Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.12「声優のキャスティング事情」
昨今、『鬼滅の刃』ブームもあり、出演声優がバラエティ番組にゲスト出演したり、劇場版アニメに俳優やお笑い芸人が出演したりすることが話題になっています。そこで今回はアニメに出演する声優がどのように決められているのか、配役の仕組みについてご紹介します。
(Vol.1、Vol.2、Vol.3、Vol.4、Vol.5、Vol.6、Vol.7、Vol.8、Vol.9、Vol.10、Vol.11に続き、Synapse編集部が取材した内容を元にお伝えします。)
みなさんは普段見ているアニメに出演する声優について、誰がどのキャラクターを担当するのかを、どのような方法で決めているかご存知でしょうか?
まずは基本的な用語のおさらいですが、キャラクターの声を演じる職業が「声優」であり、配役のことは「キャスト」、配役を決めることは「キャスティング」と呼ばれています。
では、キャスティングの流れを見ていきましょう。
プロデューサーやスポンサーが集ってアニメ製作の企画が決定すると、声優事務所に製作されることになったアニメの概要と共にオーディションのお知らせが届き、募集される作品のキャラクター設定などの情報が提供されます。
この通知を受けた声優事務所では、募集キャラに適した所属声優を選出してオーディションに派遣しますが、審査する側も何百人もの応募者を相手にする時間の余裕はありませんから、大抵の場合、まずは書類とテープ審査で人数を絞ります。
「テープ審査」とは、事前収録した音声によって行われるオーディションのことで、自由なセリフを吹き込むボイスサンプルの他、審査側が指定するセリフを吹き込んだものを提出させる場合もあます。
また、一般公募の場合は、事務所に所属していない声優も対象になるため、事務所への通知とは別に、ネットのオーディション情報サイトや雑誌、声優養成所、専門学校などを通じて募集要項が広く公開されます。
こうして無事書類審査を通過した数名~数十名によって対面式のオーディションが行われます。
新人声優もベテラン声優も同じ条件でのオーディションで、審査員は、監督や脚本家、プロデューサー、音響監督などが担当し、稀に原作者が審査に参加する場合もあります。
『ドラゴンボール』の孫悟空役に野沢雅子が選ばれた際には、オーディション時の声を聞いた原作者・鳥山明の意見が決定打となったことが知られています。
オーディションは、募集したキャラクターごとに審査が行われますが、場合によっては受けたキャラクターとは別の役にキャスティングされる場合もあります。
有名な例をあげると、『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイ役の林原めぐみは、当初は惣流・アスカ・ラングレー役や葛城ミサト役のオーディションを受けたものの、結果は綾波レイにキャスティングされ、逆に綾波レイ役を受けた宮村優子は、綾波レイ役は落ちてしまったものの、スタッフからアスカのオーディションも受けるよう勧められ、その結果、アスカ役に抜擢されることになったそうです。
審査の対象となるのは、声優としての技量や対応力、キャラクターに合っているか、他の出演者との声質のバランスなどは勿論のこと、近年では容姿や歌唱力、トーク力、知名度なども審査の対象になってきています。
作品PRのためのイベントやラジオ番組への出演、キャラクターソングなどの展開、作品ユニットとしてアイドル的な活動などを視野に入れたマルチな能力を持つ声優が求められることも多いためです。
オーディション以外のキャスティング方法としては、「指名オファー」というものもあります。
製作委員会やプロデューサーがプロモーションなどを考慮して、直接出演を依頼することがあり、劇場版アニメで俳優やお笑い芸人がキャスティングされる場合がこれに該当します。
原作者や監督から、この人でなくてはと見込まれてオファーされる場合もあり、2019年放送のテレビアニメ『アフリカのサラリーマン』では、主役3名を演じた大塚明夫、津田健次郎、下野紘が指名オファーだったことが公にされています。
スポンサー関連によっては、特定の事務所の声優が優先的に採用される場合もあります。
例えば、ブシロードのトレーディングカードゲームを原作としたテレビアニメ『カードファイト!! ヴァンガード』シリーズでは、スポンサーでもあるブシロードグループの声優プロダクション・響に所属する声優が多くキャスティングされています。
日本のテレビドラマの場合、オーディションをメインにしたキャスティングが行われているアニメ、映画や舞台などとは異なり、プロデューサーたちがキャストを指名して出演交渉をする場合が多いようです。
テレビドラマでは、キャスティングによって視聴率が大きく影響を受けるため、高視聴率を期待できる俳優やアイドルなどが所属する大手芸能事務所がキャスティングの主導権を握る構図があるためですが、アニメ作品においては映画や舞台のように製作側主導のオーディション形式が主流となっています。
昨今、劇場用アニメでの芸能人の起用が話題を呼ぶことも多いですが、それはあくまでも例外的なものであり、本来のアニメ製作においては、キャラクターに合う声優を選出するという本来の目的から逸れることなく、長くオーディション形式が採用されてきました。
今後、たとえネットを介したWEBオーディションのように実施方法の変化があったとしても、オーディションによるキャストの選出方法自体は変わらず継承され続けるものと思われます。
<了>