Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.6 「日本の当たり前と、海外とのギャップ」

  • 公開日:
テレビ
#アニメ #テレビ
Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.6 「日本の当たり前と、海外とのギャップ」

毎日テレビでいろんなジャンルの新作アニメが放送されている日本。実はこれ、世界的にみると"普通"ではないんです。今回はそんな日本のアニメ制作の独自性についてお伝えします。Vol.1Vol.2Vol.3Vol.4Vol.5に続き、Synapse編集部が取材した内容を元にお伝えします。)



現在40代以下の日本人にとって、アニメはテレビで毎週何本も無料で見られるのが当たり前で、そこに疑問を持つ者はほとんどいません。

国産のテレビアニメをスタンダードに放送する国は、かつては日本とアメリカくらいでしたが、2000年代に入って中国が国策でアニメ産業の育成を図って急成長を遂げたために3強となりました。一方、ヨーロッパやロシア、東南アジアなどでは、アメリカや日本からの輸入アニメが放送されており、国産アニメは発展しませんでした。

理由は単純です。世界の常識では、アニメーションとは1秒24コマで作画するいわゆるフルアニメーションであるため、制作費と制作時間が足枷となって発展できなかったのです。国産にこだわるより、アメリカ産や日本産のアニメを買って放送する方が、はるかに容易で費用対効果も高いということなのでしょう。

アメリカでは、1秒12コマのリミテッド・アニメーションの実用化や、『ザ・シンプソンズ』や『サウスパーク』といった老若男女の偏りなく幅広い層が楽しめる、いわゆる「国民的アニメ」のようなコンテンツが集中的に制作されることで成立しているため、毎日何本もの様々なジャンルの国産新作アニメがテレビで放送されるといったことはありません。


では日本はどうでしょう。

日本には手塚治虫がいたのです。

手塚治虫は、『鉄腕アトム』を制作するにあたり、スポンサーからの制作費を破格の安値で引き受け、その補填分を自らの漫画の原稿料や、関連商品の売上で賄うという方法を取りました。

当初は、実際に制作に参加したアニメーターたちですら、30分の新作アニメを毎週放送するなど到底成し得るとは思わなかったそうで、これがいかに無謀な挑戦だったかは想像に難くありません。こんなことを実際にやろうと考えて実行した人間は、世界広しと言えども手塚治虫以外には存在しません。

30分枠のテレビアニメの作画は、通常1万5000枚~2万枚はかかりますが、『鉄腕アトム』では1秒8コマで1500~2000枚程度と1/10の枚数で制作したと言われています。

口パク、体の一部分だけを動かす、静止画にカメラワークをつける、カットの使い回しなど、徹底した省略化のための様々な創意工夫が生まれ、「アニメーション」から日本独自の「アニメ」が誕生しました。

『鉄腕アトム』が放送され始めた頃は、同業者から「こんなのはアニメではない、紙芝居だ」と揶揄されたものの、視聴者からは爆発的な人気を博し、スポンサーに莫大な利益をもたらしました。

この商業的成功が日本のアニメの礎となり、各社が次々にテレビアニメに参入し、現在に至るアニメの隆盛を生んだことは間違いありません。アニメーターの低賃金の礎ともなったとの批判はあるものの、やはり手塚治虫なくしては日本のアニメは生まれなかったと言っても過言ではないでしょう。


日本のアニメの特徴は、その作品数の多さと多様性です。

アニメーターたちの低賃金に支えられた低コストアニメは、スポンサーにとっては費用対効果が高いために発展し、テレビアニメの放映本数が飛躍的に増えていきました。

では、多様性はいつ頃から生まれたのでしょう。

それは『宇宙戦艦ヤマト』と『機動戦士ガンダム』の影響が大きいと言えます。

それ以前のアニメは、見る側も作る側にも「アニメは子供が見るもの」という固定観念があり、低年齢層がターゲットとなっていました。

ところが『宇宙戦艦ヤマト』と『機動戦士ガンダム』は中高生以上をターゲットに作られ、見事にそれが的を射て大ヒットとなりました。この成功により、それまでの玩具やお菓子のメーカーだけではなく、中高生以上をターゲットとする出版社やレコード会社、ビデオソフト会社などがスポンサーとして参入するようになり、自分たちの商品を売るためのアニメを作らせるようになります。

そして、さらに増え続ける作品数と商業的な成功を目指し差別化を図った結果、多様化が進み、1週間にテレビで放送されるアニメの本数は50本を超え、SF、ファンタジー、スポ根、ラブコメ、ギャグ、ホラー、サスペンス、BL、日常系、異世界転生といった作品ジャンルから、テレビアニメ、劇場版アニメ、OVA、WEBアニメ、ネット配信などの視聴媒体も増えていきました。


海外では日本のアニメを「ANIMATION」ではなく「ANIME」と呼び、アメリカ、フランス、ロシア、中国、東南アジアなどでは日本のアニメを見て育ったというコアなアニメファンが多く存在しています。、アメリカの「Anime Expo」やフランスの「Japan Expo」など、各国で日本アニメのイベントが行われている程です。

主に子供向け、あるいは幅広い年齢層に向けた娯楽要素の強い海外のアニメとは異なる発展を遂げた、日本独自のアニメ。日本のアニメが世界に衝撃を与え愛好されたことは、日本独自に発展を遂げた美術である江戸時代の浮世絵が19世紀後半のヨーロッパに衝撃を与えたことと時代を超えて重なり、誇らしく思えます。


<了>

関連記事