過渡期の時代において多様なニーズに応える提案をしたい 株式会社FIREBUG 執行役員 塚田晃作さん
株式会社FIREBUG Business Content Div. Mass Marketing Dept. 執行役員 Vice President
塚田 晃作氏
北海道文化放送で15年以上のキャリアを積まれた塚田さんは、2017年に株式会社FIREBUGに入社し、新たな境地へと足を踏み出されました。動画制作や動画を使ったマーケティングを行う現在の仕事には、テレビ局での経験が大いに活かされ、またテレビ以外のメディアに関わることで、新たな発見もあったといいます。現在は放送と通信の両方に携わる塚田さんにお話を伺いました。
ローカルテレビ局からの転身
これまでのご経歴をお聞かせください。
今年で社会人19年目になります。出身は東京で、2000年に新卒で北海道文化放送というフジテレビ系列の局に入社しました。最初は番組制作を3年間やりました。情報番組のADから始まってディレクターに。生放送のフロア業務、バラエティ、周年事業ドラマの助監督みたいなことまで、いろいろ経験させていただいた後に、東京支社へ異動になりました。ローカル局の東京支社には主に営業系や編成系などがあるのですが、私はスポットデスクの仕事を1年半~2年、営業を7年間勤め、その後本社に戻って編成部に入り、編成・広報をやらせていただきました。最後は営業戦略的な部署に行き、そこからご縁があってFIREBUGに入社し、今2年3ヶ月くらい経ったところです。
転身のきっかけは何だったのですか?
代表の佐藤と高校と大学が同じで、佐藤が大学生の時から知っていました。彼も卒業後に業界の仕事に就いたので、たまにキャスティングのお手伝いをしてもらったり、一緒に番組の企画を考えたりというつながりがもともとあって、「一緒にやろうか」みたいな流れになりました。
塚田さんは現在、どのような部門、事業を担当されていますか?
執行役員として全体を見る立場ではありますが、所属部署はマスマーケティング部で、弊社の売り上げの大部分を占めるテレビCM関連の業務が多いです。内容としては、お客様側のマーケティング部の工数をフォローしたり、アウトソーシングしていただくような立ち位置で、メディアの方々、大手広告会社の方々と一緒にマーケティング業務をお手伝いするイメージです。入社して間もない頃は、とにかく売り上げアップを目標に、CMに限らずテレビまわり全般を任されていました。
経験を礎とした多様な提案を行う
テレビ局の仕事と現在の仕事の違いはありますか?
仕事内容に大きなギャップは感じていません。しかし、テレビ局にいたときにはクライアントや代理店に「広告を出稿してください」とお願いしていたものが、少し立場や方向が変わったことで見えてきたものもあります。弊社が担当しているのはほとんどがスタートアップの企業なのですが、彼らは決してテレビCMをやりたくないわけではないし、テレビCMを目指している企業もある、という意外な発見がありました。
弊社の売り上げの中心はテレビCMですが、玉数でいったら動画広告の扱いが圧倒的に多いです。しかし、認知という役割でいうとテレビCMのほうが引きが強く、役割や組み合わせ方が変化してきているのだろうなと肌で感じています。
作り方についてはいかがですか?
