AI が変えていく会社の未来、雇用の未来 〜アニメ舞台になった場所をバーチャルで訪問できる「聖地巡礼マップ」の事業立ち上げにも関わった ディップ 株式会社次世代事業準備室 室長 進藤 圭さん 〜

  • 公開日:
広告・マーケティング
#AI #マーケティング
AI が変えていく会社の未来、雇用の未来 〜アニメ舞台になった場所をバーチャルで訪問できる「聖地巡礼マップ」の事業立ち上げにも関わった ディップ 株式会社次世代事業準備室 室長 進藤 圭さん 〜

ディップ 株式会社次世代事業準備室 室長 進藤 圭氏

日本最大級のアルバイト・パート求人情報サイトの「バイトル」などさまざまな求人情報サービスを提供するディップ株式会社。さまざまな人材サービスを手がける同社において、AIに着目した新規事業の立ち上げを担う進藤さんに、現在同社が手がけるAI関連サービスや新規事業開発への取り組みをお伺いしました。

二度の起業経験を経てサラリーマンに

まず、進藤さんのご経歴を教えていただけますか。

大学を7年かけて卒業し、2006年に新卒で当社へ入社しました。営業や企画を経験した後、2009年に看護師人材のサイト「ナースではたらこ」を立ち上げ、そこから新規事業を手がける「次世代事業準備室」に移り、いろんな企画・事業の立ち上げに関わっています。

そんな事業のひとつである、「聖地巡礼マップ」というWebサービスもユニークですね。

アニメの舞台になった場所をバーチャルで訪問できるというもので、2014年にサービスを開始しました。これは地方創生が目的としているサービスです。地方の観光協会などと組んで体験移住を企画したり、アニメの舞台にちなんだスタンプラリーをやったりしましたね。

大学に7年おられたということですが、学生時代は何を?

学生時代に起業したんです。1回目が1年生のときで、2回目が3年生の半ばですね。1回目は事業が大きくなりすぎて手に負えなくなって売却し、2回目は失敗して借金を抱えてしまい、その返済に3年かかったんです。だから7年在籍することになりました(笑)。

学生時代の起業についてお聞かせ下さい。

1回目はイベント会社を経営していました。もともとは、幹事の仕事を代行するサービスから始まったのですが、そのサービスを通じていろんな知り合いができるようになり、この人脈を元にイベント会社を立ち上げたんです。いろんな企業からの依頼でイベントにコンパニオンを派遣したり、「ライブ会場に全然、人が埋まっていないから埋めてくれ」という依頼で学生を動員したり。そんな事業を2年生後半までやっていましたね。

最初は個人で手がけていたのですが、管理できなくなってきたので会社にしたんですね。でも、規模が大きくなりすぎて面倒くさいことになったんで、似たようなことをやっている規模の大きな会社に事業を売却しました。

2回目は、家具の輸入販売です。2年生の終わりにインドなどいろんなところに旅行に行ってフラフラしていたんですが、その時の縁もあって、3年生の頃にいろんな留学生と知り合うようになったんです。留学生って実家から食料品なんかを送ってもらったりするのですが、それを利用して家具のドロップシッピングみたいなのを思いついたんです。留学生の家族がバイヤーみたいな感じで。

何故、家具に注目したのでしょうか?

現地で調達したときと、日本で同じようなものを買ったときとの差額が大きかったからです。インドでゴミみたいに置いてあった壺なんかが、日本では1万円で売っている様子を見て、「これだ!」と。

留学生の家族に現地で売っている家具の写真を撮ってもらい、それをネットショップに出品しました。オーダーが入ったら、留学生を通じて家族に送ってもらうようお願いするという、小遣い稼ぎの手伝いみたいなことをやっていました。4年生までの約1年間やりましたね。

その事業が失敗した理由はどこにあったんでしょうか?

