【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】「トップガン マーヴェリック」の爆発的ヒットがもたらした教訓とは?

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【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】「トップガン マーヴェリック」の爆発的ヒットがもたらした教訓とは?

トム・クルーズ主演の「トップガン マーヴェリック」(ジョセフ・コシンスキー監督)が北米市場で快進撃を続けている。

5月27日に封切られた同作は、祝日だった30日のメモリアルデーを含めた公開からの4日間で、北米興行収入1億6000万ドルというオープニング成績を記録。40年近くにわたりトップ俳優としてハリウッドに君臨し、「ミッション:インポッシブル」シリーズや「宇宙戦争」「マイノリティ・リポート」といった数々のヒット映画に出演しているトム・クルーズにとっても、史上最高となった。

だが、驚くべきは2週目の週末の興行成績だ。1億ドル以上のオープニング成績を樹立した大作映画の場合、2週目は大幅ダウンするのが当たり前である。オープニング週に観客が殺到することに加えて、鑑賞済みの映画ファンがネガティブなクチコミを広げるためだ。

たとえ出来が良くても半減は当たり前で、「THE BATMAN-ザ・バットマン-」は50%ダウン、2021年最大のヒットとなった「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」にしても67%もダウンしている。

だが、「トップガン マーヴェリック」の2週目の興行成績は9000万ドルと、前週比およそ30%ダウンに留まった。正確な資料がないので断言はできないものの、ハリウッド大作でもっとも下落率が低い作品のひとつであることは間違いない。


2021年公開の「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」が北米興行8億ドルを超えるなど、コロナ禍においても大ヒットを記録する作品が生まれるようになったが、ランキング上位を占めるのは、「シャン・チー/テン・リングスの伝説」や「ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ」「ブラック・ウィドウ」といったアメコミ映画ばかりで、大人の観客層が依然として映画館を敬遠していた。

だが、「トップガン マーヴェリック」の快進撃を支えているのは、前作「トップガン」(1986)を知る観客層である。「トップガン マーヴェリック」が彼らを映画館に引き戻したのだ。

しかし、この「トップガン」現象をみて、80年代映画のリバイバルがヒットの鍵だと結論づけるのは見当違いだ。すでにメジャースタジオでは「E.T.」や「グーニーズ」、「プラトーン」、「レインマン」などの続編といった安易な企画が立ち上がっているかもしれないが、「トップガン マーヴェリック」は往年の映画ファンにノスタルジーを提供するだけの作品ではない。


のちに「トップガン マーヴェリック」となる「トップガン2」の企画開発が始まったのは、2010年に遡る。前作を手がけたトニー・スコット監督が主導し、脚本がいくつか執筆された。だが、2012年にスコット監督が他界。先行きが不透明になったものの、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーは企画開発を続けたという。

続編公開への動きが本格化したきっかけは、トム・クルーズ主演の「オブリビオン」を手がけたジョセフ・コシンスキー監督が、「トップガン2」の新たなストーリーを考案したことだ。2017年、「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」をパリで撮影中のトム・クルーズを、コシンスキー監督が訪問。「トップガン2」のストーリー案をプレゼンした。

現在のマーヴェリックが最新ジェット機のテストパイロットになっている点や、グースの息子ルースターとの関係に焦点を当てるという監督のアイデアに感激したクルーズは、即座にパラマウント・ピクチャーズの会長に直談判した。かくして、「トップガン マーヴェリック」は実現へと動き出したのだ。


もしトム・クルーズが絡んでいなければ、「トップガン2」はずっと前に実現していただろう。パラマウント・ピクチャーズも、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーもヒット映画に恵まれていなかった。「トップガン」という80年代のIP(知的財産)であれば、集客の目途も立つ。続編でもリブートでもどんな形であれ、すぐにでも制作したかったはずだ。

だが、前作「トップガン」の主演を務めたトム・クルーズは、続編に興味関心を示しつつも、首を縦に振らなかった。クルーズ抜きで続編を制作することもできただろうが、パラマウント・ピクチャーズはトム・クルーズが主演・制作を手がける「ミッション:インポッシブル」シリーズを抱えているだけに、関係の悪化は避けたかった。

かくして、トム・クルーズが納得してくれるストーリー案が生まれるまで、じっと待つしかなかった。

一方、「ミッション:インポッシブル」を抱えているトム・クルーズにとって、「トップガン2」をすぐに作らなくてはいけない金銭的理由は存在しなかった。そのため、制作に値するストーリー案が生まれるまで待つことができたのだ。


アメリカにおける映画の評価といえば、米映画批評サイト「Rotten Tomatoes」が有名だ。だが、これは映画評論家の批評をまとめたものにすぎない。一般観客の反応を知りたければ、実際に映画を鑑賞した観客の感想を集計する「シネマスコア」のほうがわかりやすい。

実は、「トップガン マーヴェリック」はシネマスコアで最高ランクのA+を獲得している(ちなみにRotten Tomatoesでも高評価の97%だ)。これはマーベル作品やトム・クルーズの出演作品の中でも特に評価が高い。つまり、作品の完成度が高く、観客の満足度が極めて高いのだ。「トップガン マーヴェリック」の興行成績が、公開2週目でもほとんどダウンしていない理由はこれに尽きる。


今後アメリカでは、「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」や「バズ・ライトイヤー」「NOPE/ノープ」といった大作映画の公開を控えている。「トップガン マーヴェリック」をきっかけに、映画興行が完全復活する展開に期待したい。

<了>

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