「あなたとつくるラジオ」の軸を大切に、生ワイドならではのワクワク感を演出する。〜AIR-G' エフエム北海道 アナウンサー 森本 優さん〜

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「あなたとつくるラジオ」の軸を大切に、生ワイドならではのワクワク感を演出する。〜AIR-G' エフエム北海道 アナウンサー 森本 優さん〜

(左から)AD「さえまる」、森本 優さん、ディレクター「スッパ」


AIR-G'エフエム北海道の人気パーソナリティーとして活躍しているアナウンサーの森本優さん。前回のインタビューではラジオへの熱い想いを語ってくれました。

そして今年、自身がパーソナリティーを担当している学生応援番組「IMAREAL」が日本民間放送連盟賞 番組部門 ラジオ生ワイド部門で最優秀賞を受賞。コロナ禍でも積極的にメッセージを発信し、ラジオ界全体を盛り上げるために奮闘しています。

そこで今回Synapse編集部は約2年半ぶりに、森本さんにラジオの現在、そして今後について話をお聞きしました。



<プロフィール>
株式会社エフエム北海道 編成制作部 森本 優(もりもと ゆう)

AIR-G'エフエム北海道のアナウンサー。1991年生まれ、 高知県出身。法政大学社会学部メディア社会学科入学を機に上京し、大学3年生のときにJ-WAVEでADを経験。2014年秋、アナウンサーとしてAIR-G'に入社。自身が企画した番組『IMAREAL』『LEVANGA STATION』『にこにこぎゅっ』に現在出演中。

ひとりひとりのリスナーの「今」と向き合う、その姿勢が評価されたと思っています

まずは、日本民間放送連盟賞 番組部門 ラジオ生ワイド部門での最優秀賞受賞、おめでとうございます。率直なお気持ちをお聞かせください。

「獲れるとは思っていませんでした」というのが、正直な感想です。もちろん賞を獲ることは夢ではありましたが、まさか、という感じでしたね。

そして、何よりうれしかったのは、"通常の番組の内容"で受賞できたことです。企画ものやスペシャル放送をエントリーするケースも多いのですが、応募したのは学校でいじめられて悩んでいるという女の子からのメールを紹介したり、コロナ禍でも部活動を頑張っている札幌の高校生と電話をつないで話すという、本当に「いつも通りの放送回」でした。

番組でも「あなたとつくるラジオです」とリスナーに語りかけているのですが、一人ひとりと向き合うという番組の姿勢を評価していただけたと思っています。

10代向けのラジオ番組は他局でも放送されていますが、「IMAREAL」の特長、魅力はどんなところでしょうか?

学校訪問などを通じて学生たちと触れ合う"外出系ラジオ"が番組のコンセプトです。10代向け番組は、他にもFM広島の「大窪シゲキの9ジラジ」などで学校訪問のコーナーなどがありますが、「IMAREAL」の一番の特長はリスナーと一緒に成長していけるところだと思っています。

番組には大学生や専門学校生が出演する「スクールストライク」や、様々な業種の方に仕事について話してもらう「ジョブリアル」などのコーナーがあります。ターゲットを10代に限定するのではなく、「10代にも聴いてもらえる」ということを大切にしています。

高校生だったリスナーが大学生や専門学校生になって「スクールストライク」に出ることもあり、リスナーが大人になっていく過程に寄り添っていける、一緒に成長していけるところが番組の魅力だと思っています。

学校訪問など、コロナ禍での放送は苦労も多かったと思いますが。

世の中は「外出自粛」なのに、"外出系ラジオ"というのは矛盾があると思いながら、試行錯誤して放送していました。4年間の放送の中で信頼関係を構築できた学校も多いので、緊急事態宣言が出ていない時期は学校訪問もしていましたね。

コロナ禍で行事ができなかったり、勉強も進まなかったり「学生はかわいそう」というムードがありましたが、話を聞くと全くそんなことはなくて。学生たちのほうが現状を冷静に受け止めていて、「今できることをやるしかない」と前向きでした。悔しさや悲しさはあると思いますが、落ち込んでいる学生はひとりもいませんでした。

いつもとは違う環境の中で、ラジオだからこそ伝えられることもあると思います。

学生時代は出会える人の数が限られているし、コロナ禍でさらに人に会える機会は減っていますよね。

私の弟も大学生なのですが授業がオンラインになって「大学に行く意味って何だろう」と考えたそうです。僕もコロナ禍で人に会って話すことの大切さを改めて感じました。

そんな中でラジオができることは、普段出会うことのない人にラジオを通して出会ってもらうことではないかと。ラジオ越しでも、札幌の〇〇高校にこんな子がいるんだとか、自分に似ているなとか感じるだけでもつながっている実感があると思います。

「ジョブリアル」は地元で働く人が仕事について語るコーナーですが、これは進路選択するときに仕事のことを知らなすぎた自分の経験からできたものです。学生時代は情報が入手しづらいので選択肢がない。だから実際に働いている人の話を聞く場としてこのコーナーを設けています。コロナ禍だからこそ人に出会える番組づくりが必要だと感じました。

