【 ラジオレコメンダー" やきそばかおる "の I love RADIO】〜 長寿番組パーソナリティのルールとしきたり 〜ABCラジオ『おはようパーソナリティ 道上洋三です』他

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ラジオ レコメンダー" やきそばかおる "の I love RADIO 第11回

「やきそばさんって、いつもラジオを聴いていて楽しそうだけど、何の仕事がメインなんですか?」とよく聞かれます。確かに、早朝から深夜まで、隙があればラジオを聴いているし、気がつけばラジオのことばかり考えています。もともと、ライターとして雑誌や単行本を作ったり、構成作家として音楽番組やバラエティ番組に参加したりしていました。

その後、radiko.jp、それも全国のラジオ番組を聴くことができるエリアフリーの開始(2014年)により、聴取するラジオの数が爆発的に増え、雑誌『BRUTUS』のラジオ特集(2014年)に関わったり、Webでラジオに関する記事を書き始めたのを皮切りに、ラジオについて執筆する仕事がメインになりました。今はラジオ局の手伝いをしたり、『TV Bros.』『ケトル』などの雑誌やradiko.jpのWebページなどで、たくさんのパーソナリティやラジオ関係者にインタビューしたり、番組を紹介したり、逆にラジオ番組にゲスト出演したり...の日々です。そのほか、連載7本、10月からはラジオのレギュラー番組1本が加わりました。

10月11日(木)には雑誌『別冊 TV Bros.』の「TBSラジオ全力特集 VOL.2」、『ケトル』の「オールナイトニッポンが大好き!特集」が同時に発売されました。企画、インタビュー、執筆などを担当させていただきました。いずれも"ラジオだらけ"の一冊です。手に取っていただけると幸いです。

いろいろなパーソナリティに取材を重ねるうちに、ご長寿番組の中にはパーソナリティや番組に、その人や番組ならではのユニークな"ルール"や、"しきたり"があることが分かってきました。その中から、いくつかを紹介します。


ABCラジオ『おはようパーソナリティ 道上洋三です』(月曜~金曜 6時30分~9時)は1977年スタート。昨年、40周年を記念した公開生放送が大阪・市立吹田サッカースタジアムで行われました。祝日の朝6時半スタートにもかかわらず、7000人を超えるファンが集結しました。

道上さんには、雑誌『ケトル』(VOL.28)の「いつでもどこでもラジオが大好き!特集」で2015年に取材させていただきました。朝の情報番組ということもあり、副調整室(スタジオのガラスを挟んだ向かい側の部屋。ディレクターほかスタッフが見守る)にはたくさんの朝刊が並べられ、モニターには音声は聞こえませんがテレビ番組が映っています。副調整室には、大勢のスタッフが出入りしていました。そんな中、我々のカメラマンはダンディな道上さんを、スタジオの大きなガラスの外から激写していました。ところが、しばらく経った時のこと。カメラマンが小声で私を呼びました。声の様子からして、明らかに焦っています。

「やきそばさん! 道上さんが消えました!」

「え!?」

カメラマンがレンズを取り替えようと道上さんから目を離した、ほんの数十秒の間に、道上さんがいなくなったというのです。私は離れたところにいたので気付かなかったのですが、確かにスタジオに道上さんの姿がありません。この"一大事"に、まわりを見渡すとスタッフは慌てることなく、アシスタント(当時)の吉田詩織さんもニコニコしています。

「ディレクターさん、道上さんはどこに?」

「あ、スタジオの奥のマットでストレッチしてます」

「えーー!?」

よ〜く見ると、床の上に置かれたマットレスで道上さんがストレッチをしていました。

(安心した...)

