「テストする女性誌」で認知度アップ『LDK』 徹底的なユーザー目線で本音のレビューを届けたい 晋遊舎 『LDK』編集長 長 恵理子さん 『360.life』編集長 冨田 岳さん

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「テストする女性誌」で認知度アップ『LDK』 徹底的なユーザー目線で本音のレビューを届けたい 晋遊舎 『LDK』編集長 長 恵理子さん 『360.life』編集長 冨田 岳さん

(左から)晋遊舎 雑誌『LDK』編集長 長 恵理子氏
Webメディア『360.life』編集長 冨田 岳氏


広告掲載をすることなく、製品テストを行って「本当にユーザーのためになる製品」を紹介する雑誌として話題の『LDK』と、その姿勢をWebでも展開する『360.life』。それぞれをけん引するおふたりの編集長に、メディアに込めた思いを伺いました。

使い比べできない読者の代わりにテストする

まずは、『LDK』編集長の長さんにお話を伺いたいと思います。長さんの経歴を簡単に教えていただけますか?

長:晋遊舎に入社したのは2009年。中途入社で、前はカタログ通販の会社で編集をしていました。出版に憧れがあって、晋遊舎はいろんな出版社に応募したうちの1社でした。

入社当時、『家電批評』『MONOQLO(モノクロ)』、あとはパソコン誌など、弊社が手がける雑誌には男性誌しかありませんでした。60人ほどの社員のなかで、女性編集は5人ぐらいだったと思います。

入社して、最初に配属になったのは『家電批評』でした。何もわからないままにテレビの型番を調べたり、家電の製品リストを作ったりしていましたね。

『LDK』を担当したのはいつごろですか?

長:2013年ですね。入社5年目です。『LDK』はすでに創刊していました。

最初は5人の編集スタッフがいて、少しずつ人数を増やしていきました。基本的に女性がターゲットなので、社内の数少ない女性である私にも声がかかったのだと思います。今、編集メンバーは9人で、男性はそのうち1人のみといった構成です。

『LDK』は「広告に頼らずにユーザー目線で情報を届ける」というコンセプトですが、誌面作りのこだわりについて教えていただけますか?

長:テスト方法や取り上げる商品など、「自分が買うならどれにするか」というユーザー目線を本当に大切にしています。読者さんの代わりに私たちがテストをしているといった感じですね。

実際に食器用洗剤を買うときって、ひとつしか買わないし、使うのもひとつだけですよね。いろんな商品の良さを使って比較するわけにはいかないから、パッケージを見て、価格を見て、判断するしかないじゃないですか。

だから、「私たちがすべての商品を買って、全部テストして、何が良くて何が悪いのかということを全部見せます」というのが、ひとつのコンセプトなんです。もちろん、ピックアップする商品もドラッグストアでふつうに見かけるもの、価格帯もふつうに読者が手に取れるようなものを対象にしています。

テストも、普段どういう形でどのぐらいの量を使うのか、どんな点が困っていたりストレスに感じたりしているのかというところを掘り下げていって、実生活にできるだけ沿った形でやるように心がけています。テストの項目も、読者の悩みが解決できて、さらには「この商品がほしい」、あるいは「これは微妙だな」という判断ができるようなものを考えていますね。

企画や取り上げる商品ってどうやって探しているんですか?

長:『LDK』も年を重ねてきて、どんな特集が人気なのかといったことはわかってきています。毎年、必ず洗濯洗剤は取り上げてほしいとか、恒例として新製品が出るタイミングで取り上げているものがあるので、企画のベースになるようものはあります。

新しい特集をやるときは、読者ターゲットに沿った形でやりたいなと思っていて、競合誌を意識しますね。

競合誌がやっている"鉄板"企画と同じようなテーマでやるにしても、そこに『LDK』らしさを出すために他誌だと広告絡みでできないようなことを当誌がやってみたり、商品比較を挟んでみたりとか、取材から出てきたネタを織り込んでいったりして、『LDK』のカラーを出すようにしています。


リアリティで他誌と差別化する

最近手がけた企画で「これは」というものを教えていただけますか?

