2019年を振り返って思ったこと
天皇のお代替わりとともに新元号が定められ、時代の節目感が漂う2019年でした。ただ、大きな自然災害や、悲惨な事件などもあって、祝賀モードに徹しきれない1年でもありました。国内政治は、安倍首相の在任日数が憲政史上最長となった一方、老後資金問題、大学入試改革、桜を見る会問題など、長期政権の歪みと思しき事案が度々ニュースとなりました。九州では8月に記録的な大雨、東日本では台風19号によって河川氾濫が起こり、甚大な被害をもたらしました。被災された皆様へ、心よりお見舞い申し上げます。自然災害とは別に、川崎通り魔事件や京都アニメーション放火殺人事件も2019年の痛ましい出来事でした。
景気動向では、日経平均が2018年末の大幅下落を受けて2万円割れからスタート。米中間の貿易摩擦懸念による乱高下などありつつも年間を通じては上昇傾向となり、11月には23,000円台を回復し、今のところ、年初来高値を更新する勢いで年の瀬を迎えそうです。このことは広告業界にも追い風として期待されますが、10月の消費税増税による景気減速の動きもあり、まだ楽観は禁物のようです。
2020年の東京オリンピック・パラリンピック(東京2020)を前に、テニス、卓球、水泳、バドミントンにバスケットボールなどなど、様ざまな競技で日本選手の活躍がありました。中でも、ラグビーワールドカップ2019は、国内12会場で開催、日本として史上初のベスト8入りを果たす活躍とともに、大きく盛り上がりました。大型の国際大会の成功は、東京2020へもよき橋渡しとなったように思いますが、お台場の水質問題でテスト大会が一部中止されたり(8月)、IOCの判断でマラソン・競歩の会場が札幌に変更される(11月)などは気がかりなことも起こっています。
海外では、英国のEU離脱問題、香港民主化デモ、米国のイランへの制裁強化、国連気候サミットにおけるトゥンベリさんのスピーチなどが印象的な出来事として挙げられそうです。
さて、そんな1年は、テレビ業界にとってはどんな年だったのでしょうか。
恒例により、放送・通信・IT まわりを見渡して【10大トピックス】をあげて振り返ってみたいと思います。
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放送・通信・IT まわりの2019年 10大トピックス
◇日本の広告費 6兆5,300億円 地上波テレビ 1兆7,848億円(数字は2018年)
◇「ポツンと一軒家」が好調。日曜夜の新たな定番へ
◇ラグビーワールドカップ 日本×南アフリカ戦は総合視聴率 40%超え
◇関東に次いで関西・名古屋でスポットCM新指標(ALL P+C7)を導入(10月)
◇ネットでも二元体制の試み。TVer がNHKの一部番組の配信を開始(8月)
◇改正放送法が成立(5月)
◇出資、VTuber起用、配信などなど、在名局の発信活発
◇Yahoo!とLINEが経営統合に合意(11月)
◇競争が激化する電子決済
◇リクナビ 内定辞退予測が社会問題化
概況 2018年の広告費
電通「日本の広告費」によれば、2018年の地上波テレビ広告費は1兆7,848億円、前年比98.2%で前年割れでした。番組広告(タイム)は、冬季五輪(平昌)、サッカーワールドカップ(ロシア)などの大型スポーツ番組が貢献して増加、前年比101.2%でした。スポット広告は、18年も豪雨、酷暑、台風などの自然災害があったため、それらによる流通の混乱への対応と考えられる出稿の縮小などで、前年比 96.3%と2年連続のマイナスでした。スポット広告では構成比の高い「食品」「化粧品・トイレタリー」「飲料・嗜好品」の減少の影響が大きかったようです。衛星メディア関連は成長が続いていましたが1,275億円で前年比98.1%、初めてマイナスに転じました。インターネット広告費(広告媒体費+広告制作費)は、1兆7,589億円、前年比116.5%と2桁成長、広告媒体費の内訳では 1兆1,518億円が運用型で前年よりもさらにその割合が増えています。2019年はインターネット広告費がテレビ広告費を超えると予想されていますが、それぞれで出稿量の多い主要な広告主の顔ぶれがだいぶ異なっていたり、個々の企業の媒体別の出稿量を見てみるとそのバランスは千差万別だったりもするので、広告費の総額だけにフォーカスして変化を論じるのはミスリードがあると思われます。年々、運用型広告の比重が多くなり、それ自体が広告費の増加に寄与している状況ではありますが、ブランドセーフティーへの関心の高まりとともに、予約型広告が見直される傾向もあるようです。
日曜20時台に新しい人気番組の登場
