【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】ハリウッドストの最大の争点「レジデュアル」ってなに?
先日、米脚本家組合(WGA)が、映画会社、テレビ局、配信プラットフォームなど350社が所属する業界団体のAMPTPと暫定合意に至り、約5カ月も続いたストライキがようやく終結した。執筆時点では米俳優組合(SAG-AFTRA)がまだストライキを継続中だが、WGAの暫定合意内容を叩き台に、交渉はすぐにまとまるものとみられている。なにより、コンテンツ不足が深刻になりつつあるなかで、AMPTPが態度を軟化させたことが大きい。WGAとの最終交渉には、ディズニーやワーナー、ユニバーサル、Netflixのトップまで参加したほどだ。
今回の契約更改交渉はなぜこれほどもつれてしまったのか? AIの脅威などが話題になっているが、ハリウッドの労使交渉で最大の争点となるのは、いまも昔もレジデュアル(residuals)だ。レジデュアルは「残留物」という意味で、作品が再利用されるたびに、その作品に関わったクリエイターや出演者に支払われる「再使用料」のことだ。
レジデュアルは、1950年代、テレビの普及とともに誕生した。テレビ番組を再放送する際に、その番組に関わった出演者や脚本家に使用料が支払われるようになった。その後、映画がテレビで放送される際にもレジデュアルが支払われるようになる。作品が海外で放映されたり、レンタルビデオで貸し出されるようになったときも、新たな計算方式を用いて利益が分配された。
クリエイターや役者の仕事は、作品をこなすことで完結しているし、そのときにしっかり対価を受け取っている。だが、完成したコンテンツが当初予定していたよりも多くの利益を生み出し、製作サイドがたっぷり潤った場合、ヒット作品に関わった人たちもおこぼれをあずかるべきだ、という考えが、レジデュアルの背景にはある。
クリエイターや役者がレジデュアルにこだわるのは、大半が作品ベースの雇用であるため、生活が不安定だからだ。ひとつでも成功作に関わることができれば、仕事がないときもレジデュアルで食いつなぐことができる。
レジデュアルの計算は作品の種類、配信媒体、当時の労働契約などに基づいて行われ、たとえば映画であれば興行成績、テレビドラマであれば視聴者数や放送回数で算出される。とても複雑だが、収益のなかから一部が分配されるという面においてはシンプルだ。
だが、ストリーミング配信が状況をややこしくした。人気の動画配信サービスはどれも定額制の見放題だから、提供しているコンテンツと収益とのつながりを見いだしづらい。そこで、コンテンツの長さと、配信期間を考慮にいれた複雑な計算方式が考案された。
だが、この仕組みになってから、脚本家や俳優に入ってくるレジデュアルがほぼゼロになった(俳優のレジデュアルは配信開始から90日後に発生するルールになっていたので、業者はその前に配信を一時停止するなどのコスト削減措置をとっていた)。
同時に、映画不況やテレビ離れが加速したせいで、映画やテレビのレジデュアルが減っている。このままでは生活維持ができないので、脚本家たちや役者たちは他の争点とともに動画配信のレジデュアル算出方法の改善を求めて、ストライキを起こしたのだ。
執筆時点ではWGAとAMPTPの暫定合意内容は不明だが、WGAが動画の再生回数に基づいたレジデュアルの算出を求めていたので、再生回数の開示を拒否していた動画配信サービス側がついに折れたということだろう。
ダブルストライキは脚本家や役者だけでなく、業界全体に深刻な経済的打撃を与えていた。暫定合意を経て、ようやくハリウッドが再開に動きはじめた。
<了>