いつだって ‟テレビ好き"の視点でど真ん中の魅力を伝えたい 戸部田 誠さん(てれびのスキマさん)
ライター 戸部田 誠氏(てれびのスキマ)
テレビ好きの家族に囲まれ、幼い頃からテレビと共に過ごしてきた戸部田さんは、動画配信サイトが勢いを増す今の時代においても、変わらぬ‟テレビ愛"を貫いています。趣味のブログから執筆活動を始め、テレビ業界に名が知れ渡るまでになった経緯とは?‟テレビっ子ライター"として活躍する今も、昔と変わらず大切にしている価値観や、そこから見るテレビの未来についても語っていただきました。
‟テレビ愛"から始まったライター人生
─ ライターになるまでのご経歴についてお聞かせください。
社会人になったのは2001年。勤めていたのは、テレビやライターの業界とは全く関係のない一般の企業です。2009年くらいから副業でライターの仕事を始めて、2013年に会社を辞めてライター業に専念するようになりました。専業にしてからもしばらくの間は福島県いわき市に住んでいたのですが、2015年に上京しました。
─ ライターの仕事を始めたきっかけは何ですか?
もともとは趣味でテレビに関するブログを書いている程度でした。転機は水道橋博士さんからお声がけをいただいたことです。趣味の延長のような形で副業としてライター業を始めて、『水道橋博士のメルマ旬報』での連載や雑誌への寄稿など徐々に仕事が増えていきました。本を出す企画が来たことを機に副業の範囲ではおさまらなくなり、ライター業に専念することになりました。
─ 出版のタイミングで上京したのですか?
いえ、本を出したあともしばらくは福島にいましたが、月1くらいのペースでは東京に来ていたので、交通費や宿泊費を考えるとトントンかなと。あとはタレントさんなどにインタビューをする仕事をはじめたことが大きいです。初めの頃はお断りさせていただいていたのですが、一度だけやってみたらとても楽しくて。今後インタビューの仕事を受けるなら、福島にいるのは不便だなと思って、東京に住むことを決めました。
─ インタビュアーとしての仕事を断っていたのは何故ですか?
テレビ業界の方と直接会うのではなく、あくまで視聴者目線で書くということが、ライターとしての僕のアイデンティティだったからです。そのスタンスを貫いたほうがいいのかなと思い、会わないほうがいいと考えていました。しかし、自分の基本的なやり方や立ち位置が変わったとは感じなかったので、月に1本か2本くらいのペースでインタビュー記事を書いています。お話をいただいて受けることもありますし、文春オンライン等では自分で企画を出すこともあります。
幼少期からテレビが身近だった
─ テレビは、小さい頃からお好きだったのですか?
家族がみんなテレビ好きで、家ではずっとテレビがついているような環境だったので、物心ついたときからテレビが身近にありました。特にどのジャンルの番組が好きということではなく、テレビ自体が好きという感じだったので、オールジャンルOKでした。両親から見すぎ!と叱られたことは全くないですね。逆に親のほうが見ていたので(笑)。僕は内気で、外で遊ぶタイプではなかったんです。学校が終わったらすぐに家に帰ってきて、ずっとテレビを見ているような毎日でした。
─ 記憶に残っているテレビ番組は?
小さい頃でいうと、僕はカトケン世代なんですよ。土曜20時といえば『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』。そこからダウンタウンやウッチャンナンチャンに移行するという王道を歩みました。影響を受けたという意味では、やはりダウンタウンが大きかったですね。同世代ではないのですが、僕らが夢中になってテレビを見ていた時代を代表する人というイメージです。特に松本さんは内向的な人の代表という印象もあって、個人的に感情移入した部分もありました。それまでは、お笑いの世界でそういうタイプの方は、なかなかいなかったと思うので。お笑いをカッコイイと感じるようになったのも、ダウンタウンがきっかけだったと思います。
─ あの頃の松本さんは特にインパクトがありましたね。
20代ということもあって尖りまくっているというか(笑)。そういう方が世の中に対する影響力を持っていたという、割と特殊な状況だったのではないかとも思います。当時の僕は思春期真っ只中なので、僕史上あとにも先にも類を見ないほど影響を受けました。少し上の世代では、とんねるずがそういう存在だったりするのでしょうが、僕らにとってはやっぱり松本さん、ダウンタウンでしたね。
─ 大人になってからもテレビは身近にありますか?
会社員として仕事をしているときも、帰宅するとすぐにテレビのスイッチをいれますし、家にいるときは常にテレビがついている。それは今も同じです。今の時代はテレビの見られ方も変わってきていますが、僕の場合は小さい頃からほぼ変わりません。
─ 番組はリアルタイムで見るのですか?
