「スマホ世代の人々に、良質な情報を届けるためのマーケティング戦略」ユーザー満足度の高い「SmartNews」アプリの責任者! スマートニュース 株式会社 西口 一希さん

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「スマホ世代の人々に、良質な情報を届けるためのマーケティング戦略」ユーザー満足度の高い「SmartNews」アプリの責任者! スマートニュース 株式会社 西口 一希さん

スマートニュース 株式会社
執行役員日米マーケティング責任者 西口 一希氏

有名モバイルニュースアプリのひとつ「SmartNews」。たくさんあるニュースアプリのなかでも、ユーザー満足度が高いといわれる同アプリの日本と米国のマーケティング責任者の西口さん。これまでのキャリアのなかで培ったマーケティング手法を駆使して認知度向上とダウンロード数を増やしてきた発想とその手腕に迫ります。

転職の決め手はミッションへの共感

―P&Gやロート製薬、ロクシタンなどでマーケッターとしてキャリアを築き上げてこられた西口さんですが、スマートニュース に入社された動機は何だったのでしょうか?

一番は「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というミッションに共感したことです。マスマーケティングやメディアの世界にいて感じたのは、インターネットの登場とともに誰もがデジタルで平等に正しい情報を手にできるようになると思っていたのですが、意外とそうではなかったということです。

インターネットの普及とともに新聞や雑誌などの紙媒体が若い世代に読まれなくなって、情報を選べるようになり、知らない人はまったく知らない。情報が届かなくなったのではないかという問題意識を持つようになりました。ニュースに触れるのがテレビだけになってしまったのだと感じますね。これは日本だけでなく、世界的な傾向です。

世界はスマホの中に入りつつあるという実感を得るなかで、「スマホを通じて生活に役立つ正しい情報を発信する」というミッションに興味を覚えました。

以前、弊社創業者の鈴木健が書いた『なめらかな社会とその敵』をたまたま読んでいて、その鈴木から「世界を変える為に日本と米国で同時にマーケティングに取り組みたい」と声をかけていただきました。哲学的な本だったので、そのような人がビジネスをやっていることに驚きつつ、「本気で投資するならお手伝いします」と言って入社しました。

もうひとつは、ベンチャーにかかわってみたいという気持ちもありました。自分でコンサル業を5、6年並行してやっているのですが、外から見て「デジタルベンチャーってどんどん世の中を変えてきたけれど、もっとうまく経営できるのにな」と思うところがあったんです。そういう世界からお声がかかったため、行ってみようと思いました。今まで大手の上場会社やグローバル企業でやってきた、マーケティングや経営の手法を試してみたかったというのも理由のひとつです。

テック系の方々の中ではマーケティングは不必要みたいに言われていて、プロダクトさえよければ自然と伸びていくだろうという考えがありました。その考えは神話に過ぎず、もうそういう時代ではないと思っていました。スマホアプリが登場した当初はアプリの数も少なかったので、新しいものが出てくるとみんなこぞって使っていましたが、今では1日に何千、何万というアプリが出てきます。そうなると、完全にレッドオーシャン状態、埋もれてしまうのですよ。それなら当然、マーケティングの思考でやらないと、いいものを作っても認知すらされない。この業界にマーケティングは必要だと、ずっと思っていました。

あと、ロート製薬時代に「肌ラボ」というスキンケア商品を日本で成長させて、アジア導入に成功したけれど、米国進出はうまくいかなかったのです。そのときのリベンジを果たすなら、スマートニュース の米国事業機会が最後のチャンスかもしれないと思ったものです。

もちろん、転職については多少は悩みました。このまま"旧世界"(ネットではない上場企業や外資系の日本法人の世界)の中にいて引退していくというのもアリかな...このままネットの"新世界"のことはわかったフリをしていこうかな...という気持ちもありました。でも、どうも気持ち悪い。50歳でデジタルベンチャーに飛び込んで失敗したら大笑いですよね。実際、スマートニュース に転職したときは、知り合いの経営者やマーケッターたちの反応は生暖かい感じでした。応援すると言いつつ「なんで、無茶すんの?」「大丈夫か?」みたいな(笑)。

スマートニュース 株式会社 西口 一希 氏

マーケティングの重要性を社内に認知させる

―2017年に入社されたわけですが、いちばん初めに着手したのはどんなことだったのですか?

