Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.8 「声優の歴史」
10月22日は「アニメの日」ってご存じですか?
日本動画協会が「日本のアニメ100 周年」を記念して、日本初のカラー長編アニメーション『白蛇伝』公開日にちなんで制定されたそうです。
そんな長い歴史を持つアニメ、そこに欠かせない「声優」も同様に長い歴史があります。いかにして現在のような活躍を見せるに至ったのか、日本における声優発展の歴史をお伝えします。(Vol.1、Vol.2、Vol.3、Vol.4、Vol.5、Vol.6、Vol.7に続き、Synapse編集部が取材した内容を元にお伝えします。)
昨今、声優が芸人やタレントに混じってバラエティ番組に出演したり、アイドル顔負けのライブで紅白歌合戦に出場したり、あるいは高視聴率の人気ドラマへの出演が話題になったりと、本来は裏方であったはずの声優がタレントのようにマルチな活躍を見せています。
海外にもアニメなどに声を当てる仕事自体は存在しますが、それはあくまで俳優業の一部であり、専業としての声優というものは、日本で独自に発展を遂げた、世界的に見ても珍しい職業と言えます。
では、どうして日本で声優という職業がここまで発展してきたのでしょう。
1925年のラジオ放送の開始に伴って誕生したラジオドラマは大きな反響を呼び、今後のラジオにおける重要なコンテンツになると見込んだ東京放送局(現・NHK)は、当初起用していた劇団俳優や映画女優だけでは需要を満たせないと、同年にラジオドラマ研究生を公募しました。
その後もラジオドラマ需要は拡大し続け、1941年には東京放送劇団を設立。他局でも同様に放送劇団が次々と設立され、多くの声優が生まれました。
1953年のテレビ放送開始後、放送コンテンツとしての映画需要を担うはずの日本の大手映画会社は、テレビ放送の将来への過小評価と、興行収入を低下させるとの理由から、1959年以降に共存へと方向転換するまでの間、テレビへの劇映画の提供拒否や専属俳優の出演制限を行いました。
そのため、各テレビ局は外画の吹き替え放送に注力せざるを得なくなり、結果として吹き替えを担当した放送劇団員や舞台俳優たちの需要が高まりました。
ラジオドラマの普及、テレビ放送の外画の吹き替え需要という2つの要因をもって専業としての声優人口が増えるようになると、テアトル・エコー(1954年~)、東京俳優生活協同組合(1960年~)といった多くの声優を抱えるプロダクションが生まれ、1963年に放送を開始した『鉄腕アトム』を皮切りにテレビアニメの隆盛が始まると、東京俳優生活協同組合から独立する形で、1965年に同人舎プロダクション、1969年に青二プロダクション、1974年に江崎プロダクション(現・マウスプロモーション)、更に青二プロダクションから枝分かれする形で1979年にぷろだくしょんバオバブと1981年に81プロデュースができ、また現在では大手と呼ばれる声優専門のプロダクションが次々に設立されました。
しかし、当時の声優は、売れない俳優のアルバイト的なイメージで認識されることが多く、当人たちの志とは関係なく、業界内ですら声優という職業を俳優の下にみる傾向があったといいます。
ここまでは制作側の需要の話でしたが、視聴者側の状況はどうだったでしょう。
1970年代に日本でも大人気の俳優アラン・ドロンの吹き替えを担当した野沢那智を中心に声優人気が高まったのが、声優が世間に注目されはじめた最初の頃であり、現在では「第1次声優ブーム」と呼ばれています。
1977年公開の劇場版『宇宙戦艦ヤマト』の大ヒットを起源とする1980年代における中高生向けのアニメブームに伴い、各作品で美形キャラを演じた神谷明、古谷徹、水島裕といった男性声優に人気が集まり、多くの声優がバンド活動をしたりレコードを出したりして声優自体に単体で商品価値があることを証明しました。現在ではこの頃のことを「第2次声優ブーム」と呼んでいます。