輸入販売が儲かったんで、仕入れをして在庫を持ったんです。これがミスで、在庫で倒れて借金を作ってしまったんです。それで、3年間はアルバイトなどをして借金を返済し、卒業しました。経営者として、つらい側面を見たのが大きな経験でしたね。預金通帳の桁がどんどん減っていく。それで、「経営者にはしばらくならなくていいな」と思って、就活しました。

そうした経験をされて、入社先としてディップを選ばれたのはどういう理由なのでしょう?

いろんな企業でインターンをさせていただいたんですが、だいたい"普通にいい会社"だったんですよね。ところが、ここの会社だけは野武士みたいな人たちばかりで。これでウェブの商材を売っているというのが、すごいなぁと思いましたね。営業の人はいるけど商品を作る人がいない状態だったので、「いずれは商品企画とか、新規事業とかも必要になる。自分が入ったらすぐにそういう仕事が出来そう」と思って、入社を決めました。

AIサービスを世に広める新事業

現在は「次世代事業準備室」という部署で新規事業を手がけておられるわけですが、今日は、さまざまな事業の中でも特にAIについてお伺いしたいと考えています。まず、御社がAIを手がける理由を教えていただけますか?

いちばんの理由は人口減少です。労働人口が減っているのは、我々にとってチャンスでもあり、危機でもあります。高齢者はこれからも相対的には増えていくので、店舗の側から見るとお客さんは増えることになりますね。でも、一方で人手が足りなくて倒産していくケースも多い。こんな状況のなかで「我々に何かできることがあるんじゃないか?」というところから始まって、AIやRPAを打ち出すようになったんです。

現在、求人業界の景気は良いのですが、将来に対する危機感はあります。「将来に崖みたいなのが絶対あるよね」という話を業界でもしています。これは日本だけでなく、世界的にも同じことがいえると思います。

ディップには営業職が1,500人ほどいます。業界で代理店だけでなく、直販でこれだけの営業部隊を抱えている企業はなかなかないのですが、それがお客さまとの密着度を高めている強みともいえます。今後は人口の減少の影響を受けて、今なら5人の人材を供給できているところが、今後は3人しか供給できなくなってくるでしょう。そのマイナス分をAIで補おうという感じで始めました。

次世代事業準備室でAIに関する事業としては、AIの専門メディア「AINOW」の運営と、アクセラレータプログラムを提供する「AIアクセラレータ」事業、それに社内でのAI開発です。

「AINOW」は2016年の末に立ち上げました。実はこれ、上の人間に通さずに勝手に始めたオウンドメディアなんです。「ワードプレスだし、お金も手間もそんなにかかってないしねー」みたいな感じで(笑)。ただ、たまたま日経新聞に出ちゃったんですよね。それを社長が読んでて、「なんだこれ? 聞いてないぞ」みたいなことになって、「あ、すいません」って謝りました(笑)。

「とりあえず、やっちゃう」って感じですね(笑)。

そうですね。

AIに関するニュースとか、インタビューとか、結構な頻度で更新されていますよね。取材も進藤さんが行かれるんですか?

初期は私も行ってましたね。今もときどき行ってますけど。その後は、「AINOW」を始めた頃にインターンで来てくれていた学生が今では社員になって、編集長として頑張ってくれています。ライティングもカメラも彼が1人でやっている。編集はインターン体制でやっています。「AINOW」は、社員の編集長が1人とインターン5名という体制で運営しています。平均年齢は21、2歳ぐらいでしょうか。

「AINOW」をやっていて気づいたのが、AIのサービスそのものが日本にはあまりないということ。海外ではAIにたくさん投資されているのですが、日本ではそもそもサービス自体がないから、投資する先がない。それなら、我々でやろうじゃないかということで立ち上げたのが、AIに関わる企業の育成やPR代行を行う「AIアクセラレータ」事業です。

AIに特化した企業育成支援のためのアクセラレータプログラムを開発したのは、当社が日本初。ちなみに、世界で初めてやりだしたのは香港にあるZeroth.ai。当社が2番目で、グーグルが3番目です。

アクセラレータプログラム自体はどのようにして開発していったのですか?