聞くところによると、隙間の時間を見つけて運動をしているそうで、スタジオには他にもバランスボールや握力を鍛える道具などが置いてありました。

道上さんの運動はこれだけではありません。毎朝、会社に着くとスタジオがある13階まで歩いて上がるそうです。

理由は、じっとしていると体が固まって声が出なくなるから。朝、体に血液が巡らないと上機嫌になれない。上機嫌にならないと自分の言葉が出てこないから。さらに、飲み屋を出た時に「もう一軒行こうか!」という時の上機嫌の状態を放送開始までに作るのがポイントだそうです。

そんな道上さんは、今年7月から髄膜腫治療のため54日間休養しましたが、9月には元気に復帰しました!

『大沢悠里のゆうゆうワイド 土曜日版』(TBSラジオ 土曜 15時〜17時)は、30年続いた『大沢悠里のゆうゆうワイド』の後継番組として、2017年春にスタート。

悠里さんには悠里さん流のラジオパーソナリティの極意があります。ファンの間では有名な話なのでご存知の方もいらっしゃると思いますが、改めておさらいをすると...

・自分の体験談よりも、初めは共有体験から話す。

人の気を引くために、何か変わった体験談を話したほうがよさそうな気もしますが、まずは、その日の天気の話など、ラジオを聴いている人と共有できる話をしたほうが、親近感がもてる。

・ゲストの名前を意図的に連呼する。

途中から聴き始めた人や、話の途中でゲストのことが気になった人のために、名前を発する回数を意図的に増やす。

・電話番号を読み上げる時は、一度で聞き取れなかった人のために「のちほど、もう一度言いますね」と言って、時間を少し置いて再度告げる。

・(昔は)本番前にゲストと一緒に食事をとっていた。

話したことを本番に生かすことができるから...ということでした。


"ゲストの名前を意図的に連呼する"に関しては、19年間続く人気番組『夏木ゆたかのホッと歌謡曲』(ラジオ日本 月曜〜金曜 15時〜17時50分)の夏木さんも同様の話をされていました。特に若手の演歌歌手がゲスト出演した時は、少しでも知名度が上がれば...との思いで、何度も名前を発することにしているとのことでした。微笑ましいのは、番組に出演したゲストとの2ショット写真。ゲストと夏木さんの満面の笑みに、番組の雰囲気の良さが伝わってきます。

そんな夏木さんの健康法は、ラジオ日本の最寄りの地下鉄の駅にある長い階段を上ること。さらに、駅の出口からラジオ日本までのおよそ10分ほどの距離を歩いている時の感覚で、その日の心の状態が良好か否かがわかるそうです。やはり、歩くことは大事!


『毒蝮三太夫のミュージックプレゼント』(TBSラジオ 金曜 14時〜14時22分『金曜たまむすび』内で放送)は放送開始50年目に突入。中継先に遊びに来た皆さんを笑いの渦に巻き込みます。以前、一度の放送で何度笑いが起こるかを数えたところ、67回にも上りました。ちなみに蝮さんは「ババア」「ジジイ」と呼んでも、「くそジジイ」「くそババア」とは呼ばないルールがあります。これはご本人曰く「ババア」「ジジイ」は事実だけど、「くそ」をつけると"悪口"になるからだそう。

中継が始まる前には、蝮さんよりも年上の人がいるかどうか確認します。蝮さんからみて"人生の先輩"にあたる人は必ず放送で紹介するためです。よく「人のことを"ジジイ"と呼んでいる俺が、一番ジジイだった」と笑い話にしている蝮さんですが、人生の先輩が遊びに来ていると嬉しそうで、ラジオを聴いていても伝わってきます。子どもを見つけた時も嬉しそうで「せっかくだから、大好きなおじいちゃんに、ラジオを通じて『おじいちゃん、いつもありがとう』と言ってみな」と促します。

放送はおよそ20分ですが、本番が終わると、蝮さんが集まったファンに向けて大サービスを開始します。サインや写真撮影を希望した人全員の要望にこたえるのはもちろん、ファンのみなさんの前でトークショーを繰り広げます。昭和を代表する名女優の若い頃のエピソードから、終戦直後の思い出話まで、話は尽きません。そんなアットホームな雰囲気なので、遊びに来る人の中には、どんなに遠くからでも詰めかける常連さんや、会社を休んで数十年ぶりに蝮さんに会いにきた...という人がいるのも頷けます。