長:最近、"お金"の特集を増やしています。人気ありますからね。

他誌に載っている家計術の事例だと、「そんな年収の人、いないよ」とか「本当にそんな生活しているの?」みたいな、リアリティに欠けるようなものもあります。読んでいる人が実感できないようなものを当誌がやってもしょうがないなということになって、この11月号ではファイナンシャル・プランナーとか、公認会計士といったプロの方が実践している家計術を紹介することにしました。

プロの方が読者の家計を見てアドバイスをしたり、「こんな家計術がありますよ」って提案したりしているのはよくありますが、それよりも彼らが実際にどういうことをしているのか紹介してあげたほうが、プロが本当に実行しているからリアリティがあるし、「やってみようかな」という気持ちになりやすいと思います。実際にプロの方にお伺いすると、そんなにハードルの高いことをしているわけじゃないんですよ。

お金のプロの方でも、結婚したときに貯金が6万円しかなかったとか、奥さんのお金を使いこみすぎたとか、そういうことがあって今の仕事をしていますという話が出てきたりするんです(笑)。

編集スタッフが取材で集めてきてくれた話をさらに掘り下げてみて、そういったプロの方のリアルな話を入れることで、読んでいる方にも現実的な話として受け止めてもらえるのかなと思います。

家計の記事なら、他誌だと読者モニターさんをたくさん抱えていて、いろんなパターンの人のネタを持っていると思うので、それを記事にするシステムがもう出来上がっているんだと思うんですよね。『LDK』はその点は弱いので、それなら鉄板といわれるテーマでも他誌とは違う方法で、いかに見せるか、どうしたら手に取ってもらえるかという観点で考えています。

11月号の家計術特集は、今までにない切り口の企画だったので、どこまで興味を持って読んでもらえるかは気になるところです。

読者の反響ってどうやって吸い上げているんですか?

長:Webアンケートのツールを使って調査したりしています。


新しい企画を考えるときは、アンケートを参考にするんですか?

長:新たにチャレンジするテーマは、最初はメイン以外の小さな特集から始めていきます。そこで反響が高ければ、次はメインの第1特集に持っていこうという具合です。たとえば、掃除の特集や体の不調といった特集を10ページでやってみて、メインの特集よりも反響が大きかったりすると、「これは30ページでもやれるネタだね」となって、第1特集に昇格させていきます。

第1特集は30ページ以上割くので、ここの人気がないと売れ行きに影響が出てしまいます。ただ、第1特集に昇格できる特集ってそんなにないので、これから増やしていかなければと思っています。毎年100個ほどの特集をするんですが、何度も続くとマンネリ化してしまいますからね。

今は、毎年この時期はこの企画をして...みたいな「定番の特集」をパズルのように当てはめていくだけで、雑誌1冊の台割が作れてしまう。でも、それじゃあやっぱりマンネリ化するので、どこかで変化をつけたくなります。

「この特集をやれば、ある程度の売り上げは見込める」という知見があるから、さらなるジャンプアップのためのチャレンジができるところもあります。多少失敗しても、他のところで補填してくれるだろう、と。鉄板ネタとチャレンジネタの組み合わせ方は、そうした兼ね合いを見てやっています。

長さんが『LDK』に入った当初は、そういう「型」みたいなものはなかったわけですよね。割と手探りの状態だったと思うんですが、反響を見ながら試すというのをずっとやってきたということですか?

長:そうですね。そもそも、『LDK』が『家電批評』や『MONOQLO』といった男性誌から派生して始まったということもあり、当初は『MONOQLO』の女性版のような感じでした。だから男性目線なんですよね。ひたすらテストすればいいとか、モノさえ良ければイケるとか。

それだと読者の感情や悩みが置き去りにされていた部分があったので、「良い・悪い」だけでなく「こういう悩みには、こんな方法でやればストレスが解消されますよ」ということも意識して、そういう視点で企画を出していくうちに、だんだん読者に共感してもらえるようになったかなと思います。


美容室を活用して『LDK』の認知度を向上

『LDK』は広告に頼らないスタイルですが、部数的にはいかがでしょうか?

