J:COM発!視聴ログを活用した新たなマーケティングの可能性〜株式会社ジュピターテレコム(J:COM) 遠田 智洋さん〜
CS広告の営業や企画に携わること15年。遠田さんは、デジタル広告の台頭を感じながら、「J:COM PMP(Private Market Place)」という新たなビジネスモデルの構築に邁進してこられました。従来の概念から脱却しチャンネルの枠を超える。
デジタルに引けを取らないデータを提示しながら、テレビの良さは守っていく。絶妙なバランスで新たな可能性に挑んでいる遠田さんが思い描く、CS業界と「J:COM PMP」の未来とは──?
市場と"データ"の関係
─ 遠田さんのご経歴と現在の業務内容をお聞かせください。
社会人として最初に入社したのは広告代理店で、新規営業を主とした広告営業をやっていました。2社目で株式会社ジュピター・プログラミングに入社(合併し、現在は株式会社ジュピターテレコム)。
グループの5チャンネルを運営していた会社なのですが、そちらの広告営業部で3年弱大手広告代理店担当の営業を経験しました。その後、同じ部内の営業推進という企画側の部に回ったという感じですね。
2017年5月からはメディア事業企画部(現メディア・エンタテインメント事業統括室の名称変更前の部署)と兼務という形になりました。2018年4月からメディア事業企画部1本になりまして、今は部門の中期事業戦略、部門方針策定、新規事業開発推進などの業務を担当しています。
─ 長くCSの広告営業に携わる中で、CS業界の現状をどう感じていますか?
CS放送における2018年度広告売上は前年比の95.8%とマイナス成長でした。総売上金額も同年度に200億円台を割込みました。2019年上期の様相を見ても、あまり芳しくはありません。
─ 何が原因でそうなったと思いますか?
ご存知のとおり、広告の市場はネット広告が主となりつつあって、アメリカではもうテレビ広告がネット広告に抜かれています。ネット広告にはデータが出るという強みがあるので、クライアントの意識そのものが変わってきていると思うんですよね。ネット広告によって今まで見えなかったデータが可視化されるようになり、今までは「何となく分かる」で済んでいたものが、明確に数値化されたために、それがないと物事が進まない世の中になってきました。
その流れを受けて、テレビ業界のマーケティング領域にもデータや数値化が期待されるようになっていると思うんです。現状として「テレビメディアにはネット広告ほどのデータがない」という評価が、前述した市場の逆転現象みたいなものに繋がっている側面もあるのではないかと考えています。
CS業界の課題と打開策
─ CS業界の課題について、遠田さんのご見解をお聞かせください。
僕はCS業界には4つの課題があると認識していまして、1つ目は「訴求ポイント」です。今まで、CSは雑誌メディアのようにターゲティングができることを売りにしていました。
CSは、地上波やBSに次ぐ認知メディアでありながら、チャンネルごとに特性を持った専門チャンネルなので、狙いたいターゲット層にピンポイントでアプローチできることが強みだったんです。しかし、今はデジタルで細かいターゲティングができるようになったので、相対的にCSの立ち位置は曖昧になりました。
2つ目と3つ目は、「プランニング」と「効果測定」です。データはあれど、セールスとの連携がうまくできていなかったということが長い間続いていました。
4つ目は「市場風土」です。CSの広告販売って、「映画専門チャンネル=映画ファン」のようなチャンネル単位のターゲットイメージを材料としたセールスが前提なんです。CSとして1つのマーケットとしてあるのではなく、専門チャンネルごとに小さなマーケットが多数あるような構造になっている為クライアントが市場全体を把握しにくい。
─ 改善するための対策はあるのでしょうか?
どのマーケットも同じだと思うのですが、やはり今の時代はデータの高度化がされていないと受け入れていただけないですよね。CSでいうと、複数のチャンネルが24時間365日放送しているなかで、自分たちが欲しいターゲット層がどこにいるのか、どこに優先順位をつけて広告を打っていくべきかというデータがないと、意思決定ができない。クライアントが社内で「やる、やらない」の議論をするときに、データなしでは判断ができないので、まずはデータを出していく必要があると思います。
そして実施した後には、結果を明確なデータ(ファクト)で見せることが重要です。優先順位をつけた結果、狙い通りになったかどうかを見せていかないと「ここがうまくいかなかったので変えましょう」といった会話にならないのでPDCAが回せません。クライアントが一番気にするのは、ROIを明らかにすることなので、ここは必ずやらなければいけないと思っています。
─ 各チャンネルにおける売り方の部分ではいかがでしょうか?
