「和食は本当に健康なのか」~データで見る本当の健康とは~
白米に漬物、焼き魚にお味噌汁。ファストフード店が進出し、食の欧米化が進んでいる昨今では和食の価値が改めて見直されています。その証拠に2013年には和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、「和食=健康に良い」というイメージが多くの方にあると思います。
さて、このイメージは果たして本当なのでしょうか。メリットが語られることが多い和食ですが、今回は栄養士の資格を持つ筆者が和食を摂取することのデメリットに着目して、データを活用しながら検証したいと思います。
意外と知らない和食の特徴
そもそも「和食好き」な人、「洋食好き」な人はそれぞれどれくらいいるのでしょうか。当社の生活者データ「ACR/ex」でみてみました。ここでは「洋食よりも和食が好き」の問いに対して、はいと答えた人を「和食好き」、いいえと答えた人を「洋食好き」と定義しました。男女10代、男性20代では洋食好きが優勢ですが、年代が上がるにつれ和食好きが増え、男女60代では7割を占めるほどの和食人気が分かります(図表1)。
図表1:「和食好き」「洋食好き」の割合
データソース:ACR/ex2019,全国7地区
和食は偏りなく多様な栄養を摂取しやすい、健康に良い発酵食品を摂りやすいなどの理由で健康に良いのは間違いないですが、万能ではありません。
デメリットの一つ目として、和食は塩分過多になりがちです。高血圧学会の定める食塩摂取量の推奨値は1日6g未満であるのに対して、味噌汁1杯に使われる塩分量は1.5~2gといわれています。朝晩二杯の味噌汁だけで一日あたりの推奨値の半分以上を摂取することになります。他にも和食として代表的で焼き魚として食されることの多い塩鮭の塩分量は、一般的に一尾あたり甘口でも2g、辛口だと5gだといわれており、和食がいかに塩分を摂りすぎてしまいやすいかお分かりでしょうか。
塩分摂取量については興味深いデータがあります。塩分摂取が多いと高血圧になるといわれますが、厚生労働省の算出している塩分摂取量と収縮期血圧(いわゆる血圧の"上"の方)の年次推移のグラフ(図表2、3)をみると、実は食塩摂取量、収縮期血圧ともに年々わずかながら低下していることが分かります。
図表2:塩分摂取量の平均値の年次推移
データソース:平成29年国民健康・栄養調査「食塩摂取量の平均値の年次推移」より引用(性・年齢階級別、成人1人1日当たり)
図表3:収縮期(最高)血圧の平均値の年次推移
データソース :平成29年国民健康・栄養調査「収縮期(最高)血圧の平均値の年次推移」より引用(性・年齢階級別)
塩分摂取量の減少の背景として、健康志向の高まりなども考えられますが当社のACR/exデータでもここ10数年大きな変動はない一方、実はあるものの摂取量が増えているのです。食の欧米化の代表例である肉の摂取量は、10年前と比べ増えています(図表4)。これは和食以外の食事をする機会が増えた結果、塩分の摂取量が減っており、逆説的に和食には塩分が多いことを示唆する結果と言えるのではないでしょうか。
図表4:肉類摂取量の平均値の年次推移
データソース :平成29年国民健康・栄養調査「食品群別摂取量の平均値の年次推移」より引用(総数、1人1日当たり)
もう一つ和食で陥りやすいデメリットは、精白米を多く摂取してしまうということです。
2010年にアメリカ栄養学会の学会誌である「American Journal of Clinical Nutrition」(※)に掲載された、白米の摂取量と糖尿病リスクの研究結果では、男女ともに白米の摂取量の少ないグループと比べて摂取量の多いグループの方が糖尿病リスクが約1.2~1.6倍高いというデータもあります。白米の摂取量と比例して糖尿病リスクが高まる原因は諸説ありますが、一説には白米のGI値が高く急激な血糖上昇を引き起こすからとも言われています。
※https://academic.oup.com/ajcn/article/92/6/1468/4597546
しかし、やはり「和食好き」の人がいる世帯は1日の中で白米を食べる頻度が多いようです。精白米を摂取する頻度をみると、「洋食好き」の人がいる世帯は毎日1食が多いのに対して、「和食好き」の人がいる世帯は毎日2食が最も多く、毎日3食の世帯を含めると半数以上の世帯が1日に2食以上白米を食べていることがわかります(図表5)。
図表5:一週間の精白米の使用頻度(世帯単位)
データソース:ACR/ex2019,全国7地区
和食が健康たる所以
ではこのような側面のある和食が、それでも一般的に「健康に良い」といわれるのはなぜでしょうか。当社のACR/exデータより意識と行動の両面から考察していきます。
まずは意識的な面です。食事への意識を「和食好き」「洋食好き」でそれぞれみてみました(図表6)。和食好きの人は、洋食好きの人に比べて産地や成分をチェックし、より良質な食材を使おうとするなど食事への意識が多くの項目で高いという結果となりました。食事について関心を高く持っていることがこのデータから窺えます。
図表6:食事に関する意識
データソース:ACR/ex2019,全国7地区
実際の行動についてもみてみましょう(図表7)。和食好きには自炊をする人が多く、そのために栄養バランスを考えて献立を作る、レパートリーを広げる努力をするなど、食事に対して考えて行動している人が多いことが分かります。
図表7:食事に関する行動
データソース:ACR/ex2019,全国7地区
また、和食好きが栄養バランスについて考えて行動していることをさらに証明するのが下のデータです(図表8)。和食好きの人がACR/exで調査している3つの栄養素で積極的に摂取している傾向にあることが明白です。このことから実際に健康を意識した食事をしている人が和食好きに多いことが分かります。
図表8:食事の栄養に関する意識
データソース:ACR/ex2019,全国7地区
結論
先でも述べたように和食は必ずしも万能ではない面があります。しかし、和食がそのような面を持ちながらも高い評価をされている背景には、和食を好む人の食事に対する意識や、それを行動に移す実行力が高いという要素が、副次的に「和食が、健康を支えている」ということに結びついているのではないかと考えられます。
結論として、和食はもちろんそれ自体も素晴らしいですが、和食が好きな人の食への考え方や取り組みが良い影響を与えていることが分かりました。つまり和食でも洋食でも食事に対して向き合う姿勢が重要であり、どちらがいいということはないと筆者は考えます。ただ単に「和食=健康に良い」というのでなく、和食のどの要素が健康に好影響を与えているかという知識をつけて、その学びを実践することが健康的な食事への近道ではないでしょうか。