【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】低予算&リモート可能! “スクリーンライフ”映画は新たな人気ジャンルとなるか?
今年3月、新型コロナウイルスの感染拡大により、ハリウッドでは映画やテレビの制作が一斉にストップした。アメリカ各州で外出禁止令が段階的に緩和され、ようやく制作再開の動きが出始めているものの、さまざまな安全対策を講じる必要がある。ワクチンや治療薬が開発されるまでは、映像制作の現場が元に戻ることはなさそうだ。
そんななか、コロナ渦の影響をまったく受けずに制作を続けているBazelevsという会社がある。Bazelevsとは、「ナイト・ウォッチ」がロシアで大ヒットし、アンジェリーナ・ジョリー主演の「ウォンテッド」でハリウッド進出を果たしたティムール・ベクマンベトフ監督の制作会社だ。
「過去数ヶ月のあいだ、私たちは(コロナ感染対策のために課せられた)制約のなかで唯一働きつづけることができる技術を持っていることに気づきました」とベクマンベトフ監督は米Deadlineの取材で説明(※)。
「俳優の1人はロンドンにいて、彼のスクリーンをロサンゼルスから撮影できます。さらに彼はシドニーにいる役者と画面を通じて共演できるんです。」
Bazelevsが制作を続けられるのは、“スクリーンライフ”と呼ばれる新ジャンルの映画を手がけているからだ。
スクリーンライフを理解するためには、Bazelevsが手がけた「search/サーチ」(アニーシュ・チャガンティ監督)を観るのがてっとり早い。主人公デビッド(ジョン・チョー)は妻に先立たれ、男手ひとつで高校生の娘を育てる父親だ。突然、娘が失踪したことをきっかけに、娘の交友関係をSNSで探ったり、担当刑事の力を借りたりしながら、捜索を進めていくというサスペンス映画である。
この映画が革新的なのは、物語がコンピューター画面や携帯のスクリーンだけで展開する点だ。主人公はGoogleやSNSを駆使し、誰かと会話をするときは、ビデオ通話やテキストメッセージのウィンドウが開く仕掛けだ。すべてがコンピューター画面で完結するので、通常の撮影機材は一切使われていないし、共演者が同じ場所にいる必要もない。だからこそ、リモートワークが可能なのだ。
「search/サーチ」は2018年のサンダンス映画祭でプレミア上映され、ソニー・ピクチャーズが配給権を獲得。制作費88万ドルに対して、世界総興収7500万ドルのヒットを記録している。Bazelevsはスクリーンライフ第2弾として「アンフレンデッド:ダークウェブ」(スティーヴン・サスコ監督)を制作。SNSでのイジメが引き起こす恐怖を描くスリラーで、こちらも制作費100万ドルに対して世界総興収6500万ドルというヒットを飛ばしている。
その後もBazelevsは「search/サーチ」の続編や「ロミオとジュリエット」を題材にしたスクリーンライフ映画の製作を続けており、企画開発中の作品もあわせるとその数は50本にも及ぶという。そして、このたび、「アンフレンデッド:ダークウェブ」を配給した米ユニバーサル・ピクチャーズと新作映画5本の契約を締結。スクリーンライフ映画が今後も公開されていくことになった。
ベクマンベトフ監督によれば、新型コロナの感染拡大がスクリーンライフの追い風となっているという。リモートワークが可能であるばかりか、世界中の人々が自主隔離生活を体験することで、“スクリーンライフ”のコンセプトが理解されやすくなったためだという。言われてみれば、ZOOM会議やSNS、ストリーミング動画視聴など、日常生活においてPC画面を見る機会がぐっと増えた。
かつて「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」が大ヒットしたことをきっかけに、“ファウンド・フッテージ”というジャンルが人気を博したことがある。撮影者が行方不明になった映像がそのまま流されるという手法で、「パラノーマル・アクティビティ」シリーズをはじめ、「クローバーフィールド」「クロニクル」など多くの映画で採用されることになった。
“スクリーンライフ”は現時点ではニッチなジャンルだが、サスペンスだけでなく、SFやファンタジー、ラブコメディなどでも通用することが証明されれば、一気にブームとなりそうだ。
※https://deadline.com/2020/06/screenlife-films-timur-bekmambetov-universal-pictures-five-picture-deal-searching-1202954611/
<了>