ひとり暮らしの女性の自活・自立を助けるサービスを。 不動産会社の枠を超え、つねに寄り添う存在へ。〜 株式会社エイブルホールディングス「MAISON ABLE」ブランドマネージャー 赤星昭江さん 〜
株式会社エイブルホールディングス
「MAISON ABLE」ブランドマネージャー 赤星昭江さん
不動産の賃貸仲介業務などを展開するエイブル。同社の取り組みの一つ、ひとり暮らし女性の応援を掲げる「MAISON ABLE(メゾンエイブル)」は、仲介手数料の割引や企業と連携した幅広いサービスを提供し、注目を集めつつあります。
女性の自活・自立をサポートするコンセプトは、「MAISON ABLE」ブランドマネージャー・赤星昭江さん自身の経験と課題感がもとになっています。女性を取り巻く課題の解決のために、何が必要なのか?
話題のマーケターにお話を伺う企画、第3回は「MAISON ABLE」のブランドマネージャー・赤星氏に、Synapse編集部がお話を伺いました。
<プロフィール>
赤星昭江(株式会社エイブルホールディングス 「MAISON ABLE」社長室 マネージャー)
1986年生まれ、2009年株式会社CHINTAI入社。雑誌「CHINTAI」編集長を経て、2016年に、ひとり暮らしの女性を"衣・食・住"で応援するブランド「MAISON ABLE」を立ち上げる。女性が自由で豊かな暮らしの実現を目指して、国内単身女性向け会員クラブ「MAISON ABLE CLUB」や、企業とコラボした女性向けサービスを手掛けている。「MAISON ABLE」ブランドマネージャーを務めた。
単身女性客のLTV向上は長年の課題
編集部 まずは赤星さんのご経歴をお聞かせください。
赤星 大学卒業後、株式会社CHINTAIに入社しました。大阪支社に配属され、営業を2年経験したあと、雑誌「CHINTAI」の編集部に異動になりました。編集部3年目くらいの時期から編集長、週刊誌、月刊誌、当時26エリア版(現10版)の賃貸住宅情報誌を制作していました。ちょうど同時期、YouTubeが流行り始めて、動画を中心とした新規事業サイトの立ち上げに関わった経験もあります。
その後、法人営業に異動し、2016年5月からグループ会社である株式会社エイブルにて、ひとり暮らしの女性を応援するブランド「MAISON ABLE」事業企画推進室を立ち上げました。
編集部 とても多彩なご経歴ですね。
当時から単身女性、若い女性の価値観を取り込み、事業に反映する役割を会社から期待されていたのでしょうか?
赤星 「CHINTAI」の編集長時代には、ひとり暮らしの女性として住みたい物件を紹介する「赤星特集」という記事を書いていたこともありました。そうした流れもあって、エイブルでの単身女性向けサービスの立ち上げをしたいという経営課題に対して、等身大でアプローチできる人材は赤星がいいと任命されました。
編集部 エイブルでは単身女性へのアプローチとして、どのような経営課題を抱えていたのでしょうか?
赤星 エイブルは直営店が432店舗、フランチャイズ(エイブルネットワーク店)が368店舗で、海外を含めると約800店舗以上あります。毎年多くのお客様にご来店いただくのですが、そのうちの6割が女性客です。弊社に限らず国内の転居者は女性の方がやや多い傾向によるものだと思います。
※店舗数は2021年2月時点での情報となります。
衣・食・住で単身女性を応援したい
編集部 赤星さんが手掛けられた、ひとり暮らし女性のためのブランド「MAISON ABLE」ではどんな施策をされているのでしょうか?