私自身が起業したとき、「お金をどうやって借りればいいのだろう」とか、「営業資料ってどうやって作るんだろう」とかが、わからなくて困ったんです。なので、自分自身の経験を基にプログラムを作っていったという感じでしたね。

プログラム数はいくつあるのでしょうか?

企業ごとに異なるんです。「アイデアがなくて、人だけいる」みたいな企業もあれば、上場まである程度見えていて、組織をどう作っていくかが課題といった企業もあります。だから、プログラムは個別のケースに合わせてオーダーメイドですね。対面で話しながら、「課題はここですね」ってディスカッションして、どうやって解決するか考えています。お客さんを紹介するのがいいのか、商品を改善するのがいいのか、そもそもその事業を続けるのが正しいのか、みたいな感じで。

とても手間がかかりますよね。それを進藤さんがやってらっしゃる?

はい。私がやっています。たしかに手間はかかるのですが、1社1社面談をしていったほうが、逆に手間がかからない場合もあるんです。たとえば、優秀な企業に対しては「いいねえ~!」って褒めるだけ、というのも全然アリです(笑)。そうすると、テンション上がって自然と伸びていく、という感じですね。

今、「AI.Accelerator」のサイト上に掲載されているパートナー企業の一覧を拝見すると、30社ぐらいありますね。それぞれの企業にお願いに行ったということですか?

はい。「立ち上げるから協力してください!」って、一社ずつ訪問しました。最初はどうやって進めればいいかわからないので、VC(ベンチャー・キャピタル)の人に「なんでAIに投資しないんですか?」って、純粋に聞きに行ったんです。そのときに「他に、このAIの領域で話を聞いたほうがいい人って、どういう人ですか?」って質問して教えてもらい、いろんな企業を回りました。

みなさん、我々の問題意識に共感してパートナー企業になってくださっています。ビジネス上の利害もあるし、VCだったりするので「AIの銘柄が出てきたら投資したい」みたいな下心も当然あるでしょう。それはそれで歓迎です。

パートナーを募るためにいろんな企業を回ってみて、どんな感想を持たれましたか?

みなさん、企業を経営したり投資したりするので、育成というところには手をかけられない。だから、「企業の育成をやってくれるなら応援するよ」という感じでしたね。

パートナーの中には、Wantedlyさんのような、当社にとっての競合会社さんもいらっしゃいます。彼らは「Wantedly AI / Robot Fund」というファンドを手がけておられ、我々と課題意識が似ているんですよ。AIに投資することで新たな事業を生み出そうとしておられます。

「AIアクセラレータ」は今年で5期目。1期3ヶ月なので、これまで計15ヶ月間やってきたわけですが、約400社のエントリーがありました。そのうち、採択して育成した企業は48社。その中で、我々が出資したのは実は4社だけです。

それでも、卒業生からビジョンファンド系から出資を受ける企業が出たり、1年でイグジットする企業が出たり、スタートアップの登竜門と呼ばれるICCサミットの「スタートアップ・カタパルト」にも卒業生の4社が出て2社が入賞したりとか、成果は少しずつ出始めています。とにかく今はAIの企業を増やすことが大切だと考えています。

求人企業にとってAIサービスは競合するもの?

AI系の企業を育てることで、御社へのリターンはあるんでしょうか?

それはよく聞かれます(笑)。我々が出資する企業を選ぶ基準として、ひとつは投資、事業連携の可能性があること。リターンを求めるCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の観点ですね。もうひとつは代理店の観点。出資しなくても売り物にはできるので、自分たちの営業網で売れないかという観点でも選んでいます。

御社が投資している3社の技術・サービスを、御社の営業職の方は、具体的にどのように売っていくのでしょうか?

