2020年を振り返って思ったこと
「こんなはずではなかった1年」が終わろうとしています。
厚生労働省が中国 武漢での原因不明の肺炎に対して注意喚起を発したのが1月8日。1月14日には世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスを確認、30日には「国際的な緊急事態」を宣言しました。日本国内では、1月16日に初めての感染を確認、2月 横浜港でのクルーズ船へはまだ特殊な事例への対応と見ていた気がしますが、その月末には感染拡大への備えが現実の課題となりました。
3月2日からの全国すべての小・中・高校への休校要請、いずれも史上初となるセンバツ高校野球の中止(3月11日)と東京五輪・パラリンピックの延期(3月24日)、7都府県に緊急事態宣言(4月7日。4月16日に全国に拡大)などなど、大きな判断・決定が続きました。スポーツやコンサート、演劇などの「非日常」だけではなく、休校要請によって児童・学生の学校生活からは、多くの行事や機会が奪われたことは否めないでしょうし、在宅勤務や休業、それよりもっと深刻な影響を受けた方も少なくないでしょうから、コロナ禍によって国民の「日常そのもの」が、変わった/変えられたという思いが強く残ります。
春が過ぎ、夏の終わりになって、国内ではリーダーが変わりました。コロナ対策や東京高検検事長の定年延長で迷走と報じられたりもした安倍総理が、持病の悪化から辞任を表明(8月28日)、自民党総裁選を経て、菅義偉内閣が発足しました(9月16日)。日本学術会議会員の任命拒否、新型コロナの感染再拡大下でのGo To 施策への対応、「桜を見る会問題」の再燃など、当初の高支持率を維持できるのか、危うさが漂う年の瀬となっています。
海外に目を向けると、日本とは比べ物にならない新型コロナの感染・死亡の被害が広がっており、米国、インド、ブラジル、メキシコでは死者が10万人を超えたと報道されています(12/22時点)。そのような状況下で11月に行われた米国大統領選挙は、日本でも注目のニュースとなりました。
全世界的なコロナ禍の前では、どんな良きことを挙げても霞んでしまう、そんな無力感を感じてしまいます。
さて、そんな1年は、テレビ業界にとってはどんな年だったのでしょうか。恒例により、放送・通信・IT まわりを見渡して【10大トピックス】を挙げて振り返ってみたいと思います。
放送・通信・IT まわりの2020年 10大トピックス
◇日本の広告費 地上波テレビ 1兆7,345億円をインターネット広告が上回る
◇コロナ禍で生活行動が変化。4-6月のテレビ視聴率がアップ
◇感染防止対策が番組制作を直撃。ドラマが撮れない・ロケが出来ない・リモート出演
◇新視聴率調査開始。27地区で個人化・365日化・タイムシフト対応に設計統一
◇「NHK プラス」「日テレ系ライブ配信」開始。インターネット同時配信元年に
◇実数による視聴データ活用への取り組み拡大
◇子供たちに教育支援番組を。地元の生活者に寄りそうローカル局の取り組み
◇5G 時代の幕開けと通信業界の地殻変動。楽天参入・docomo はNTT の完全子会社に
◇在宅勤務、オンライン授業、無観客配信ライブ中継など「リモートな生活」が一般化
◇コロナ禍によるテレビ、マスメディアへの再評価
概況 〜2019年の広告費から
電通「日本の広告費」によれば、2019年の地上波テレビ広告費は1兆7,345億円、前年比97.2%で前年割れでした。19年は、長梅雨、冷夏、台風の被害、米中貿易摩擦もあって国内の経済状況が厳しく、その影響で前年割れとなったようです。この影響はスポット広告に表れ、軽減税率やキャッシュレス関連の出稿増加はありましたが、全地区で前年を下回ることになりました。番組(タイム)広告は、社会現象にもなったラグビーをはじめとするスポーツが貢献、前年を超える地区もありました。
