Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.14「劇場版アニメのお金事情」

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Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.14「劇場版アニメのお金事情」

今回は、昨年劇場公開され、歴代興行収入記録を塗り替えた超大作をはじめ、次々にヒット作が登場している劇場版アニメついて、そのお金事情を中心にお伝えします。

Vol.1Vol.2Vol.3Vol.4Vol.5Vol.6Vol.7Vol.8Vol.9Vol.10Vol.11Vol.12Vol.13に続き、Synapse編集部が取材した内容を元にお伝えします。)
 

2020年10月に公開された「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が、2001年公開の『千と千尋の神隠し』が持つ日本歴代興行収入記録を更新し、歴代1位の空前のヒット作となったことが世間を騒がせました。

 

かつて「まんが映画」と呼ばれていた昭和の時代のアニメ映画は、大ヒットと言われるボーダーラインだった興行収入10億円(当時の発表では配給収入)を超える作品は、『ドラえもん』などの藤子不二雄アニメやジブリ映画など、ごく一部の作品に限られていました。

平成になると、ディズニー・ルネサンスの代表作である1992年の『美女と野獣』のヒットを皮切りにディズニー映画が日本でも大ヒットし、これまでの『ドラえもん』、ジブリ映画などのヒット作品に加え、『ドラゴンボール』、『ポケットモンスター』、『ONE PIECE』、『名探偵コナン』といった作品が大ヒット作品の常連になり、興行収入20億円越えの作品も登場するようになります。
1997年の『もののけ姫』に至っては、劇場版アニメ史上初の興行収入200億円超えを達成しました。

 

これら大ヒット映画は、いずれも子供向け、あるいは全年齢向けのアニメであり、深夜アニメをはじめとする、いわゆるオタク層向けアニメでは劇場版でのヒットは難しいとの見方が強かったものの、2000年代に入ると、『新世紀エヴァンゲリオン』のヒットをはじめ、『魔法少女まどか☆マギカ』などの強力タイトルで20億円越えのヒット作が出てきました。

 


 

2007年 9月 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』 興行収入 20.0億円
2009年 6月 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』 興行収入 40.0億円
2012年11月 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』 興行収入 53.0億円
2013年10月 『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』 興行収入 20.8億円
2015年 6月 『ラブライブ!The School Idol Movie』 興行収入 28.4億円
2015年11月 『ガールズ&パンツァー 劇場版』 興行収入 24.5億円
2017年 2月 『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』 興行収入 25.2億円
2020年 9月 『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』 興行収入 21.3億円

※日本映画製作者連盟発表データより



 

同じく深夜アニメ発の映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は、400.2億円突破(2021年5月24日発表 興行通信社調べ )という大記録を打ち立ててニュースとなりましたが、同時に利益の分配についても話題となりました。

 

興行収入とは映画館の入場料金×入場者数のことであり、映画館の取り分である約50%(作品により40~70%と異なる)を除いたものを配給収入と呼び、ここから配給会社に約20%(10~30%)が支払われ、残りが製作側の取り分となるのが一般的です。
『鬼滅の刃』の場合は、企画のアニプレックス、原作マンガの版元である集英社、アニメ制作会社のufotableによる製作であるため、利益はこの3社で各々の出資比率に合わせて分配されることになります。

 

では、原作者である吾峠呼世晴ごとうげ こよはる氏にはどれほどの配分があるのでしょう。

公益社団法人日本文藝家協会の著作物使用料規程によると、映画制作における著作物の使用料は1,000万円を上限として利用者と協会が協議して定めると記載されており、仮に上限の1,000万円だった場合、出版社が20~40%程度の手数料やマネジメント料を差し引き、600~800万円が原作者に支払われると考えられます。

興行収益を鑑みると随分小さな金額のようにも思えるものの、テレビアニメ化・映画化により、原作マンガの売上が伸び、結果として印税収入が増えるので、原作者にも利益は還元されると見ることができます。

 

「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」に関わるお金の配分は、公表されている興行収入から推計すると下記のようになるのではないでしょうか。

 

興行収入 :400.2億円( 2021年5月24日発表 興行通信社調べ)
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映画館 :200.1億円(興行収入の50%としてSynapse編集部にて推計)
配給会社(東宝、アニプレックス) : 40.0億円(配給収入の20%としてSynapse編集部にて推計)
原作使用料(吾峠呼世晴、集英社) : 0.1億円以下(Synapse編集部にて推計)
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製作会社(アニプレックス、集英社、ufotable) :160.1億円(Synapse編集部にて推計)


 

製作の3社における出資比率や、推定5億とも言われるアニメ制作費、同じく推定5億と言う広告宣伝費などの支出、テレビ放映・配信料、グッズや企業コラボなどによる二次使用による収益配分などは不明ながら、アニメ制作会社であるufotableにも莫大な利益をもたらしたことは疑いようがありません。

 

アニメの黎明期は、テレビ局が企画したアニメ番組のCM枠が、広告代理店を通じてスポンサーに販売され、スポンサーからの広告宣伝費の一部が制作費としてアニメ制作会社に支払われる仕組みでした。
この場合、アニメ制作会社には制作費以外の収益はなく、作品がヒットしてグッズが売れても二次使用料は入ってきません。

その後、出版社、音楽会社などの複数企業による出資でテレビアニメや劇場版アニメが企画・製作されるようになり、いわゆる「製作委員会方式」と呼ばれる仕組みが主流となりますが、多くの場合、アニメ制作会社は「製作委員会」(出資会社)に入ることがなかったため、支払元がテレビ局や広告代理店から「製作委員会」に変わっただけで、アニメ制作会社には制作費以外の収益がない、という構造は変わりませんでした。

近年になると、この構造から脱却すべく、アニメ制作会社が自ら「製作委員会」(出資会社)に参加したり、配給会社や出版社などとパートナーシップを組んだりと、広義では「製作委員会方式」でありながら、アニメ制作会社が権利や収益を確保できる仕組みを取るケースも登場してきました。

 

日本動画協会の発表によると、アニメ産業の市場規模は7年連続で過去最高を更新し続けて2019年には遂に2兆5000億円を超え、アニメ制作市場も3000億円に突入しました。

『鬼滅の刃』の成功による影響や、劇場版アニメのヒット、ネット配信の普及、Netflixやbilibiliなどの海外企業の業界参入などにより、アニメ制作会社の収益構造や周辺環境も含めたアニメ業界全体が、今後も加速度的に変動していくことが予想されます。

<了>

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