【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】新型コロナの影響でドライブインシアターに脚光
アメリカにおいてドライブインシアターが、再び脚光を浴びている。新型コロナウイルスと共生するための新しい生活様式に、過去の遺物と思われていた娯楽施設が見事に当てはまったためだ。
そもそも巨大な駐車場にスクリーンを配置し、自動車に乗車したままの映画鑑賞を提供する屋外映画館がはじめて登場したのは、1930年代のこと。だが、ドライブインシアターが全盛期を迎えるのは1950年代に入ってからで、ピーク時の1958年には全米で4063館あったという。
ドライブインシアターの興隆は、1945年の第二次世界大戦の終結が大きく関与している。戦勝国となったアメリカでは、消費ブームにのってマイカーの所有率が一気にアップ。また、帰還した兵士や安堵した人々が子作りに励んだため、ベビーブームが到来。1946年から1964年の時期に生まれたアメリカ人は8000万人近くもいる。
新たに開拓された郊外の住宅地に移り住んだ若い家庭が週末の娯楽に選んだのは、ドライブインシアターだった。街の中心部にある従来の映画館と比較して入場料が安く、幼い子供がいても他人に迷惑をかけない。かくしてドライブインシアターはアメリカ生活に欠かせないものとなった。
だが、ホームエンターテインメントの発達とともに、ドライブインシアターは廃れていく。映像コンテンツをカラーテレビやケーブルテレビ、レンタルビデオなどを通じて家庭で視聴できれば、わざわざドライブインに行く必要がない。また、没入体験をしたければ、大画面と高音質を提供する従来の屋内映画館のほうがいい。
こうした状況に危機感を覚えたドライブインシアター側は、ホラーやポルノなど一般劇場が敬遠する映画を上映することで差別化を図り、ますますニッチな存在になっていった。その後は、若いカップルが人目を忍んで車内でいちゃつく場所として利用されるようになり、ドライブインシアターはpassion pit(情熱の巣)と呼ばれるようになった。
全盛期には4000館以上あったドライブインシアターは、2019年には300館あまりまで落ち込んでいた。屋内の劇場がIMAXやスタジアムシートなどで視聴環境を充実させ、家庭ではストリーミング配信がますます充実するようになっていくなかで、まさに風前の灯火となっていた。
だが、新型コロナウイルスが状況を一変させた。
今年3月からアメリカでは感染が拡大し、それにともない各州で自宅待機令が発令。当然のことながら、映画館も閉鎖となった。その後、徐々に経済活動の再開が認められていったものの、感染者の多いロサンゼルス、サンフランシスコといった大都市では映画館再開の目途は立っていない。
その一方で、屋外営業のドライブインシアターはとっくに営業を再開させている。ロサンゼルス近郊にあるパラマウント・ドライブインでは、車間距離を開けるなどの対策を取ったうえで6月に営業を再開。上映作品は旧作ながら、連日賑わいを見せている。最近は少しずつ新作が増えて、現在はラッセル・クロウ主演の新作「Unhinged(原題)」を一晩に2回上映。大人は10ドル、子供は4ドルだ。
いまドライブインシアターが受けているのは、コロナ渦でも安全に楽しめる娯楽だからだ。車のなかに留まっているから、他人とソーシャルディスタンスを維持できる。同時に、家を離れ、気分転換を図るチャンスでもある。それぞれ別の車に隔離されているとはいえ、同じ映画を他人と一緒に体験するのは格別な気分だろう。
ドライブインシアター人気を受けて、仮設のシアターも増えている。たとえば、人気女優のシャーリーズ・セロンは、ロサンゼルスのショッピングセンターの駐車場で、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の上映会を主催。自身が主催するチャリティ団体の寄付金集めのためのイベントで、ドライブイン形式で上映がおこなわれた。
ソニー・ピクチャーズも、夏季限定で本社の屋外駐車場を即席のドライブインシアターに改装。「ゴーストバスターズ」から「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」まで新旧の自社作品を車1台あたり30ドルで提供している。
近いうちにアメリカ全土で映画館が再開するだろうが、新型コロナの収束までは映画館での鑑賞を敬遠する人は一定数いそうだ。ドライブインシアターはそんな映画ファンの受け皿となってくれるだろう。
<了>