【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】米俳優組合のストライキの影響がチャリティにも波及
ハリウッドでは「ダブルストライキ」が依然として続行中だ。
5月初旬に米脚本家組合(WGA)が先にストライキをはじめたわけだが、7月中旬に米俳優組合(SAG-AFTRA)が加わったインパクトは強烈だった。なにしろ、役者がいなくては映画やドラマは作れない。
また、世界的なスターはもちろん、それなりに演技経験がある役者はみなSAG-AFTRAに所属しているため(会員数は約16万人)、代役を立てるわけにもいかない。
かくして、メジャースタジオやテレビ局は大半の映像制作をストップ。制作が継続できるのは、WGAやSAG-AFTRAが関与しないリアリティ番組やスポーツ中継だけとなった。
SAG-AFTRAは、交渉相手である業界団体Alliance of Motion Picture and Television Producers(AMPTP)が関与する作品の宣伝に参加することも禁じているため、映画プレミアや取材イベントも相次いで中止になった。
9月のトロント国際映画祭の開催に伴って、トロントのレストランやクラブはもともと予約で埋まっていたが、最近キャンセルの連絡が相次いでいるという。
トロント国際映画祭にセレブが参加できる可能性が低くなり、パーティー会場が不要となったためだ。
ただし、SAG-AFTRAはすべての映像作品への参加や宣伝を禁じているわけではない。
AMPTPに所属していない独立系の作品であれば暫定的に認可しており、ベネチア国際映画祭に招待されているマイケル・マン監督の「フェラーリ」や、ソフィア・コッポラ監督の「プリシラ」などは、レッドカーペットや取材の認可を取りつけている。今年の賞レースでは独立系作品が有利となりそうだ。
SAG-AFTRAのストライキは、チャリティイベントにも影響を及ぼしている。アメリカでは、アカデミー賞に向けた宣伝キャンペーンが秋から本格的に始動する。そのタイミングに合わせて、慈善団体が寄付金集めのパーティーを実施するのだ。
セレブリティがパーティーに参加すれば、世間の注目を浴びるため、スポンサーを集めることができる。自らの名声を社会貢献に還元したいと考える意識高い系のセレブや、新作の宣伝告知のために露出を増やしたいセレブたちは、こうしたイベントに繰り出していくことになる。
たとえば、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは、アカデミー映画博物館の運営資金集めのために、2021年からパーティーを実施している。2022年にはジュリア・ロバーツ、ジョージ・クルーニー、エマ・ストーンらトップスターが結集し、1,000万ドル以上の寄付が集まった。
今年も10月にパーティーを予定しているものの、ストライキの影響で参加を辞退する役者が多くなるとみられている。
役者がイベントやパーティーへの参加を辞退する理由は主に2つある。
まず1つ目の理由は、SAG-AFTRAがAMPTP所属企業のロゴが入った看板の前での写真撮影を禁じているからだ。
メジャースタジオや動画配信大手はこの手のイベントの主要スポンサーのため、レッドカーペットの至る所にロゴがある。もしストライキが継続していた場合、SAG-AFTRA会員はレッドカーペットで写真撮影に応じてはいけないことになる。
もうひとつは、心理的な理由だ。
ストライキが勃発した背景には、動画配信が主体となった現在のビジネスモデルにおいて、脚本家や役者の生活維持が困難になったことがある。
ハリウッド俳優といえば、トム・クルーズやドウェイン・ジョンソンなどの高給取りをイメージしがちだが、彼らは例外に過ぎない。SAG-AFTRAでは健康保険を提供しているものの、年収2万6470ドルという保険への加入条件をクリアできていない会員が実に9割近くいるという。
たいていの役者は複数の仕事を掛け持ちしながらやりくりしているのだ。
つまるところ、「ダブルストライキ」は、クリエイターにとって生き残りを賭けた戦いだ。コンテンツ作りに貢献した彼らに対して、巨大メディア企業から利益が還元される仕組みを求めている。
その最中に人気俳優たちが華やかなパーティーで目撃されると、たとえチャリティ目的であっても、なにかと面倒だ。
現在は労働者側に好意的な世論が変わってしまうリスクがあるし、俳優組合内の内部抗争に繋がるかもしれない。だからこそ、高給取りの俳優たちは表舞台にいっさい立たず、嵐が過ぎ去るまでじっと首をすくめているのだ。
第3回となるアカデミー映画博物館のパーティーは10月14日に予定されている。
メリル・ストリープ、マイケル・B・ジョーダン、オプラ・ウィンフリー、ソフィア・コッポラにはイベント内で功労賞が授与される予定になっているため、彼らが辞退するとは考えづらい。
だが、そのほかにどんなセレブが参加するのか、注目したい。
<了>