まず、1社目のXpressoが開発した友人マッチングサイト「フォクシー」は、人材採用にも技術応用ができるんですよね。今は「人事担当者の代わりにチャットボットが会話する」といったことを、一緒に研究しています。

2社目のガウスは、AIで競馬予想をする会社としてよく紹介されるのですが、実はAIの受託開発を行っている企業なんです。競馬の予測というのは複雑でして、芝の状況や馬の年齢などの要素を基に予測をする。答えも毎日出るので、AIのエンジンをより向上させていくには適している素材と言えます。

日々、競馬の予想をするなかでAIの予測技術や、自然言語の解析、馬の身体画像から毛並みを分析する画像認識といった技術を開発していき、その技術を使ってAIの受託開発ビジネスを展開しています。その上で、当社とは採用に関するAIを作るといったことを一緒に行っています。

あと、JOLLY GOODというVRの会社とは、リアリティを感じることができる研修サービスを一緒に作っています。JORRY GOODはもともと映像を制作していた人たちが集まってできた企業で、そうした人たちの技術を使ってVRを作っています。

人間って、ある程度の没入感があると、すごく学習できるんですよね。なので、リアリティのあるVRを研修で使い、その裏側でAI解析をしています。解析結果から、研修時にどこを見ているかとか、かわいい女の子が出てくると、そっちばかり見て逆効果だといったこともわかります。これは「Guru Job VR」という名前で、大手企業にすでに販売しています。

ひとつ事例をお話すると、造船会社は、工員の安全教育にかなりのコストをかけています。ですが、ビデオを見せたりしても、臨場感がないため集中して見られないそうなんです。そこで、VRゴーグルをつけてもらい、実際に指差し確認をする。指差し確認の箇所を忘れると、バーチャルで高い所から落ちる経験ができるという仕組みを使って、正確な動作を覚えてもらうとようにご活用いただいてます。

そのVRゴーグルは、御社の営業の方が、「こんな研修プログラムがありますが、いかがでしょうか?」という感じで、クライアント先に紹介するのですか?

そうです。AIも求人や人材の事業も、営業の先は一緒です。「研修は、どのような形でやっておられますか?」と尋ねるところから入ります。たとえば、全国チェーンの飲食店を手がける企業さんなんかは、全国の店舗を回る研修チームがあるんです。教える人が変わってしまうと、研修の質が変わってしまうという課題があるそうなので、「では、こういうVRツールを使えば、特定の人が巡回しなくてもできるんじゃないですか」と提案するんです。

「AIアクセラレータ」を始められたのはいつですか?

2017年4月でしたね。ただ、当時は社内の人に「AIアクセラレータ」のコンセプト自体を理解してもらうことが難しかった。社内的にAIって求人事業と競合する領域ですからね。「どっちみちAIが人間の仕事を取ってしまうんなら、自分たちでAIをやったほうがいいよね」という方向になって、始めることができたんです。「将来、求人市場はどうなるんだろう、ウチの会社はどうなっていくんだろう」というところから話し合いました。

役員会で話を通すときはどうでした?

意見が割れました。既存事業の責任者からすると、求人事業で100億、200億稼いでいるわけですから、議論になりました。ただ、最終的には「一回やってみれば?」という感じになって。それが当社のいいところなんです。あとは冨田のキャラクターも大きいんでしょうね。結局、「とりあえずはチャレンジしてみよう、やってダメならまた考えればいいじゃん」という話に落ち着きました。

実際、「Guru Job VR」のように営業の方に販売しているわけですが、営業の方からの反響はいかがですか?

今、1,500人いる営業職がいますが、ずっと求人の営業をしてきた人にとっては「お客さんに人を採用してもらうのが仕事」。今は少しずつマインドチェンジが始まっている段階です。ただ、新卒で入ってくる若い人は、あまりAIのようなテクノロジーに抵抗がないみたいです。

あとは御社内でAI開発もしておられるのですよね。

はい。ツイッターを解析して、自分はどれだけモテるか判定するエンジンを作ったりしています。男女判定をしたり、フォロワーとかエンゲージメント率を見たりして、モテるかどうかを判定します。

それは他社との共同ではなくて、御社独自で開発しているのでしょうか?