そのほか、独自のルール(しきたり)がある番組を紹介します。


・投稿は本名で

放送開始55年を誇る民謡リクエスト番組『民謡で今日拝なびら』(RBCiラジオ 月曜〜金曜 16時〜16時54分)はラジオネームではなく、本名で投稿。FAXやメールではなく、ハガキでリクエストすることになっています。

25年にわたって放送されている小林克也さんの番組『FUNKY FRIDAY』(FM NACK5 金曜 9時〜17時55分)も本名で投稿するのがルール。克也さん曰く「人の心と心は、ラジオネームでは繋がらないんですよ。ラジオネームで恋をしないでしょ。本名を見ると、その人の歴史や親の気持ちだとか、わかるものがあるんです。番組ではできれば本名で。匿名希望の場合はそれに添いますからね」。克也さんは他の番組(他局の特別番組)に出演した時、ラジオネームが書かれてあっても本名を紹介してしまうので、投稿の際は注意が必要です...。

ちなみに、9時間の生放送のうち、私のおすすめは"9時間目"と呼ばれる17時台。リスナーから寄せられた投稿を、小林克也節でしっかりと読み上げていきます。テーマが「自分の名前の由来」だった時は、名前にまつわる素敵なエピソードが続々と寄せられていて、克也さん自身が涙ぐむ場面もありました。


・副調整室から放送

小林克也さんはワンマンDJスタイルで、9時間の生放送をスタジオではなく、副調整室からお届けしています。大阪・FM COCOLO『HIRO T'S AMUSIC MORNING』(月曜〜木曜 6時〜11時) のDJ、ヒロ寺平さんも副調整室から放送しています。

一度、朝から放送終了まで5時間にわたり、密着取材をさせていただきました。ヒロさんはDJ、ディレクター、ミキサーを一人でこなさないといけません。寄せられたリクエストを確認するスタッフと、CDを探すスタッフの計3人で放送しています。ヒロさんはFM802のDJ時代から29年にわたり、このスタイルを貫いています。臨場感を大切にしたいという思いから、キューシート(タイムスケジュール)は一部のコーナー以外は白紙。リクエストの選曲はその日の天気や話題など、"流れ"によって決めていきます。番組で紹介する記事はミキサー台にズラリと並べてあり、ヒロさんが紹介する順番やタイミングを一人で決めます。朝5時半、黙々と放送の準備をするヒロさん。放送開始後は頭をフル回転させて手と口を動かします。ヒロさんの表情に余裕が出始めたのは10時を過ぎた頃でした。

ちなみに、ヒロさんのもとには「リクエストを採用する基準は?」という質問がよく届くそうで、放送では「"流れ"を意識して選曲している...としか言いようがない。とにかく、"流れ"なんです」と答えていました。人気アーティストが新曲を発売すると、その曲をかけたくなるものですが、"流れ"を大事にするあまり、敢えて昔の曲をピックアップすることもあります。そこがまたヒロさんらしいところです。

FM COCOLO ヒロ寺平
・リスナープレゼントはリスナーが用意

放送開始29年を誇る『青春ラジメニア』(ラジオ関西 土曜 19時〜22時)は新旧のアニメ・特撮・ゲーム・映画音楽のリクエスト番組です。受付はハガキとFAXのみ。毎年開催される「ラジメニア バスツアー」はリスナーの番組愛に溢れていて、バスにはリスナーが描いたパーソナリティお二人(岩崎和夫さん&南かおりさん)の似顔絵が飾られるほか、大宴会で開催される抽選会ではリスナーが用意した豪華賞品がズラリと並びます。