弊社では企業紹介の説明動画からテレビCMまで幅広い動画を取り扱っているので、違うレベルの動画をいろんな角度から提案・制作できるネットワークを持っています。マルチユースといいますか、1分の動画を1本作って、分割して使い分けるようなやり方はスタートアップでは特に多いですし、動画を載せる場所や掲載目的によって使い分けるのは当たり前になっています。そのあたりへのソリューションとして弊社が提案できる選択肢は多いと考えています。テレビ局で制作をやっていた人、動画制作スタッフだった人、映画の宣伝やアプリに携わっていた人まで、さまざまな経歴を持つ人が揃っていますから。これまでの経験で得た外部ネットワークを駆使しながら、顧客のニーズに合わせた提案を行っています。
様々な顧客ニーズに応えておられるのですね。
金額の規模はもちろん、SNSの影響もあって動画広告の種類も多様化しているので、どうすれば全て賄えるのか捉えづらい部分もありますね。弊社では既存のパターンから選んでもらうというよりは、毎回企画をお出しすることが多いです。
今は動画制作の会社もどんどん増えていて、予算に応じて制作しますとか、目的に応じて提案しますというのも当たり前の世の中なので、なかなか差別化が難しいのですが...。いろんなジャンルのネットワークを持つところが、弊社の強みかなと思います。たとえば予算が200万だとしたら、有名人をアサインして1年間の区切りがつくよりも、YouTubeなどでタイアップをかけてオウンドメディアに載せるような形で、半永久的に残すほうがいいとか。選択肢が増えているなかで、いろんなやり方を提案しています。制作だけだと今後はなかなか難しいんじゃないかな。
御社のHPには「テクノロジーを活用して新しいコンテンツフォーマットを創造する」と書かれていましたね。
テクニカルな部分の代表例としては、『P-NEWS』という広報PR支援サービスがあります。メディアと企業を1対1でつなぐプラットフォームです。メディアは探したいテーマを掲載し、企業は提供したい内容を掲載することでそれぞれのニーズを満たすことができます。自分の足で探す・稼ぐというアナログな部分はあって然るべきものですが、テクノロジーを取り入れることで、面白いことがより手軽に発信・受信できるようになるといいですよね。まだ本当にこれからのサービスでテストレベルではあるのですが、ここはニーズがあるのではないかと考えています。
『北海道独立宣言』秘話
御社企画・制作の番組『北海道独立宣言』をYouTubeで拝見しました。
ホリエモンこと堀江貴文さんが「100日以内でのレストランの開業」をプロデュースする番組『北海道独立宣言』が、北海道放送で放送されています。『北海道独立宣言』は、ローカル局で放送した直後からYouTubeに全編出すというスタイルを取っています。全編YouTubeに出すとテレビで見る必要がなくなるので、実験的な取り組みではありました。しかし、これは仮説なのですが、YouTubeに出すことでテレビでは見ない人も見てくれるというか、そのコンテンツに触れる機会は確実に上がりますよね。テレビ放送でもWEBでも流して、そのとき同時に家にいてテレビかYouTubeかを選べるなら、「大画面のテレビで見よう」と思うかもしれません。
エリア外の視聴者も掴めますしね。
ローカルだと、キャッチアップ(テレビ番組の放送直後から行われる再放送)サービスがすべての局で取り組まれているわけではありません。キー局は以前からやっていますが、ローカル局こそこういうWEBでの展開をやったほうがいいと思うんです。北海道でしか放送していないという飢餓感から生まれることだってあるでしょうし。
特に今は深夜のテレビ視聴率が減っているのではと言われる中、深夜にそういう実験的なコンテンツを流してみる意義はあると思います。これからの時代、放送と通信の融合によってコンテンツ勝負になってくるのでしょうから尚更です。
まず、視聴率については、反響はいかがですか?
広報してなかったこともあり最初は視聴率1%からのスタートでしたが、最近では4.4%まで到達した回もありました。火曜24時台の30分番組なのですが、この放送時間帯で4.4%はけっこう高い数字です。業界の人や堀江さんのファンが見てくれていることも数字の背景にはありますが、北海道内でのたしかに見られているという手応えは実感しています。出演者にもエッジのきいた人たちが揃っているのですが、北海道で彼らの名が知られてきています。YouTubeでの客層とは違うというか、さすがの放送パワーというか、地上波だからこそのメジャー感が広がりつつあります。1回や2回ではダメなのですが、レギュラーで放送しているとやはり放送にはパワーがありますし、一方では違うエリアからの反響やSNSでの反響もある。実現するまでは難しくても、いざやってみたらいいことばかりなんじゃないかと。こういう番組をもっと提案していってもいいんじゃないかと思っています。
ご苦労もありましたか?