長:7万部から始まって、10万、15万と増えていき、認知度はだんだん高くなってきています。

あと、雑誌が始まった当初は美容室に「この雑誌を置いてください」とお願いして送っていたこともあり、「美容室で読みました」という声も多いですね。

情報が多くて細かいので、絶対に美容室では読み切れないじゃないですか。だから、美容室で手に取ったのをきっかけに、興味を持っていただいて買ってもらうように引きこもうという意図もありました。

販売の話、おもしろいですね、他に売り方というか広め方の工夫ってありますか?

長:認知度アップは、テレビの取材などを受けたことも大きいと思います。作り方がおもしろいと思われたようですね。「"テストする女性誌"が選んだ百均の優れた商品」みたいな切り口で取材を受けることもありますし、そもそも『LDK』はどうやって作っているのかをフィーチャーしてもらったこともありましたね。特に昨年はそういう取材が多かったので、認知度がグンと上がりました。そういった取材はなるべく受けて、「本当にすべてテストして選んでいるんですよ」って伝えるようにしています。

雑誌の作り方に柔軟に対応できる、社内テストラボ

どのように商品テストをしているのか、事例を教えてもらえますか?

長:社内にラボがあって、そこでテストをしています。ラボには研究員が2人いて、もともと試験機関にいた方で化粧品や洗剤といった生活系に詳しく、「この商品ならこういうテストができますよ」といったことを教えてもらっています。そのうち1人は、大学の非常勤講師もしています。

2人の研究員に検証方法を相談するところから始まり、検証を進めています。

たとえば、洗濯洗剤の汚れ落ちテストなら、「汚れ」をいくつか作るんです。たんぱく質の皮脂汚れを実際に作ることはできないので「それなら卵の黄身がいい」とか、「泥汚れならこういう土が使えるよ」とか、そういった情報を研究員に教えてもらっています。

あとは、試験的に有効なサンプルのサイズとか汚れの量をアドバイスしてもらい、一緒に実験を進めていきます。洗濯機で洗って汚れが落ちたら、色差計で汚れの落ち具合を数値化します。客観的な評価をするうえで、数値的なものは必要ですからね。

取り上げる「汚れ」は、読者でもある主婦にとってリアルに感じてもらえるものを大切にしています。たとえば、「子どもがいる人なら泥汚れとか気になるんじゃないか。だったら、検証方法に泥汚れは入れなきゃ」といった具合です。

ラボは、社内のいろんな雑誌からのテストを引き受けているといった感じですか?

長:はい、そうです。

『LDK the Beauty』だったら口紅の皮脂による落ちやすさの検証とか、『MONOQLO』なら防水ジャケットの性能の検証などをやっていましたね。検証する商品が違うと、検証方法も全然違います。

ラボは以前からからあったんですか?

長:今年の8月に立ち上げました。

これまでの検証は、外部の試験機関に依頼していたのですが、1製品につき1万円かかると言われたこともあり、それをいくつものジャンルでやるとなるとさすがに無理で、断念せざるを得ないこともありました。ラボができたので、費用のことを考えずに検証できるようになりましたね。また検証の期間的に融通がきくようになりました。

それに、洗剤などのテストで使う汚れについても、外部の試験機関にお願いすると、JIS規格などの兼ね合いがあって「この洗剤の汚れの落ち具合の検証は、○○の汚れでやるもの。それでしかできません」と言われてしまうこともありました。

社内のラボの研究員は、私たちの企画意図を汲み取り、検証方法や汚れの作り方も実用に沿った形で実施して、なおかつ公平な検証になるよう、折衷案を出してくれるんです。紙面で見せるには、ビジュアル化することが必要ということもわかっていて、「食紅で色をつければ変化を表現しやすいよ」という感じで一緒に作ってくれています。ラボの存在が雑誌に厚みを持たせていますね。


リサーチからテスト、ランキングづけ、執筆までを3週間半で行う

『LDK』を1冊作るには、どれぐらいの時間がかかるんですか?