そうです。新規事業の作り方には2種類あって、ひとつは自前で作るという"内製"、もうひとつは投資でつくる"外製"。両方やっています。社内に社員のエンジニアが1名いて、その下に大学生、大学院生を揃えるという体制です。学生さんのほうが我々よりもずっと優秀なので、ガンガン作ってもらっています。

進藤さんの部署はカバー領域が広いので、AI以外にも、新規事業チームとVCチームもあるんですよね。

はい。新規事業チームは、AIとか関係なく、副業系のビジネスサイトや外国人採用サイト、販促サービスなど、私自身も把握できないくらいの数をやっています。VCチームはAI関係で3社、それ以外で8、9社に投資しています。

私が室長を務める次世代事業準備室には、社員が8名と40数名のインターンがいます。研究室とか部活に近い感じで、ワイワイやってますね。

楽しそうですね。会社に対して、定期的に活動報告はしているのですか?

クォーターに一回とか、半年に一回とかですね。投資の案件だと月1回、場合によっては毎週という頻度のものもあります。案件ごとによって、それぞれという感じで報告しています。

面白いこと・新しいこと・人が喜ぶことを追求したい

AIの事業に関して、立ち上げに当初反対だった方々の現在の反応はどのような感じですか?

当初、AIに対して抵抗感はあったと思いますが、実際、始まってみると、商品の姿もきちんと見せられているので、抵抗を持っておられた方々にも納得してもらえるようになってきたと思います。

進藤さんは面白いことをやりたいっていうのが、根幹にあるのでしょうか?

そうですね。"面白いこと、新しいこと、人が喜ぶこと"を追っていくというのはありますね。その方が、結果として儲かったりもするんで。

御社から出資した3社以外で、これは面白かったという企業はありますか?

ありますよ。たとえば、飲食店に監視カメラを置いておくと、人がその空間に何人いるかを特定できるシステムを使って、席が空いているかどうかを判定し、デジタルサイネージにその店の空席確認がリアルタイムで出るというもの。同じカメラを使って、万引きの監視もできます。不審な行動をするときの関節の動きを感知して、万引きの判定をするとアラートが鳴るんです。

御社からの支援プログラムの流れの中で、出資にまでは至らなかったとしても、「何かを一緒にやろう」となったパターンはあるのでしょうか?

全然ありますよ!バッチ(スタートアップ向けプログラム)が終わっても、つかず離れずの関係で、2ヶ月に1回は50社の卒業企業に会っています。当社からの出資はダメでも、他社に紹介することもあります。それこそ我々の競合企業に紹介することもありますよ。「御社に合うと思うので、投資してあげてください」って。

ずいぶんとフリースタイルですね(笑)。

そうですね(笑)。

AIで失われる仕事はあるが、新たに生まれる仕事もある

話は戻りますが、御社にとって、人口減少が課題としてあるというお話でした。今後、人の働き方はどうなっていくと思われますか?

今、いちばん注目しているのはRPA、つまり事務作業の自動化。実は今、本を執筆しているのですが、テーマはRPAです。労働力は減っていくから、弊社も新卒採用はキツくなる。早めに自動化に取り組もうとして、2013年ぐらいから失敗も繰り返したりしながら、自社でRPAに取り組んでいます。こういった話をいろんなところでしていたら、「本を書きませんか?」と声をかけてもらったんです。RPAを導入して失敗した話とか、うまくいった話をシェアする内容の本です。

あとは、クリエイティブを自動生成するシステムにも注目しています。画像を入れただけで、AIがコーディングしてくれるなど、クリエイティブの自動生成ができる日もいずれは来るでしょうね。特に、脚本やコンテ、バナー、写真の角度、編集、レタッチなどの領域で、案出しのようなことはAIがやってくれる。パターン出しさせるなら、AIのほうが低コストで、かつ速い。そして、ものすごい数のパターンを出してくれますから。

但し、"選ぶ"という作業は人間にしかできません。だから、最後に決定版にまで持って行くには、その成果物を使う企業の好みをエンジンに教え込ませる必要がある。そこはデザイナーさんやクリエイターさんの仕事になってくるんだと思います。いい具合に、AIがやるところ、人間がやるところが分かれていくのでしょうね。人間はより決定するところに近い領域をやっていくイメージを持っていますね。

5年後、10年後のAIはどうなっているとお考えですか?