すべてリアルタイムで見るのは時間的に厳しいので、録画で見ることのほうが多いです。番組によって録画とリアルタイム視聴を使い分けていて、ドラマはネタバレされたくないのでできるだけリアルタイムで見るようにしています。バラエティでも『水曜日のダウンタウン』等のお気に入りの番組は、リアルタイムで見てSNSで感想をつぶやいたりしています(笑)。
見られていない理由はシンプル
─ 若い人の‟テレビ離れ"が進んでいるといわれています。今、戸部田さんが仮に10代~20代だとしたら、どうテレビと接していたでしょうか?
僕はアングラ的なものも好きですが、‟ど真ん中"で戦っている人が大好きなんですよ。それは僕がテレビに惹かれる大きな理由でもあります。だから、たとえ今どきの若者だったとしても、僕はやっぱりテレビを見ているんじゃないかな。動画配信サイト等の番組も、10年20年後には‟ど真ん中"の位置づけになるかもしれませんが、2~3年くらいでは変わらないでしょうね。
─ テレビが昔ほど見られていない現状についてはどうお考えですか?
気軽だからスマホで見ることができるコンテンツに人が集まるのであって、もしテレビもスマホで見られるのであれば、普通に選択肢として入って来るのではないでしょうか。1時間の番組をスマホで見るのは大変ですし、要はハード面の問題で、環境面を整えればテレビ離れは解決するのではないかと思います。
─ コンテンツに関してはいかがですか?
動画配信サイト等よりも、テレビのほうが圧倒的にレベルが高く、多様性だってあると思っています。ハードがその時代に合わせて変容するにつれて、ソフト面のコンテンツもまた足並みを揃えて変わっていくのが自然なので、ハード次第。ハードが変われればコンテンツも変わるんです。
NetflixやAmazonでは予算をかけているので、コンテンツにある程度のクオリティが維持されていて、テレビと大きな差異を感じることはありません。規制等の面でいうと、今はテレビ以外のフィールドのほうが自由にやっているように感じますが、あと数年のうちにテレビよりも厳しくなってくるような予感もしています。
─ なぜそのように予感されるのでしょうか?
SNS等の動向を見ていると常に監視されているという傾向がありますよね。今はまだ動画配信系に視聴者がそれほどいないので大事に至らずに済んでいますが、シェアが広がれば当然監視も強くなります。実際、動画配信系の番組に揚げ足を取るようなコメントがついたり、叩かれたりしていることも多い。そうした傾向はこれからどんどん強くなっていくと思うので、規制が強化されるのも時間の問題だと思います。
─ 選ばれるの決め手は?
コンテンツの良し悪しよりも、使いやすさのほうが重要だと思います。コンテンツの力に多少優劣があろうが、人はより便利なものを見る。今はまだ、テレビはお年寄りでも子どもでも簡単に見ることができるのがテレビの強みですが、全世代が普通にネットを見ることのできる時代になれば、また変わってくるとは思います。そのときはテレビorネットという垣根さえ無くなっているかもしれません。
若い感覚が‟真ん中"へ出る意義
─ 番組視聴に際して日々チェックしている情報源はありますか?
基本的にSNSで情報収集をしています。特にTwitterでフォローしている方のタイムラインをみています。時間があれば常にチェックしているくらい貴重な情報源になっています。
─ SNSで若い方の意見や感覚に触れることも?
フォローするときに年代を意識しているわけではないのですが、たぶん同じくらいの世代の方が多いと思うので、どうなんでしょう。本当はもっと広く見ないといけないな、とは思っています。
─ 若者をテレビに呼び込むために、何が有効でしょうか?
ターゲットを絞ることも大事かもしれません。まさにダウンタウンさんは、出てきた頃は特に若者をターゲットに絞って戦ってきた人たちです。ど真ん中で戦うにしても、別に幅広い層に支持されることがすべてではありませんから。今よく耳にするお笑い第7世代の人たちや、YouTuberの人たちも含めて、若い感覚の人々が早いうちに真ん中に行って欲しいですね。
─ それはテレビに出演してほしいということですか?
もちろん人それぞれで、テレビじゃなくても好きなところでやっていければいいやという価値観も全然アリだとは思いますが、個人的にはやっぱり「ど真ん中=テレビでがんばって戦うんだ!」という人に惹かれます。たとえば、今の若手の芸人さんでいうと、霜降り明星とかハナコとか。ようやく新しい感覚の人たちが出てきてくれたように感じます。
チャレンジの場を生むためのチャレンジ
─ 若手芸人がテレビに新しい風を吹かせるために必要なことは?
