アメリカ広告取引の新しい潮流 NBCUのCFlight

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アメリカ広告取引の新しい潮流 NBCUのCFlight

おそらく世界中のどの国でも広告取引は保守的な傾向が強く、新しい取引方法の導入はハードルが高いのではないでしょうか。その中で、米NBCUは今年のアップフロントから新しい広告取引「CFlight」(シーフライト)を導入しました。「CFlight」とは何なのか、前号から引き続きビデオリサーチUSAの谷口社長がレポートします。

NBCUのCFlight
〜クロス・プラットフォーム取引の業界標準になれるか?〜

前号の特集では「好調続くアメリカテレビ広告業界」と題して、2019年のアップフロント取引の様子とともに、テレビ広告が順調に売上を伸ばしていることをレポートしました。その好調要因のひとつとして、各メディア(テレビ局や系列メディア)がNielsenの個人視聴率データだけではなく、独自収集のデータを付け加えることで自社メディアのより詳細な視聴データを広告主に提供して広告取引を行っていることに、若干触れました。

そこで、今回のレポートではその顕著な例として、NBCU(*1)が今年のアップフロントから本格導入したCFlightについてレポートしていきます。
CFlightは今後、アメリカメディア広告取引の主流となれるのか、そして日本の広告取引への影響はあるのか、まずは現状把握から始めてみます。

*1 NBCU:NBCユニバーサル社。ネットワークテレビ局であるNBC社を中核に専門CATV局・SVOD等のデジタル配信会社を傘下に持つ複合メディア企業。NBCUの親会社であるコムキャスト社(米国内最大手のケーブル配信会社)は今春、欧州大手の有料テレビチャンネルSky 社を買収したことでも話題になっている。

CFlightとは

NBCUは2018年4月初旬にCFlightを発表しました。これは従来のNielsen 個人視聴率だけではなく、独自に収集したデータを駆使した広告取引であり、業界初のクロス・プラットフォームでの統合された広告測定のカレンシーです。
CFlightを理解するためには、まず、Nielsenの個人視聴率について考えることが有効です。現行の視聴率調査は通常テレビのリニア(リアル)とタイムシフトの測定はできますが、以下の課題がありました。

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NBCUはネットワークテレビ局だけではなく、CATV専門局やSVOD配信、SNS配信等の" メディアポートフォリオ"(*2)による広告枠を提供している企業です。従って、NBCUは系列全てのスクリーンとプラットフォームにおいて広告キャンペーンの接触状況(インプレッション等)を測定し、広告主に提供しなければなりません。つまり、現行のNielsenのテレビ視聴率だけでは測定できない範囲があることは否めないのです。そこで、クロス・プラットフォームでの統合された広告測定のカレンシーとしてCFlightが導入されました。

現状、まとまった資料が公開されていないため、データ分析等について詳細の把握が困難です。そのため、ここでは、この数カ月にわたり当社のコンサルタントの方々からヒアリングした内容を中心に説明していきます。

*2 自社がもつ様々なメディアを駆使して広告出稿を最適化すること

CFlight が活用する測定データ

CFlightではどのようなデータを用いているのでしょうか。判明しているデータを列挙してみました。

【表1】CFlight 利用データ

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*3 FEP:フル・エピソード・プレーヤー、デジタル配信により、人気ドラマシリーズなどを一挙に配信する方法
*4 Co-Viewing:一つのコンテンツを家族などで同時に複数人で見る視聴、随伴視聴のこと

【表1】のようにCFlightでは、各社のデータを駆使してNBCUが持つ様ざまなスクリーン・プラットフォームの測定を行っています。その特徴は以下の5つと考えられます。

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CFlight の取引方法

取引のプロセス
CFlightでは、データ活用だけではなく、その取引方法もリニアテレビ×デジタルの総合力が発揮できるように、従来の取引の方法とは異なるようです。その方法の概略は、下記のとおりです。

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つまり、広告主はテレビとデジタルを分けて予算案を提出するものの、NBCUはその要望を基本としながら、CFlightを用いてトータルでのテレビとデジタルの出稿計画・保証数値を作案するというものです。

キャンペーン時におけるギャランティーの確保
NBCUはCFlightのルール内(在庫量や測定方法)をもとにリニアテレビあるいはデジタル領域において出稿の調整を行う可能性がありますが、それは契約時の統合されたギャランティー(*5)をエージェンシーに提供するためです。つまり、テレビとデジタルの出稿比や出稿本数が変わることを意味するのですが、当然、広告効果のギャランティーや総広告費には変更はありません。

さらに特筆すべきは、これは契約内のルールをもとに行われますが、基本的にはNBCUの一存で決定される点です。
CFlightでの取引を過去の取引方法と簡単に比較すると、下記の表になります。

【表2】アップフロントでの取引方法

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*5 アメリカのテレビ広告取引では、テレビ局と広告主の間であらかじめ出稿の目標値(CPM等)を設定し、この目標をギャランティー(保証)する。出稿後実績が目標に達しない場合、テレビ局は広告主に対して追加のCM出稿(メーク・グッズ)や、未達出稿費相当分の返却などを行うことが一般的である。

CFlight のその他の特徴

このようにNBCUのアップフロントで、本年度から全面導入されたCFlightは、他に以下の特徴があります。

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2019年度アップフロントにおけるCFlight の貢献

2019年度のNBCUアップフロントでの広告取引は、前年度比10%増の約70億ドル(約7,000億円)という好調な結果に終わりました。詳細は省きますが、以下、特徴的な2点を紹介します。

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もうお気づきでしょうが、これらの好調な売上増はCFlightの貢献が大きかったと考えられます。私なりにその理由を整理すると、

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NBCU営業部門総括のヤカリーノ氏は「広告主のキャンペーンを全てわが社の持つNBCU系列の局・プラットフォーム上で統一した形式で測定可能にするCFlightのお陰で、今年のアップフロントは様ざまな面で充実し、収益増につながった」。また「従来の金融、保険、自動車、CPG関連(*6)以外であるデジタル系広告主もテレビ媒体の価値や我々の全てのポートフォリオに出稿する価値を理解してくれている」と自信をもって公言していたのが印象的でした。

*6 CPG関連とは一般消費財を指す。

所感

NBCUは親会社コムキャスト社からの資本、系列ケーブル局の人気、また親会社の英国のSky買収もあり、未来に向けた勢いは他のネットワーク局と比べて力強さがあります。この中で導入されたCFlightは、前述のようにオープン・ソースとして開発されたこともあり、最近再合併したCBS/VIACOM社を筆頭に他局が真似することで、足並みをそろえる可能性があります。

一方で、今年の春にMRC(メディア・レイティング・カウンシル:アメリカでのメディア調査の審査認証機関)が「クロス・メディア視聴測定のスタンダード」というドラフトを発表しました。このドラフトは約3カ月メディア、広告業界はもちろんGAFA間でも検討する機会が与えられ、業界スタンダード化を目指しています。9月初旬にその結果は発表されています。従って今後のCFlight の役割、またその方向性もこの報告書に左右される可能性があります。

そのためCFlightは今すぐに業界の共通指標になるとは言い切れないでしょう。とはいえ、グループ内のメディアポートフォリオに一元的に対応したクロス・プラットフォーム、クロス・メディアを測定するという方向性とコンセプトは広告主が望んでいる方向に進んでいると感じています。日本においても、テレビ局が様ざまなプラットフォームでの配信事業を促進していく上で、考慮しなければならない事例ではないかと考えています。

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