Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.15「アニメ文化の保存と継承」

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Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.15「アニメ文化の保存と継承」

今回は、すでに日本にとってメインカルチャーとなっているアニメ文化について、そしてアニメ業界が抱える資料やデータの保存、継承に関する現状と課題についてお伝えします。 (Vol.1Vol.2Vol.3Vol.4Vol.5Vol.6Vol.7Vol.8Vol.9Vol.10Vol.11Vol.12Vol.13Vol.14に続き、Synapse編集部が取材した内容を元にお伝えします。)

アニメ文化について、そしてアニメ業界が抱える資料やデータの保存、継承に関する現状と課題について

『機動戦士ガンダム』を生み出したアニメ監督・富野由悠季は、富山県美術館で開催された自身の足跡を回顧する展覧会「富野由悠季の世界」で行われた、同じくアニメ監督の細田 守との対談の中で、「サブカルチャーと呼ばれてきたアニメがこの10年でメインになった。」と語りました。


かつて昭和の時代は、「アニメは子どものための娯楽であり、大人になったら卒業する。大人になってもアニメを見ているような人間は、大人になりきれない未成熟な人間だ」という偏見すら持たれていました。

ところがどうでしょう。

日本動画協会によると、アニメ産業の市場規模はすでに2兆5000億円を超えており、国内における映画の歴代興行収入ランキングでは、トップ10のうち、なんと6作品がアニメ作品となっています。

映画の日本歴代興行収入ランキング

作品名
1 劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
2 『千と千尋の神隠し』
3 『タイタニック』
4 『アナと雪の女王』
5 『君の名は。』
6 『ハリー・ポッターと賢者の石』
7 『もののけ姫』
8 『ハウルの動く城』
9 『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』
10 『ハリー・ポッターと秘密の部屋』
※興行通信社調べ、2021年6月20日現在

海外旅行から帰って来た時、日本と外国の違いを改めて認識させられることがよくあります。街のいたるところにアニメのポスターが貼られ、コンビニやスーパーにはアニメとのコラボ商品が並び、本屋やCDショップにも多くのアニメ関連商品が売られています。このような光景を見ると、日本がいかにアニメに溢れた特殊な国なのかを実感します。


現代では高尚な伝統文化として認識されている歌舞伎や浮世絵、落語なども、江戸時代においてはサブカルチャー(大衆文化)であり、当時ハイカルチャー(上位文化)であった能や狂言、大和絵といったものに比べると、一等劣る低俗なものだと見られていました。

アニメが歌舞伎などのように高尚な存在になるべきだとも、なって欲しいとも思わないものの、低俗文化だと思われていたものが、それを制作する者たちの研鑽けんさんや創意工夫によって昇華されていく例というのは往々にあるものです。アニメの場合も、最初は子ども向けの娯楽に過ぎなかったものが、時代を経て成長を遂げ、いまやメインカルチャーと呼ぶにふさわしい存在になっています。


日本のアニメ文化は、日本はもちろん、世界中の人々に支持されるまでに発展しましたが、その文化の保存と継承に関しては、いまだ未整備のままです。

アニメ制作会社は大小合わせて600社以上も存在すると言われていますが、各社のアニメ制作過程において発生する原画や動画などの紙資料は、保存するのにコストがかかるため、その多くが最終的には廃棄されていると聞きます。

昨今、作画などの制作自体がデジタル化されていく中で、デジタルアーカイブ化して保存するケースも多くなってきてはいますが、一方で、今もなお多くの貴重な資料が失われ続けており、中には制作資料はおろか、アニメの本編映像までもが消失してしまったケースすらあるのです。


2021年3月、作画アニメーターの大塚康生さんが89歳で亡くなりました。

作画アニメーターはアニメ監督のように作品発表の際に名前が表に出てこないため、宮崎 駿や富野由悠季のような世間に名の知れた存在ではないものの、アニメ業界やアニメファンにとって彼は伝説級のアニメーターであり、日本アニメの創成期から第一線で活躍し続け、『ルパン三世』や『未来少年コナン』などの作品では作画監督を務めていました。その名は知らなくとも、彼が描いた名場面は多くの人が見ているはずです。

