小西未来の『誰でもできる!ハリウッド式ストーリーテリング術』第6回ピクサーに学ぶストーリー構造

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小西未来の『誰でもできる!ハリウッド式ストーリーテリング術』第6回ピクサーに学ぶストーリー構造

今回はいよいよ核心となる物語の構造に踏みこんでいこうと思う。

そもそも物語の構造って、いったいどういう形をしているのだろう?

建築物なら設計図を見ればいいし、PCならハードウエアのカバーを外せばいい。だが、あいにく物語には形がないので、ネジを外したり、ボンネットを上げたりして、中身を確認することができない。

しかし、作り手が意図を持って組み立てたものであることには違いがない。物語を作りたければ、まずは、その構造を"見える"ようにする必要がありそうだ。

物語が始まると、主人公はさまざまなイベントを体験していくことになる。小さなイベントが連なったものが、ひとつの物語となる。だが、デタラメにイベントを繋げていっても、観客や読者を夢中にさせるような物語にはなりにくい。思いつきでレンガを重ねていっても、美しい建物にならないのと同じだ。

さらに物語の構造がユニークなのは、時間経過が関わってくる点だ。映画ならば2時間前後、テレビドラマは1時間程度、小説に関しては個人差があるけれど、いずれも鑑賞にはある程度の時間を要する。だから、作り手は時間枠のなかで効果的にイベントを配置する必要がある。

つまり、物語の構造とは、イベントのタイミングと言い換えてもいいかもしれない。

今度、家で映画を観る機会があったら、ぜひ紙とペンを用意してほしい。登場人物やストーリー展開を変えるイベント(ハリウッドではBeatと呼ぶ)が起きたら、その時間とイベントの内容をメモする。たとえば、「0:15 ヒロインがリストラを告げられる」とか。

そうやって、最後までメモを取れば、あなたはその物語の骨格を書き写したことになる。ちなみに、重要なイベントを記したリストのことを、Beat Sheetと呼ぶ。


ハリウッドはいまもさまざまな物語を生みだしているが、基本的にパターンは一緒だ。人種差別を題材にした骨太のヒューマンドラマから、スーパーヒーロー映画まで、すべての物語が同じ構成になっているだなんて、にわかには信じがたいかもしれない。

そこで、ここはピクサーで活躍するスタッフのみなさんの声を引用させてもらおうと思う。

ピクサーといえば、1995年アメリカ公開の「トイ・ストーリー」から、今年公開の「トイ・ストーリー4」まで21の長編作品を発表している。「モンスターズ・インク」、「インクレディブル・ファミリー」、「ウォーリー」、「レミーのおいしいレストラン」、「カールじいさんの空飛ぶ家」、「インサイド・ヘッド」、「リメンバー・ミー」と、それぞれ設定もジャンルもまったく違っていながら、物語の質の高さは維持している。

それは、「Story is King」という標語を掲げ、ストーリー第一主義を貫いているためだ。

そんな彼らは、無料視聴できる「Pixar in a Box」(※)という動画シリーズのなかで、手の内を詳細に明かしている。

彼らによると、物語の骨格(Story Spine)は以下のように8つの文章で説明できるという。

Story Spine

1 Once upon a time...「昔々あるところに...」

2 Every day...「毎日...」

3 Until one day...「ある日のこと...」

4 Because of that...「その結果...」

5 Because of that...「その結果...」

6 Because of that...「その結果...」

7 Until finally...「最終的に...」

8 And ever since then...「それからというもの...」


ストーリー・アーティストのデレク・トンプソンさんは、2003年の大ヒット映画「ファインディング・ニモ」を例に、以下のように解説する。

「ファインディング・ニモ」のStory Spine

1 昔々あるところに、息子ニモの身を案じるマーリンという魚がいました。

2 毎日、マーリンは自分が恐れる外海からニモを守ろうとしていました。

3 ある日のこと、ニモがダイバーに捕らえられてしまいます。

4 その結果、マーリンは息子を捜すため、安全な珊瑚礁を離れ、恐ろしい海に出て行きました。

5 その結果、マーリンはサメやクラゲなどさまざまな危険と遭遇することになります。

6 その結果、マーリンは思い切った行動を取らざるを得なくなります。

7 最終的に、マーリンは網に捕らえられた友人のドリーを救うために、自らの恐怖心を抑え、ニモを信頼することにします。

8 それからというもの、マーリンはニモが自分で学ぶことができるように、適度な距離を保てるようになりました。


「ファインディング・ニモ」は、究極的には過保護な父親が、冒険を通じて子離れできるようになるという物語であり、その骨格が8つのステップで端的に描かれています。

でも、本当にすべての物語に当てはまるのでしょうか?

それでは、僕がこのStory Spineを、1999年のSFアクション映画「マトリックス」に当てはめてみようと思います。

「マトリックス」のStory Spine

1 昔々あるところに、ネオというハッカーがいました。

2 毎日、表向きはソフトウエア会社の社員として働きながら、言葉にできない違和感を感じていました。

3 ある日のこと、ネオはトリニティーという女性を通じて、モーフィアスという反乱分子のリーダーと会い、現実だと思っていた世界が、実はバーチャル世界であると知らされます。

4 その結果、ネオは頭に繋がれたプラグを外し、反乱分子に加わることになりました。

5 その結果、ネオはバーチャル世界のルールや戦闘方法の習得の早さから、救世主として期待されます。

6 その結果、機械側のワナにはまり、仲間がつぎつぎと殺され、ネオ自身も救世主ではないと予言者に告げられてしまいました。

7 最終的に、囚われたモーフィアスを救出するために命を懸けたとき、ネオは覚醒します。

8 それからというもの、ネオは救世主として人々を解放するようになりました。


だいたいこんな感じでしょうか。

さあ、次はあなたの番です。

このStory Spineをお気に入りのハリウッド映画に当てはめてみましょう。そのうちに、物語の構造が簡単に見えるようになるはずです。


※Pixar in a Box
無料オンライン学習のカーンアカデミーがピクサー・アニメーション・スタジオとコラボした動画シリーズ。ピクサーのスタッフが映画作りの裏側をカテゴリーごとに紹介。物語作りに関しては、「The art of storytelling」というコースで解説している。
https://www.khanacademy.org/partner-content/pixar/storytelling/story-structure/v/video1a-fine


<了>


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