〜高木三四郎〜エンタメを極めるDDTプロレスリングの独自性 Vol.3
(左から) 電通 服部 展明氏 DDTプロレスリング 高木 三四郎氏
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効果的なデジタルメディアの活用
服部
高木さんはプロレスラーとしてだけでなく、団体の経営者としての顔もお持ちです。そこで大切なのは、やはり人材をいかに育てるかだと思いますが、その点についてはいかがお考えですか?
高木
人材育成はとても重要です。なんといっても若い人に入って来てもらわないと、団体として継続していけない。ですから、学生プロレスから人材を集めるだけでなく、もうちょっと下の世代にもアプローチをしています。
例えば、YouTubeをまめにチェックしていると、中学生ぐらいの子が「プロレスごっこ」をしている映像が見つかります。そういった子どもたちのなかに「オッ」と思わせるものがあれば、「将来はDDTでプロレスラーにならないか」と個別に勧誘したりしています。現在、若手の有望株である竹下幸之介やMAO(マオ)などは、そうやって見つけた選手です。
服部
人材発掘にソーシャルメディアを活用されているんですね。
高木
僕はその辺はすぐに飛びつくんです(笑)。TwitterやFacebookなども早くからやっていますし、TikTokもすぐに始めました。こうしたSNSメディアは、特定の趣味嗜好を持った人とダイレクトにつながることができるので、プロレス人材の発掘にも効果的ですね。
服部
高木さんはとにかくデジタルメディアの使い方がうまいですよね。動画配信を始められたのもプロレス業界では非常に早かったと思います。かつては基本的にテレビビジネスだったプロレスが、地上波テレビでの放映がなかなかできない時代になる中、かなり初期からインターネットを使った動画配信をされていましたよね。
高木
これからはそういう時代になるだろうなと、10年前くらいから思っていたんです。地上波での放映がなくなって、CSやネット配信などさまざまな視聴環境が出てくると、映像などの動画コンテンツを自社で持っていた方がいいだろうと。
服部
自社の動画コンテンツによるビジネスは膨らんでいっているのですか?
高木
そうですね。そこはやはり膨らませようとしています。DDTはどういった団体で、どんな選手がいて、どんな試合をしているのか、プロレス初心者でも簡単に見ることができる動画コンテンツは横の広がりを生み出すツールとして重要だと思います。
それと、プロレスというのは、試合そのものを楽しむのはもちろん、見終わったあとにゴハンを食べながら誰かと語り合いたくなるコンテンツだと思うんです。その意味では、野球やサッカーよりも熱いファンが多いんじゃないかと思います。そういうのもあって、DDTではスポーツバーなども経営しているんですよ。
"観客との戦い"に勝てるプロレスラーを育てるには
服部
人材発掘をした後に、その人材を一人ひとりの個性や特徴に合わせてプロレスラーとして育てていくのは難しいんじゃないですか。
高木
そうですね。一番大事なのは、選手に迷いを抱かせないことだと考えています。ですからDDTでは、入門してからある程度の期間は、一人のコーチの言うことしか聞かせないようにしています。
プロレスにはさまざまなスタイルがあるので、そうしないと、選手が「自分はどのスタイルを選べばいいんだ?」と迷ってしまうんですね。もちろん、コーチ以外の先輩レスラーの意見も大事ですが、それを聞きすぎると迷いが生まれやすい。悪いことに、この世界の先輩レスラーって語りたがりが多いんですよ(笑)。
だから、最初の数年はコーチ以外の言うことは一切聞くな、と言い聞かせています。まあ、もともとのセンスがある人はどんなスタイルでもできるんですけど。
服部
新人にどこまで教えて、どこまで自由にさせるのかの判断は難しいですよね。マネジメントの立場の人間は皆悩む問題だと思います。
高木
そうですね。でもDDTの場合、いろんなタイプの選手がいるので、これを教えておけば大丈夫っていう基準があまりないんですよね。
僕がデビューした頃は、どちらかというとベーシックなレスリングを教える人が多かった。でもDDTに入ってくる人のなかには、レスリングをやったことのない人もいますし、キックボクシングから転向してくる人もいる。だから、どういう方向に育てるのがいいのかを判断するのは難しい。
そうしたなかで、外野があれこれ言うとすぐに迷っちゃって、成長を妨げてしまうケースが多いんです。
学生プロレス出身の若い人も、大学で4年間やってきたキャリアがあるのでベースはできているんですけど、なまじちょっとできるから、逆にあれもできる、これもできると迷っちゃう人が多いんです。
服部
なるほど。それに、若い人が相手だと最近はメンタルのケアも大事ですよね
高木
すごく大事ですね。僕は「東京女子プロレス」といって女子プロレス団体も運営していますが、特に女子レスラーは考えすぎるタイプの人が多いので、メンタル面のケアがとても大切です。
服部
選手をパッと見て、適性がわかるものなのですか?