赤星 単身女性向けのCRM(顧客管理)ブランドとして、2016年10月にスタートしましたが、仲介契約のタイミングだけではなく、入居後のひとり暮らし女性の生活を豊かなものにできるように支援することで長期的な関係を築き、ブランドへの愛着推奨度を上げていくことが目的です。
女性なら仲介手数料が規定額より10%オフになる「エイブル女子割」やひとり暮らし女性を応援する会員クラブを作り、会員向けに様々な特典を提供しています。
「MAISON ABLE」を立ち上げて最初に行ったのが、洋服レンタルの株式会社エアークローゼットとコラボした、実店舗版の洋服レンタルショップ「airCloset×ABLE(エアクロエイブル)」です。当時はまだサブスクリプションサービスはもちろん、ファッションレンタルの文化も国内では浸透していなかったこともあり、サービスを立ち上げたばかりのエアークローゼット社も「ユーザーが体験できる場を作りたい」という状況でした。
エイブルはリアル店舗を持っているので、私たちは店舗を提供する、エアークローゼット社は人件費と洋服を提供する、というスタイルで共同経営を開始しました。
ユーザーは洋服レンタルの良さを実感すると、「店舗に通うのは大変だから有料であっても自宅まで届けてくれたらいいな」というニーズが生まれ、通常のエアークローゼット社の有料サービスも利用するようになり、エアークローゼット社では新規顧客の獲得に繋がります。
また、弊社側のメリットとしては、レンタル活用によって狭小物件の収納スペース課題の解決に繋がります。昨今、都内を中心に狭小型の物件が増えつつあり、その際、居室の広い物件への需要が高いことから、どうしても収納スペースを狭くする傾向があります。女性は収納スペースも重視しがちで収納スペースの狭さは決定率低下の要因にもなっています。しかし、レンタルサービスがついてくることで洋服を所有するのではなく、借りるというスタイルに切り替えていただくことで収納スペースの課題も軽減されます。
編集部 魅力的な特典ですね。ユーザーの女性たちも満足するし、企業側にも利益がある。ほかにも、回転スイーツのお店も手掛けられて話題になりましたよね。
赤星 「airCloset×ABLE」で衣食住の「衣」を実施した後、「食」でも応援をしたいと考え、2018年に回転スイーツ食べ放題カフェ「MAISON ABLE Cafe Ron Ron」をオープンさせました。billsなどを経営している株式会社トランジットジェネラルオフィスとコラボして、ひとり暮らしの女性にかわいいスイーツを満足いくまでたくさん食べて欲しいと考え、食べ放題カフェを企画しました。
当時、Instagramのストーリー投稿が人気になりはじめた頃ということもあり、ムービージェニックな「動き」のあるカフェにしたいと考え「回転スイーツ」という発想になりました。おかげでSNSでの投稿も増えいろいろな媒体でも取り上げていただきました。
こうした実店舗での取り組みのほかに、現在はエクセルシオールカフェでコーヒーがお得に飲めたり、フレッシュネスバーガーで毎回お会計の合計金額より5%オフになる特典も実施しています。ほかにもFrancfrancでは毎回5%オフで新生活にうれしい家具や雑貨が購入できる特典など、30社以上の企業と提携してひとり暮らし女性の生活をサポートしています。
さらに最近はスキルアップのためのウェビナーを始めています。お金のリテラシーを上げるためのマネー講座や、IllustratorやPhotoshopが使えるようになるデザイン講座も開講していて、毎回300人くらいが参加するほど人気がありますね。
編集部 コロナ禍でのウェビナーは人気がありますよね。実施には費用もかかると思いますが、参加費などは?
赤星 ウェビナーなどの参加は無料です。
私たちが対象にしているひとり暮らしの女性は実家暮らしの女性と比較すると、毎月の賃料負担があることから経済的な面で弱者になりがちです。また、人口問題研究所の調査結果によると国内の単身女性のおよそ3割が貧困状態にあるとの結果も出されており、そうなるとスキルを身に付けるために自己投資する余裕がない方も多いと思います。
学びの場は開かれたものであるべきという考えから、現在は無料講座でウェビナーを開催しています。
▲MAISON ABLEのサービス概要
※「エイブル女子割」は仲介手数料を規定額より10%割引するサービスです。実施店舗及び割引適用条件等の詳細はエイブルのホームページをご確認ください。https://www.able.co.jp/campaign/joshiwari/
女性にとって経済的課題は大きい一方、自活・自立を望む強い気持ち
編集部 「MAISON ABLE」の取り組みは、「あったらいいな」と思うサービスが実現されていると感じますが、「ひとり暮らしの女性を応援する」というコンセプトはどこから生まれたのでしょうか?
