【TV2020】オカルト的な"1%の真実味"に人は集まる〜株式会社たきびファクトリー代表 寺井広樹さん〜

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【TV2020】オカルト的な

株式会社たきびファクトリー代表 寺井広樹さん



寺井さんは「涙活」「離婚式」など、メディアからも注目される企画を次々と生み出すプランナーです。しかし、自身はテレビやネットをほとんど観ないというライフスタイルを続け、あくまで自分が興味を持てるものを突き詰めている。そんな独自のスタンスを貫く寺井さんには、テレビやネットの現在の姿はどう映るのでしょうか?多くの人の心を惹きつけるプランナーの感性に迫ります。



株式会社たきびファクトリー代表、文筆家 寺井広樹(てらい ひろき)さん

日本初の"離婚式プランナー"として国内外のメディアから注目を集め、これまで600組以上の離婚式をプロデュース。涙を流すことで心のデトックスを図る「涙活」を発案、銚子電鉄とタッグを組んで企画した「お化け屋敷電車」「まずい棒」が話題に。世界中の文房具コーナーの"試し書き"を集めるコレクターとしても知られる。

『企画はひっくり返すだけ!』(CCCメディアハウス)、『「試し書き」から見えた世界』(ごま書房新社)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、『電車を止めるな!』(PHP研究所)など約60冊の著書を執筆。


面白いのは、人間の"素"


─普段はテレビやネットをほとんど観ないとお聞きしましたが、情報源はどこから?

ライフワークとして収集している文房具コーナーの「試し書き」の紙は情報を知る手がかりの一つになっています。


―"試し書き"を集め始めたきっかけは?

2007年に海外を放浪していた時にたまたま立ち寄ったベルギーの文房具店で出会った「試し書き」に一目ぼれしたのがきっかけです。試し書きには言葉にならない魂の叫び、人の"素"が現れるのでまさに"無意識のアート"なんです。書いた人の年齢、性別、職業などを想像するのも楽しいです。答え合わせはできないんですけど(笑)。


―寺井さんにとって試し書きは"娯楽"でもあるんですね。でも、テレビやネットの情報がないと人との会話で困ることはありませんか?

知ったかぶりをして話を合わせます(笑)。試し書きには、いま流行っていることや話題の人物が書かれる傾向があります。

壇蜜さんや、ピコ太郎さんの「ペンパイナッポーアッポーペン」も、試し書きから知りました。「壇蜜」はしばらく食べ物の名前だと思っていたんですけど、電車の中吊り広告で艶めかしい女性がいて「この人のことだったんだ!」って(笑)。「ペンパイナッポーアッポーペン」に至っては、ペンの名前だと思っていましたからね。調べたら、パンチパーマにド派手なヒョウ柄服の男性がリズミカルに歌っていらして想像を超えていました。


―試し書きに世相なども反映されているんですね。

「あいうえお」、地名やグルグル模様などが多いですが、「消費税増税」や「令和」、震災時の「絆」などその時代を映す鏡でもあります。

画数の多い難しい漢字を書きたくなるようで、大河ドラマ『麒麟がくる』の影響か「麒麟」や欅坂46の「欅」など、難しい字を書いて人に自慢したいという気持ちの表れでしょうか。「剛力彩芽」さんもよくお見掛けします。リアルタイムではありませんが、少し遅れて世の中の動向を知ることができるんです。



試し書きからわかる人物像


─書き手の人物像もおわかりになるとのこと、どのようなところに特徴が表れるんでしょうか?

たとえば『アナと雪の女王』の影響で雪ダルマを3段で描く人が多くなり、うんこマークでも年齢がだいたいわかります(笑)。アラレちゃん世代はトグロを巻いたうんこを描けますが20代の人はもっとリアルなうんこを描きます。最近では小さいお子さんで『うんこドリル』のキャラを描く人が出てきて、私はこれを「うんこの第6世代」と呼んでいます。

店によってお客さんの年齢層や属性が違っていて、書かれるワードに特徴があるのも面白いですよ。学生街の文具店だと「墾田永年私財法」をよく見かけます(笑)。

若い女性が書いたようなポップな書き込みが並ぶ中に突如、「金目鯛姿煮」という厳めしい筆文字が覆い被さったのを見ると、SNSに似た風情を感じますね。自撮り女子の映える投稿に、空気の読めないオッサンがコメントしてタイムラインを荒らしてしまう、みたいな(笑)。


─若い女性の間でアートっぽい文字が流行っているとも聞いたことがあります。

確かに見かけますね。文字も"インスタ映え"を狙う時代なのかもしれません。

試し書きの内容を見ても、最近はSNS上のように、承認欲求の強い人たちが増えているんです。「遠距離恋愛中の彼氏からプレゼントもらった」みたいな、"リア充"ぶった試し書きとか。「いいね!」を求めるような内容が散見されて、無意識で書く時代から人目を意識した試し書きに時代が変わってきたのかなと感じます。シロップがかかったホットケーキが描いてあると、誰かが撮ってくれるのを狙ってるんじゃないか...なんて思ったりも。


─地域でも特徴がありますか?