1988年に放送された『鎧伝サムライトルーパー』の主人公を演じた男性声優5人によるユニット「NG5」は、爆発的な人気を博して一般のメディアにまで取り上げられるようになり、アイドル声優ブームの火付け役となりました。現在では「第3次声優ブーム」と呼ばれています。
1994年には声優専門誌「声優グランプリ」「ボイスアニメージュ」が創刊。
2000年代に入ると「第4次声優ブーム」と呼ばれ、声優はアニメのPRのためのラジオ番組のパーソナリティをはじめ、キャラクターソングを歌ったり、各番宣イベントへ出演したりすることが必須となり、声優としての技能や演技力のみならず、容姿に歌唱力、トーク力やバラエティ能力を求められるようになります。
声優は、俳優やタレント、芸人、アイドルなどに比べれば比較的安価で動員できるために費用対効果が高く、イベントなどで重宝されたこともこの傾向を後押しした要因の一つでもありました。
2010年代のソーシャルゲーム市場の急成長を背景に、スマートフォン用ゲームでキャラクターを演じる声優の需要が増大し、各社が人気声優の出演をセールスポイントとしてゲームのPRに活用し始める傾向が強まりました。
2018年に放送されたアニメ『ポプテピピック』では、前半と後半で全く同じアニメが、2人の主人公役の声優を交代して放送され、さらに毎回声優が交代し、全12話で計48名が代わる代わる演じるというこれまでにない手法が採用されました。
女子高生役にもかかわらず、普段渋い中高年役を演じるベテランの男性声優を起用するなどミスマッチとも思えるキャスティングが話題を呼び、次は誰が担当するのかとの期待と答え合わせで世間を騒がせました。
この作品においては、もはや声優はアニメの裏方ではなく、声優が個性をぶつけ合う声優劇場の舞台としてアニメがあるかのような逆転現象が起こっていました。
今や、声優単体でのアーティストデビューはもはや当たり前で、『アイドルマスター』『ラブライブ!』『BanG Dream!』といったアニメ作品と連動したライブ活動が大成功し、声優ラップバトルプロジェクト「ヒプノシスマイク」も絶大な人気を博しました。加えてトーク番組や旅番組など声優の冠番組がテレビで放送されるなど、ますます声優のマルチタレント化が進んでいます。
声優が憧れの職業となった現在、アニメ作品で名前のある役を貰えている声優だけでも7,000人を超え、海外映画・ドラマの吹き替え専門の声優、ゲーム出演やナレーション専門の声優、まだ名前のある役を貰えていない新人声優なども加えると声優人口はおよそ1万人以上、声優事務所は200社以上も存在しています。
さらに、養成所に通ったり、通信講座を受講するなどして声優を目指す志願者は30万人もいると言われています。
このような声優の発展は日本独自のものであり、海外では声優がここまで注目されることも、ましてやアイドルやタレントのような活躍を見せることもありません。
海外では、声優というのは俳優業の仕事の一部であり、高い演技力を必要としない子供向けアニメの仕事が多かったこともあって、日本の声優黎明期同様、顔出しができない俳優のアルバイトであったり、下積み時代の通過点だったりといった認識が長く続いています。
輸入された日本アニメは、子供向けを除けば字幕付きで放送されることが多く、ネットが発展した現在では、ほとんどの日本アニメが日本での放送と同時期に字幕付きで視聴されています。
近年では、日本アニメの輸出増加に伴って海外でも吹き替え重要が高まり、一昔前に比べれば声優という職業の専業化や地位向上もされてきているようですが、まだまだ日本のように憧れの職業となるには程遠い状況のようです。
むしろ字幕で視聴したりする海外のアニメファンの間では、自国の声優ではなく、日本の声優の方が人気があり、数多くの日本の声優アーティストが海外ツアーを行っています。
これまで取り上げてきた、アニメの多様化や作品数の多さ、「聖地巡礼」文化と同じく、声優もまた日本固有の特殊性を持って発展してきた、日本独自のカルチャーであると世界に誇れるものだと言えるでしょう。
<了>