【ふかわりょうの「魔法が解けたなら」】 〜第2回 だからテレビは嫌われる〜
【ふかわりょうの「魔法が解けたなら」】 第2回 <毎週金曜更新>
「CMまたぎ」という言葉は今や、一般の視聴者でもご存知だと思います。
ドラマにしても、バラエティーにしても、いいところでCMに突入し、引っ張って、焦らして、なかなか着地しない。2時間ドラマは、導入部にほとんどCMを入れず、終盤の、もはや離脱できない状況を作ってからCMを連発するので、視聴者はいつの間にか特急から各駅停車に乗せられてしまいます。
テレビ番組において、視聴者と同様大切なのは、スポンサー。CMも観てもらわないと困ります。しかし、その想いが強いためか演出が露骨だと、視聴者も冷めてしまうもの。本来、結論まで見せてからCMに転換する方が、「いいところだったのに〜」というストレスを抱かせずに済むのですが、下手に満たしてしまうと視聴者が離れてしまうのも事実。
そうして「CMまたぎ」が主流となった背景には、大きく二つの転機がありました。
まず一つは、リモコンの誕生です。
かつて「チャンネル争い」というと、画面の横に付いているダイヤルをガチャガチャと「回した」ものでした。席を離れ、わざわざテレビに近付いて。
それが、リモコンの誕生により、言うまでもなくチャンネルは簡単に替えられるようになります。これによって視聴者に、CMに入るとリモコンを手にする習慣がつき、他に面白い番組がやっていないか探す「ザッピング」が行われるようになります。実際、これを制止するのは困難ですが、どうにか離れないように、離れたとしても戻ってくるようにと、仕掛けが必要になりました。
その答えが、続きを見ずにはいられない状況を作ること。満たさないことでした。狙い通り戻ってくる視聴者もいれば、そもそも動かない者、他チャンネルに取られて帰ってこない者、ザッピングで流れ着いたものも。
しかし、一番失ったものは、「信用」でした。
もう一つは、「毎分視聴率」の誕生です。
いつから視聴率が計られるようになったのか、分刻みでデータが算出されるようになり、これによって、どの箇所で視聴者が増え、去ってしまったかが手に取るようにわかりました。たかが折れ線グラフ、されど折れ線グラフ。数センチの目盛りに、数百万人の視聴者の動向が汲み取れます。統計学上。
だから、「ここで下がっちゃったか〜」なんて呑気なものではなく、数百万人が関心を失った原因を追求するようになり、グラフが上昇するコンテンツは多用され、消費され。CMの間も下がらないようにするための試行錯誤。
そうして、視聴者を欺くような大袈裟な演出が生まれてしまいました。
観ている人を手放したくない。通りすがりの人たちに足を止めてもらいたい。その間で、刺激がないと去ってしまうという恐れから、半ば押し付けるような過剰な演出が生まれます。
視聴者からの「信用」を失う前に、視聴者を信じなかったのです。
そうこうしているうちに、スマートフォンの誕生です。テレビしか選択肢がない頃は不満を抱きながらも観てくれていましたが、これからはそうもいきません。
横柄で、時に欺いたり、いちいち大袈裟な彼氏に愛想を尽かした彼女の前に現れた、とてもマメで優しい男。会いたい時にいつでも迎えにきてくれます。
「もう、用事があるときしか行かないから」
そうして視聴者は、本当に観たい時にしかテレビの前に来なくなりました。それ以外の時間は何をしているのか。スマホという新しい彼氏にべったりです。
もっと大切にしてあげれば良かったのに。恋人を取り戻すことはできるのでしょうか。よりを戻すにはどうすればいいのでしょう。
簡単です。こちらから会いに行けばいいのです。スマホの中に登場するのです。プライドを捨て、旅に出ましょう。テレビ番組は、スマホの中の1コンテンツになるべきなのです。
果たして、かつてのメディアの王様にそれができるでしょうか。
<了>