Synapse海外調査部発!急成長するインドOTT市場〜成功のカギは「低価格」「インド化」「海外配信」〜
以前、インドのテレビ業界の記事で、OTTを利用してインドのオリジナルコンテンツを国内外へ配信する事業に取り組んでいるGreen Gold Animation社を紹介しました。実はインドのOTT市場、ユーザー規模の大きさから、インド国内の企業だけでなくグローバルの企業が参入し、熾烈な競争をしていることで今、注目が集まっています。本記事は、Synapse海外編集部が取材した内容を元に、インドでOTT市場が活況を呈する背景とこれからについてお伝えしてまいります。
1.5年間で10倍の成長が見込まれるインドOTT市場
本題に入る前に、OTTの定義を改めて確認しておきます。OTTとは、Over-the-Topの略で、ケーブルネットワークやテレビチャンネルではなく、インターネットを介して視聴者にメディアを直接ストリーミングするサービスです。
インドITサービス会社、INDUS NET TECHNOLOGYのメディア発表によれば、インドは5億人のインターネットユーザーのうち、少なくとも1億8,000万人のアクティブなオンライン動画視聴者がおり、2020年には、インドに7億人以上のスマートフォンユーザーがいると見込まれています。(※1)
また、ボストン・コンサルティンググループの調べによると、2018年のインドOTT市場は5億ドル(3,560億ルピー)と評価されましたが、今後5年間で10倍の50億ドルまで成長すると予想されています。なお、2018年の世界のOTT市場規模は10億ドルでした。(※2)
インドのインターネットユーザーへアプローチしようとするグローバルOTT企業と、インド固有のOTT企業は、生き残りをかけて熾烈な争いを展開していることで、インドOTT市場は注目されています。しかし、その市場の特徴は、インド国内だけではなく海外にも大きな影響を与えているということです。前述の通り、インドOTT市場は50億ドルまで成長すると予想されていますが、海外への影響を考慮すると、その成長規模はまだまだ未知数と言えるでしょう。
2.年額365ルピー(約5ドル)で多言語コンテンツを配信するHotstarの躍進
インド初のオンラインムービーオンデマンドサービスであるBIGFLIXは、2012年1月にReliance Entertainment Digitalによって開始されました。このサービスにより、ユーザーはスマートフォン、タブレット、iPad、PCなどの複数の接続デバイス間でシームレスなストリーミングを体験できるようになりました。BIGFLIXを使用すると、ユーザーはアクション、コメディ、ドラマ、ロマンスなど、さまざまなジャンルの映画から見たいコンテンツを視聴できます。これは、ヒンディー語を除く最大10の言語に対応したポータルサイトです。
このインド固有のOTTに対し、Netflixが2016年1月に、Amazon Prime Videoがその年の12月に参入したことで、インドのビデオストリーミング市場で国内外OTTの競争が始まりました。
Janaのレポートによると、インドで人気となっているOTTアプリのダウンロードの割合(2018年の第1四半期時点)を俯瞰すると、インドOTTのHotstarが70%、インドOTTのVootは11%、Amazon Prime Videoは5%、Netflixは1.4%となっています。Hotstarが大きな割合を占めている理由は、ヒンディー語と英語の両方のコンテンツを用意しており、クリケットのコンテンツも配信しているためです。同系列のStar TVネットワークの番組も配信されており、テレビコンテンツの無料ストリーミングが可能となっているため、インド国内では非常に人気があるOTTです。(※3)
The Economic Timesの調べによれば、Hotstarは2019年、より安価な新しいサブスクリプションパック「Hotstar VIP」を発売しました。新しいパックでは、スポーツの生中継、オリジナルウェブコンテンツ(Hotstar Specials)、スターインディアのローカルコンテンツが年間365ルピー(約5ドル)で提供され、有料OTTサービスの中では最安値となりました。(※4)
ヒンディー語と英語のコンテンツ、安価なコストという点では、Hotstarの人気は今後も拡大していく可能性があります。
3.「インド化」されたコンテンツを海外へ配信するZEE5とNetflix
前述の通り、インドで5億人のインターネットユーザーのうち、少なくとも1億8,000万人のアクティブなオンライン動画視聴者がいることが分かっています。これらのユーザーにリーチできるコンテンツを配信するために、コンテンツの「インド化」を進めるグローバルOTTが現れ始めました。
米国に本拠を置くNetflixは、インドで今後数年間、12のオリジナル映画と12のオリジナルシリーズを配信する予定です。この分野がインドOTTの主要な成長ドライバーであると考えているため、多額の投資を行っています。インド国内の地域言語に対応するインターネットユーザーの増加が次のイノベーションと考えられていることを踏まえると、この成長市場に対する信頼は大きいと言えるでしょう。コンテンツがインドで成功するためには、コンテンツの「インド化」が必須です。
市場はインド国内だけには留まりません。ZEE5 Globalは2019年4月、マレー語、タイ語、インドネシア語、ドイツ語、ロシア語をプラットフォームに追加してコンテンツを17言語で提供し、更に新しい言語も近いうちに追加予定と発表しました。これにより、ZEE5 Globalは世界中のオーディエンスが自分で言語を選択できるエンターテインメントを提供できるようになります。(※5)
また、インド国内のアニメ会社であるGreen Gold Animation社は、Netflixと協業してインド独自のアニメコンテンツ、Mighty Little Bheemを海外に配信するようになりました。
4.まとめ
インドOTTの歴史は2012年のオンラインムービーオンデマンドサービスBIGFLIXに始まり、2016年にはNetflixとAmazon Prime Videoが参入、近年では低価格化、番組のローカライズ、海外配信が成功のカギを握る時代となっています。
inc42の調べにもあるように、インドOTTを論じる記事では、インドOTT対グローバルOTTの競争という見出しが紙面を賑わせるほどです。(※6)
インドOTTのHotstarは低価格を武器にシェアを増やし、一方グローバルOTTのNetflixはコンテンツの「インド化」を進めることでその牙城を崩そうとしています。さらにはインドのOTTとグローバルOTTが「インド化」されたOTTコンテンツを海外へ配信しているのも見逃せません。Synapse海外編集部では、今後もインド・グローバルOTTの動向をフォローしてまいります。
(了)
<注釈>
※1 https://www.indusnet.co.in/ott-will-drive-innovation-2018-india/
※2 https://www.techcircle.in/2018/11/21/indian-ott-market-to-grow-10-times-to-5-bn-by-2023-bcg
※3 https://variety.com/2018/digital/asia/hotstar-leads-india-ott-streaming-market-1202825065/
※4 https://economictimes.indiatimes.com/industry/media/entertainment/media/hotstar-launches-new-subscription-pack-ahead-of-ipl/articleshow/68490906.cms?from=mdr
※5 https://kyodonewsprwire.jp/release/201904265901
※6 https://inc42.com/datalab/indias-growing-regional-language-user-base-driving-up-investments-in-ott-streaming-space/