出しひとつとってみても、テレビとネットでは大きく異なりますので、全国向けにカスタマイズすることが必要です。
―具体的に、異なる点をご説明いただけますか。
例えば、いろんなニュースアプリを見ていただければ分かりますが、地方のテレビ局の名前が前面に出ているニュースがありますよね。でも、全国の人からすれば、ローカル局の名前なんか関心がないわけです。ですから、当社が提供するニュースには必ず「UHB」だけでなく、「北海道ニュース UHB」という統一のブランド名を付けています。
これは「北海道」「ニュース」という検索ワードで、いかに上位に掲載されるかを重視したことと、北海道のニュースを発信しているブランドであることを端的に表現しました。局名である「UHB」はあえて後回しにしています。
―毎日ニュースをネットで配信する手応えはどうですか?また、そのような状況に対する社内の評判はいかがですか?
現在、月平均でトータル220本前後のニュースを配信していて、PVやUHBサイトへの流入数なども着実に増えて、まずは軌道に乗ったとは言えると思います。
「Yahoo!トピックス」に掲載されたときは、やはり報道現場のモチベーションも上がるようです。また、昨年8月には「Yahoo!ニュース」に提供している地方メディアの中で、PVが1位を獲得したらしいです。このことで「UHBのネットニュースは全国で見られている」と社内の多くの人が感じてくれたらしく、その結果、社内での注目度も増し、報道部内での意識も高まり、やりやすくなりましたね。
―ちなみに人気のニュースコンテンツってあるんですか?
実際に全国に配信してみて分かったことですが、北海道のニュースは、意外と全国でも関心が高いです。私が発見した北海道の三大キラーコンテンツは「クマ」「サケ」「シカ」です。このテーマの視聴数はすごいですよ(笑)。
その他の事業の可能性
―最近話題のVRについてはどうですか。
UHBでも経済産業省の関連団体が主催するVRのコンペに参加して、VR動画を試験的に作成したりしています。これは、観光地として人気の美瑛(びえい)を舞台に架空の航空会社を設定して、当社のアナウンサーがCAの格好をしたりして「美瑛の空の旅」に案内するという企画でした。ドローンにVRカメラを掲載して撮影したのですが、UHBの主催イベントで紹介するだけにとどまっていて、まだまだ事業としての広がりはないというのが現実です。
―まだ観光産業やゲームでの利用以外の使い方が、いまいち見えづらい状況ですよね。
そうですね。現時点では制作費も割高ですし、どうマネタイズしていくか見えていない状況です。一方で、VRに関連する展示会に行くと、「視覚」や「聴覚」だけでなく「触覚」まで感じられる技術があったり、テクノロジーはものすごいスピードで進んでいます。
まだまだVRを使った事業計画を立案できるような段階ではないですが、それだけに今後大きな可能性が広がっていると言えるわけで、VR関係の話題には常に関心を持つようにしています。
放送業界の今後について
―放送業界の今後についてはどうお考えですか?
放送業界と一口に言っても、キー局や準キー局とローカル局とでは全然違いますし、NHKと民放でも異なるので、一概には言えません。ただ、私たちローカル局に限っては「地方でしかできないことを徹底的にやり続けること」が大切だと思います。
―地方でしかできないことを、詳しくお聞かせ下さい。
「地域に根ざすこと」ということです。キー局の真似事ではなく「地域の情報発信基地であり続ける」ことが何よりも大切だと思います。
そのためには、放送かネットかというデリバリーの手段を問わないこと。そもそも、視聴者にとっては両者の垣根がなくなりつつあるので、違いを気にする方が不毛だと思います。手段は選ばずに、ローカル局にしかできないことに集中して、どんどんやっていくべきだと思います。若者のテレビ離れを感じることもありますし、反対にネットの伸びは急激なので、テレビ局ももっと外部に目を向けて、さらに意識を変えていく必要があるように感じます。
―さらに変えるべきところとしては、何があるでしょうか?
まず、マーケティングの手法です。テレビ局などのコンテンツホルダーがヤフーやamazonなどのプラットフォームとタッグを組むメリットは、何と言ってもマーケティングにあると思います。ネットでどういった情報が注目されているかを一番よく知っているのは間違いなくプラットフォームです。「Yahoo!ニュース」の編集部は、インターネットでどういったニュースが見られているかを一番よく理解していますし、amazonや楽天などEC事業者はネットでどんな人がいつ何を買っているか、膨大なデータを持っています。
今のテレビ局には、そこまでのマーケティング能力がない。だからこそ、そうした外部のプレーヤーと積極的に組むことで、旧来型のテレビ局の発想や意識を変えていくべきだと思います。実際、僕が進めているニュース配信ビジネスも、そうしたプラットフォームとのコミュニケーションなしには軌道に乗せることはできませんでした。彼らからきめ細かなマーケティング情報をフィードバックしてもらっているので、それに基づいて次の戦略を考えることができます。ネットにはネットならではの独自のノウハウがあるので、積極的に教えを請うべきだと考えています。
新しいビジネスを創造するために
―今後、ローカル局が新たなビジネスを成功させるために何が必要だと思いますか?
ずばり「人材」。それも、これまでの放送局にはなかった人材の育成じゃないでしょうか。
従来の放送業界の発想やノウハウだけでは、生き残っていけない時代になってきていると思います。テレビの専門家としての発想だけでなく、ITを中心としたさまざまな業界に目を向けて、積極的に外部にも働きかけていけるような、バランスの取れた人材が求められていると感じます。「放送」以外の事業をいかにマネタイズしていくかは、ローカル局にとっても大きな課題となるので、新しいことにチャレンジできる若い人材がもっともっと必要だと思います。
―最後に質問です。これまでも新しい事業に挑戦されてきた加藤さんですが、現在取り組んでおられる新規プロジェクトはありますか?
もちろんあります。まだ具体的なお話はできませんが(笑)。やりたいことは山ほどありますね。
―その新しいプロジェクトがスタートした際には、ぜひまたインタビューさせてください。今日はありがとうございました。
(了)
関連記事
vol.1北海道文化放送株式会社 総合ビジネス開発室
加藤 雅俊(かとう まさとし)
日本大学芸術学部卒。番組制作会社を経て、2006年ヤフー株式会社入社。
Yahoo!動画の立ち上げに参画後、テレビ局担当のビジネス開発職として、Yahoo!JAPANのさまざまなサービスとの連携による、テレビ局のインターネットビジネスを推進。
2016年、北海道文化放送株式会社(フジテレビ系列)に入社し、現在、総合ビジネス開発室所属。