・5分だけ会えるアナウンサー

2018年10月5日(金)で放送4000回を迎えた『平成ラヂオバラエティ ごぜん様さま』(RCCラジオ 月曜〜金曜 9時〜11時30分)。メインパーソナリティを務める横山雄二アナウンサーのトークが大人気で、爆笑問題の太田光さんもハマっているほど。radiko.jpで全国の人に聴かれている人気番組です。この日の放送は通常の放送時間(2時間半)を大幅に拡大して、5時間半の生放送を決行。4000回記念のステッカーを、西日本豪雨災害の被害に見舞われたJR沿線で配布したところ、予想をはるかに超える人数のリスナーが集まり、途中で完配するほどでした。

さて、そんな『ごぜん様さま』では、横山さんが出演する火曜〜木曜に"横山詣(よこやまもうで)"が流行しています。横山さんは9時55分から10時まで、玄関前で休憩します。その話を放送でしたところ、横山さんファンのリスナーがその5分を狙って、横山さんに会いにくるようになりました。これを"横山詣"と呼んでいます。横山さんはトイレに行ってから玄関を出るため、横山さんに会えるのは実質3分半くらいしかありません。遠くから新幹線で駆けつける人や、広島に出張に来た傍ら、横山詣をする人もいます。

4000回記念スペシャルの日は、両手に大きな袋を抱えた男性が横山詣にやってきました。私はこの日、番組の様子を取材していたので、横山詣の様子を目撃しました。男性は満面の笑みでプレゼントを渡し、ほんの3分ほど"横山様"とお話をすると「では、広島を観光して帰ります!」と告げて、広島の街に消えていきました。今や、RCCラジオの前室は、たくさんのリスナーから贈られたプレゼントが溢れています。まさに、"会いに行けるアナウンサー"なのです。


・ネタ選びは床で

メッセージがたくさん届いて、スタジオのテーブルの上は紙だらけ...というのはラジオ局の"あるある"ですが、床が紙だらけの番組もあります。こちらは長寿番組ではありませんが、しきたりがユニークなので紹介します。

福岡の番組『DAY+(デイ・プラス)』(CROSS FM 月曜〜金曜 15時〜18時)は大喜利コーナー「くすりつこ」が人気。ネタが書かれたメールは次々にプリントアウトされて、ナビゲーターの立山律子さんのもとに届けられます。採用するネタ選び、紹介するネタの順番は、曲がかかっている間に、立山さんが一人で行います。たくさんのネタハガキならぬ"ネタメール"を床に並べながら、頭の中で構成を組み立てていきます。スタッフが選んだほうがラクだとは思いますが、自分で選ばないとうまく紹介できないそうです。


・反省会をせずにサッサと帰る

意外と多いのが、放送終了後に反省会をしないと決めている番組です。「平日のワイド番組なので、反省をしていたらやってられない」「そもそも反省することがない(笑)」というパーソナリティも。

この道30年の某DJは、ラストの曲がかかっている間にスタジオを綺麗に片付けて、「それではまた明日!」と言った瞬間にスタジオを去っていく...とのこと。DJもディレクターも最後の曲がかかっている間に片付けて、放送が終わった瞬間にDJとディレクターのどちらが先にスタジオを出るか、競争しているという番組もありました。その番組は夕方のワイド番組で「放送が終わるとお腹がペコペコになるため、一刻も早く夜の街に繰り出したいんです。明日のことは明日考えます(笑)」と話していました。


いかがでしたでしょうか。いろいろなパーソナリティに話を伺う度に、その人なりの極意があることに気が付きます。私は常々「いつまでも、あると思うな、好きなラジオ番組」と言っていますが、好きな番組にはいつまでも続いて欲しいですよね。


※本記事で記した内容は取材当時のものです。


(お知らせ)10月より、MBSラジオのナイターオフの番組『次は〜新福島! 第2章=芽生え=』 (火曜〜木曜 20時〜22時)の木曜に出演しております。「やきそばかおるの全国ラジオキコウ!」というコーナーです。どうぞ、よろしくお願いします。



(了)

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