テック系の人たちは、ユーザーの行動計測はすごくやるんです。いつログインして、どのページの何をどのぐらいの集中力で読み、いつログアウトしたかといった分析に関してはとても長けています。しかし、心理面の分析は皆無といっていい状態でした。

ユーザーA、Bがいるとして、行動の違いしか見れていない。Aは長く閲覧してくれた、Bはすぐに離脱してしまったというふうに状況は異なるのに、「Aの人が増えてくれたらいいな」と思っているだけで、「なぜBはすぐに離脱してしまったのか」といった心理的な部分は追求しなかったんです。ユーザーそれぞれがどう感じているのか、どう思っているのかを追求しない。だから、まずはそうした心理面が行動を左右するということを社内で共通認識として浸透させたかったんです。

さらに、もっと基本的なところではブランド認知を重視していなかったんですよね。いくらいいものを作っても、認知度が低いと意味がない。知られなければ使われないし、使われないと満足もない。認知にマーケティング投資などしなくても自然に評判が広がっていくというのは神話なんです。

実は、それまで認知とか使用形態を競合と比べたことがなかったんですよ。調査したデータを見ると、「SmartNews」というアプリに対する満足度は非常に高かった。だから、プロダクト自体はいいものなんです。ただ、そもそも認知度が低いだけ。

認知がないのにオンラインの広告をやっても、オンラインは瞬間的なのでダウンロードにつながらないんです。先に認知をしてもらって、アプリに「これは便利だ」というベネフィットを感じていただき、実際にダウンロードするところまでもっていくのは、オンラインだけでは限界があります。そのあたりをデータ化し、考え方自体を組織全体、さらに投資家の皆さんと共有しました。テレビ広告は使わなくてはいけないと思っていましたが、私が入社した当初はまだテック系の人たちに、マーケティング=ムダな金というバイアスがあり、すごく懐疑的に見られていましたね。投資家の方にも、「ダメだったら、データですぐ分かるから、すぐ止めたらいいよ」と励ましのような、そうでないようなコメントも貰いましたよ。

―そうした状況をどのように乗り越えて、予算をつけてもらったのでしょうか?

入社するとき、鈴木に「予算は取るし、3打席は立ってほしい」と言われました。幸い、第1打席で当たったのでよかったですね。

―第1打席というのがテレビCMですね。

そうです。まず、コンセプトスクリーニングリサーチというのをやりました。「SmartNews」を訴求するとしたら、どの要素を伝えるのがよいかというのを30パターンぐらい作り、どれに反応するかをざっと見たんです。そうすると、「このあたりがよさそう」というのが見えてきたので、それを広告とオンラインで連動して訴求していきました。

私自身、アプリのマーケティングは初めてで手探り状態だったので、何本か広告を作りました。オンライン広告のいいところって、何種類も作って当たりを見つけるという手法ができるところですね。その方法をマスのほうにも持ち込んで、テレビのCMも6本作りました。同じ敷地内にスタジオを3つ作って、その間を移動しながら1日6本作るというメチャクチャなスケジュールでした(笑)。

"幕の内弁当"では売れない

―出稿を始めてどれぐらいのタイミングで反応が見えるようになったのですか?

反応は、リアルタイムでわかります。完全な数値化は1日。統計的に確からしいと思うのは1週間です。アプリの場合、広告を流した時点からダウンロード数に効果があるかどうかすぐ見えるんです。おもしろいことに、テレビCMを流してその視聴率が高かったとしても、必ずしもダウンロード数につながりません。だから、アプリの広告においては、視聴率がそのまま効果測定の指標になるわけではないんです。視聴態度や集中力、テレビのコンテンツのあり方によって、興味の向く方向も違う。あまり集中してしまうような内容の番組だと、どれだけ視聴率があってもテレビCMは響かないんです。