我々は放送局とクライアントの間にいる立場なので、それほど苦労はしていないのですが、番組著作の問題があります。この番組はYouTubeに載せることに支障が出ないように、持ち込み番組という形でやっています。「放送=ネットに出せない」というところで止まっている放送局にとっては一つの解決策かなと思います。視聴率も良くなってきたので今はなかなかいい感じです。
放送と通信の‶いい所取り"
テレビ番組のネット展開について、アイデアをお聞かせください。
『北海道独立宣言』は、テレビで放送した直後にYouTubeにも載せるという流れでしたが、その逆もアリだと思います。番組の立ち上げに関していうと、テレビ局だと4月や10月の改変期以外には考えにくいところがありますが、ネットはもっと自由。YouTuberは動画を載せようと思えばすぐに載せられますが、テレビだとなかなか難しい部分があります。この性質の違いを考えたら、たとえばシーズン1はYouTubeでいろいろやってみて、それが好評だったらテレビ放送に...という流れもできてくるんじゃないでしょうか。
御社として取り組んでいることはありますか?
中京テレビでミニ枠のベルトを制作させていただいていて、この番組はYouTubeに載せることを前提でやっています。深夜1分40秒のミニ枠で、『100TAINER(ハンドレッドテイナー)』という番組で、100秒間でエンターテイナーを紹介しています。テレビでためていったものをYouTubeに出した後にヒットすることもありますからね。ネットからのスタートだったら、その順番はもっとランダムになってきますけど。
また、YouTubeのチャンネル制作や著名人のYouTuber化のお手伝いもしています。会社として推進していこうという意識が強いです。我々も広告を売りながら、テレビやラジオとネットをどう組み合わせて、よりマスに拡散させるか、ブームや話題を作るか...という部分を、ぜひ重点的にやっていきたいと考えています。
そういった事業に対する評価や反応はいかがですか?
YouTuberさんが自身で構成企画を立てて作る番組と、我々がテレビ番組を作るように作るYouTube番組では、若干違いがあるなと。演出やテロップはYouTuberっぽく作るのですが、やはりメジャー感や安心感があると言っていただけることはあります。テレビの安心感を少しYouTubeに持ってくるような‶いい所取り"みたいなところに、割と良い反応がありますね。
広告に関しては、テレビCMよりも価格が安いとか、有名人にタイアップをとって作った動画を制作できる、というメリットがあります。広告っぽくない仕上がりにできるところもいいんですよ。本人発信みたいな見せ方になるので、‶脱広告"的な部分でも時代に合っているんです。従来の広告とのバランスが難しいですが、時代のスキームに合わせた一つのソリューションなのではないでしょうか。
テレビにも精通されていることが強みですね。
テレビとネットが混在する過渡期のなかで、「はじめてYouTubeをやる」となったときに、それを任せるって事務所にとっても勇気が要ると思うんですよ。手前味噌になりますが、弊社代表の佐藤はとても広い人脈を持っているので、立案から制作、運営までをサポートすることができます。一定のルールにはテレビに似たような信頼感があり、出演者も著名人の方なので、その点も安心していただけますしね。
中立の立場から見る‶テレビの価値"
放送と通信は逆転していくと思いますか?
若年層がどんどんYouTubeのほうに流れているので、今はまだテレビが強い‶認知"の役目も、6秒の動画広告が取って代わる時代が、近い将来に来るかもしれません。今は年代別とか細かい分類がないから見えていないだけで、もしかしたら小学生や中学生は既にそっちなんじゃないかとも感じています。
だからこそ、テレビ局の強みである資本力や制作費があるうちに、YouTubeの戦場にどんどん乗り込んでいくべきなのではないでしょうか。今はテレビが形式上それを拒んでいる印象が若干ありますが、もっとそこに踏み込んでいいと個人的には感じます。フィールドが違うので、キッズYouTuberの作った動画がテレビディレクターの作った番組より注目されるという現象も起きていますが、さすがにテレビもコンテンツ軸なら負けないと思いますし。
役割の違いはありますが、我々が「これからはテレビよりYouTubeだ」と思うことは、今後も引き続きありません。今は広告についても、商品を初めて知る機会がYouTubeだったというケースが当たり前になっていますが、テレビとYouTubeのどちらかを選ぶというよりは、どちらにも入っていくような方向性になっていくでしょう。
テレビがより積極的にネットに進出していくために「こうしたほうがいい」と思うことはありますか?