テレビ局が彼らを押し出していくこと。既に実力のある芸人さんはたくさんいるので、あとはテレビ局側の勇気みたいなものは大事だと思います。『霜降りバラエティ』を放送しているテレビ朝日は、最近そういった番組をどんどん作ってくれていて積極的だなという印象があります。若手がチャレンジする場がないとよく言われていますが、番組自体の、編成する立場のチャレンジがなければ難しいですから、テレビ局側にもチャレンジが求められています。深夜番組ですら数字を求められ、ゴールデンにあがることを期待されるという状況がずっと続いていると思うので。あるインタビューでテレビ朝日がチャレンジしていくと言ってくれていて、これはテレビの希望だと感じました。
─ テレビの編成や演出等全般に関してはいかがですか?
ワイドショーの枠を一つでも別の番組にあけてくれたらいいのにとは、正直思います(笑)。あと、深夜帯の番組構成でしょうか。深夜はチャレンジする場を作りやすいこともありますし、深夜だと短い番組を作れる。短い番組ならネットでも見やすいですよね。短い深夜番組が、テレビに戻ってくるための入口として、どんどん活用できるといいんじゃないでしょうか。ゴールデンタイムはしょうがないとしても、深夜帯までも同じような番組ばかりという状況は好ましくないと思います。
─ コンテンツについてはいかがでしょうか?
正直に言うとゴールデンは似たような番組が多いと感じます。やっぱりマニュアル化されてしまうとそうなってしまいますよね。視聴者のことを考えて、視聴者第一で作ろうとした工夫そのものは、かけがえのない財産だと思います。しかし、一つの成功事例に追随して慢性的に「こう作っていれば大丈夫」となってしまうと、逆にズレてきてしまうのではないでしょうか。もうそろそろ視聴者にアレルギー反応が出てきていると思うので。ある局の成功事例を他局が真似ると局の色も出なくなってしまいますしね。
─ ゴールデンに高齢者を狙った番組が増えてきましたね。
戦略の一つでもあるので、それは全然アリだと僕は思っています。テレビ朝日はゴールデンでガチガチに高齢者を狙って成功していて、その一方でプライム帯や深夜帯では若い制作陣も積極的に使ってチャレンジしている。ゴールデンで強いからこそできることなのでしょうが、一番チャレンジしていると思うし、そのバランスが絶妙。多様性がある局のほうが魅力的だと思いますよ。
新しい指標でテレビはどう変わるか
─ 最近の各テレビ局の動向を見ていて、感じていることはありますか?
前述していますが、勢いを感じているのはやはりテレビ朝日です。単純に視聴率という観点からだけではなく、人材的な面や編成のダイナミックさ、柔軟さという意味でも評価できるなと。バラエティにしてもドラマにしても、30代前半の人がメインで作っていて、しっかり結果も出している。今後5~10年は強いのではないでしょうか。また、『モニタリング』や『金スマ』等、視聴率の高い番組を維持しながら、『水曜日のダウンタウン』をずっと守っているTBSにも希望を感じます。制作や編成のトップに、それを是と判断できる肝がすわった人がいることが重要なのではないかと思います。
─ 率直に視聴率についてはどうお考えでしょうか?
今日・明日の話ではなく、長いスパンで見ることも必要なのではないかと思います。演出家・プロデューサーの五味一男さんは、毎分の視聴率を元にして番組を作っていたという逸話で知られていますが、取材をしたら「単純な上げ下げだけでは見ていない」と仰っていました。上げ下げを見ながら、お茶の間の人がどういう気持ちでチャンネルを操作しているかを想像して分析するのだそうです。だから、視聴率が下がっているコーナーだからといって、簡単に打ち切ったりすることはなかった。ずっと使い続けていたら、結果的に後から跳ね上がったケースもあったと。数字の‟見方"が大事なのだと思います。すぐに結果に繋がらなくても、続けていれば上がるものもあれば、そうでないものもある。それをいかに見分けるか伺った際の答えは「センス」だったので、真似しようもないとは思うのですが。それを考えると、テレビ局は独自に考案して視聴率以外の指標を作るべきなのではないかとも感じます。指標が変わればコンテンツも自然と変わってくると思うので、時代にマッチした指標が必要ですよね。
─ 時代に合った指標とは?
たとえばラジオなら、radikoで詳細なデータが取れますよね。テレビだってデジタル化しているわけですから、詳細なデータを取ろうと思えばいくらでも取れるわけです。単純になぜそれをやらないのかという疑問はあります。
─ 何が原因だとお考えですか?