私は「Googleトレンド」を参考指標に使っているのですが、広告が流れた直後に「Googleトレンド」をチェックすると、響いたものはすぐにトレンドに上がってくるんです。アプリだけじゃなくて、一般の小売業でも同じです。今の時代って、興味を持ったらまず検索する。検索してからじゃないと、購買行動に移らないんです。ちなみに「Googleトレンド」とダウンロード数には相関性を見出すことができます。一般向けの消費財のCMでも、「Google トレンド」に反応のないような場合は効果はないと思いますよ。

広告を作ってみておもしろかったのは、テレビCM6本の中で、コンセプトの評価スコアが高い要素を訴求したCMは反応がイマイチだったこと。コンセプトスコアが真ん中ぐらいのもので作ったCMが一番いい反応が得られました。

下馬評ではあまりよくなかった「無料で英語ニュースが読める」というCMが、やってみたらダウンロード数が伸びました。きっかけは私の妻が「SmartNews」の英語版を使って、英語ニュースを見ていたこと。アプリの設定で日本語版と英語版を切り替えられるんです。ユーザーにはそもそも切り替えられることを知らない人もいました。結構ニッチな話で、そもそも英語でニュースを見る人なんて少ない。でも、英語のニュースが読めることをきっかけに「SmartNews」を使ってもらえればと思ったんです。

そこで「英語のチャンネルをやりたい」と提案すると社内も協力的で、海外メディアを説得して日本版の「SmartNews」に直接入れてもいいという許諾を取ってくれました。1か月で「World News チャンネル」っていうのを作ったんですが、正直なところ「期待値が上がっちゃって失敗したらどうしよう」って思っていました。

「World News チャンネル」を前面に出して「英語のニュースが無料で読める」というCMを作り、そのなかで「他にもいろいろなコンテンツがあります」というのも伝えることができました。このCMでダウンロード数を伸ばすことができましたが、ずっとこのチャンネルを見ている人は、実は少ないんですよ。他のチャンネルも幅広く見ている人が多い。結局プロダクトがよくて、コンテンツが充実しているので「SmartNews」からは離れて行かないんです。

TVCMで、「こんなにコンテンツが色々あって充実している」って訴えても、誰も来ないんです。"幕の内弁当"って売りにくいんですよ。焼肉弁当とか、唐揚げ弁当のほうが、訴求ポイントがはっきりしているから売りやすい。「朝一番でニュースがチェックできますよ」っていうのが、ニュースアプリの一般的なベネフィットですが、それは「SmartNews」じゃなくても読めるとみなさんわかっていますよね。だから、「英語のニュースが無料で読める」というのは圧倒的に訴求力があったんだと思います。

テレビとオンラインの統合

―広告の効率の良し悪しを把握するために、広告の打ち方の部分で工夫している点ってあるんでしょうか?

テレビCMは、最初は全日型で出稿して、地方や局、時間帯、番組の効率をすべて見ます。どこが効率いいかわかってくるので、毎週最適化させていきました。今はどこで打つのが効率よいかわかっている状態ですね。視聴率は関係ありません。

あと、番組ごとのコスト効率もわかりますね。今、テレビ広告の値付けって局の言い値で、ふわっとしている。だから、クライアント側がデータを持つことで、適正価格が出てくるんじゃないかと思います。CMを打ちたい側の希望って、人気の局とか番組に集中するじゃないですか。みんな、よくわからないから特定の部分に集まるだけなんです。でも、視聴者が番組内容に集中するほど、広告は響かなくなってしまうんです。

視聴率は悪いけど、広告を打つのに効果的な番組があるなら、そういうところの価格を上げて、広告が響きにくいところは下げればいいと思います。デジタルを駆使する会社が増えることで、テレビ広告の価格は適正になるのではないでしょうか。

―テレビ離れが言われるようになって久しいですが、テレビCMの使い方はまだまだありますよね。

テレビとオンラインを統合的に結び付けることで認知が上がり、ダウンロード数も増えましたね。あと、テレビCMを打つと、従業員もご家族や友人もポジティブに反応するんですよ。「ベンチャーとかいう、よくわかんないところで働いて...」という認識から、「ああ、テレビでCMやってるあそこか」って変わる。それから、お客様の中での信頼度も上がります。ロクシタンにいたときも、テレビCMを打つと店舗の販売員の応募が増えたりしました。テレビCMはちゃんとやると、いろんな部分がよくなるんです。

"旧リアル"と"新リアル"のパラレルワールド

―西口さんが入社してから今までの間で、ニュースアプリというジャンルを取り巻く環境で「ここは変わってきたな」とか「難しくなってきたな」と感じられるところはありますか?

