【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】作品贔屓か?大手映画館チェーンCEOが語るその裏事情とは

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【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】作品贔屓か?大手映画館チェーンCEOが語るその裏事情とは

トム・クルーズといえば、コロナ禍において「トップガン マーヴェリック」の劇場公開にこだわり、動画配信への売却を頑なに拒んだことで知られる。

同作は度重なる公開延期の末、2022年5月についに封切られ空前のヒットを記録。劇場に観客を呼び戻したトム・クルーズは、全米製作者組合(PGA)から特別功労賞が授与され、名実ともにハリウッドのヒーローとなった。

だが、そんなトム・クルーズでも要求が通らないことがあるようだ。


自身が主演・プロデューサーを務めるシリーズ第7弾「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」の公開を控える彼は、北米に401館ある巨大スクリーンのIMAXに上映をかけあった。

しかし、IMAX側が「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」のために与えた上映期間は全米公開の7月14日からわずか1週間だった。7月21日以降はクリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」を上映する予定だったためだ。

「オッペンハイマー」は、第二次世界大戦中にマンハッタン計画を指揮し、原子爆弾の開発に成功した物理学者ロバート・オッペンハイマーの栄光と挫折、苦悩と葛藤を描く歴史ドラマで、「インセプション」「インターステラー」「ダンケルク」「ダークナイト」などで知られるクリストファー・ノーラン監督の注目作だ。

同作を配給するユニバーサル・ピクチャーズは1年前から北米のIMAX全スクリーンを確保していたのだ。


今回の騒動について、IMAXのリッチ・ゲルフォンドCEOは米バラエティの取材に以下のように答えている。

「すべての映画を受け入れられないことを残念に思います。『ミッション:インポッシブル』が大ヒットすることは分かっています。ですが、ノーラン監督はIMAXにとって特別な存在です。ノーラン監督はわれわれのカメラを使用し、IMAXを宣伝してくれています。どちらのほうがヒットするかという問題ではないのです。『オッペンハイマー』のIMAX上映期間終了後、『ミッション:インポッシブル』を上映したいと思います」

ゲルフォンドCEOの言う通り、ノーラン監督は「ダークナイト」以降、IMAXを積極的に利用しており、「オッペンハイマー」ではIMAXのフィルムカメラを全編で使用している。さすがのトム・クルーズでも、ノーラン監督が長年にわたってIMAXと築いた関係性を崩すことはできなかったのだ。

トム・クルーズがIMAXのスクリーン確保に奔走したのは、北米においてIMAXやDolby Cinema、4DXなどの特殊上映で特別料金が発生する「プレミアム・ラージ・フォーマット(PLF)」の観客動員が絶好調だからだ。

ゲルフォンドCEOによれば、IMAXの2022年の興収が8億5000万ドル、2023年はコロナ前の水準である11億ドルになるとの見通しを立てている。


直近でも、ソニー・ピクチャーズのアニメ映画「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」は、北米において1億2000万ドルでデビューを飾った。

安価な通常のスクリーンよりも高価なPLFスクリーンを映画ファンは選択しているようだ。

PLFスクリーンは、いまや大作映画の興行収入の3割から4割を占めているといわれ、だからこそ各スタジオは限られたPLFスクリーンをめぐって争奪戦を繰り広げているのだ。

通常上映もPLF上映も、映画であることに違いはない。それでも、映画ファンがわざわざ高価なPLF上映を選んでいるのは、コロナ禍を経て、映画鑑賞のスタイルが変わってきた証拠とみることができる。

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、新作映画が動画配信で提供されることも珍しくはなくなった。大型テレビやプロジェクター、スピーカーを揃えれば、家庭でもそれなりの映画鑑賞ができる。中小規模の映画ならば、ホームシアターで十分だ。

それでも、たっぷりの予算がかけられた超大作はぜひとも映画館で体験したい。せっかく映画館まで足を運ぶなら、可能な限り没入したい。こうした経緯でPLF上映が選ばれているのではないか。


奇しくも、ヒットメーカーのジョージ・ルーカスとスティーヴン・スピルバーグはこうした未来を予言していた。2013年、南カリフォルニア大学で行われたイベントにおいて、2人は映画業界の未来についてコメントしている。

いずれ超大作映画が相次いでコケて、パラダイムシフトが起きる、とスピルバーグは予言。その後、映画鑑賞は米ブロードウェイでの観劇のような位置づけになると言う。

「最終的に行き着くのは映画館の減少だ。残った映画館は規模が大きくなり、たくさんの魅力を備えるようになる。そのかわりチケット代は50ドルや100ドル、150ドルになるかもしれない」

その一方で、中小規模の映画はすべてテレビで鑑賞されるようになる、とルーカスは付け加えた。

「通常放送やケーブル放送じゃない。すべてはインターネットテレビになる」

それから10年の歳月と感染症の世界的流行を経て、彼らの予言が現実となりつつあるのだ。

<了>

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