前述のように、CS業界に関わる人は専門チャンネル1チャンネルごとにターゲットイメージを語りがちです。しかしクライアントは、CS全体で、どのチャンネルのどの時間帯を取っていけば自分たちが欲しいターゲットに当たるのかという見方をしているのではないか、と。つまり、全体をある程度まとめて提案し、ターゲットの規模を担保することが必要だと思います。
あとは、クライアントが目指すターゲットにたどり着きやすくすることですね。数十チャンネルがひしめくなかで、個別に発注をかけなければいけないとなると、ターゲットにたどり着くのが非常に面倒なのでクライアントが諦めてしまうケースもあると思います。データの高度化、規模担保、到達容易化。この3つが、改善点だと考えています。
データの課題を解決した方法とは
─ データ整備の部分では、我々ビデオリサーチも一緒に取り組ませていただきました。
はい。弊社で持っている視聴ログというものを活用して、データ部分の課題を解決できないかと考え、まずは海外の事例を調べたんです。そこで分かってきたのが、実数データを豊富に存在する領域にもパネルデータを持つアメリカのニールセン社が必ず登場しているという事実でした。
つまり、パネルデータと実数データが共存関係にあるんです。それに対して当時の日本は、対照的に実数データがパネルデータを駆逐していくかのような風潮がありました。しかし僕はアメリカのようにパネルデータと実数データを組み合わせるやり方が、最適解なのでは、と考えました。
─ 視聴ログとは、どのようなデータなのでしょうか?
世帯に配付されるセットトップボックス(以下、STB)という機器から取得できる視聴行動のリアルタイムとタイムシフトのデータで、お客様から許可を頂いている約200万台分のログデータが蓄積されています。ただ、STBはあくまで世帯に配付されるものなので、取れるのは世帯のデータだけで、家族の誰が見ているのかまでは分からないんです。
そうすると広告メディアとしてはあまり意味を成さないので、そこにビデオリサーチのパネルデータを掛け合わせて、どういう個人が視聴しているかを推計する方法が無いかと、相談させて頂きました。
─ ビデオリサーチのパネルデータはお役に立てましたでしょうか?
弊社の視聴ログには「個人」のデータがない一方、ビデオリサーチは精緻な個人視聴の情報におけるパネルデータを持っているというところが最大のポイントでした。2年ほどの時間をかけて一緒にいろいろと協議させていただき、何とか「おそらくこの世帯にはこういう方々がいて、この人が見てくれてるんだよね」という匿名での推計やプロファイリングができるようになりました。
─ 視聴ログのデータとパネルデータを融合したんですね。
パネルデータと実数データの相互補完は非常に重要で、アメリカでも皆さん必ずパネルデータを使っていらっしゃるので、これが現状の最適解なのではないでしょうか。パネルデータと実数データ双方の良さをクロスしたほうがいいと思います。また、今の時代って技術的には結構何でもできますが、個人情報保護の流れが非常に大きくなってきていますよね。
むしろここから先は「どこまでで止めるか」ということが重要になってきていると思います。様々なデータをクッキーで紐付けて、個人を明確に洗い出すこともできますが、あまりにリスクが大きくなり過ぎる。
CS広告の新しい売り方「J:COM PMP」
─「J:COM PMP」についてお聞かせください。
視聴ログのデータを元に、グループチャンネルやご賛同頂いたCSチャンネル様をまとめてプランニングし、出稿準備もアクチュアル(CMが見られた割合)の測定も全部やりますので、我々に一括でご相談くださいという、単純明快な売り方です。我々がまとめることで問い合わせ窓口を一元化できますし、CSチャンネルをネットワーク化して規模を担保することができます。
バラバラに行っていた膨大な量の作案も我々がまとめ、必要な管理まで全て請け負います。この「J:COM PMP」を、2019年の頭からトライアルで売ってきて、複数社様でご決定をいただいて好評だったので、昨年10月から正式にセールスをかけています。
─「J:COM PMP」の主な顧客は誰なのでしょうか?
「J:COM PMP」は基本的にスポンサー全般を対象とした商品になります。あとは、デジタル系のクライアント様にもご利用頂けるよう、デジタルで流した素材をそのままCSで展開したりもしています。
今までは動画というとテレビの素材しか、ありませんでしたが、今はデジタルの動画素材も増えているので、それをCSでご活用頂けるのではないか、と。
また、お持ちでない場合は、J:COMグループの動画マーケテイング会社プルークスでの制作も可能です。
─ プランニングや報告にデータを活用することで、どのような変化がありましたか?
詳細なデータを出したことで「どのような人が視聴しているのか」が推計できるようになったんです。今までは「映画ファンへの出稿なら映画専門チャンネルにお任せください」というような営業をしてきましたし、クライアント側もそれで納得されて物事が進んできたのですが、実際にデータを見ると、当然ながら映画だけ見ている人なんていないのです。
スポーツを見ている人やニュースを見ている人も映画を見ますし、スポーツチャンネルやニュースチャンネルの中にも、映画ファンは当たり前にいるんです。それを実際にデータで見て、どの時間帯に多くいるのかというところまで見極め、「大体こういうプランニングで出稿すると、これくらいのターゲットに当たりますよ」という算出をして提案しています。アクチュアルに関しても、ログを確認しながらデータをお渡しするという流れです。
─ データがあることによって説得力が出てきますよね。
今までは、「野球好きって映画チャンネルも見てるよね」とか、「女性も普通に野球見てるよね」というような感覚が、クライアント側に受け入れられにくかったんです。「お母さんと子どもには、実はこっちのチャンネルも見られてますよ」と薦めても理解されないことも。
しかし、きちんとデータを提示すれば、そのチャンネルにも普通にCMを出していただける。例えば子育てアプリのCMが、スポーツチャンネルでも流していただけたケースもあります。
また、商談が進み易くなりましたね。データがあれば、提案した後も社内での意思決定を促していただきやすいですし、放映後の視聴データもお返しできるので、改善していくための議論もできるようになりました。
─ データの見せ方で工夫したことはありますか?