赤星 私自身の新入社員時代の体験がもとになっていて、あの時にこんなものがあったらもっと頑張れたな、と思うことをカタチにしています。
当時は山口から大阪に来て、親戚や頼れる人は誰もいない。まさに身一つで都会にやってきたという感じです。新入社員の給与で生活のやりくりをしながら実家への仕送りなどをしていると、毎月ギリギリの生活でした。
編集部 確かに、経済の問題は大きいですよね。地方出身の大学生と話したときに、就職先を決める際に「やりたいことができる会社」と「給与などの条件がいい会社」で悩んだ末、単身で東京で生活する前提で奨学金の返済や将来のことを考えて「条件がいい会社」を選んだ、という話を聞きました。
生活していくためには当然お金が必要ですし、ある程度仕方のないことですが、選択肢が限られてしまうことは残念に思います。
赤星 「MAISON ABLE」の会員は現在約21万人いて、定期的に意識調査などのアンケートを行っています。現在ひとり暮らしをしている、これからする予定のある19歳~39歳の女性600人の方に生活のゆとりに関して聞いたところ、「かなりカツカツ」か「なんとかやれているけど大変」という、「経済的に余裕はない」と回答した方が全体の半数でした。
さらに、これから1年以内にひとり暮らしをする人に何が不安かを聞いたところ、家事の不安(25.7%)、安全面での不安(45.0%)よりも、経済面での不安(66.7%)が上回る結果になりました。では、なぜひとり暮らしをするのか聞くと、就職や進学という理由を上回って、「自活したい・自立したい」という答えが全体の半数で、20代後半になると6割以上となりました。
コロナ禍で多くの人が、結婚していても就職していても一歩先は何があるかわからない、という現実を目の当たりにしましたよね。この経験で、女性たちは何が起きても自分で生きていこうとする強さを持ち始めていると感じました。
ひとり暮らしはそうした自活自立のファーストステップ。自分で家事ができるとか、家計をやりくりできたとか、つらい夜もひとりで乗り越えたとか、その積み重ねが自信につながっていくと思います。
女性ならではの「生きづらさ」を可視化することが大切
編集部 企業がやるべきことはフェーズが変わってきていて、利益追求だけではなく、どれだけ社会に貢献できるかという段階になってきていると感じています。
赤星 そもそも単身女性をどう支援していくかは社会問題だと思います。
実際に単身女性は増えていて、2015年には870万人でしたが、2020年には900万人になり、2035年には950万人になると予想されています。女性に限らず、2035年には国内世帯のおよそ半数が単身世帯になるとの予想もあります。(出所:国立社会保障・人口問題研究所推計)
そして、単身女性の経済状況をみると、就業率は7割以上で世界的に見ても高いのですが、生涯年収は男性の7割程で賃金格差があるのは明らかです。
こうした状況を踏まえて、企業としてできることは何かと考えたときに、ひとり暮らし女性の生活をサポートすることでより豊かな社会の実現に繋がると考え、「MAISON ABLE」を運営しています。
編集部 企業として真剣に取り組んでいらっしゃるのが伝わります。
企業として私たちができることは何か?と考えてみると、そのひとつがデータを分析して問題提起をするということが挙げられると思います。以前記事にもしたのですが、女性の働く意欲は年齢別に見たときに男性に比べてアップダウンがあることがわかりました。
女性はライフステージによって環境が異なるので、同世代であっても考え方や悩みがまったく違うということはありますよね。母や妻、仕事など複数のチャンネルを持つがゆえに、悩みも多層的です。似たような環境であっても多少状況が違えばそれぞれの立場で異なる悩みが存在するでしょうし、それらに対して社会全体で向き合っていくことも必要ですよね。
赤星 おっしゃるように、単身女性でも一人ひとり状況が違いますね。実家暮らし女性とひとり暮らし女性にアンケートをして、女性たちのリアルな状況を定期的にメゾンエイブルレポートとしてリリースを配信しています。彼氏がいる率が高いのはどちらか、副業はしているかなども調査していますが、リアルな生活状況や抱えている課題が見えてきて興味深い内容になっています。
そして、意外とユーザーからの反響で多いのが、アンケートに答えることで「モヤモヤしているものが整理できた」という声。結婚したいのか、同棲したいのか、恋人はいるのかといったアンケートに答えることで、「本当に結婚ってしたほうがいいのかな」とか「自分は子ども欲しいのかな」という気持ちを整理できると。
また、アンケート結果の記事を見て、自分と同じ考えの人は多い、マジョリティだと安心する人もいるようです。友達同士であっても、独身か既婚か、働いているか専業主婦なのか、子どもはいるのか、貯金の額や投資の運用など生活スタイルが様々なので本音が言いにくい。ユーザーの抱えている問題をできるだけ可視化して、それに応えていけるようなサービスが提案できたらなと思っています。
編集部 問題解決が進みそうで期待が持てます。
活動を行うにあたって大切にしていることはありますか?
赤星 大切にしている考えとして、「ひとり暮らし女性を応援する」ということは、いろいろな企業や顧客と共にブランドサービスを作り上げていくことが必要だと考えています。
そして、精神性として大事にしているのが「レジリエンス」。つまり、困難や逆境に陥っても精神的に揺るがない、しなやかな軸を持てるように支援していくのが目標ですね。
テレビは寄り添ってくれる存在。だからこそ多様性に配慮した表現が求められる
編集部 広告でコミュニケーションするときに気を付けていることはどんなことでしょうか?
赤星 伝えたいメッセージやターゲットによって、新聞やSNS、インフルエンサーなど、アプローチは変えています。テレビは影響力も大きいので、「MAISON ABLE」というブランドをどう打ち出していくかは慎重に考えています。最近はSNSで拡散されて、それがメディアで取り上げられるパターンも多いですよね。私たちの取り組みもそのようにエスカレーションしていくといいなという期待はあります。
編集部 2021年1月、朝日新聞に掲載された広告「『女性初』がニュースじゃなくなる日まで」は、いろいろなメディアでも取り上げられましたよね。反響はいかがでしたか?
