「延べ接触人数」×「メディア・エンゲージメント」で広告効果を可視化する 〜2020年4月リリース「ラジオ365データ」の活用事例より〜
これまでビデオリサーチでは、生活者データACR/exを用いてリーチ指標と態度変容をかけ合わせて各メディアの「推計広告効果」を算出する考え方を提唱し(吉田,2017a)、たくさんのお引合いやご発注を賜ってきました。この度、この概念をさらに発展させることで、より出稿の現実に近い推計が可能になりましたので、その具体的な方法を、2020年4月にリリースした「ラジオ365データ」を用いてご紹介いたします。
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「延べ接触人数」の可視化
各メディアの広告効果比較において、リーチ指標が重要であることは言うまでもありません。このリーチ指標に関して、昨今ではデジタルの指標である「表示回数」を他メディアでも活用するという考え方が広まりつつあります。(例えば小出・田中2018) 当社でも、これまで「表示回数」と同様の概念である「延べ接触人数」活用提案を行ってきており、リーチやフリークエンシー計測が難しいデジタル媒体の指標と同様に、他メディアとの比較が可能であるという点からも、有用な指標であると考えています。
各メディアの「延べ接触人数」の算出方法ですが、テレビはGRPとエリア内推定人口を掛け合わせることで算出が可能となります。他メディアでは当社のVR-MAPSで具体的な出稿プランを入力し算出することも可能ですが(米田,2017)、テレビ同様に日毎のデータが存在する場合は、そちらを活用する方がより実態に近い「延べ接触人数」が算出できます。
なお当社では、「ラジオ365データ」としてradikoログとビデオリサーチの聴取率データを掛け合わせた推計デイリーデータの提供を2020年4月より開始しました(詳細はこちら)。今回の分析ではこのデータを使い、時間区分・番組別の「延べ接触人数」を推計し、ラジオCM出稿した際の延べ接触人数を試算しました。
「延べ接触人数」の算出は、「ラジオ365データ」の放送局カバレッジ人口(人)を使用しました。これはラジオ365データで常時出力確認が可能な指標です。
さて、ラジオ局Aの実際のラジオ番組Aに2019年10月〜12月の3か月(13回)、各回で2本ラジオCMを出稿した場合、延べ接触人数は26本合計で7,056,552人となることがわかりました。
さらに、ラジオ広告統計を組み合わせて用いると、実際に出稿したラジオCMの「延べ接触人数」を確認することができます。ここではラジオ局Bに実際に出稿されていたブランドCの出稿時点を確認し、その時点の延べ接触人数を突き合せ合計することで算出しました。ブランドCのラジオCMを番組Aと同様に2019年10月〜12月の3か月でみたところ、番組CM・スポットCM含めて46本のラジオCMが出稿され、各出稿時点の延べ接触人数の合計は、5,036,665人となりました。
いずれもデジタル広告のインプレッション(表示回数)に相当する指標のため、ラジオ局Aのラジオ番組Aへの1クール各2本の出稿は「延べ接触人数」7,056,552人≒約700万imp、ブランドCの局Bでの出稿量は「延べ接触人数」5,036,665人≒約500万impと解釈できます。
メディア・エンゲージメントをかけて「推計広告効果」を算出
当社では広告効果=認知×態度変容ととらえており、これまでご紹介してきた「延べ接触人数」は、認知における重要な指標であると考えています。その上で、態度変容の指標として「メディア・エンゲージメント」という指標があり、昨今関心が高まっています。
当社はこれまで、購買ファネルで「メディア・エンゲージメント」を捉え、各メディアで強みのある効果指標がメディアによって異なることをご紹介しておりますが(吉田,2020)、具体的に、ラジオ広告とデジタル広告で比較してみました。すると、以下のように推奨における広告効果ではラジオCM>デジタル広告ですが、検索ではラジオCM<デジタル広告となっており、購買ファネルに応じたメディア・エンゲージメントはメディアによって強みが異なることが改めて確認できます。(図表1)
【図表1】ラジオとデジタル広告の「推奨」「検索」のメディア・エンゲージメント(%)
ACR Connect/ex2019年12月実験調査結果より(吉田2020)
さらに、この「メディア・エンゲージメント」をさきの「延べ接触人数」とかけ合わせて「推計広告効果」を算出した場合、その大小関係に変化が出ることもあります。
先ほどの「延べ接触人数」を算出したラジオ番組Aの出稿に対して、デジタル広告1,000万impの出稿と比較するとします(図表2)。「延べ接触人数」では、番組Aは上述の通り700万impとなるため、デジタル広告の1,000万impを下回ります。ここに、それぞれメディア・エンゲージメントをかけ合わせると、デジタル広告に強みのある「検索」ではメディア・エンゲージメントをかけ合わせても依然デジタル広告で効果が高い一方、ラジオに強みのある「推奨」では、延べ接触人数での大小関係が逆転し、ラジオの効果が高くなりました。仮に両者の出稿にかかる金額が等価であった場合、購買ファネルで広告目的とする指標を選択する場合、コストパフォーマンスの高いメディアが異なることを示唆する結果だといえます。
【図表2】ラジオとデジタル広告の「推奨」「検索」の推定広告効果比較
最後に
今回は、「延べ接触人数」×「メディア・エンゲージメント」で各メディアの「推計広告効果」を比較する考え方を、「ラジオ365のデータ」と当社の実験調査の結果を併せてご紹介しました。なお、この「推定広告効果」はラジオに限らず各メディアでも活用可能であり、ラジオやテレビでは、番組ごとに算出することも可能です。
当社にこれまで、「推定広告効果」に関するたくさんのお引合いやご発注を賜ってきた理由のひとつは、「推定広告効果」を非常にシンプルなロジックで算出しているため、説明時に理解共感が得られやすいことにあると考えています。
また、この「推計広告効果」を用いると、メディア選定時のコストパフォーマンス比較が簡単にできます。これまで「購買」のような単一の効果指標で確認することが多かったKPIの検討を、複数の指標で多角的に見るだけでなく、推計広告効果を足し上げることで複数の効果要素を入れた単一指標を作成することもできます。
こうした分析には、言うまでもありませんが正確なデータが必要です。今回ご紹介したような「延べ接触人数」、「メディア・エンゲージメント」、いずれも当社のメディアデータや生活者データACR/exから算出可能であり、より正確なデータとして活用いただくことが可能です。是非弊社にお問い合わせください。
<参考文献>
・小出誠・田中洋(2018)「特集 対談 なぜ今テレビとデジタルの共通指標が必要なのか」 『JAA』76(738), 6-10ページ
・米田智香(2017)「クロスメディアキャンペーンの評価を横並びで量的比較する分析」 『VRダイジェストプラス』
・吉田正寛(2017a)「広告のメディア出稿配分を考える〜ACR/exを用いた簡易的な出稿配分分析」『VRダイジェスト』No.557(2017年5-6月) 20-23ページ
・吉田正寛(2017b)「「マーケティングミックスモデル」の作成時に注意すべきこと〜広告投資に用いる変数とは?〜」 『VRダイジェストプラス』
・吉田正寛(2020)「購買ファネル上のメディア・エンゲージメントからみた広告メディア別の役割」 『VRダイジェストプラス』
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