大阪では他人が書いた線の上におかまいなしに無造作に線が書いてあったりします。「なんでやねん!」とツッコミを入れたかと思うと、何かを言い切ったあとに「知らんけど」と自分で小さく書き足してあったり。

余談ですが、二子玉川エリアの文房具店は厳しくて、どこの店も試し書きの紙を譲ってくれないんですよ。試し書き譲渡禁止令でも発令されているのでしょうか(笑)。名前や住所の一部など個人情報を書く人もいるから難しいんでしょうかね。


─試し書き、奥が深いですね。

集め始めてから十数年なので、まだまだです。江戸時代でも試し書きはあったと思うのに、それが手に入らないのが悔しくて。平成から令和まではクリアしているので今後も精進して、いつか歴史的文献として発表できたらと。目下、ルーヴル美術館で試し書きの展示会が開催できると嬉しいです。


フランスで入手したクレヨンで描かれた試し書き。

ルーヴルでの展示会が実現した暁には額装して飾りたいと寺井氏は語る。


ひっくり返し技で、企画が生まれる


─試し書き以外にも、離婚式、涙活、まずい棒など、寺井さんが手がける企画は次々に話題になります。企画や発想はどこから生まれるのでしょうか?

常にあるのは「逆の発想」です。たとえば結婚式→離婚式。新郎新婦→旧郎旧婦、仲人→裂人(さこうど)とか。ひっくり返すだけなので非常にシンプルです。

実は、「涙活」のアイデアは「離婚式」から生まれました。離婚式では旧郎様が涙を流すケースが多いのですが、出会ってから別れるまでのスライドショーをご覧になられて、泣いたあとにスッキリしたお顔に切り替わるのを見たとき、「涙には何か凄いパワーがあるのかな?」と思ったんです。調べてみたら、涙1粒流しただけでストレス解消が1週間続くと書いてあり、私も思いっきり泣いてみたら本当にスッキリしたので「これはいいな!」と。


─涙活や離婚式はテレビでも大々的に取り上げられましたよね。

離婚式を始めたころは最初、メディアに向けて101通手紙を出しましたが涙活を始めてからは売り込みをしなくなりましたね。私のFacebookなどに書いた情報をマスコミの方が見つけて、取材依頼をいただく流れが多いです。

離婚式より涙活のほうが話題になったのも、より多くの人に当てはまり真似しやすいからだと思います。「涙活」という言葉は、神楽坂を自転車漕いでる時に思いついて、その翌日に商標登録申請をしました。何か企画を思いついたときに「これくらいの人たちがつぶやいてくれるかも?」と想像するのが楽しいです。なかなか予想通りにはいきませんが、その通りになると嬉しいですね。


─自身のやっていることを世間に知ってほしいという願望は?

自分のやってることを広く世間に知ってもらいたいとか、ちょっとおこがましくて何だか恥ずかしいですね・・・離婚式や涙活に関してはビジネスですので「こういったサービスや事業を広めなくては」という思いもありましたが、試し書きはあくまで趣味ですし、「もしメディアで紹介されて、みんな無意識に書いてくれなくなったり、ほかの人も試し書きを集めるようになったらどうしよう」という懸念があったので、最初は取材をすべてお断りしていました。でも、そんな心配はまったく要らなかった。試し書きを集める人なんていなかったので(笑)。

結婚式よりも離婚式で感じるリアル


─寺井さんの企画は一見ジャンルがバラバラなようでいて、人の生活や感情の要に関わるものが多いですね。

人の"素"に対する興味は、試し書きもそうですが、離婚式や涙活にも共通しています。素の部分や本音にしか興味がありません。

知人の結婚式に参加することがありますが、離婚式に慣れてしまうと、言葉は悪いですけど結婚式が嘘っぽく見えてしまうときがあります。離婚式では「離婚したあとも力を合わせてお子さんを育てることを誓いますか?」とご夫婦にお子さんの前で誓っていただくのですが、そのときの「はい」という言葉はすごく信用できる。結婚式の「永遠の愛を誓いますか?」に対する「はい」とは重みが違います。

テレビに対しても同様で、たとえばドキュメンタリーであっても作り手の意図を考えるとどうしても作り物に見えてしまって興味が薄れてしまうことがあります。


─基本的には、エンターテインメント目線で企画を考えていますか?

世間の関心度が一番高いのはやっぱり健康ですよね。今は高齢化社会なのでその意識はますます強くなっていくと思います。

日本一のエンタメ鉄道を目指している銚子電鉄さんとも今後、健康をテーマに何かできないか考えています。銚電さんとご一緒に作らせていただいた「まずい棒」は、作る前からヒットするだろうと思っていましたがオリジナル商品の企業様から怒られないかヒヤヒヤしました(笑)


─でも、悪ふざけではなく真面目に、真摯に向き合っている印象があります。

真面目にふざけるのが重要だと考えています。「パクリスペクト」(パクリ+リスペクト)と呼んでいるのですが、オマージュやパロディの前提には、リスペクトがないとダメだと考えているんです。パクって炎上みたいな事例を耳にすることもありますが、オリジナルに対するリスペクトがきちんと伝わっていれば、また違う結果になっていたのではないかと思います。



"1%の真実味"に人は集まる


─より話題性のある企画を作るために心がけていることは?