日本テレビが日曜日の夜の編成を「ザ! 鉄腕! DASH!!」「世界の果てまでイッテQ!」「行列のできる法律相談所」の並びとしたのは2007年2月からで、2013年頃から3番組とも15〜20%級の世帯視聴率をコンスタントに獲得し、" 強い日本テレビ"の象徴的な時間帯となりました。20時台に着目すると、この12年間に、テレビ東京を例外に民放各局5回以上番組を変えている中、18年10月に放送が始まったテレビ朝日の「ポツンと一軒家」が徐々に視聴率を伸ばし、同時間帯1位となることも増えてきています。ただ、競い合う2つの番組は、視聴者の構成をみるとだいぶ異なっていて、視聴者を奪い合って勝った、負けたという構造ではないようです。同じ時間帯に複数の人気番組が共存するのは、視聴者の広がりにも貢献するので、様ざまな時間帯でいいライバル関係が生まれるほどテレビというメディアの活力が増すように思います。
ラグビーワールドカップに日本が沸く
本稿の執筆時点(12/17)での2019年の視聴率ベストは「ラグビーW杯2019・日本× 南アフリカ」(10月20日19:10〜 NHK総合)が世帯視聴率 41.6%で1位です。2位も日本テレビで放送された「ラグビーW杯2019日本大会・日本×スコットランド」(10月13日 19:30〜)の39.2%で、上位30番組には4試合がランクインしています。スポーツ中継番組の特徴として、タイムシフト視聴による増分は少ないですが、総合視聴率でも1位と2位は変わりません。新語・流行語大賞へのノミネートをバロメータとすると「にわかファン」「笑わない男」「ジャッカル」「4年に一度じゃない。一生に一度だ。」「ONE TEAM」の5つが候補になっており、2019年のビッグイベントであったことは間違いないでしょう。当社でも11月6日に、国内27地区で実施している機械式視聴率調査から『日本代表戦5試合の視聴人数、8,700万を超える』をニュースリリースしました。その中で、決勝戦にも触れていますが、日本代表戦ではなくとも4,189万人が視聴したと推計されたのは、ラグビーファンの広がりに手ごたえが感じられるように思います。
※視聴率はすべて、関東地区の世帯視聴率
テレビにおける新指標
北部九州では機械式個人視聴率調査がスタートし、18年に関東で利用が始まったALL P+C7が、関西地区、名古屋地区でも導入されました。ALL P+C7はスポットCM取引での指標ですが、テレビのメディア評価として、単位が世帯から個人へ変わり、リアルタイム視聴だけでなくタイムシフト視聴を含めて考えられるようになるという意味合いもあります。配信による番組視聴も増えてきているので、今後はそれらも含めて、テレビというメディアそのものや番組の評価がされる時代へと向かっていくと考えられます。当社で2020年4月に向けて準備している「新視聴率構想」は、全地区を機械式個人視聴率調査とし、データの365日化、タイムシフト測定対応、配信測定対応として、その変化へ備えるものです。前段の視聴率動向は、世帯視聴率をベースにしていますが、タイムシフト視聴を含めた「総合視聴率」、視聴率調査からの「視聴人数推定」に触れたように、これからは複数の評価軸があるというのは重要なことかもしれません。例えば、世帯視聴率の上位30番組と個人視聴率のそれを比較すると、順番が違ったり、別の番組が挙がったりということが起こります。また、個人ベースのリアルタイムの視聴率で上位30番組にドラマは含まれませんが、タイムシフト視聴を踏まえた総合視聴率では、例えば6本のドラマが含まれるというようになります。軸の異なる複数のデータを見る、それに慣れるには多少時間が必要かもしれませんが、その分、番組の評価方法は豊かになっていくように思います。
一方で、2020年の新視聴率調査に向けた準備の中では、データ提供遅延などいくつかのトラブルでご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。4月に向けて、慎重に準備を進めて参ります。
TVer がNHKの一部番組配信を開始
8月には、TVer 上でNHKの番組の配信が始まりました。NHK広報によれば「多くの方々に利用されているTVerを通じて、既に放送した番組を配信することで、みなさまにNHKの番組に触れて頂く機会を増やし、放送の視聴と公共放送の理解増進につなげることを目的」として、効果を確かめる試験的な取り組みということで配信対象の番組数も限定的となっています。「民放公式テレビポータル」から「テレビ全体のポータル」へ、『ここに来ればテレビ番組の配信はすべて見られる』という状態の方が、生活者(視聴者)にとって利便性が高いと思われますが、配信への取り組みは、各局・各社様ざまな戦略があるため、今後、どのような進化・発展を遂げていくのかは、これからも動向を見ていく必要がありそうです。
改正放送法成立も、NHKの同時配信は規模を調整
