【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】「ゴジラvsコング」が米映画興行界 復活のきっかけに
新型コロナウイルスの流行後に劇場公開された映画として、「ゴジラvsコング」が海外で大ヒットを記録している。
同作は、日米を代表するゴジラやキングコングが激突するアクション大作で、彼らを主人公とした一連の怪獣映画シリーズ「モンスターバース」を展開するレジェンダリー・エンターテインメントが製作し、ワーナー・ブラザースが配給しているものである。2021年3月下旬に世界公開した「ゴジラvsコング」はもともと2020年11月に公開が予定されていたが、コロナの影響で延期となり、日本では2021年5月14日に封切られる予定だ。
「ゴジラvsコング」の世界総興業収入は、原稿執筆時点で3億9020万ドルを突破しており、「TENET テネット」(3億6365万ドル)を超えて、コロナ禍で公開された映画でトップとなっている。(※)
この世界総興行収入の約半分にあたる1億7700万ドルは、既に映画界の急回復を遂げた中国市場におけるものだが、注目すべきはアメリカとカナダの北米興業収入が8050万ドルに達していることだ。
特にアメリカは、新型コロナウイルスでの死者が50万人を超える感染大国として知られるが、1月20日の政権交代をきっかけに、ワクチン接種が加速。ニューヨークやロサンゼルスなどの大都市でも、制限付きながら映画館の営業を再開している。バイデン大統領は7月4日の独立記念日までに新型コロナウイルスから「独立できる」可能性があると述べており、正常化が視野に入ったことも、大衆心理にプラスに作用しているようだ。
その証拠に、大作映画の北米オープニング興収も向上している。昨年9月に封切られた「TENET テネット」は3日間で2020万ドル、12月の「ワンダーウーマン1984」も同じく3日間で1670万ドルだったのに対し、今年3月31日に封切られた「ゴジラvsコング」は3日間で3220万ドル、5日間で4850万ドルとなっているのだ。約1年に及ぶ苦境に立たされた映画興行が、ようやく復活の兆しを見せているのだ。
さらに驚くべきことがある。アメリカ国内において、「ゴジラvsコング」は、ワーナーメディアの配信サービス「HBO Max」で映画公開日と同日の3月31日に配信されているのだ。わざわざ劇場に行かなくても、HBO Maxに加入さえすれば家庭で視聴できるのである。実際、「ゴジラvsコング」のおかげで加入者が急増しているという。
つまり、「ゴジラvsコング」は、劇場と配信の共存が可能であるということを証明したのだ。
米映画興行界は、これから書き入れ時のサマーシーズンに突入する。新型コロナウイルスの影響で、従来よりも映画の公開本数はずっと少なくなっているが、次の注目作は5月28日全米公開の「クルエラ」だ。
名作ディズニーアニメ「101匹わんちゃん」の悪役クルエラ・デ・ヴィルの誕生秘話を、エマ・ストーン主演で実写映画化した話題作だ。この作品も劇場公開と同時に、ディズニーの動画配信サービスDisney+(ディズニープラス)で、『プレミア アクセス』(月額サービス料とは別に、追加料金を支払うことで視聴ができるサービス)により同日配信される予定になっている。
その後も、大ヒットシリーズ第9弾「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」(6月25日)や、マーベル最新作「ブラック・ウィドウ」(7月9日)、DC映画「ザ・スーサイド・スクワッド」(8月6日)といった大作が控えている。
「ブラック・ウィドウ」はDisney+、「ザ・スーサイド・スクワッド 」はHBO Maxで同日配信される予定で、「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」に関してもユニバーサル・ピクチャーズが大手シネコンチェーンと結んだ契約に基づき、公開から17日後にPVOD(Premium Video On Demand)として販売されることになる模様だ。
もちろん、今後の感染状況によっては公開スケジュールが変更となる可能性はある。
だが「ゴジラvsコング」をきっかけに、米映画興行界の復活の兆しが見えたのは事実だ。
(※)https://www.hollywoodreporter.com/news/box-office-godzilla-vs-kong-roars-to-pandemic-best-390-2m-globally
<了>