長:3週間半ぐらいですね。

最初の1週間は、ユーザーがどういうところに悩んでいたり、気になっていたりするのかをリサーチします。たとえばホットプレートなら、主婦の方に取材して、使う頻度やシーンなどを聞くのですが、「持っているが、あまり使わない」という声があると、「どうして?」とさらに詳しく聞いていきます。

「洗ったり、収納したりするのが面倒」とか、「温まりにくい」といった声を聞いて、「じゃあ、洗いやすくて収納もしやすい、温まりやすいものを探しましょう」という具合に切り口を決めていきます。ラボへの検証方法の相談もこのタイミングでしますね。

次の週は実際に検証を進めます。ホットプレートなら、主婦の方から集めた声をもとに「温まりにくいという声があるから、製品の熱の広がり度合いを検証しますよ」ということで、ラボの研究員が熱ムラや立ち上がりのスピードを検証します。あとは、料理研究家の方に実際に調理していただき、どの製品で作ったものが美味しいかみてもらったり。また、主婦のモニターさんに製品を使っていただき、お手入れ方法や収納のしやすさをチェックしてもらったりもします。

ひとつのジャンルにつき、ラボ・その道の専門家・主婦の三者で検証しています。最終的には各製品にA・B・Cで評価をつけ、ランキングを出していきます。

最後の1週間で紙面のラフを描いたり、撮影したりして、最後に執筆と構成をするという流れです。

フットワークが軽い! 短期間でいろんなことをやるんですね。

ランキングをつけたり、結果をまとめたりするのは大変だと思います。『LDK』はうまくまとめられていますよね。評価のつけ方に困ることはありませんか?

長:ランキングづけはテストが終わってから最後にしますが、やはり1日かかります。一度出したランキングに対して、これでいいのか悩みますね。各製品のいろんな指標の総合点でランキングをつけていくのですが、実際にテストを担当した編集スタッフに「これ、本当に良かった?」って尋ねることもあります。すると、「いや、実は...モニターさんの反応的には○○よりも△△なんですよね」とか迷いのある反応が返ってくることも。

単純に点数を合計してランキングづけするのではなく、読者が重視しているポイントについては少し配点を高くして、誌面で説明を入れます。それでもスパッと決まらない場合は、2位や3位の製品も大きめに紹介して、「こういう人には、こちらの製品がおすすめですよ」って紹介したりします。

また、価格も大切なので、「この安さでこの性能は優秀ですよ」という出し方もあります。たとえば、日焼け止めなら、「焼けにくさの面では、テストした製品のなかで突出していないけれど、価格面ではとてもいいよ」という感じですね。「どこをポイントに選んだらいいの」と迷う読者もいると思うので、そこを解消してあげるのも大切です。

ビジネスと『LDK』のスタンスを両立させる難しさ

誌上で製品テストをするといえば、古くは『暮らしの手帖』が始めたと思うんですが、意識していらっしゃいますか?

長:創刊時の編集長は『暮らしの手帖』のような雑誌を作りたいと思っていたようです。『LDK』の立ち上げの時に「バックナンバーを全部買って」と言われました。『暮らしの手帖』に、トースターの検証でパンを1000枚焼いたという記事があって、編集長が「それをやってほしい」って言ったんです。「これだけ検証しました」というのを、やりたかったみたいですね。

御社の雑誌は、どれも時代に合わせた見せ方をしているように感じますね。『LDK』を出し続けてきたなかで、読者以外に反響はありますか?

長:最近、「『LDK』で"ベストバイ"に選ばれました」という『LDKベストバイマーク』をメーカーさんにお売りするという、認証ビジネスを積極的に展開しています。

そういうビジネス展開は当初から見越していたのでしょうか?

長:いえ、ここ1、2年ぐらいですね。最近になってメーカーさんの方からそういうお話があり、「こういうところにもビジネスチャンスがあるんじゃないか、もうちょっと展開してみようか」みたいな感じです。

こういう流れって、雑誌が浸透してきた証なのかもしれませんね。ユーザーさんが店頭で迷ったときに、ベストバイのマークが商品を選ぶ目印になってほしいですね。

メーカーから圧力がかかったことはありますか?

長:よく聞かれるのですが、意外とないですね。メーカーさんから「どういう検証しているんですか?」と尋ねられたりはします。こちらも、答えられる範囲でお答えしていますね。

メーカーさんから企画の持ち込みなどは、たまにあるのですが、お断りしています。あくまで「みんなが選んだ」というスタンスですから。弊社の広告部の人間は、ランキングが出てからでないと、ベストバイマークをメーカーさんに売り込みに行くことができないので、やりづらいと思いますよ(笑)。

広告会社が間に入ったりはしないんですか?