おそらくCM単価との兼ね合い等があるのでしょう。しかし逆に、詳細なデータを取ればピンポイントでCMを入れられるようになると思うので、積極的に求めていくべきなのではないかと思います。メーカーさん等の協力を得る形にはなると思いますが、できれば各局が足並みを揃えて取り組むことが必要なのではないかと。局同士の協力体制は現状も皆無ではないと思うのですが、トピックスに上がるほどの前例はありません。CS放送開始時にしても各局バラバラでしたから。局同士の狭い戦いをしているのは、もう時代遅れなのではないかと僕は思っています。
─ 現在、ビデオリサーチが出している視聴率についてお聞かせください。
視聴率が低いと番組が終わっちゃうから嫌だなとは思います(笑)。また、面白い番組の視聴率が思った以上に低いということはあっても、ちゃんと視聴率をとっている番組はやっぱり作り込まれているという印象があります。ただ、ビジネスにより活かせる指標を、視聴率以外のところでテレビ局が独自に作ればいいのではないかと感じています。広告主の方に納得してもらえる、かつ番組の質を反映するような指標ができるといいですよね。
タイムシフト視聴率の導入はいいと思います。CM単価への反映だけでなく、番組の作り方にも変化を及ぼすかもしれません。そもそもテレビ局が大事にしているゴールデン帯をリアルタイムで見れる層って少ないんですよ。リアルタイム視聴率へのこだわりがなくなれば、番組だって奇策を講じる必要がなくなって、番組も見やすくなると思います。いよいよリアルタイム以外の指標が導入されたので、5年、10年後が楽しみですね。
視聴者目線でテレビを愛し続ける
─ TVerのような、複数の局がプラットフォームになっているサービスは海外では珍しいのだそうですが、戸部田さんはどう考えていますか?
本当にいいサービスなので、NHKも含めて全ての局がすぐにでも参加したほうがいいし、もっと充実させるべきだと思います。あとTVerを‟テレビ"で見ることができないのはどうして?と思いますね。YouTubeはテレビで見られるのに...。テレビから逃してどうするんだ!と思います。おそらく、それをOKとしたらリアルタイムで見られなくなることを警戒しているのだと思いますが、見てもらうことが先だし、時代遅れだなと感じます。というのも、ネットを扱えない世代の人たちがいなくなるのは時間の問題なんですよ。これからの時代に早く合わせないと。
─ テレビの未来に突破口はあると思いますか?
今はネットの勢いがすごいのでネガティブなことばかり言われていますが、ラジオが死なないように、テレビも今後ずっと在るインフラだと思うので、悲観的になることはないと思います。面白い番組はたくさんありますし、作り手の人たちもたくさんいるし。テレビ以外のフィールドから作り手の人もどんどん出てきて、そういう人たちが切磋琢磨していけるのですから。ハード面で便利になれば変わってくると思いますよ。劇的に変わるというよりは、自然な流れとして変化してくると思います。
─ 今オススメのTV番組や、芸人さん・タレントさんを教えてください。
TBSの『水曜日のダウンタウン』を筆頭に、最近ですとテレビ朝日で今田さんと指原さんがやっている『いまだにファンです!』も好きです。テレビ東京の『家、ついて行ってイイですか?』も面白いし、同じくテレビ東京の『チャップリン』やフジテレビの『ネタパレ』は、ネタ番組が減っている昨今、‟見てもらうための工夫"を凝らしてがんばっているなという印象です。ドラマならNHKの夜ドラ枠がイチオシ。面白いですよ!
演者さんだと、ヒップホップ出身のCreepy Nutsはミュージシャンですがバラエティもいけると思うし、日向坂46もオードリーとやっている番組がいい。かわいさだけではない面白さがあります。あとはやっぱり、「お笑い第7世代」の人たちでしょう。
─ 最後になりますが、お仕事をされる上で最も大事にされていることは何でしょうか?
絶対に譲れないのは「視聴者目線でありたい」ということ。僕はそこが肝だと思っているので、評論家みたいにはなりたくないというか...。そのために、単純に好きなことをモチベーションにすること、変に粗探しをしないことを心がけています。テレビを悲観的に見て、コンプライアンスがどうだと批評するよりも、今も面白いものが作られているということを、‟テレビ好き"の目線でただ語ることが大事。その波がどんどん広がっていけばいいなと思います。今はネットの口コミ等があるので、それができますからね!僕は書き手として、好きなものを好き、こういうものが好きだと、自分の心のままに書いていくつもりです。
─ 本日はありがとうございました。
<了>
戸部田 誠(とべた まこと)
別名義「てれびのスキマ」として活躍する〝テレビっ子ライター"。1978年生まれ、福岡県出身。一般企業に勤めながら、趣味でテレビ関連の記事を発信するブログを執筆していたところ、水道橋博士の目に止まり、副業としてライター業を始める。以後、ライター業の拡大とともに副業から専業へ。現在は『週刊文春』『週間SPA!』『水道橋博士のメルマ旬報』などで連載中。著書に『タモリ学(2014年/イーストプレス)』『1989年のテレビっ子(2016年/双葉者)』『人生でムダなことばかり、みんなテレビに教わった(2018年/文春文庫)』『全部やれ。』『売れるには理由がある』等がある。