100人の方にインタビューをするという取り組みもされていましたよね。

僕が今年で30歳になったのですが、20代最後の年に何をやろうかと思ったときに、いろいろな人に会いたいと思って始めた企画です。「#今話したい100人」というハッシュタグとタイトルでTwitterのライブ放送をしました。Twitterを使ったのは普段ラジオを聴く習慣がない人にも接触して欲しいと思ったからです。

100人のインタビューを実現させるのは大変でしたが、ある意味コロナ禍だからこそできたことでもありました。ラジオ業界の人をメインに話を聞いたのですが、みなさん「ぜひ話そうよ」という感じで快く出演してくれて。ラジオに関わる人たちの「伝えたい」という気持ちが素敵だなと思いました。


「認知」から「周知」へ、ラジオの楽しさを知ってもらう

コロナ禍でラジオを聴く人が増えたと言われていますが、実感はありますか?

そうですね、最近は道外からのメールが半数以上を占めることも多いので、聴取者層が広がっている実感はあります。この機会に地方のラジオを聴いてみようという人が増えたのかもしれませんね。

そして、最近は他局のパーソナリティーの方が出演することも多く、"ラジオ局のコラボ時代"でもあります。ラジオ界全体を盛り上げるためにも、携わる人が「ラジオっていいよね」と発信するのは意味があります。

ただ、僕自身はその先にいきたいなと。他の局のラジオ番組に出演したりして、ラジオ界の中の「認知」を上げながら、ラジオの外にある世界へと「周知」も広げる。「周知」はまず知ってもらうこと、「認知」は、より深く理解して行動につなげることだと捉えています。このふたつを同時にやることでより多くの人に聴いてもらえる番組になると思っています。

4年間の放送の中で、特に反響があった企画はなんでしょうか?

ひとつは2021年の8月に放送した「ラジオのヒント」という特別番組です。

ラジオに特化した仕事を紹介する内容で、技術部や営業部、CM制作やCD管理など、多くの人たちの力でラジオができていることを伝えたいと思ったんです。いろいろな社内部署にアンケートを採りその内容を放送しました。

ラジオの仕事に就職する道は決まっていないけれど、「ラジオってこういう感じだよ」っていうヒントはあげられる、という意味で「ラジオのヒント」というタイトルをつけて、4時間放送しました。社内でもよかったと声をかけてもらいましたし、他局の方からも真似したいというメッセージをたくさんいただきました。

もうひとつは、お昼休みに学校に行って、放送部の学生たちと校内放送をやるという企画です。

1カ月くらい前から放送部の学生とやり取りをして番組内容を決めています。インタビューや学生へのアンケートなど番組内容はいろいろですが、学生たちのやりたいことが実現できるようにしています。学生が番組の構成から考えるのでDJ担当だけでなく、ディレクターやミキサーなど関わった学生全員にとっていい経験になっていると思いますね。放送はサプライズなので、オンエア中に放送部に学生が集まってきたりして、とても盛り上がりますね。

「IMAREAL」を聴いてくれている学生も多くて、「お前も聴いてたの?」みたいな感じで学生同士の新しい交流にもつながっているようです。落ち着いたらぜひ再開したいと思っています。

学生たちの共感を得るために大切にしていることはありますか?

学生向けの番組はたくさんありますが、「何が流行っているのか」を聞いたり、調べたりするという内容になりがちです。パーソナリティーも学生たちから「教えてもらう」というスタンスで向き合うことが多いのですが、僕は学生たちの興味を持つことに自分も興味を持って、それを共有したい。学生から話を聞いたときに「それ知っているよ。いいよね!」と返すと学生のリアクションが全く違います。心を開いてくれるんですね。

普段から若者が見ているものや聴いているもの、アニメやゲームは常にチェックしています。もともと好きなジャンルなので「がんばっている」という感覚はなく、楽しみながら新しい情報を吸収しています。

取り上げるテーマで重視していることはどんなことでしょうか?

共感を得るという意味でも、ゲストアーティストのアルバムタイトルからつなげることは多いですね。

先日は乃木坂46 金川紗耶さんがレギュラー出演していることもあり、リリースしたばかりのシングルタイトル「君に叱られた」をテーマにしました。トークのときに必ずその曲を流すので曲も浸透しますし、番組との一体感も生まれます。

できるだけたくさんの人が参加できるものにしたいなと思っていますが、テーマ設定は難しいですね。「これはどうかな?」と思ったものがハネたり、途中でテーマが変わるときもあります。でも、それがラジオの面白さでもあり、ライブ感かなとも思っています。

若者にとってYouTubeもTikTokも「ラジオ」、音声メディアはライバル

Twitterのライブ放送やポッドキャストなど「音声メディア」がブームになっていますが、どう捉えていますか?

