【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】アップルとアマゾンが劇場重視に転換。Netflixはどうする?

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【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】アップルとアマゾンが劇場重視に転換。Netflixはどうする?

ナイキの伝説のシューズといわれる「エアジョーダン」を題材とした映画「AIR/エア」が、世界で公開され好評を博している。

同作は、ベン・アフレックとマット・デイモンが立ちあげた新会社アーティスト・エクイティが企画開発した作品で、アフレックが監督、デイモンが主演を務めている。

「AIR/エア」は北米興収1445万ドルで「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」「ジョン・ウィック:コンセクエンス」に次ぐ3位でデビューを飾っている。

批評家の評価も軒並み好評であることから、今後も堅実にヒットが続きそうだ。


「AIR/エア」が突出しているのは、本作をAmazonスタジオが制作している点だ。同社は、Amazon Prime Video向けのコンテンツ制作会社であり、もともと劇場公開は想定していない。

実際、「AIR/エア」に関しても、2022年春にアマゾンが獲得した時点では、Amazon Prime Videoのみで世界配信されるはずだった。

だが、アマゾンは、北米では自社配給、北米以外ではワーナー・ブラザースを通じて配給を行い、4月5日に劇場公開する道を選択した。


動画配信サービスのオリジナル映画が劇場公開されるのは稀だった。

おまけに、コロナ禍で劇場が閉鎖された影響もあって、もともと劇場公開を想定して制作された映画が、動画配信サービスに売却されて配信されるケースも頻発していた。

だが昨年、Amazonスタジオは1年あたり劇場公開映画を12〜15本製作すると発表。

Apple TV+向けにコンテンツを作成するAppleスタジオも同様で、マーティン・スコセッシ監督の「Killers of the Flower Moon(原題)」、リドリー・スコット監督の「Napoleon(原題)」、ブラッド・ピット主演のF1映画などを劇場公開すると発表している。


なぜ動画配信サービスが劇場配給に進出しているのだろうか?

動画配信サービス発のオリジナル映画の先駆けはNetflixだ。

配給会社と劇場とのあいだにあった紳士協定「シアトリカル・ウィンドウ」(劇場公開してから、DVDの発売やデジタル配信を開始するまで期間)を無視し、Netflixは新作映画を劇場公開と同時に配信して物議を醸した。

その後、1、2週間シアトリカル・ウィンドウをあけるようになったものの、アカデミー賞出品資格を得るための手段に過ぎなかった(アカデミー賞の出品資格を得るためには、ロサンゼルスで1週間以上商業上映される必要があるため)。


昨年、Netflixはダニエル・クレイグなどオールキャストが出演したミステリー「ナイブズ・アウト:グラス・オニオン」(ライアン・ジョンソン監督)の全米公開を11月23日に開始。

だが、公開後、間もなく1328万ドルもの興収を獲得していたにもかかわらず、たった1週間で劇場公開を打ち切った。

前作「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」は北米だけで1億6500万ドルのヒットを記録していたため、そのまま公開を続けていれば、同等の収益を得ることができたはずだ。

それでも公開を打ち切ったのは、登録会員の満足度を最優先するという経営方針によるものだと思われる。同作は12月23日に世界配信された。


一方、アマゾンとアップルは劇場重視の姿勢を示している。Netflixを追いかける立場にある両社は、登録会員数を増やす必要がある。

そのためには、オリジナル映画を劇場公開することで、その魅力的なコンテンツ群を映画ファンに広くアピールすることが有効だ。


また、昨年の「トップガン マーヴェリック」のメガヒットが示したように、コロナ禍を経ても興行ビジネスは死んでいない。劇場公開からの配収が当てにできれば、さらなるコンテンツ拡充ができる。

おまけに、 劇場公開を約束することは、ライバルとのコンテンツ争奪戦で有利に働く。クリエイターの多くが劇場公開を望んでいるためだ。そのため、アマゾンやアップルの劇場公開戦略は、動画配信サービスの競争をさらに激化させる要因となっている。


映画「AIR/エア」の好評を受け、Netflixをはじめ映画業界全体がどのように変化していくのか注視していきたい。

<了>

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