「Plutus Fest」カンファレンスでIOHKが語った、インフラに溶け込んだブロックチェーンが社会問題を解決する未来

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「Plutus Fest」カンファレンスでIOHKが語った、インフラに溶け込んだブロックチェーンが社会問題を解決する未来

前回、仮想通貨イーサリアムの元開発者チャールズ・ホスキンソン氏は、同氏が立ち上げたIOHK(Input Output Hong Kong)では「信頼を得るために根気強く進めてきた」と語られました。信頼を得るために必要なアプローチとは。2018年12月、IOHK初の公開カンファレンス「Plutus Fest」(於 スコットランドのエジンバラ大学)で、チャールズ・ホスキンソン氏、IOHKチーフサイエンティストのアゲロス・カヤステス氏の登壇内容から、ブロックチェーンを信頼できるものにするために欠かせないこと、またIOHKが目指す未来に迫ります。

未来の社会インフラにブロックチェーンを活用する

ホスキンソン氏のビジョンは、「貧しいなどの理由で財務サービスを利用する環境を持たない世界の30億人が、P2P(ピア・ツー・ピア)技術を使ってそれを利用できるようにする」というある意味で人道的なものです。

仮想通貨は現在のところ投機目的で語られることが多くあり、ホスキンソン氏はこのような現状を、1990年代末のITバブルに例えます。

ドットコムバブルでは、ドットコムと名のつく企業が実態のないまま多額の資金が流れ込んだという歴史があります。しかし、実際には投機だけがブロックチェーンの焦点ではありません。

今回発表したMarloweは、非プログラマーを想定して設計した会計用スマートコントラクト技術です。これを利用して、プログラミングの知識のない銀行や企業の人が、Cardano上で自動的に財務取引を行うソフトウェアを作成できます。

初の公開カンファレンスをエジンバラ大学で開催したことには理由がありました。

学術的な手法で自分たちのブロックチェーン技術を高めることを重要な目標として掲げており、金融学の歴史が古いエジンバラ大学の情報学部内に、「Edinburgh Blockchain Technology Laboratory(BTL)」を2017年に立ち上げました。これは、アゲロス・カヤステス氏も深く関与しました。

オープンに公正な評価を受けることで、信頼につなげる

カヤステス氏は、「基礎研究をオープンにしている。科学が公正に意味のある形で前進し、社会と関連性を持つために重要なプロセスだ」と、オープンソースとして成果を公開・共有することをポリシーの1つに挙げています。

ここで重要なプロセスとなるのが"ピアレビュー(査読)"です。論文を公開してピア(仲間)によるレビューを受けるというものですが、誰が書いた論文かわからない上、誰のレビューかもわからないダブル・ブラインドというやり方で行っています。

カヤステス氏はこれを「かなり厳しいプロセス」という一方で、これが公正さにつながると考えています。「社内でレビューして製品開発することもできるが、この分野全体の成熟につながるし、われわれにとっても早期に理解できるので競争優位性につながる」と学術的なピアレビューを戦略的に用いている狙いも明かしました。

ホスキンソン氏も、論文を公開してピアレビューとして査読できるようにすることで、「信頼を獲得できる。これこそ科学が進化してきた方法だ」と語ります。

「"信頼"は仮想通貨に最も欠けているもの。ブロックチェーンなどの新しいシステムが機能することを検証し、示さなければならない。企業や政府は大学で研究者が取り組んでいるものには懐疑の目を向けない」

バブルではなく長期的に社会を変える技術になる――キャリアをこの分野にかけてきたホスキンソン氏の信念を感じますが、この手法は、ブロックチェーンが目指す"分散型"の哲学に合うものでもあります。

IOHKはエジンバラ大学のほか、東京工業大学、アテネ大学とも研究開発を進めており、東工大では、同大学が先行しているとするマルチパーティコンピュテーション(MPC)を中心に、スマートコントラクトへの活用などの取り組みが進んでいます。