私は制作ではないので内容については何も言えませんが、『北海道独立宣言』のように、テレビで放送したものをすぐにネットで見られるようにしたらいいと思います。ここが一番大きいです。だって、それで視聴率が低くなることなんて多分ないでしょう?そればかりか、ネット利用者がテレビ番組を知るきっかけになるんです。
テレビ視聴率が下がることでテレビ自体の番宣効果も減っていくという負のスパイラルに陥ってしまうより、せめて番宣機能だけでもYouTubeに持っていくのは全然アリだと思います。番組の尺の長さにしても、もっと自由でいいのではないでしょうか。テレビ局にいたときは、30分や15分、55分とかの制限を当たり前に受け入れていましたが、今は「何でそうなんだっけ?」と思うところもあります。
ネット動画が盛り上がるなかで、現在のテレビの価値は何だと思いますか?
『北海道独立宣言』をやっていて感じたのは、地域活性の新しい形になったかもしれないということです。テレビ放送がきっかけでレストラン運営のサポートに名乗りをあげてくださる方がどんどん出てきたり、地元でもその土地が有名になったりしますから。でもやっぱり、テレビ局が儲かっていないとそういうプラスの連鎖は続かないし、テレビが苦境になればなるほど、報道や制作がやりたいことと営業の方向性が二極化して噛み合わなくなっていきます。私はどちらも経験していて、微力ながら放送局の気持ちがわかりますので、そういう意味では普通の広告会社よりもお役に立てるかもしれないと思っています。
ネットワークを駆使して話題性を創造する
これからの御社の展望をお聞かせください。
2020年に5Gの提供が始まると、さらに動画が溢れる世の中になって、動画制作や運用を担う業界でも淘汰が始まってくると思うのですが、今はまだ単純に動画を‶埋もれさせない"ことが第一です。インフラとSNSの爆発的な発展を背景に、広告主のニーズが広がっているなかで、‶埋もれさせない"ためには動画のエンタメ性や話題性がより重要になります。
我々の根底には、エンターテイメントを通して世の中を面白くしたいとか、世の中のためになりたいという思いがあります。もちろん仕事の9割は制作なのですが、ただ作るだけではなく、エンタメ性や話題性の部分で強化・差別化を図っていけたら、非常に弊社らしい成長の仕方になるのではないかと思います。また、今はテクノロジーを駆使しないと面白いものが作れないし、人に届かないという問題もあるので、HPで謳っている‶テクノロジーの活用"も進めていきたいです。
塚田さんがいる広告の部門でも同様ですか?
たとえばハウツー動画を専門的に作る集団とかも、それはそれで面白いのですが、我々が目指しているのは違っていて。私の所属はマスマーケティング部なのでテレビやラジオが中心になりますが、引き続き話題となるものを作っていきます。そのためには資金も必要になりますが、話題になることで、顧客、テレビ局、そして我々にも得るものがある。ここ2~3年くらいの間は、特に注力して‶話題性をもったもの"を作って提供し、成し遂げていくことが重要だと考えています。
アイデアや企画力も必要になりますね。
アイデアが次々に思い浮かぶ天才というのもあまり見たことがないので、まずはいろいろやってみることが一番かな、と思います。いろいろな番組や動画を作ってみることはもちろん、今はインフラがたくさんあるので、いろんなところに出してみる、いろんな人とやってみるとか。弊社の代表がネットワークを作るのが非常に得意なので、インフルエンサーやクリエイターのネットワークを駆使して、多様なものをご提供できると思います。天才が何人もいてアイデアがたくさん集まるというよりは、いろんなネットワークを組み合わせることでアイデアが生まれていくようなイメージですね。
本日はありがとうございました。
<了>
株式会社FIREBUG
Business Content Div. Mass Marketing Dept. 執行役員 Vice President
塚田 晃作(つかだ こうさく)
株式会社FIREBUG Business Content Div. Mass Marketing Dept. 執行役員 Vice President。マスマーケティング部所属。1977生まれ、東京都出身。2000年に入社した北海道文化放送で多分野にわたるキャリアを積み、2017年にFIREBUG入社。代表取締役CCOの佐藤詳悟氏とは大学時代から交友があり、その縁で入社に至った。テレビCMを中心とした業務に携わりながら、執行役員として会社全体を見る役割も担っている。