高木
いやあ、どうですかね(笑)。もちろん、一人ひとりの適性を見て、その人にふさわしいスタイルを教えたり、練習メニューを組んでいるつもりですが、それが100パーセント正解ということはないですね。選手によって、パッと見た目の印象と実際の性格が違うこともよくあることで、その辺は結構難しいです。
服部
若手を指導するに際して、「プロレスラーとはこういうものだ」といったポリシーはありますか?
高木
とにかく選手には「会場を沸かせたもの勝ち」なんだということを伝えています。プロレスラーが戦う相手はもちろん対戦選手ですが、もっと大きな相手は試合を見ているお客さんだと。
観客との戦いに勝ってこそのプロレスラーだということはいつも強調しています。
服部
ちなみに、同じことをやっても人気の出るレスラーとそうでないレスラーに分かれますが、いったい何が違うのでしょうか?
高木
それは、選手個人に観客に訴えるメッセージ力があるかどうかだと思います。だから、意外とレスラーにとって「文章力」が大切なんです。
特に今の時代は、Twitterなどのソーシャルメディアを通じて選手がファンにダイレクトにメッセージが送れる時代。僕も2日に1回は100リツイートを超えるツイートをするというのを目標にしています。
服部
なるほど、プロレスの実力だけでなく、メッセージ力も問われるということですね。
高木
そうですね、カリスマと呼ばれるレスラーは、みんなメッセージを持っている。逆に、どれだけ身体能力が高くても、そこが弱いとお客さんから支持されない。
例えば、東京女子プロレスの伊藤麻希なんかはアイドルをクビになった選手で、ドロップアウト組だからプロレスファンに支持されやすいということもありますが、頭もよくて文章力もある。プロレスは本当にしょっぱいけど(笑)、メッセージ性があるのですごい人気があるんです。そんな選手を意図して育てるのは、なかなか難しいことですが。
服部
そんな選手の中から、高木さんを越えるようなレスラーがどんどん生まれてくるようになればいいですね。
高木
プロレスの技術という面では、すでにみんな僕なんかは越えていると思いますよ(笑)。僕自身は選手としては本当に自信がなくって、客を沸かすことはできるけど、技術的なことはわからないことも多い。だから、細かい技術を身につけている選手はスゴイと思います。
しかし、人は誰でも個性があるので、限られた自分の技術を目一杯使って、人とは違うオリジナリティを作っていくことが大事だと思います。そのために、コーチには教える子の適性をできるだけ伸ばす教え方をしてくれ、とは強く言っています。
DDTという組織のこれから
服部
一般の企業だったら創業者のようなカリスマ経営者がいて、その人が引退すると会社の存続が危ぶまれることが多いと思うんです。
DDTの場合、それが高木さんなわけですが、今後のDDTを担っていけるような、高木さんに続く人を育てるのも大切な課題なのかなと思うのですが、いかがですか?
高木
それはありますね。やっぱり新日本プロレスやWWEみたいに、ちゃんと組織で動けるようにしていく必要があると思います。
2017年にサイバーエージェントグループの傘下に入るのを決めた背景にも、そうした思いがありましたね。
服部
今後、DDTをどういう組織にしていきたいとお考えですか?
高木
あまり難しく考えているわけではありません。今以上に、組織をちゃんと作り上げていって、世間における認知度をもっと高めていきたい。
そのためには守りの姿勢に入るのではなく、いろんなことを積極的に仕掛けていきたいですね。
服部
個性豊かなキャラクターが揃っているという強みと、それらを束ねてビジネスにしていく組織の強み、この両方をうまくバランスを取っていくことが大切ですよね。
個人が強くなりすぎて組織がバラバラになってもいけないし、かといって組織が強くなりすぎて個人の個性が発揮できなくなるのもよくありません。
高木
そうですね。これまでのDDTは、良くも悪くも僕のワンマン体制だったりするので、現状のままだと、自分がいなくなったら終わりみたいなところが正直あります。
このままではいけないので、最近では少しずつ経営における決裁なんかも、任せる部分は任すようにしています。
その上で、僕自身はプロデューサーとしての役割をもっと増やしていきたいと思っています。結局はアイデア勝負の世界なので、プロデューサーとして自分自身ももっと成長する必要があると感じています。
服部
高木さんのなかには、経営者の顔と、プロデューサーとしての顔、さらにレスラーとしての顔の3つがあって、そうした複眼的な発想や視野を持っていることが、大きな強みになっていると思います。
普通の人はひとつの役割しかないことが多いので、どうしてもものを見る視線が狭まってしまうけど、高木さんのように複数の役割を持つ人は、ものごとを多面的に見ることができる。そんな高木さんの発想力には、広告のプランナーとしても見習うべき点が数多くあると思います。
高木
ありがとうございます。そんなに褒められると、なんだか気恥ずかしいですが(笑)、そう言ってもらえると、自分のやってきたことへの自信になりますし、今後の励みになります。
服部
本日は長い時間、ありがとうございました。
高木
いえいえ、こちらこそありがとうございました。
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