〜AmazonStudiosとNetflix〜【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】〜 Amazon、「ロード・オブ・ザ・リング」ドラマ化でNetflix追撃 〜
【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】 第2回
2017年、Amazonの映像制作部門Amazon Studiosが「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)」の映像化権を獲得したとき、ハリウッドに衝撃が走った。
J・R・R・トールキンによるファンタジー巨編は、その後のポップカルチャーに多大な影響を与えた20世紀を代表する文学のひとつである。ピーター・ジャクソン監督が手がけた「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ、その前日譚「ホビット」シリーズの計6本の映画が存在することからも高い知名度を誇り、ドラマの題材としては申し分ない。
驚くべきは、同作を獲得するためにAmazon Studiosが2億5000万ドルもの巨額を投じたことだ。トールキンの遺産を管理するトールキン財団と、英出版社ハーパーコリンズ、米映画会社ニュー・ライン・シネマとのあいだで取り交わされた複雑な契約は映像化権のみであり、制作費はいっさい含まない。さらに、契約では5シーズン分の制作を保証していることから、Amazon Studiosはドラマ版「指輪物語」実現のために10億ドル 以上を投じることになる。米ドラマ史上、最も高額なドラマになるのは確実だ。
実は、ここまで獲得金額がつり上がったのは、ライバルのNetflixと争奪戦を繰り広げたからだ。AmazonのCEO ジェフ・ベゾス氏の大号令により、Amazon Studiosが大勝負に出たのである。
2018年春時点のデータをみると、現在のアメリカにおいてNetflixの会員は5670万人(世界で1億2500万人)。一方、Amazonで動画を視聴できるプライム会員は1億人超いるとみられているが、実際にアメリカでの視聴者数は2017年初頭の時点で2600万人と言われている。ちなみに、米Huluの会員は2000万人超だ。
オンライン動画で後発のAmazonは、世界最大のオンラインショップである点を生かし、集合知を利用してオリジナルコンテンツを増やしてきた。2010年に立ち上げたAmazon Studiosは、ネットを通じて映画やテレビの脚本を広く募集。テレビドラマに関しては、厳選した作品のパイロット版を制作したのち、Amazonで無料公開。不特定多数のユーザーの声を参考に、ゴーサインを出すという手法を取った。そのなかで「トランスペアレント」や、「モーツァルト・イン・ザ・ジャングル」、「マーベラス・ミセス・メイゼル」といった作品が批評家から高く評価され、ゴールデングローブ賞やエミー賞を受賞。小粒ながら作家性が強い作品を得意としていた。
しかし、昨年、ジェフ・ベゾス氏はAmazon Studiosに対し、次の「ゲーム・オブ・スローンズ」を探せと命じた。「ゲーム・オブ・スローンズ」といえば、日本でこそマイナーだが、世界的な社会現象となっているファンタジー巨編である。つまり、ベゾス氏は、従来のインディペンデント映画的なアプローチから、超大作路線に切り替えろと命じたわけだ。まさかこのときは、「ゲーム・オブ・スローンズ」に多大な影響を及ぼしたであろう 「ロード・オブ・ザ・リング」を奪取できるとは思っていなかっただろうが。
さて、オリジナルドラマにこれだけの投資をして、どうやって元を取るのだと疑問に思うかもしれない。そのユニークなマネタイズ方法について、2016年のコード・カンファレンスに登壇したベゾス氏は以下のように説明している。
「(オリジナル動画が)ゴールデングローブ賞を受賞すると、靴の売上があがる。それだけ直接作用するんだ。」
つまり、こういうことだ。魅力的なオリジナル動画を増やせば、プライム会員が増える。月額12ドル99セントの会費を払うようになると、会員はそのメリットを享受しようと、Amazon内に長時間留まる。その結果、非会員よりも多く買い物をするようになる。つまり、魅力的な動画コンテンツは、多くの消費者をAmazonのエコシステムに取り込み、留めておくための強力なツールなのだ。
Amazon Studiosの2018年のコンテンツ獲得予算は50億ドルに到達するとみられている。Netflixの80億ドル にはまだ及ばないが、かなり差が縮まってきた。
(了)