PCが普及していく頃の状況ととても似ていますね。最初はPCが使えるだけで、すごいことだったのが、今では普通ですよね。AIも同じように、今はすごいって言われているけれど、そのうち入っているのが普通みたいになっていくと思います。

今、画像とテキスト、音声の分野でそれぞれAIの研究が進んでいますが、いちばん早いのは画像でしょう。もう5年以内には「AIが入っていて普通」に近い世界になりそうです。iPhoneのface IDもAIじゃないですか。そんな感覚です。

文字については、日本語は少し遅れる可能性がありそうですね。Gmailのオートコンプリート機能を見ていると、だいたい正しそうなヤツを出してくれます。だから、一問一答のような単純なものなら、自分の代わりに応えてくれるみたいなのは5年後ぐらいには可能かもしれない。文章の自動生成とかもわりと近い将来だと思います。ただ、良い・悪いといった判断については、しばらく出来ないかなと思います。そこを判断するのはやはり人です。結局、AIは良し悪しを判断する基準を持っていないですからね。

自分自身、もしくは会社自身の評価軸で判断していく部分が残っていくということですね。

そうですね。その際、人間の納得感、あるいは拒絶感というのがキーワードになると思います。たとえばAIがテレアポするリストを推薦してくれるというのがあります。ただリストだけでは、なかなか人は動きません。人を動かすのは理由です。「競合にこれだけ載ってて、昨年のこの時期にこれだけアポが取れています」というと、人は動く。行動を促すという点で、こういう納得感を持ってもらうための材料を提示するという事は重要になってきますね。

AIのサービスが世の中にたくさんあるっていう状態になるまであと4~5年はかかるでしょう。そうなるまでは、アクセラレータプログラムや「AINOW」は続けていくと思います。私が関わらなくなったとしても、誰かが引き継いでくれるように今、がんばっているという感覚です。

AIが導入された職種に身を置いていた人たちは、AI導入後はどういう分野に行くと思いますか?

その仕事そのものは失われますね。ただ、RPAを導入すると何が起こるかというと、そこにはかならず人が付いてくるんです。RPAハンドラーやRPAグロースハッカーとよばれる人たちですね。RPAのお世話をする人が必要になるんです。要するに、新しい雇用がそこに生まれる。

今、雇用が失われるといわれている部分は、ほっておいても将来かならず失われる職種なんです。歴史上の雇用移動は必ず生まれますから。今、新たな雇用が生まれている分野は、介護などの人にしかできない仕事です。自動化が進むことで、雇用は判断や企画をする仕事と人間的な仕事の二極化が進むでしょう。

これは意義の高低ではなく、ロボットの世話をする仕事と、人間の世話をする仕事に分かれていくということなんです。私は良い姿だと思います。本来は人がやらなくてもよかった仕事を、これまでやっていましたからね。人間にしかできないところに、関わっていくということですから。

たとえば、これからは営業職のような対面の仕事は、どんどん価値が上がっていくと思います。"人が来る"ということに価値がある、そんな時代になると思いますね。

AIの話が雇用の将来へつながる話になりましたね。本日はありがとうございました。

(了)

ディップ株式会社次世代事業準備室 室長
進藤 圭(しんとう けい)

早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、ディップ株式会社に新卒入社。営業職、ディレクター職を経て、40件以上のサービス企画に参加。
新規事業と事業提案制度の責任者や、人工知能ニュースなどメディアチームの責任者を務め、スタートアップ支援では投資担当を兼ねている。その他、TBSラジオ「好奇心家族」にてニュース解説者など幅広い分野で活躍している。

関連記事