「賛否両論があること」は常に意識しています。涙活を「胡散臭い」「あやしい宗教みたい」と言う人も中にいますが、実はそう見られることを意図している部分もあるんです。「程よいうさんくささ」が話題性や魅力につながるからです。

「イケメソ宅泣便」という涙活のコンテンツはまさにそうです。イケメンがオフィスに出張してお客さんの涙を拭うサービスですが、「めちゃくちゃ怪しいけど、なるほど福利厚生を目的とした法人限定のきちんとしたサービス、でも胡散臭い・・・」という絶妙なバランスを狙っています。

この感覚は昔のオカルト番組にも共通しています。「そんなもの本当にあるのか」と99%思いながら、1%どうしても信じたくなる余白がオカルト番組の面白さであり、そこに病みつきになる人も多かったんだと思います。"1%の真実味"に、人は惹きつけられるんです。「本当に離婚式なんてやる人いるの?」「まずい棒なんて、そんな商品作って正気?」と目を疑いたくなるような虚構新聞を地でいってる感じです(笑)。怖いもの見たさにも通じるところがあるかもしれません。


─「離婚式」など言葉自体がキャッチーですよね。何かこだわりはあるのでしょうか?

若い人たちはYouTubeなどで短い動画に慣れているせいか、長時間座って長編映画を観ることが苦痛だという人も少なくないようです。また、複数のSNSをスピーディーに切り替えて操作することも当たり前で、それを考慮すると、わかりやすいものじゃないと興味を持ってもらえないと思います。

昔のテレビは、CM前に「○○(大物芸能人)が、この後すぐ!」とか煽って、面白いものを後ろに持ってきているイメージがありましたが、今の視聴者は待ってくれない。YouTubeでは最初の5秒が勝負でしょう。いつも3秒で人に説明できるものを作ることを意識しています。



熱量が感じられるものは面白い


─今回は【TV2020】という企画なのですが...寺井さんはテレビをご覧にならないとのこと。

YouTubeで昭和や平成初期のテレビ番組を観ることがありますがもう10年近くまともにテレビを観ていないです。世間の情報に触れる機会は試し書き以外だと、ラジオですね。TOKYO FMの「Blue Ocean(ブルー・オーシャン)」を聴いたりしています。


─YouTubeで昔のテレビ番組をご覧になるということは、元々はテレビお好きなんですね。

テレビっ子でしたよ。『やるならやらねば!』とか『風雲!たけし城』、『東映不思議コメディーシリーズ』は、録画してVHSが擦り切れるくらい観ていました。心霊やスピ系の番組も大好きだったのですが、やらなくなってから観るものがなくなってしまい、地デジ化で完全に離れてしまいました。


─昔のテレビ番組のほうが面白かったと思われますか?

改めて『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』を観ると、やっぱり最高ですね。爆破、カーチェイス、ヘリチェイスなど映画1本撮るぐらいの費用がかかっているのではないかと思うものもあります。加藤さんと志村さんが200~300人に追いかけられるシーンとか。たった何秒かのシーンにあれだけのエキストラを集められるなんて、今では考えられないですよね。今はコンプライアンスも厳しくなっているし、資金面もあるんでしょうけど、あの頃の制作者は「面白いことをやってやろう!」という思いが強く、ものすごく熱量を感じます。

あと、今は画質が良すぎますよね。昔は画質が悪かったからこそ心霊写真やネッシーの画にも"1%の真実味"が生まれて、ワクワクするコンテンツができていたと思いますが、今の4Kとかで撮られちゃったら厳しいものがあると思います。謎とロマンの世界は画質がわるいぐらいが丁度良いんです(笑)。スナッフフィルム(殺人記録ビデオ)仕立ての日野日出志先生の『ギニーピッグ』という作品は、画質が悪いのも相まって「本当の殺人映像なのかもしれない」と感じさせる生々しさがありました。あのチャーリー・シーンが「本物」だと勘違いしてFBIに通報したという噂があるほどです。


─寺井さんが今「面白い」と思う人やものはありますか?

いわゆる"エロ本"を作っている人たちに興味があります。今はDVDがメインですし、エロコンテンツがネットで簡単に手に入りますよね。そんな時代にエロ本を作っている人って、ものすごいクリエイターで一流の職人さんだと思うんですよ。

また、同人誌のイベントなどに行くと、作り手の人たちの情熱・エネルギーに圧倒されます。私たちが学生時代に楽しんでいたメディアに近いものを感じますね。『加トケン』やオカルト番組をリアルタイムで体験できたあの時代に生まれたのは本当に幸せでした。


─本日は、ありがとうございました。

<了>

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