〜ハレックス〜膨大な気象データを顧客のソリューションに役立つ、より価値ある情報に 株式会社ハレックス常務取締役 足海 義雄さん vol.1
株式会社ハレックス 常務取締役 兼 ビジネスソリューション事業部長 足海 義雄氏
ハレックスは、気象庁などから提供される気象データをもとに、気象情報を企業や自治体などに提供する民間気象会社。近年はITを活用し、気象データを付加価値の高い情報に加工する事業に力を入れています。今回は、この事業のキーマンである常務取締役の足海義雄さんにお話を伺いました。
ハレックスってどんな企業?
―ハレックスは民間気象会社ですが、そもそも気象予報に使うデータをどのように入手しているのでしょうか?
世に出回っている天気予報のデータは、気象庁やその外郭団体である気象業務支援センターが出しています。そもそも気象って、基本は国の事業ですからね。民間に気象情報が解放されたのは今から25年前のことで、ハレックスもそのタイミングで設立されました。われわれのような民間気象会社は、気象庁が発表する膨大な気象データを気象業務支援センターから入手し、独自の予測情報をつくっているわけです。
―どれぐらいの量の気象データを扱うんですか?
アメダスの観測データは1分おき、レーダーのデータも5分間隔で配信されます。他にも天気図が3時間おき、さらに気象庁による予報データが6時間おきに来るなど、膨大な量にのぼります。これらのデータをもとに予報するのが気象予報士の仕事です。ただ、人間が四六時中ずっとモニターを見ているという状況は、現代に合わないですよね。当社の前社長だった越智は、こうした人力頼みの気象業界でIT化を進めようと考えました。
もともと、当社は気象予報士を派遣するビジネスを手掛けていて、私が入社したのは今から5年前ですが、当時は売上全体の半分以上が予報士の派遣ビジネスによる収益でした。しかし、こうしたビジネスは労働集約型で労働環境もあまりよくない。それに、派遣法改正という時代の流れもあり、いずれは気象予報士の派遣ビジネスから業態変換を、と考えていました。
気象業界のIT化推進と派遣業からの転換を図るなかで生まれたのが、当社の現在のビジネスの根幹を成す気象システム「HalexDream!」です。
―「HalexDream!」はスーパーコンピュータによる気象情報システムですね。
はい。先ほど申し上げた膨大なデータ、これは数値のデータですが、それを可視化するシステムです。天気図のままだと読み取りにくい風の動きなども、ITを活用すれば風の流れが一目でわかります。時計回りに風が動いているから高気圧とか、風と風がぶつかってるところには前線ができているとか。このシステムはすでにビジネス特許を取得しています。
―「HalexDream」の開発はいつごろから始まったんでしょうか?
着想段階から入れると8、9年前です。私が入社した5年前にはほぼ完成していました。外部に販売できる状態になっていましたので、入社当初の私は前社長の越智から「これを売ってくれ」と言われました。
―足海さんの入社までの経緯を教えていただけますか?
ハレックスに来る前はIT企業に勤めていました。最初はプログラマーSEをしていましたが、途中から商品企画部に異動し、新しいビジネスの構築を検討するという仕事に変わりました。その後、営業に異動して営業部長となり、ソリューション営業をしていて、その頃に当時ハレックスの社長だった越智と出会ったんです。
―ハレックスのお仕事に興味を持ったんですか?
いえ、興味はありませんでした(笑)。気象に関してまったくのド素人でしたからね。私が気象についてさっぱりわからないことを越智も知っていたので「コイツで大丈夫かな」という感じだったと思います。だから、正式な入社前に3カ月間、“お見合い期間”ということで会社の業績や業界全体のこと、お客様のことを分析・吟味する期間をいただいたのです。その後すぐに入社しましたがね。
予報×実況×地形で高精度なピンポイント予報
―「HalexDream!」の仕組みについて、もう少し詳しく教えていただけますか?
気象業務支援センターから仕入れるデータには「予報」と「実況」があります。予報は24時間後、36時間後の予想で、少しずつ変化していきます。それに対して、実況は現在の雨や風、湿度等の数値。予報と実況をスムージング(すり合わせ)することで、予報の精度を高める工夫をしています。さらに、地形も加味し、当社では1キロメートル四方に区切ったエリア(メッシュ)単位で予報を出すということをしています。日本全体で約40万メッシュありますね。
―40万メッシュ! 情報をコントロールするのが大変ですね。
そうですね。スマートフォンなどで表示される天気予報は、気象庁の情報に合わせて3時間おきに出るのが多いと思います。ですが、当社は予報と実況を組み合わせることで、直近の予報を常に更新しています。とりわけ、6時間後までの予報の精度の高さが強みです。実況レーダーのデータそのものは1分単位で入ってくるのですが、それを随時反映させることは現実的ではないので、1時間ごとに予報を出しています。
あと、マップのメッシュ部分をワンクリックするだけで、予報を見ることができるという操作性もウリですね。
利用者が行動できるまでのソリューションを提供
―「HalexDream!」のような高い精度の予報を必要とするお客様というと、どんな企業になるのでしょうか?
たとえば京浜急行電鉄様ですね。運行管理システムで活用していただいています。沿線のエリアに1キロメートル四方でメッシュを切って、メッシュごとに直近1時間の降水強度(雨の強さ)を5分単位で出しています。それと、単に情報を出すだけでなく、降水強度が基準値を超えるとアラートが飛ぶようになっています。それを受けて、運行管理の担当者は電車の徐行運転や停止を指示します。
また、土砂災害から線路を守るためにもこのシステムが活用されていて、すべての駅間で雨の累積量なども観測していますね。
―アラート機能もあるというのは画期的ですね。
当社は気象会社であるとともに、IT企業であるという側面もあります。なので、京浜急行電鉄様なら「電車を安全に運行したい」といった、お客様のニーズに応えるためのソリューションを提供できるのが、他の気象会社に比べて強みだと思います。
気象予報だけだと「台風が近づいています」といった情報を渡して、「情報を受け取ったら、その先の対応はそちらで検討してくださいね」と委ねることしかできないんですね。ところが、当社ではシステムとしてこれだけ細かい情報を提供するだけでなく、監視するという仕掛けもできる。
気象情報とアラートをシステムの中に組み込むことで、「危険だから電車を止めよう」といった行動にすぐに結び付けられ、危険を回避する、というソリューションが可能になるんです。このように、ユーザーに対して「お客様は最終判断をどうぞ」というところまでシステムを作り込んでいます。
―なるほど。気象によるリスクを、お客様が判断しやすい情報にまで落とし込んでいるのですね。
そうです。他にも、気象庁が出す「土壌雨量指数」というデータの視覚化をしています。このデータは土の中に浸透している雨量を指数化したもので、土砂災害警戒情報にはこのデータが用いられます。当社では土地ごとに警戒レベルをチューニングしたうえで視覚化することで、よりお客様が使いやすい情報に加工しています。
たとえば、品川駅のようなコンクリートで固めたところでは、どれだけ雨が降っても土砂なんてありませんよね。しかし、横浜から南の方の線路は、下が土を盛った構造になっています。このように、土台によって警戒レベルが異なるため、エリアごとにどの位の雨が含まれているのかを把握することが重要です。場所ごとの状況に合わせて警戒レベルを補正すること、こうしたことが可能なのは当社が「HalexDream!」という基盤技術とエンジンを持っているからこそだと言えるでしょう。(vol.2)に続く