Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.13「地方とアニメの在り方」

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Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.13「地方とアニメの在り方」

今回は、「聖地巡礼」文化や地方自治体のPRアニメなどを背景に、その存在感がまずます大きくなってきている「地方×アニメ」というジャンルについてお伝えします。

Vol.1Vol.2Vol.3Vol.4Vol.5Vol.6Vol.7Vol.8Vol.9Vol.10Vol.11Vol.12に続き、Synapse編集部が取材した内容を元にお伝えします。)

地方を舞台にしたアニメ

近年、地方を舞台にしたアニメが話題になり、「聖地巡礼」に訪れるファンの様子が数多くテレビで取り上げられました。

2021年4月には、2018年にヒットした佐賀県を舞台とするテレビアニメ『ゾンビランドサガ』の続編が放送され、ファンの注目を集めています。

今では地方を舞台にしたアニメは珍しくありませんが、かつては地方色を全面に出したアニメと言えば、大阪を舞台にした『じゃりン子チエ』(1981~1983年)くらいしかありませんでした。

『サザエさん』や『ドラえもん』、『名探偵コナン』などの国民的アニメはいずれも東京を舞台にしており、『クレヨンしんちゃん』の舞台は埼玉県の春日部市ですが、これも関東圏です。

1990年に放送を開始した『ちびまる子ちゃん』は静岡県が舞台ですが、地方色というよりは、昭和という時代色をメインに描いており、登場人物が標準語で話しているなど、静岡らしさはあまり感じられないものとなっています。

昭和の時代は、全国各地の子供が疑問を持たず素直に楽しめるようにという配慮からか、あまり地方色の濃い作品は作られない傾向にありましたが、やがて時代が下って中高生や大人向けのアニメが多く作られるようになると、一転して地方色を出した作品が登場してきます。

特に2000年代前半あたりから続々と地方を舞台にしたアニメが作られるようになり、「聖地巡礼」文化の発展の礎ともなりました。

北海道 『フィギュア17 つばさ&ヒカル』(2001年)、『ノエイン もうひとりの君へ』(2005年)
広島県 『朝霧の巫女』(2002年)
大阪府 『アベノ橋魔法☆商店街』(2002年)、『ラブ★コン』(2007年)
長野県 『おねがい☆ティーチャー』(2002年)、『おねがい☆ツインズ』(2003年)
沖縄県 『ストラトス・フォー』(2003年)
静岡県 『苺ましまろ』(2005年)
兵庫県 『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年)
千葉県 『ゼーガペイン』(2006年)
埼玉県 『らき☆すた』(2007年)
福岡県 『神霊狩/GHOST HOUND』(2007年)
長崎県 『sola』(2007年)
宮城県 『かんなぎ』(2008年)
富山県 『true tears』(2008年)
熊本県 『夏目友人帳』(2008年)

『君の名は。』や『ゾンビランドサガ』などのいわゆる「聖地アニメ」がヒットしたことにより、近年ますます実在の場所を舞台にしたアニメや地方を描いたアニメが増え続ける傾向にあります。

地方をPRするためのアニメ

『らき☆すた』の埼玉県の鷲宮、『ガールズ&パンツァー』茨城県の大洗町、『ラブライブ!サンシャイン‼』の静岡県沼津市といったアニメによる町おこしの成功例の影響もあって、地方自治体がアニメをPRに活用し始めるようになり、舞台として描かれた作品の「聖地マップ」を作成して配布したりするだけではなく、地方をPRするために自らアニメを製作するようにもなりました。

地方自治体が製作するPR動画は年間700本にのぼると言われており、2015年に総務省が移住促進のためのPR動画製作の助成金を交付するようになったことが後押しともなって、いわゆる「自治体動画ブーム」が起き、有名人を使ったものや趣向を凝らしたアイデアものなど、さまざまなPR動画が作られました。

PRアニメもその一翼を担っているというわけで、上記に挙げたもの以外にも数多くのPRアニメがYouTubeなどで公開されています。

2020年に熊本地震の復興支援の一環として熊本県が製作したテレビアニメ『なつなぐ!』は、メインスタッフやメインキャストに熊本県出身者を起用し、熊本県を舞台にした制作プロジェクト「オール熊本アニメ」と銘打ち、日本で初めて自治体製作のテレビアニメが地上波で1クール(全12話)放送されたことで話題となりました。

ついに自治体がテレビアニメまで作り始めたのです。

地方ネタを主題にしたアニメ

さらに近年では、「地方を舞台にしたアニメ」や「地方をPRするためのアニメ」からさらに進んで、「地方ネタを主題にしたアニメ」も登場するようになってきています。

かつては地方というものは都会に対しての劣等感をもって認識されていましたが、現在では「B級グルメ」ブームや「ゆるキャラ」ブームのおかげもあって、他と違う個性を持っていることは素晴らしいという価値観で捉えられるように変化してきました。

日本テレビのバラエティ番組『秘密のケンミンSHOW』の人気や、2019年公開の実写映画『翔んで埼玉』が大ヒットとなるご時世に乗るように、アニメにおいても、各地方が持つ個性を面白いと感じる価値観をベースに作品が作られるようになってきたわけです。

  • チバ県からグンマ県へ引っ越してきた主人公が、独自性が強過ぎるグンマの文化や異常な程にグンマ愛が強いクラスメイトたちに翻弄される『お前はまだグンマを知らない』(2018年)
  • 東京から引っ越してきた主人公が、名古屋の文化にカルチャーショックを受ける様を描いた『八十亀ちゃんかんさつにっき』(第1期2019年、第2期2020年、第3期2021年)
  • 博多のようで博多でない街のとある商店街で、博多名物の食べ物の妖精たちが繰り広げるドタバタな日常を描いた『博多明太!ぴりからこちゃん』(2019年)
  • 47都道府県の特性を駆使した秘技「都道府拳」を操る主人公が活躍するご当地ギャグアニメ『ジモトがジャパン』(2019年)

このように、「地方を舞台にしたアニメ」、「地方をPRするためのアニメ」、「地方ネタを主題にしたアニメ」といった形で、「地方×アニメ」という構図が、アニメの要素としての存在感を増してきています。

いずれは、名産品や名所、出身有名人、「B級グルメ」、「ゆるキャラ」などのお国自慢の中に、「ご当地アニメ」も含まれるようになるかもしれません。

*新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、各自治体により自粛要請等が行われている可能性があります。実際の聖地巡礼の際には、あらかじめ最新の情報を確認したうえで、感染拡大の防止に充分配慮し訪問するようにしましょう。

<了>

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