【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】「THE LAST OF US」ゲーム原作の作品がここまで大ヒットしたその魅力とは?
日本ではU-NEXTで配信されている新ドラマ「THE LAST OF US」が、アメリカで大きな話題となっている。
米有料チャンネルHBOで1月15日に第1話が放送されると、初日だけで470万人が視聴。同局としては、社会現象を巻き起こした「ゲーム・オブ・スローンズ」の前日譚スピンオフドラマである「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」以来の数字で、口コミの広がりをうけて第2話は570万人に増加。
再放送やHBO Maxでの配信を含めると、第1話の視聴者数は1週間で1800万に伸びており、はやくもシーズン2の製作が決定している。
「THE LAST OF US」は、パンデミックで文明崩壊した20年後のアメリカを舞台に、中年男性ジョエル(ペドロ・パスカル)が身元不明の少女エリー(ベラ・ラムジー)を連れて、アメリカを横断するというストーリーだ。
原因がウィルスではなく菌類という違いはあるものの、「ウォーキング・デッド」と同じゾンビによる終末世界を描いたサバイバルものである。
大ヒットドラマ「ウォーキング・デッド」といえば、昨年シーズン11でフィナーレを迎えたものの、人気キャラクターを分散させた複数のスピンオフドラマを立ちあげている。
「ウォーキング・デッド」ユニバースだけでゾンビものはすでに飽和状態にあるのに、なぜ「THE LAST OF US」はヒットすることができたのか?
巨額の予算が投じられた壮大な世界や、「ウォーキング・デッド」とは異なるストーリー設定、息を呑むアクションシーンなどさまざまな特徴があるが、最大の武器は主人公ジョエルの葛藤がしっかり描かれていることだ。
愛娘を失ったトラウマを抱えている男が、少女を輸送する仕事を受け入れざるを得なくなる。彼に超能力はなく、耳も膝も悪いが、数々の修羅場を生き抜いてきた経験を頼りに、お荷物の少女を連れて旅に出る。
タフで情け容赦のない彼が、やがて赤の他人の少女に亡き娘を重ねていくのだ。主人公のキャラクターアーク(成長曲線)が見事に描かれており、ストーリー構成がしっかりしている。
さらに「THE LAST OF US」は、「ゲーム原作ものにはろくな作品がない」という定説も覆した。
ゲームの映像化作品といえば、古くは「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」や「モータルコンバット」「トゥームレイダー」「ファイナルファンタジー」「バイオハザード」、最近では「ソニック・ザ・ムービー」「名探偵ピカチュウ」「アンチャーテッド」などコンスタントに発表されている。
実は、「THE LAST OF US」も、2013年発売のサバイバルアクションゲーム「The Last of Us」が原作だ。
有名なIP(知的財産)への依存を高めるハリウッドは、リメイクや続編・スピンオフといった既存の映像作品だけでなく、コミック(マーベル・コミックの全作品)、小説(「ハリー・ポッター」「ハンガー・ゲーム」)、玩具(「トランスフォーマー」)、アトラクション(「パイレーツ・オブ・カリビアン」)までも映像化している。だが、コミックや小説に比べると、ゲームを原作にした映像作品は一様に質が低い。
ゲームはユーザーがコントローラーを握って操作することができるのに対し、映像作品では受け身だ。だから、ゲームの物語設定をそのまま映像作品に移し替えたところで、インタラクティブ性が失われてしまうため、同レベルの娯楽を提供できない。
受け身の観客をコンテンツに没頭させるためには、共感できるキャラクターやそのキャラクターの前に立ちはだかる障害を登場させ、スリルとサスペンスを織り交ぜながら導いていかなければならない。つまり、映像化にはゲーム設定にたっぷりと肉付けをしていかなくてはいけないのだ。
その点、「THE LAST OF US」の場合は、原作のゲームがストーリー重視だったうえに、ゲーム版でクリエイティブディレクターを務めたニール・ドラックマンが、ドラマ「チェルノブイリ」の脚本・製作総指揮のクレイグ・メイジンと共同で製作総指揮を務めている。そのため、原作を補完し、迫真のドラマに仕上げている。
思えば、いまではヒットの代名詞となったアメコミ映画にしても、ブライアン・シンガー監督の「X-MEN」やサム・ライミ監督の「スパイダーマン」までは当たり外れが激しかった。
ハリウッドはこのあたりで荒唐無稽さとリアリティとの絶妙な塩梅を見いだし、ヒットを量産していくことになる。
「THE LAST OF US」は、ゲームが原作でも高品質の映像作品が成立することを証明してみせた。今後のゲーム原作作品の模範となっていくに違いない。
<了>
■THE LAST OF US
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