世の中は完全に2つの世界に分かれつつあると思っています。私はパラレルワールドと呼んでいるのですが、スマホを1日に7、8時間も使う若い子たちの"新リアル"と、スマホは連絡手段に過ぎないような40代以上の"旧リアル"という2つの世界。"新リアル"の子たちはスマホの中に住み始めているんです。渋谷の交差点にいる17、8歳の若者と、40代のサラリーマンは物理的には同じ空間にいますが、見えている世界、住んでいる世界は違うと思っています。

若い子はずっとスマホで誰かとつながっていて、そこにつながっている友だちや情報を通して世の中をとらえている。一方、上の世代の人たちにとって、スマホは連絡手段でしかありません。2つの世代が共存するなかで、スマホの世界はどんどん拡大している。私たちデジタルビジネスの人間は、やっぱりスマホに住んでいる人々ということになります。

スマホの世界の怖いところは「フィルターバブル」といって、情報のルートが偏向するのでバイアスがかかっていて、世の中の正しいニュースを知らない人が多いこと。友だちの話とかフェイクニュースを鵜呑みにする人が非常に多いんです。そういう意味で、スマートニュースがやろうとしている「スマホを通じて生活に役立つ正しい情報を発信する」ことの意義は、とても大きいと実感しています。

あと、おもしろいのはベンチャーの経営者って海外の人も含めて、純粋に「新しくておもしろいものを作りたい」という思いだけでやっています。彼らは"旧リアル"を再定義しようとしているんです。一般人がタクシーのように他人を送迎するUberもそうですね。「不便だからこうなったらいいよね」というもので、昔あったものをゼロベースで再形成したらこんなふうになった、という感じです。「メルカリ」もそうです。「SmartNews」も、「いろんな情報が手元にあったら便利だね」という思いを突き詰めたもの。"旧リアル"をやっつけようという気はさらさらありません。結果として、デジタルで"旧リアル"世界の全てが再定義されると思います。

"旧リアル"には時間・感情・距離の面でフリクション(摩擦)がありますが、"新リアル"はこれをゼロにしてしまう。スマホの世界はどんどんフリクションをゼロにする方向で動いていて、世の中を再定義しようとしているんです。そんななかで、"旧リアル"のビジネスをもう一度、ゼロベースで見直す必要があるのではないかと思います。"旧リアル"で経営に携わっている人は、頭ではそのことをわかっていても、"旧リアル"の世界にいると再定義する意味がわからないのかもしれません。

たとえば、"新リアル"にいる人は「今日、会議に間に合わないから『Googleハングアウト』で参加しよう」もしくは「Slackのビデオで」となりますが、"旧リアル"の人だと「今日は会議だから、朝早く出社しなくちゃ」「タクシーも予約しておかなきゃ」「資料は前日に印刷しておくように!」となる。今は、たいていのことは、もうネットを利用してできてしまう。フリクションゼロなんです。それを使いこなせる人と、そうじゃない人とでは発想回路がまったく違います。

物を買いに行くことひとつとっても、"新リアル"側の人は「どうして、わざわざ買いに行かなきゃならないの?」となってしまう。百貨店やショッピングモールがダメになったわけではなく、そういう場所に行くワクワク感を経験する前に、スマホで物が買えることを知ってしまっているので、そういう経験が必要ない世代なんです。

スマートニュース 株式会社 西口 一希 氏

2つの世界をクーポンがつなぐ

―そんな分断された世界の中では、マーケティングも難しいですね。何か工夫されている点はありますか?

