ドラマ王者がHBOからNetflixに!【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】〜 エミー賞に表れた、米ドラマ界変化の兆し 〜

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ドラマ王者がHBOからNetflixに!【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】〜 エミー賞に表れた、米ドラマ界変化の兆し 〜

【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】 第3回



7月13日(現地時間)、米テレビ界最高の栄誉とされる、第70回エミー賞のノミネート作品が発表された。「ツイン・ピークス The Return」が主要賞を逃したことや、「Killing Eve」のサンドラ・オーがアジア系俳優としてはじめて主演女優賞にノミネートされたことなどが注目を集めたが、最大のサプライズはNetflixの大躍進だった。

局ごとのノミネート獲得数において、昨年の91から112に伸ばして1位を獲得。過去17年間王座に君臨していたHBO(総ノミネート数108)を追い抜いてしまったのだ。

米有料チャンネルのHBOといえば、人気映画のプレミア放送やスポーツ中継を行う、日本におけるWOWOWのような存在だ。だが、テレビファンにとっては、いまに続くドラマブームを生み出した最大の功労者として知られている。

かつてのアメリカのテレビドラマというと、刑事や医師、弁護士といったプロフェッショナルが問題解決に挑むさまを描くProcedural Drama(直訳すると"手続きドラマ")か、お馴染みの登場人物たちが定められた環境で笑いを起こすシチュエーション・コメディの2タイプに限られていた。

しかし、90年代からオリジナルドラマに進出したHBOは、99年に放送を開始した「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」で全米に衝撃を与える。1話では完結しないLong Formと呼ばれる物語展開に、演技から映像に至るまで映画のような高いクオリティ。放送禁止用語を多用したリアルな会話に、過激なバイオレンスや性描写。HBOがここまで型破りのドラマを生み出せたのは、誰でも視聴できるネットワーク局ではなく、有料チャンネルだからだ。ネットワーク局のように内容や題材、表現に関する規制がなく、広告収入に依存していないので、視聴率の影響も直接受けることはない。HBOのブランド作りに貢献し、結果的に契約者が増えることになれば、どんなドラマでも構わない。

その利点を生かし、HBOは「SEX AND THE CITY」、「シックス・フィート・アンダー」、「THE WIRE/ザ・ワイヤー」といった野心的な作品をつぎつぎと送り出す。題材もスタイルもバラバラだが、いずれもネットワーク局が作っていた従来のドラマから大きくはみ出している点が共通する。HBOはアメリカ人がドラマに対して抱いていた固定観念をぶちこわしたのだ。その後、他局もこぞって新しいタイプのドラマに挑戦するようになったため、米テレビ界全体の底上げが起きた。「24-TWENTY FOUR-」(FOX)や「LOST」(ABC)、「ブレイキング・バッド」(AMC)、「ハウス・オブ・カード 野望の階段」(Netflix)といった傑作も、HBOがドラマ革命を起こしていなければ誕生していなかったかもしれないのだ。

さて、HBOはその後もコンスタントに質の高い話題作を放ち、米テレビ界の品質のバロメーターとなるエミー賞において、絶対王者として君臨してきたのだ。しかし、今年のエミー賞において、Netflixに総ノミネート数で屈してしまった。この事件をドラマ王者がHBOからNetflixに代わった象徴的な出来事と捉える向きもあるが、それほど単純な話ではないと思う。

というのは、作品ごとのノミネート獲得数をみると、HBOの「ゲーム・オブ・スローンズ」が最多22部門、「ウエストワールド」が21部門で続いている。一方、Netflixのドラマは「ザ・クラウン」13部門、「ストレンジャー・シングス 未知の世界」12部門、「GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング」10部門と、いずれもHBOのトップ作品の半数程度となっている。巨額のコンテンツ予算を投じているNetflixのほうが作品数が多いためにノミネートをより多く獲得しているだけで、作品あたりのノミネート数ではHBOのほうが勝っている。

また、Netflixの猛追をうけて、HBOも次の一手を打っている。「スター・ウォーズ フォースの覚醒」のJ・J・エイブラムス監督の新ドラマ「Demimonde(原題)」や、「アベンジャーズ」のジョス・ウェドン監督の「The Nevers(原題)」などの大型ドラマを相次いで獲得しているのだ。今後は、HBOとNetflixが米ドラマ界を牽引していくことになりそうだ。

(了)

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