ホスキンソン氏はイーサリアムとの違いをポーカーに例えて説明しました。

「イーサリアムではブロックチェーン内にある全ての参加者の全アクションが記録されるが、ポーカーで重要なのは"賞金が支払われたか""ゲームが公正に行われたか"であって、ゲームの内容そのものではない。MPCによりゲーム全体をオフチェーンにできる。プライベートなネットワークでプレイヤー間がやりとりし、終了するときにブロックチェーンに記録が残ることを可能にする」


エジンバラ大学で開催されたイベントの様子

農作物の品質保証をブロックチェーンで

MPCは私的なスマートコントラクトなど様々な分野への応用につながると言います。一例として、企業が自社の平均報酬を計算する際に、全員の報酬を足して社員数で割る計算ではそれぞれの報酬がわかってしまいますが、MPCを利用することで、各社員の報酬を見ることなく平均を出せるという話を紹介しました。

既に財務システムにアクセスできるほとんどの日本企業は、ブロックチェーンをどう活用できるのでしょうか。ホスキンソン氏は「輸出企業なら安全な取引ができる」と言います。

「銀行なら、顧客管理に役立てられる。顧客を適切に扱っているか、適切なサービスを提供しているかを確認したり、取引リスクを査定したりもできる」

「また、活用の方向性のひとつとして、人口が減少する地方なら、戦略的に技術への投資をすることで、そこに住む人にとって魅力的な場所に変えられる」とも述べます。

「例えば、農業テックとブロックチェーンの組み合わせで可能性は広がる。われわれはエチオピアのコーヒー園でブロックチェーンを利用して品質保証を行う取り組みを始めているが、日本なら米でできるだろう」

また、部品の安全性をより確実にできるトレーサビリティは、消費者に自社の持続性やフェアトレードの取り組みを証明できるツールとなり得ます。

「消費者は商品を購入するにあたって、商品の製造プロセスを気にするようになった。このコーヒー豆はどのように栽培され、そこで働いている人たちが適正に扱われているのか、このようなトレーサビリティはブロックチェーンを使えば簡単に実現できる」

こうした活用の示唆とともに、「日本企業によるブロックチェーンの受け入れ状況については、遅れているわけではない。大企業の多くがブロックチェーンを研究するチームを設けて可能性を探っているが、これは欧米も同じ」と現状を伝えました。

ブロックチェーンがインフラと融合する将来

現在の仮想通貨は投機的な側面が強いですが、ブロックチェーンと仮想通貨が社会の将来を変えるという当初の理念に変わりはありません。「ブロックチェーンと分散台帳は、5年もすれば既存のインフラと融合するだろう。物事を進める方法が変わるはずだ」とカヤステス氏は展望します。

「大事なのはエンドユーザーが意識することなく利益を享受できることだ。メリットの1つが、イノベーションのためのプラットフォームが公正になること。ITはパワフルだが、フェイクニュースなど負の側面も持つ。ブロックチェーンは意味ある方法でインフラと融合し、送金などのコストを削減し、人々をエンパワーできる」とカヤステス氏。

「現在のように特定企業がグローバルレベルのサービスプロバイダーになる中央集権型から、より公正な土台ができるはずだ」と期待を述べました。

「IOHKはあくまでも"技術企業"を名乗っている。Cardanoの強みは特許ライセンスのないパテントフリーであり、永続するように設計しており、また拡張性と信頼性も優れている。われわれの技術を選ばなくても、ブロックチェーンを受け入れれば相互運用性を持つ可能性があり、間接的にわれわれの技術を利用している可能性が高い」とホスキンソン氏。

価値や情報を各ブロックチェーンで受け渡しできるための取り組みが進んでいることにも触れました。

天才数学者と呼ばれるホスキンソン氏。ブロックチェーンが未来のインフラに溶け込み、社会問題を解決していくという理念を実現するべく、一歩一歩テクノロジーを前進させています。

<了>

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