音声メディアが人気になっている理由はいくつかあると思いますが、ひとつは「いい距離感の他人の話を聞くのは面白い」ということだと思います。知らない人の恋愛話や上司の愚痴は、直接害がないからこそ楽しんで聞けますよね。そうした楽しみに気づき始めた人が増えたのではないでしょうか。

そして、もうひとつは「音声メディアがブームだ」と世間でも言われ始めたからだと思います。人気が人気を呼ぶという相乗効果で、周りでも話題になっているから聴いてみた、という人は多いですね。

音声メディアのブームの中でラジオの注目も高まると思いますか?

ラジオが盛り上がるというよりは、ライバルが増えただけ、と捉えています。学生たちに「ラジオ聴いてる?」と質問すると、「YouTubeで聴きます」「TikTokで聴きます」という答えが返ってくることが多いんです。もちろん法的にはダメなことなんですが...。

タレントさんが自分のチャンネルで映像を入れず"音声だけ"を配信することも増えて、ラジオの概念が変わってきたと感じています。だからこそ、聴く人を増やさないといけないと考えています。

森本さんはSNSなども積極的に活用されていますが、それも若者との接点を増やすためでしょうか?

いえ、Twitterを使うのが当たり前だと思っているからです。もちろん社内で議論はありましたが。

今の学生にとってラジオも音声メディアのひとつで、どの媒体で聴くかは関係ないんですね。だからこそ電波で流しているラジオ番組に触れてもらうには、若者が利用しているYouTubeやTwitterで情報を発信することが効果的だと考えています。

よく若者の「ラジオ離れ」「テレビ離れ」という話題が出ますが、「〇〇離れ」というのは一度、そのメディアに触れているからこそ使われる表現ですよね。でも今は、若者にまずはラジオに触れてもらうことから始める必要があります。そのためには、こちらから若者がいるところに出向いていくのが大切。オンエア中にも「みなさんのリツイートやいいね!が番組の存続を決めます!♯(ハッシュタグ)を付けて拡散してください!」と呼び掛けています。

タイムラインで「IMAREAL」の話をしていたら、そこに私がいきなり参加してみたり。「本人が来た!」と盛り上がって、リスナーになってくれることもあります。

人気のあるものがさらに人気になる、ラジオもその循環に入れるはず

ラジオを盛り上げていくには何が必要だと思いますか?

今は「人気なものがより人気になる」という循環があると感じています。音楽でもチャート上位のものを聴く人が多く、さらにその曲は売れていくというような流れがありますよね。いいものはたくさんあるのに、知る機会がないのはもったいない。ラジオは人気のものを聴けるし、知らない世界にも触れられる。ジャンルレスでどんなものでも扱える無限の可能性を持つメディアです。そのことは僕も発信していきたいですし、ラジオ界全体で人気コンテンツをつくって、各局のパーソナリティーを前に押し出していくことも必要だと思います。

コロナ禍で「ラジオが見直されている」という記事を書いていただくこともありますが、そうした「ブームが来ている」という雰囲気も後押しになります。メディアに関わっている僕たちが「ラジオめっちゃキテます!」と言い続けることで裾野も広がっていくはず。

「IMAREAL」もこの1年は「日本一のラジオ番組になりました!」と積極的に発信してリスナーを増やしたいと思っています。

日本一のラジオ番組に選ばれてできることも広がると思いますが、今後についてはいかがでしょうか?

少し大げさかもしれませんが、夢を与えたいと思っています。地方はローカルだから...という扱いをされますが、生活している人にとっては「セントラル(=中心)」です。北海道でもこんなことができるんだぞってことをリスナーに伝えたいです。例えば「Zepp Sapporo」を貸切ってライブをやるとか、「スゴイことやっているな」と思ってもらえるような大きいことをしたいですね。

あとは、いい意味で変わらないことも心がけていきたいです。賞を獲ったら変わるような番組ではリスナーをがっかりさせてしまうと思うので。

世の中的に、オンデマンドでコンテンツに接することが多くなっていると思いますが、生ワイドの良さは何だと思いますか?

生ワイドの良さは、リスナーが参加することで放送内容が変わっていく、どうなっていくのかわからないワクワク感です。番組でも「あなたのメッセージやリクエストで番組は変わります」と言っているので、そこはブレずにいきたいですね。

生ワイドの意義は"リスナーと番組を作ること"です。また、いい意味でタイムフリーで聴いたときに「生で聴いてみたい」と思う内容にしていますし、生番組の熱量は高いと感じています。

これからも周囲から選ばれる番組であり続けるために、1回1回の放送を大切にしていきたいと思います。

「イマリエール!」ポーズの森本さん


番組はもちろん、ラジオ界を盛り上げたいという熱い想いが伝わってきて、若者の前向きなリアルを伝える森本さんの姿勢は本当に素敵だなと感じました!

また、今回お話を伺って、ネット経由の音声サービスの広がり、推しのタレントの生声が楽しめるコンテンツなど、ラジオと若者との距離感は近づいている。若者がインターネットで誰かとつながる、コミュニケーションする行為は、ラジオ(音声メディア)と親和性が高いのではないかと改めて感じたインタビューでした。

森本さん、貴重なお話をありがとうございました。


IMAREAL」AIR-G' エフエム北海道 金曜18:00-22:00


<了>

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