【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】アカデミー賞前哨戦のゴールデングローブ賞でヴィーガンメニューが導入された理由とは
ゴールデングローブ賞といえば、アカデミー賞前哨戦のなかでももっとも盛大に報じられるため、その後のレース展開に大きな影響を及ぼすことで知られている。だが、今年の授賞式で導入された新たな試みによって、私たちの生活も影響を受けることになるかもしれない。
(c) HFPA
ゴールデングローブ賞の授賞式は、劇場で行われるアカデミー賞とは違ってホテルの宴会場で行われるため、出席者は食事やアルコール類を楽しむことができる。料理はコースになっており、近年は食の多様性を重んじて、ベジタリアン向けも提供されている。今年のメインには肉料理がなく、魚料理かヴィーガン向けの選択肢が用意された。菜食主義者であるベジタリアンが卵や乳製品を食べるのに対し、ヴィーガンは植物に由来する食材しか口にしないため、絶対菜食主義者や純粋菜食主義者などと呼ばれる。今回ヴィーガン向けに用意されたのは、エリンギをホタテの貝柱に見立てた料理で、すべてが植物由来のもので出来ていた。
だが、授賞式まで2週間を切った時点で、コースの全料理がヴィーガン向けに切り替えられた。魚料理は取り下げられ、メインはホタテの貝柱風エリンギのみ。生クリームやゼラチン、卵などが用いられていたデザートも変更。もともとヴィーガン向けだったスープと合わせて、絶対菜食主義者向けメニューとなったのだ。ゴールデングローブ賞はもちろん、あらゆる授賞式で提供されるメニューとして史上初の試みだった。
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その理由は、地球温暖化対策だ。近年、食肉や乳製品の加工に関する畜産が大量の温室効果ガスを生み出していることが明らかになっており、昨年国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)においては、排出量削減のためには肉を食べない食生活への転換が提言されていた。
さらに、オーストラリアで猛威をふるっている大規模な森林火災が追い打ちをかけた。気候変動との因果関係が否定できない事態になったため、ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)は直前になってメニュー変更を決定したのである。
▲クエンティン・タランティーノ
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▲ホアキン・フェニックス、ルーニー・マーラ
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もともとヴィーガンで、「ジョーカー」で主演男優賞(ドラマ部門)を受賞したホアキン・フェニックスは、「授賞式で何かを口に出来たのは今回が初めてだったよ」と、HFPAの英断を讃えた。「もはや動物食品を摂取するのは、個人的な選択ではない。世界中で劇的な結果をもたらしてしまっている」と、食生活の転換を求めた。
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2018年のゴールデングローブ賞は、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ騒動後、はじめてセレブが集う機会となったため、Me Tooやタイムズ・アップなどが大きく注目を集めることになった。その後、女性の権利をめぐるムーブメントが大きなうねりとなっていたのは、ご存じの通りである。
今回のゴールデングローブ賞に続き、放送映画批評家協会賞、全米俳優組合賞で提供される食事もすべてヴィーガン向けとなった。このまま一般に広がっていくのか、あるいは一時のブームで終わるのか、今後の動向に注目である。
<了>