関連して、2019年改正された放送法では、NHKのテレビ番組を放送と同時にインターネットで流せるようにすることが大きなポイントでした。2015年9月の「放送法の改正に関する小委員会」(自民党)の第一次提言で問題提起、その11月に総務省の「放送を巡る諸課題に関する検討会」で議論が開始されたところにさかのぼると、3年以上にわたって検討されてきたことになります。議論では「民業圧迫」の可能性が課題として指摘され、改正放送法でも、単に同時配信を容認するだけでなく、「実施基準」(ネット活用業務の内容を規定)を総務大臣が審査して認可、加えて、基準に基づく「実施計画」の策定、届け出、公表、並びに基準と計画の遵守義務が課せられています。とはいえ、法律の成立当初は「NHKの同時配信がいよいよ本格的に始まるようだ」という見込でしたが、11月に総務省がNHKの策定した「実施基準案」に見直しを求めたため、風向きが変わりました。ネット業務の費用拡大(受信料収入の2.5%以内を別枠予算と合わせ実質3.8%まで拡大)や有料・無料のサービス設計の変更、受信料納付を考慮しない視聴可能条件などに加えて、経営改革の遅れを問題視した見解になっていますが、基準案の認可の可否を示したものではなく、その判断の前に修正を求めるという形になっています。報道によれば、全番組の同時配信の計画に対して時間を短縮し、東京2020以外のネット業務の費用を従来通り2.5%以内とするように修正して認可を求める動きとのことです。
この2つの動きに関連して、2020年、とりわけ東京2020では放送される番組と同じものがネットでも見られるだけでなく、ネットでしか見られない中継や、放送よりも画質のよい映像がネットを通じてなら見られるという新しい体験を視聴者が得る機会になると予想されます。テレビというメディアが拡張して見えるのか、従来の意味合いでのテレビが別のメディアに凌駕されたように見えるのか、送り手側でも受け手へのメッセージの伝え方には留意する必要がありそうです。
在名局の発信活発
プレゼントキャストが運営する「Screens」(2017年12月から正式運用)は、「映像メディアの価値を映す」をスローガンに、各社のプレスリリース、イベント等の独自取材などで最新情報を発信しています。その中で「ローカル」とタグの打たれたものをピックアップすると2019年は執筆時点で120本ほどの記事があがっています。続報・詳細記事なども含まれますが、地区でみると39本が名古屋局に関するもので発信の多さが目に付きました。番組、広告企画、出資、イベントなど、内容もバリエーションに富み、在名4局で配信プラットフォームを構築するなどのニュースもありました。ご当地ならではのタレントやスポーツ、自治体との取り組みなどは地域に根差したテレビ局らしいテーマでしょうが、テクノロジーや知財などへの取り組みを見ると、放送局の守備範囲の広がりのようなものも感じます。テレビや映像メディアの周辺にどんなテーマが台頭してきているのか、日々の情報収集にScreensも是非ご活用ください。
Yahoo!とLINEが経営統合に合意
11月にYahoo! とLINEの経営統合が発表されました。国内ユーザー数がYahoo! 6,740万人、LINE 8,200万人規模(それぞれ月間)なので、産業的観点のみならず、日本の生活者のメディア環境には相応の影響、インパクトを与えることになると思われます。11月18日の会見では「日本にフォーカスしたAI テックカンパニーを目指す」(川邊氏)という方向性が示され、国内を席巻する規模の納得感の一方で、その両社を合わせてもGAFA(米国)やBAT(中国)とは時価総額、営業利益、研究開発費等が桁違い(日本が少ない)という現実もあるため、内外格差を痛感する出来事であったように思います。解説記事では、あらゆるサービスをスマホ上でワンストップに提供する「スーパーアプリ」の開発を目指すとされ、その問題意識は、目的に応じてウェブサイトにアクセスする、アプリを選ぶという行為自体が、生活者のニーズ、利便性に合致していないというものがありそうです。少し前、いわゆるガラケーの時代に最初から端末で利用可能な「プリインストールアプリ」になるかどうかが死活問題というのと同様に、スーパーアプリのサービスのカバレッジに入っているかどうかが利用者のサイズに決定的な影響を与えるということになるのかもしれません。このことはテレビなり、動画ビジネスとして考えると、スーパーアプリに参加するのか、独自展開するのか選択を迫られるということがありそうです。個々のカスタマイズがデジタル技術の特徴のひとつで、ある種企業側からの強制を排除する性質もあったと思いますが、何周か回って、選ぶ面倒を代替することの方が価値のある時代を迎えつつあるのかもしれません。
電子決済目線ではプラットフォームの乱立が拡大