▲2021年1月に掲載された新聞広告
赤星 あの広告はアメリカで女性初の副大統領に就任したカマラ・ハリス新副大統領の就任式に合わせて掲載したものですが、ジェンダーに触れる内容であったことから、様々なご意見を頂くことは覚悟していました。
ご意見の中には批判の声もありましたが、私たち自身もこれから変わっていこうとしている表明でもありました。エイブル女子割については現在の経済格差の課題や女性はセキュリティ面でも住居に費用が発生すること等からも、安心して新生活をはじめて欲しいという想いから実施しているものです。
ジェンダー文脈での意見広告で多様なご意見もいただきましたが、真摯に受け止めつつ意見広告の掲載は意義のあるものだったと捉えています。
編集部 ジェンダーに関わる話題は非常にデリケートで難しく、どんな表現でメッセージを発信するかが重要ですよね。以前、家事を表現したテレビCMのクリエイティブの変化をテーマに分析したのですが、年代を追うごとに家事の主体を女性だけでなく男性にしている企業も増えていて、その企業が生活者にいかに寄り添っているのかが広告で可視化されたように感じました。
赤星 特にテレビは大勢の人に届くメディアなので、特定の層に刺さればいいというのではなく、多様性を理解して誰も傷つかないような配慮が大切だと思います。
それに、テレビは寄り添ってくれている感じがありますよね。子どもの頃、家にいるときは必ずテレビがついていましたし、今でも家に帰ってくると最初にテレビをつけます。
YouTubeやSNSも好きで見ていますが、仕事で疲れていたり、精神的に落ち込んでいたりするときは見るのが辛くなることもあります。おそらく距離感が近いからだと思います。テレビの向こうは自分とはまったく違う世界ですが、SNSは身近な存在なので自分に引き寄せて考えてしまう。その点テレビは一線が引かれている分、居心地の良さを感じることができるのだと思います。
編集部 確かにテレビは、単にひとつの媒体というより、公共性の高いメディアなのでそうした特性はありますよね。メディアの価値はどれくらいの人にリーチできるかといった議論に終始しがちですが、そもそも生活の中でどんな存在価値があるのかを見極めることも必要かもしれませんね。
ライフスタイルの変化に合わせたサービスを提供したい
編集部 コロナ禍で生活者の意識も変わってきていると思いますが、現状や今後についてどのように捉えていらっしゃいますか?
赤星 実は今年2021年1月にブランドリニューアルをして、「MAISON ABLE」は当グループ会社エイブルでの契約者の方以外でも、国内でひとり暮らしをされている女性の方であれば、どなたでも入会できるように変更しました。
アンケートで現在ひとり暮らしの女性に調査すると「明日食べるものも不安」という声も聞こえてきて、支援の幅を広げたいと考えたからです。あわせて経営的な面でいうと、不動産賃貸市場はコモディティ化しており、物件以外の付加価値を社会課題解決と紐づけて経営強化していきたいという考えもあります。
編集部 単身世帯はもちろんですが、コロナ禍で住環境を見直そうという動きがありますよね。
赤星 最近の傾向では、単身世帯だけでなく子どもがいない世帯などは、結婚後も賃貸を利用している人が増えています。コロナ禍で働き方が変わって、住みたいときに住みたい場所に住むというライフスタイルが可能になり、「家を買う」ことが絶対ではなくなっていると思います。こうした考え方は年々増えていた実感はありましたが、コロナ禍でそれが加速した印象はありますね。
編集部 郊外に引っ越す人も増えていますし、家で過ごす時間も長くなって生活の質を考えるようになっていますよね。赤星さんが今後やっていきたい取り組みなどはありますか?
赤星 いろいろあるのですが、引越しする際に不要となる家具などを引き継げるシステムがあったらいいなと思っています。実は、私が住んでいる部屋は窓が大きくてカーテンをオーダーメイドしたのですが、引っ越すときには多分捨ててしまうので次に住む人に譲れたらと。初日にカーテンがないと危ないですから(笑)。
編集部 無駄なものがなくなるし廃棄も減らせて、いいですね。
インタビューを通じて、「ひとり暮らしの女性を応援する」という赤星さんの熱い想いが伝わりましたが、その原動力とは?
赤星 入社当時に感じた、ひとり暮らしの大変さ、なぜこんなに格差が生まれてしまうのかという気持ちが活動の原動力になっています。そして、一度決めたことはやり通す、"継続"と"信念"を大切に、誠実に仕事をしていこうと思っています。
編集部 当社も生活者のために何ができるのか、考えていきたいと改めて思いました。今日はありがとうございました。
<了>