スマートニュースで考えると、"旧リアル"と"新リアル"の接点を作ることを意識しています。"旧リアル"の世界がなくなればいいとは思っていません。新聞や雑誌、本は媒体が持っている深い情報を広く与えられるし、時間をかけて理解を深めることができるという強みがある。そこで、スマートニュースでは、各コンテンツのパブリッシャーさんに、"新リアル"に住む方々をつなぐ貢献をしたいと考えています。

スマホの中でしか生きることができない人が増えているなかで、そういう人々に情報を選択肢として与えて、最終的には雑誌などの媒体もちゃんと買って読むようになればいいと思っています。「そんなものいらない」という人も、何の情報もないよりもあったほうがいい。だから、"旧リアル"と"新リアル"の接点を作ることはとても重要なことなんです。

先ほどのCMを打ったのが私の第1打席で、第2打席ではクーポンをやりました。マクドナルドやガストといったチェーン店とユーザーとの接点を作ったんです。スマホの世界に住んでいる人って、もはや街の風景なんて見ていません。自分のいる場所の近くに何があるか知らない。近所を検索して、とりあえず食べられるものを食べる。特定のお店を目指していくこともありません。さらに、何を食べようか悩むのもめんどくさいという世代です。何を食べようかって悩むことは、それを楽しいと思えればベネフィットなんですが、一方フリクションでもあるんです。そんなふうに、"新リアル"と"旧リアル"をつなげるということを意識しています。だから、商品を売ろうとはしていません。あくまでも動線を作っているということです。

クーポンは入社前から、ニュースアプリがやるべきだと思っていました。食べ物を選ぶとき、クーポンは決定する際のひと押しになりますからね。財布にぎっしりクーポンが入っている人も多いでしょう? スマホ世代もクーポンは使っていますが、彼らのスマホを見せてもらうと、いろんなチェーン店のアプリを一つひとつ入れていて、それを開いていっていいものがあればそれを食べるという感じで見ているんです。それなら、これをひとつのアプリで見せればいいじゃないかと思って、「SmartNews」に組み込みました。

クーポンをきっかけに、ニュースも見てもらえるようになりますよね。もしかすると、一日ニュースをひとつも見ていないような人でも、「何か食べるためにクーポンを見よう」ってなったときにニュースも目にすれば、弊社のミッションにもつながります。それに、クーポンという存在は、新しいお客さんにリーチしたい飲食店、簡単にランチを選びたいお客さん、アプリのユーザーを増やしたい弊社、この三者の誰にもイヤなことが起こらない。私自身は、この取り組みは近江商人の「三方よし」の実践だと思っています。

クーポンをやろうとなったとき、社内のプロダクトチームのメンバーも「これはいいね」とみんな納得してくれたこともあって、動きがすごく速かった。想定していた期間よりも1か月前倒しでできてしまって、慌てて広告制作に入ったぐらいです(笑)。

ローンチしたら、既存ユーザーさんはクーポンをいっぱい使ってくれたんですが、テレビCMはしばらく打たずにいました。そのあと、テレビCMを入れた途端にユーザー数がドーンと増えて...。やはり認知の問題ですね。いいものを作っても、認知がない状態では自然に広がるということはありませんでした。

もう、今は口コミとかバズは短期間の広がりであり、継続的に広がるということはありません。今は情報が多すぎますし、情報の消費スピードも早すぎます。よくない例えですが、西日本の豪雨や北海道の地震も全然解決していないけれど、"新リアル"の人たちから見ると、もう過去の話になってしまっている。これは社会の問題です。そもそもニュースを見ないということもありますが、情報の消費スピードがあまりにも短絡的になっている。"新リアル"の人たちをどうやってリアルに社会で起こっている現実につなぐかというのもスマートニュースのミッションだと思います。

そういう問題意識もあって、弊社では最近「スマートニュース メディア研究所」というのを立ち上げました。

クーポン導入でたくさんユーザーが来ましたが、気が付いたらクーポンじゃなくて、ニュースを見ている人が多い。英語のニュースチャンネルのときもそうでした。何かをきっかけに、ニュースを読むようになって、各媒体への興味につながればいいなと思います。

スマートニュース 株式会社 西口 一希 氏

重要なのはユーザー視点を持ち続けること

―では、第3打席は...?