消費税増税による消費減速への対応策のひとつとして、キャッシュレス(電子決済)の促進が図られているのも今年の大きな出来事、節目のように思います。キャッシュレスによる還元の仕組みは、店舗の形態や規模で還元率が異なり、売る側、買う側の両方に利用を促すような考え方になっています。それに向けてセブン&アイホールディングスでは独自の決済手段「7pay」を7月に導入しましたが、不正利用の発覚、それに対するアプリ設計上の不備、発覚後の対応などが問題となって、9月には撤退するという目まぐるしい出来事もありました。電子決済は、NFC(近距離無線通信)技術を使うもの・バーコード方式、カードタイプかアプリか、事前のチャージ(プリペイド)かその場決済か、関連するポイント事業も絡めて、かなり複雑な設計の上、従来のクレジットカード利用も含むという状態なので、どのタイプのキャッシュレスが促進されたのかを把握するにはしばらく時間がかかりそうです。ただし、一連の事業の予算に対して、還元額が想定を超えるペースであることも報道されており、キャッシュレスの利用は拡大しているようです。
このことをマーケティング活動の観点からみると、購買行動の取得がより容易になったり、取得できるアイテムやカバレッジが拡大したりしつつ、有力事業者間で購買行動が分散化したりということにもつながりそうです。この観点でも、PayPayとLINE Payを手掛ける2社の統合は大きな意味を持ちそうです。
データ利活用と個人情報保護の両立への課題
リクナビが事前承諾を取得していない約8,000名の学生のデータを内定辞退予測に活用し、販売していた問題は、運営会社のリクルートキャリアへの行政指導(8月26日 個人情報保護委員会、9月6日 厚生労働省)、プライバシーマーク認証の取り消し(11月14日)という事態となりました。報道によれば、厚労省の行政指導は、「職業安定法」に対する「募集情報等提供事業者」としての違反で、同意があったとしても同種のデータ販売事業自体が認められないと判断されています。2つの行政指導では問題の指摘個所が異なり、後者でより踏み込んだ判断が加わっているのは、他でも起こりうることかもしれません。昔話ではありますが、例えばBSデジタルが始まった後、各局で双方向会員を募るのは放送業界の新しい取り組みのひとつでした。しかし、2005年の「個人情報の保護に関する法律」の全面施行をきっかけに、個人情報を所持することのリスクが高くなり、双方向会員を解散したこともありましたし、個人情報そのものの流出事件や、個人情報ではないがそれに準ずる情報を用いたビジネスが問題視されると、そのことが法整備へも影響を及ぼすことへは目配りが必要と言えるでしょう。広告領域においては、ネット広告の範疇にとどまらずビッグデータ活用の動きが活発です。それに比べると、放送をはじめとするいわゆる従来のマスメディアが、自ら実数データやビッグデータを活用しようとするのは比較的最近であるため、ルールも手探りな状況があります。とりわけテレビは視聴者をユーザーとすると、規模が非常に大きいため、ビジネス的な可能性も、万一情報の取り扱いを間違えた場合のリスクも高く、その取り回しには高度なバランス感覚が求められそうです。
2020年に向けて
「亥固まる」の格言とは違って、昨年にも増して『不安定』が印象に残った1年でした。不都合が起こると記録が失われてしまう政治、組織運営のガバナンスやハラスメント騒動が続いたスポーツ界、表現の自由が迷走して不幸な事態に直面しているように思える文化・芸術、当然悪いことばかりではないハズなのですが、社会の劣化を懸念するような出来事に度々遭遇しました。トピックスにはあげませんでしたが、反社会勢力との交流、麻薬取締法違反、違法ではなくとも社会通念上の非常識行為で番組出演者の降板があったり、編集や演出上の問題で番組の打ち切りがあったりしたことも、テレビを揺さぶる出来事だったと思います。
2020年は、いよいよ東京オリンピック・パラリンピックの年。それを巡っても冒頭言及したように波風があるのは否めませんが、ここ数年来の霞がかかったような状態を転換する絶好の機会であるのは間違いないでしょう。メディア業界としては、新しい映像技術、配信技術への挑戦の意味合いがあるでしょうし、もう少し広義には街や交通、決済など社会インフラを更新する試みにもなるはずです。当社では、その生活者へのインパクトを測定したい願望を持ちつつ、まずは新視聴率調査を無事にスタートさせ、番組やコンテンツの到達を最大限測定できる体制を整えて参ります。
『子(ね)は繁栄』。十二支の始まりに戻って、改めていい時代の幕開けとなることを祈りつつ、2020年もどうぞよろしくお願い致します。
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