日本アニメの先駆けとなった東映アニメーションが創設されたのは1956年(当時の社名は「東映動画株式会社」)。

すでに60年以上の歴史があり、大塚康生(1956年入社)をはじめ、森 康二(1955年入社*)、楠部大吉郎(1955年入社*)、中村和子(1956年入社)、2019年のNHK連続テレビ小説『なつぞら』の主人公のモデルとなった奥山玲子(1957年入社)、高畑 勲(1959年入社)など、初期メンバーの多くが他界されてしまっています。

*「東映動画株式会社」へ商号変更をする前の「日動映画株式会社」へ入社


作画担当のアニメーターは、監督や役名と共に名前が出てくる声優などとは違い、原画担当、動画担当などのように一括りにされてスタッフロールに記載されるのみです。

ディズニーやピクサーの場合、キャラクター毎に担当アニメーターがいて、全てのシーンで同じキャラクターを担当のアニメーターが作画します。日本アニメの場合はこれとは異なり、場面カットごとに担当者が割り振られ、アクションが得意なアニメーターはアクションシーンのカットを、自動車が得意なアニメーターはカーチェイスシーンのカットを、といったようにそれぞれの得意分野に合わせてカットを任せられます。

それゆえに、誰がどのカットを担当したのかは、一般的には判別ができません。アニメ業界内で話題に上るようなクオリティの高いカットや作画に特徴のある個性的なアニメーターは、いわゆる"作画マニア"と呼ばれる熱心なファンたちによって解析、担当者が誰か特定され、アニメーターの名前が噂で広まることもありますが、それも極めて一部の人たちの間で行われていることに過ぎません。

昨今では、版権元や制作会社の許可を得てTwitterなどで自身の担当した作画シーンを公開しているアニメーターも見受けられますが、基本的にはアニメーターの担当作画は一般公開されない情報となっています。

制作会社においては、昔は紙資料に記載して管理していたものが、現在ではほとんどがExcelやプロジェクト管理ツールなどを使って担当者やスケジュールなどの管理を行っているので、誰がどの作画を担当したのかは、データとしては残っています。しかしそれはあくまで制作管理上のデータであり、アニメーターのプロフィールや、携わった仕事の経歴と紐づくデータとしては扱われておらず、一般に公開されるようなこともありません。

個人が修練と研鑽けんさんの末に培った技術などを後の世に残し、継承していくことは、文化としては非常に重要です。

原画資料と共に、アニメーターや担当作画データも含め、きちんとデータベース化して管理をしていかないと、その内にいろいろなものが失われてしまい、後の世の人たちが、何故ちゃんと保存や管理をしておかなかったのかと嘆く結果になりかねません。


映画文化が盛んな海外には、映画情報をまとめたIMDb(1990年開設。正式名称「Internet Movie Database」)というオンラインデータベースが存在します。音楽には同じようにDiscogs(2000年開設)があり、ゲームにはIGDB(2015年開設。正式名称「Internet Game Database」)があります。

ところがアニメに関しては、誰もが利用できるオンラインデータベースが存在していません。Wikipediaでは、作品がそれぞれ個別の編集方法でバラバラに記載されているのみで、検索やタグで作品情報には辿り着けるものの、単純な作品リストや統計などを出すことはできず、2020年放送のアニメは何作品あるのかということすら、すぐにはわかりません。

文化庁では、2015年から「メディア芸術データベース」を立ち上げ、マンガ、アニメーション、ゲーム、メディアアートの4分野の作品情報をデータベース化しようという試験的サイトをベータ版として公開しています。しかし、アニメに関しては2018年1月8日以降に放送された作品の情報は入力されておらず、2017年以前の作品についても全作品の掲載に至っていないため、年間の作品数などは、このサイトでは調べることができません。


アニメ作品のデータがまとめられただけでは、文化の保存や継承には事足らないにもかかわらず、まだデータベースすらできていない状況なのです。まずは作品インデックスを作り、スタッフ、キャストなどの情報から順々にまとめていき、さらにその先に作画のデジタルアーカイブ化も含め、全てのデータを保存し、後の世に継承していくことが必要になると考えられます。

<了>

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