【 鈴木おさむ の WHAT'S ON TV ? 】「はじめてのおつかい」にみえる「狂気性」
【 鈴木おさむ の WHAT'S ON TV ? 】第44回
テレビの未来を語る番組で、「電波少年」シリーズを作った"T部長"こと土屋敏男さんが言っていたことは、テレビを作るうえでの「作り手の狂気」。
この「作り手の狂気」が減ってきたと。確かにそう思う。
土屋さんは「電波少年」シリーズを作ってきた人なので、土屋さんが「狂気」と言うと、あの番組のような「狂気性」のある企画のことだけを指しているように感じてしまうが、そうではない。
土屋さんは例として「はじめてのおつかい」のことを言っていた。
Netflixで配信されて、最近世界でも人気になったことで話題の「はじめてのおつかい」。土屋さんはこの番組を作る人たちの「狂気性」のことを称えているのだが、一般の人からすると「はじめてのおつかい」のどこが狂気なのかと思う人も多いだろう。だけど、あの番組を作ってきた人たちは「狂気性」に溢れていると思う。
何も危険な企画をやることだけが、狂気というわけではない。
過去を振り返れば、あの「はじめてのおつかい」の企画をパクって挑戦しようとした番組は沢山あると思う。でも、結局、「はじめてのおつかい」のように、面白くはならない。感動もしない。
理由は簡単で、あの番組を作るのはめちゃくちゃ難しいのだ。番組を作るためには、きっとマクドナルドのポテトのような門外不出のレシピがあるのだろう。
まず「はじめてのおつかい」は、子供をおつかいに行かせるという、至ってシンプルな企画内容だが、撮影するにあたって、相当数の子供に会っているはずである。その中から、おつかいが出来るかどうかのレベルを探る。これは相当難しいことだと思う。子供とどうやって会ってどうやって選んでいるかは分からないが、かなりの人数の子供に会っているはずだし、時間もかかるだろうし、これはかなりの労力。ここにまず、「狂気性」があると思う。
そして何よりあの撮影方法。子供がおつかいをしている近くをスタッフ陣がバレないように同行しているあのシステムを開発することだって容易ではない。子供はどんな行動するかわからないからだ。
最終的に僕らのもとに届いている番組は、面白いもの、感動するものとなっているが、放送されているものの数倍・数十倍は撮影しているのではなかろうか? そのこだわりにも「狂気性」を感じてしまうのだ。
嘘か誠かわからないが、撮影したものがボツになってしまった家族には、その映像を編集して送っていると聞いたことがある。事実だとしたらそこも凄い。
「狂気性」とは、一個のものに特化して作るこだわりを超えた信念。
僕は、この「はじめてのおつかい」と同様の「狂気性」を「全日本仮装大賞」にも感じるのだ。出場者をあそこまで熱くさせてしまうのは、長年かけて作り上げた作り手の「狂気性」なのだと思う。
近頃、テレビのネガティブな話題ばかりが目立つことが多いが、この「はじめてのおつかい」がNetflixを通じて世界に放送されたことは、とても明るい話だと思う。
日本人独特の「狂気性」のある作品はまだまだあるし、今とても勢いのある韓国に負けてないものも沢山ある。
これまでに作られた作品だけでなく、この「狂気性」をはき違えずに、「狂気性」のある新たなものを作る作り手がこれからも出てくることを願う。
<了>