長:それはあります。「ベストに選ばれた商品をプロモーションするのに協力してもらえませんか?」というオファーがあったりしますね。現在、具体的に進めているということは、まだありませんが。

これまで築き上げてきた第三者的な立ち位置を大切にしなければならないと考えています。もちろん、雑誌の売り上げプラスアルファをいかに取るか、というのも取り組まなければならないんですが、やはり慎重に検討する必要はあると思っています。


『LDK』をはじめとするレビュー雑誌のコンテンツを集約する『360.life』

では、『LDK』の長さんのお話を踏まえて、次にWebメディア『360.life(サンロクマルドットライフ)』の冨田岳さんのお話を伺いたいと思います。冨田さん、よろしくお願いします。

冨田:よろしくお願いします。

まずは、『360.life』がどんなWebメディアなのか、教えてください。

冨田:『360.life』は、『LDK』『LDK the Beauty』『MONOQLO』『家電批評』など、晋遊舎の雑誌メディアコンテンツが集まる場所として作りました。ローンチしたのは2016年10月です。

弊社の雑誌は、「広告なしのガチンコテスト」という共通したコンセプトがあり、Webでもそのコンセプトを変えていない点が特徴です。雑誌はガチなのにWebでは広告を取っているということになると、雑誌の信頼も失うことになってしまいますよね。ですので、「消費者目線でのモノ選びを本気でやる」というスタンスをWebの世界でも貫いていく、チャレンジだと考えています。

サイト運営は何名で行っているのですか?

冨田:外部にお願いしているライターさんはいますが、社内の編集者は現在4人です。みんな、もとは雑誌の編集部にいました。私は『家電批評』で6、7年編集をしたあと、2017年1月から『360.life』を担当しています。

一日に公開する記事数は、平均で大体10本、多いときは15~20本です。Webメディアのなかではさほど大量生産系ではないと思います。

読者層としては、30、40代がボリュームゾーンで、3分の2は25~44歳といったところでしょうか。10代は10%程度の構成比になっています。

『360.life』は弊社の女性誌も男性誌もすべて扱っていて、読者層は男性と女性が大体半々、幅広い年齢層の方に読んでもらっています。珍しいことだと思いますよ。

Webメディアに載せる記事はどのように作成しているのですか?

冨田:雑誌に掲載した記事をベースにして作成しています。雑誌と評価が変わらないようにすることをかなり意識していて、「『LDK』であの製品は良いって言っていたけど、『360.life』ではイマイチって評価している」ということにならないようにしています。テストの結果は雑誌に準拠し、場合によっては写真やテキストを加えてサイトに上げていくというのが、基本的な制作スキームです。

読者も、特性も、雑誌と異なるWebの強みを活かす

雑誌と全く同じというわけではないんですね。

冨田:雑誌とWebではお客様が全然違う。反応も、読者それぞれのリテラシーも、年齢も違います。女性読者が多い『LDK』の記事を掲載するにしても、テストの結果は雑誌と同じですが、『360.life』は男性も見ることを考慮して、表現や見せ方はカスタマイズしています。

『360.life』に『LDK』の記事を載せるとしても、見てくださる方は雑誌の『LDK』自体を読んでいる人とは限りません。『LDK』の誌面なら、「読者は『LDK』のことを知っていて、テストや雑誌のブランドに魅力を感じて読んでくれている」という前提のもとで記事を作っているところがあるので、雑誌ではいろんなことが省略されています。

たとえば、『LDK』で洗剤のテスト記事を書くなら、「読者はすでにいくつかの洗剤のブランドを知っているし、特徴もわかっているうえで、どこがいいのか知りたがっている」ということを念頭に記事を書くので、読者が知っていると思われることをわざわざ書かないこともある。でも、『360.life』は弊社の雑誌を知らない、あるいは雑誌を読む習慣そのものがない方にも見ていただくので、本当に基本の「き」から、老若男女、誰にでもわかるように書かなくてはならない。そこが雑誌とWebの大きな違いです。

また、商品発売のタイミングに合わせた記事公開も、雑誌では難しいですがWebなら対応ができます。たとえば、目玉の新製品の発売日当日に、その製品の専門家など有識者を呼んで、テストとレビューを行うということを始めています。スピードを活かしたことを計画的に組み込むようにしていて、そういうのはやはり反響も大きいですね。

究極は一人ひとりのユーザーのためのベストを勧めること

Web媒体を始めたことで、読者のリーチが広がっているという実感はありますか?