それは秘密です!(笑)

第2打席のクーポンが効きすぎて...。千鳥さんのネタがおもしろくて、効率がかなりいいですね。

実はクーポンの話は私が入社する前から何度か出ていたらしいのですが、実際はうまく進まなかったようです。理由のひとつは、大手飲食チェーン企業さんとのネットワークがなかったこと。私にはそれが個人的にあったので、Facebookのメッセンジャー一本で、いろんな企業の方とつながることができ、話をまとめられた。実は2017年の入社直後には、各社のCMOから内諾を頂いていました。それを素晴らしいプロダクトチームがUI(ユーザーインターフェイス)、UX(ユーザーエクスペリエンス)に仕立てあげたんです。当時、エンジニアさんたちが「ものすごい、これやりたい」って頑張ってくれました。自分自身が欲しいと思えるモノ作りは、燃えますし、楽しいですよね。

クーポンを掲載するにあたって、営業はほとんどしていませんし、数を増やすことは考えていません。ホットペッパーさんなど、大量のクーポンを扱うサービスがありますからね。われわれはあくまで簡便に、ということです。それに、"新リアル"の人は厳選された選択肢の中で選びたいと思っています。大量の情報は必要ない。

ユーザーがどう感じ、何を望んでいるかを深掘りする。クーポンを導入して、売れているからどんどんブランドを増やそうというのは、作り手の発想でしかありません。独自性の高いものを作るから、プロダクトアウトであるがゆえに強いとは思いますが、その時点でユーザーの気持ちや何に焦点を当てるかが大切になってくるのではないでしょうか。

たとえば、日本のプロダクトって、いろんな機能を付けすぎて、なんだかわかんなくなってしまっているように思います。コネクテッドカーなんて、勝手にコールセンターにつなぐし、センサーもあるし、なんでもつないじゃいますよ〜という具合で結局よくわかんないことになっている。それがユーザーのインサイトと"つながってない"のです。完全にプロダクトアウトの発想です。日本のものづくりの強さは脈々と続いていますが、ユーザー起点にしなければいけないと思います。

結局、プロダクトアウト発想で作られたものは"幕の内弁当"なんです。50種類の具材が入った幕の内弁当と、最高のえび天の弁当、どちらを選ぶかといわれたら多くの人が後者を選ぶと思います。"食べたいものファースト"じゃなくて、"何が提供できるか"がスタートになってしまっている。スマートニュースはそうなっちゃいけない。打席を重ねていくうちにそうなりかねないので、今は「本当にそれをやってユーザーはハッピーなのか?」「誰がハッピーなのか?」「そんな人、実際にいるのか?」をよく考えています。

―最後に、今後の展望をお聞かせください。

アメリカで、テレビとオンラインを統合したマーケティングをスタートさせました。昨年までは、オンラインだけでもすごく成長していたのですが、やはり認知の限界があったので、現在はテレビCMも入れるという第2段階に入っています。アメリカは、日本以上にフィルターバブルや分断化といった問題が大きいので、スマートニュースの果たせる役割は大きいと考えています。

―アメリカでのビジネスは、西口さんの入社動機のひとつでもありますしね。本日はどうもありがとうございました。


スマートニュース株式会社 執行役員日米マーケティング責任者
西口 一希 (にしぐち かずき)

1990年大阪大学経済学部卒業後、P&G マーケティング本部に入社。ブランドマネージャー、マーケティングディレクターを経験。2006年ロート製薬に入社し、執行役員マーケティング本部長として「肌ラボ」「Obagi」「デオウ」「ロート目薬」等の60以上のブランドを統括。2015年ロクシタンジャポン代表取締役。 アジア人初のグローバル エグゼクティブ コミッティ メンバーを経て、ロクシタン外部取締役 戦略顧問。2018年現在、スマートニュース 執行役員 マーケティング担当(Senior Vice President of Marketing Japan and USA)および Strategy Partners 代表。

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