レポートフォーマットですね。CMをインプレッションで表記し、デジタル系のフォーマットに統合しやすい形で作っているんです。デジタルに出稿したものの「認知度が上がらない」「高齢層が見てくれない」といった問題に直面して、「J:COM PMP」を使っていただいたケースがあるのですが、他のデジタル系の媒体と同一のフォーマットで報告できるようになっているので、比較・評価しやすいとご評価頂いています。
─ 参画しているチャンネルはどれくらいあるんですか?
今はグループチャンネルを含む14社くらいでやっていて、順次増やしていきたいと思っています。「J:COM PMP」で売るのは在庫枠なので、「データを活用し、マネタイズできていない部分を一緒にマネタイズしましょう」という方針を示すことができているのは強みです。
─ チャンネル各社にとっても、とてもいいお話ですね。
データを活用し、CS市場全体の魅力を可視化する。その視点に立ったのが、「J:COM PMP」ですね。弊社のデータを活用するので、プランニングからアクチュアル報告までを纏めさせて頂くことで、クライアントが市場全体をスムーズかつ容易に把握できるようになります。
それにより、もし煩雑さからCS広告を諦めていたクライアントがまた振り向いてくれれば、全てのステークホルダーにとって良い話になるのではないでしょうか。
「J:COM PMP」とテレビの未来
─「J:COM PMP」が目指しているものは何でしょうか?
デジタルと同じようなデータを使ってプランニングやアクチュアル報告を行いますが、あくまでテレビCMを効率的に視聴者に届けるための取り組みだと思っています。視聴者という大きな塊に広告を届けながら、データを元に効率の良いプランニングをして、塊のなかのターゲット含有率を上げていく。ただ、大きな塊に届くということはテレビの特性であり良さでもあるので、そこは活かしていきたいです。
─ データ面の現状と今後の目標をお聞かせください。
実際のプランニングでは、ターゲット像を指定します。それを単価いくらで何本出したら、インプレッションのトータルがどのくらいまで行くのかを算出し、出稿額で割ってインプレッション単価を出しています。世帯単位だけではなくターゲットの数字も含め、全て事前にお出しすることができます。
予算に対する効果の見通しを提示するということですね。事後には、CMの完視聴も算出しており、15秒のCMでは、90%前後が最後まで見られているというデータも出てきており、これはかなり高い数字だと思っています。CS のCM視聴は強制ではないわけですが、実はよく見られているんです。
映像視聴の専用デバイスのテレビで、音声がデフォルト、フル画面でのCM完視聴が90%前後。これが、PCやスマホと比べてどういう価値を持つのか、に興味がありますね。
─「J:COM PMP」の課題や改善していきたい点をお聞かせください。
プロセスのデジタライゼーションですね。今は視聴ログというデータを使って「こんなことができます」という段階。データもBIツールで見られるわけではありません。このあたりの改善や、取引プロセスのデジタル化が今後の課題だと思います。
─ テレビの安心感やメリットは活かしながら、ということでしょうか?
テレビは放送確認書を出すので、CMが確実に放映されたかどうかが明確ですし、培ってきた歴史も長いので安心してご利用いただけるのではないかと思います。
そして、テレビの一番のメリットは、様々な人に同時共視聴してもらえることです。
テレビの仕組みをネット広告のように完全にデジタル化してしまうと、今までのビジネスモデルと違いすぎて無理があるし、テレビにはテレビにしかない価値があるので、僕は「テレビは今のままで良くない?」と本当に思っているんです。ただ、ターゲットが「含まれているかいないかもわからない」では時代にそぐわないので、データを活用してターゲットの含有率を高める。これがテレビの理想的なビジネスモデルだと思います。
─ ありがとうございました。
<了>
遠田 智洋(えんだ ともひろ)
株式会社ジュピターテレコム(以下、J:COM)メディア・エンタテインメント事業統括室マネージャー。2001年に新卒で入社した広告代理店で新規営業に3年間携わり、J:COMの姉妹会社であった株式会社ジュピター・プログラミングに入社(現 J:COM)。広告営業部で大手広告代理店担当の営業、企画部を経験した。2017年5月よりメディア事業企画部(現メディア・エンタテインメント事業統括室)を兼務し、2018年4月からはメディア事業企画部に。部門の中期事業戦略、部門方針策定、新規事業開発推進の全般を担当している。