【 鈴木おさむ の WHAT'S ON TV ? 】メディアと「モラル」

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【 鈴木おさむ の WHAT'S ON TV ? 】メディアと「モラル」

【 鈴木おさむ の WHAT'S ON TV ? 】第41回

あるアーティストの方に薦められてNetflixで配信されているアメリカの番組を見た。

一人のコメディアンがライブステージにマイクを持って出てきて、1時間以上喋り倒す。スタンダップコメディというやつだ。

デイヴ・シャペルというアメリカのコメディアン。現在、48歳。「サタデー・ナイト・ライブ」などに出演し人気者となり、2003年には自身の番組「Chappelle's Show(シャペルズ・ショー)」が開始し、大人気に。だが、2006年に「自分の作品が白人にただ消費され、笑い者にされているだけだ」という理由で突如降板。そのあと10年以上表舞台から姿を消していたのだが、Netflixとなんと65億円の超大型契約をして2017年に復帰。


年に1本のペースで配信し、人種差別や社会問題、政治などをテーマにした辛辣なトークで笑いを誘う。こういうスタンダップコメディものってあんまり得意ではないのですが、視聴してみまして、いや、ちょっと驚きました。

凄い覚悟だなと。ネットでも書かれていましたが、大勢の観客がいるにもかかわらず中身が中身だけに、いきなり銃で撃ち殺されてもおかしくないと思ってしまう。

その発言一つ一つには彼の中での「信念」があり、好きな人は超好きだけど、嫌いな人は嫌い、というか許せないだろう。

マイク1本で1時間ちょっと喋るのだが、喋る中身と構成はかなり練られているように感じる。わざと「ただ喋るだけ」に見せたショーであるが、一つ一つの話の切れ味と、縦軸の作り方など、とてつもなくよく作り込まれているなと感じてしまう。

ただ、とんでもない問題も起きている。2019年にNetflixで発表した「デイヴ・シャペルのどこ吹く風(Dave Chappelle: Sticks & Stones)」での彼の発言がもとで自殺者が出てしまった。しかも、自殺してしまったのはデイヴ・シャペルの友人だった。


なぜそんなことが起きてしまったのかは、ここでは説明しきれないのでご自身で調べていただくとして、そんなことが起きたあと、2021年にデイヴ・シャペルは最後の作品「デイヴ・シャペルのこれでお開き(Dave Chappelle: The Closer)」を配信する。

その中で発言したことなどが、トランスジェンダーに対し差別的だとかなりの批判に晒されてしまっている。

デイヴは友人の自殺も踏まえて、彼なりの信念と覚悟を持ってこのステージに立っているはずで、何かをただおもしろおかしく言おうなどとは思っていないはず。

配信後、Netflixには連日抗議のメールが届き、作品の削除を求める声が寄せられている。しかも社内の社員グループからもボイコットの要求があったりして、相当な騒ぎに。


ですが、これを受けて、NetflixのCEOは「我々はこの作品が一線を越えているとは考えておらず、削除の予定はない」と発表している。僕が視聴できているということは未だに削除されていない。

僕はここでデイヴ・シャペルが発言していることに対して、自身の考えを言おうとも思っていない。だが、一人のコメディアンがかなりの信念を持って作ったものが、多くの人を傷つけたという事実。だけど、この作品が好きだという人も多くいるであろうという現実。

この2年ほど、テレビ内で発言するのにふさわしくない言葉がとても増えている気がする。

テレビだけではなくネットでの発言も大きく炎上し、最大公約数の「モラル」を問われ始めているこの日本で、このデイヴ・シャペルの作品とそれにより起きたこと、そしてその後の経緯は、今後日本の様々なメディアが何をどう選択していくのか考えるのに、一つのいいテキストになるような気がする。

<了>

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