冨田:リーチを広げたり、コンテンツとしての販路を広げたりするのも目的ではあるのですが、「ユーザーに合ったベスト」を提供することが『360.life』のコンセプトです。「万人におすすめできる最高の一品」を提示するのが、『LDK』での"ベストバイ"だと思うのですが、実際は、ユーザーというのはワガママなもので、1位になっている商品に対して「私はそれ買わない」ということが頻繁に起きます。

メールなどでユーザーさんからの反応をいただくのですが、そこで出てくる声というのが「私に合うベストを紹介してほしい」というもの。そうしたニーズに応えるには、普遍的な「雑誌」という媒体よりも、流動的に作れる「Web」のほうが向いているのかなと思いますね。

一人ひとりのユーザーに応じて、ということですね。

冨田:はい。究極的なユーザー目線というのは、「一人ひとりのユーザー目線」ということ。例えば『LDK』の場合、ユーザー目線といっても今はまだ主婦というカテゴライズしかありませんが、それがさらにパーソナライズされて、対一人ひとりの目線に立つことが実現できるサイトになれば、モノ選びの場所としては最強。そこを目指しています。

今年9月に、スマートニュースさんから「チャンネルプラス賞」という賞をいただきました。

アプリ『SmartNews』のなかで『360.life』のチャンネルがあって、そこに33万人ぐらい登録していただいています。もともと『360.life』が持っていたペルソナとかユーザー層が『SmartNews』とよく似ていて、そうしたことも多くの方にチャンネル登録していただけた要因かなと思います。本当にうれしいですね。


Webをやっていて難しいと感じる部分はありますか?

冨田:記事をたくさん読んでもらうことと、媒体のブランドを周知させることがイコールではないという点に、Webの難しさを感じます。『360.life』の記事を読んでいただける人数は増えていますが、『360.life』の記事であることを理解して読んでいただけているかは別です。

プラットフォームの上に雑誌やWebなどのメディアがあるという状態ゆえに起きる問題なのですが、そこが悩ましいところで、ユーザー目線という視点で考えると、必ずしもメディアである必要はないんです。誰かが何かを買いたい場合、買って後悔しないための情報を出す場にさえなれば、雑誌やWebのメディアでなくても、アプリでも他のサービスでも、情報提供の場はどんな形でもいいと考えています。記事をたくさん読んでもらうだけでなく、今後は『360.life』を知ってもらうことにも力を入れなければと思います。最終的にはモノ選びのコンシェルジュになりたいですね。

ユーザーの消費行動に不可欠な存在になりたい

それでは、おふたりそれぞれで、今後の課題や、やってみたいことをお教えください。

長:女性誌には巨大な競合誌がたくさんあるなか、『LDK』は徐々に認知度を上げ、部数も増やしています。安定した数字が見込めるのは、固定ファンの方がいらっしゃるからだと考えています。一方で、『LDK』は特集によって、数字が上下することがあり、固定ファン以外の方も「表紙を見て、気になったら買う」というケースがあるのでしょう。女性誌で一番になれるよう、ジャンルを増やしたいし、チャレンジもしていきたいですね。

冨田:モノを買うときに、我々のサイトに立ち寄って相談してもらえるようなコンシェルジュを目指したいですね。買う場所は、アマゾンでも量販店でもどこでもいいんです。ユーザーがモノやサービスを選んだり、生活で変化が起こったりするときには必ず立ち寄ってもらい、消費行動にいたる前のハブのような存在になれればと思います。

本日はありがとうございました。


(了)



■晋遊舎 雑誌『月刊LDK』編集長 長 恵理子さん

2009年、晋遊舎に入社。『家電批評』を経て、2018年『LDK』編集長に就任。

■晋遊舎 Webメディア『360.life』編集長 冨田 岳さん

2011年、晋遊舎に入社。『家電批評』を経て、2018年から『360.life』編集長に就任。

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