インターネット広告費(媒体費+広告制作費)は、2兆1,048億円 前年比119.7%で、予想されていたことですが、テレビ広告費を上回りました。媒体費 1兆6,630億円の内、運用型が8割を占め、市場を支えている構造は変わりません。インターネット広告費にはマスコミ四媒体由来のものも含まれ、総額は715億円、インターネット広告媒体費の4%に相当し、この数字は、従来メディアのデジタルシフト(デジタルトランスフォーメーション)の進捗をみていく材料になりそうです。また、「物販系ECプラットフォーム広告費」というのも、19年から独立した項目として計上されるようになりました。
インターネット広告の成長では、従来のメディアからの移動も含み、新たな売り場(広告枠)の追加もあることは認識しておく必要があると思われます。
コロナ禍はテレビメディアへも 〜視聴率と編成・制作へのインパクト
新型コロナの感染拡大対策で、全国的に生活者の在宅時間が長くなりました。特に3〜5月にかけては、全国一斉休校、緊急事態宣言を節目に、イベントの自粛要請、店舗の営業自粛や休業の要請、時差通勤・在宅勤務の推奨といった施策が集中し、テレビ視聴率が前年に比べ上昇しています。詳細はコロナ禍とテレビ視聴の変化をまとめた3回の当社プレスリリースに譲りますが、朝7時台までのHUT/PUTの上昇をもう一段押し上げる形で8時台にピークを示す、昼間の時間帯の視聴量が1割増しになる、若年層の視聴率が上がるなどの変化が見られました。もともと起床在宅率とテレビ視聴には相関があり、外出自粛はテレビにとっては追い風となったようです。
その一方で、テレビ局の編成や制作も変わっています。感染防止対策上、現場の「密状態」を避けがたいドラマ制作が困難になり、4月クールでは放送開始が遅れたり、放送回数が短縮されたりといった影響が出ました。それは7月以降も玉突きで続いています。
情報番組やバラエティでも、取材やロケが制限を受け、番組のフォーマットを維持できないといったことも起こりました。スタジオではゲストのリモート出演が普通になり、リアルに出演する場合も、出演者間の距離を取って、仕切りを設けて、マウスシールドを装着して...というような対策が採られ、「テレビの画面構成(絵面)」も変わってきています。
生活者の在宅時間が増え、番組を見てもらえる機会は増加しているにもかかわらず、普段どおりという意味合いで、ベター・ベストな番組を提供できないのには、ジレンマがあったことと思います。
27地区で機械式テレビ視聴率調査が「個人化」「365日化」「タイムシフト対応」に
4月、ビデオリサーチは視聴率調査の大幅リニューアルを行いました。昨年に続き、当社の取り組みを取り上げるのはたいへん僭越ではありますが、機械式テレビ視聴率調査 実施27地区で、機械式個人視聴率(PM調査)、365日測定、タイムシフト対応に、調査設計が統一されたことは節目のひとつになると思われます。機械式調査を行っていない5地区でも50〜100世帯でのPM調査を始め、「全国」を単位とするデータの提供も始まっています。
全国データは、テレビ(百分率やGRP)とインターネット(千万単位の配信数)では、単位と桁が違い過ぎるものを、相対化してみられるアプローチで、例えば「年末年始番組」「24時間テレビ」「日曜劇場・半沢直樹」では、推定接触人数のリリースを出しました。接触人数は「1分以上」「番組平均」「1/3以上などの視聴判定」のように集計方法に種類があり、まだ決まった評価が得られているものではありませんが、皆さまのご意見をお伺いしながら、活用して頂けるデータへと成長させていきたいところです。
リニューアル後、サービスの提供に遅延などもあり、その点はお詫びしなければなりませんが、今後、パネル調査内での動画配信の測定・指標化の検討など、視聴率調査は今の形が完成ではありません。21年以降もデータ、サービスの拡充を図っていく所存です。
放送との同時配信がスタート
NHK の常時同時配信「NHK プラス」が4月にサービス開始となりました。全番組配信の当初計画に対して6時から24時までの18時間程度に短縮したサービスとなっています。民放でも日本テレビ、讀賣テレビ、中京テレビの3社が共同で「日テレ系ライブ配信」を10月に開始しました。この取り組みは10月〜12月までのトライアルサービスの位置づけで、19時〜24時にかけての番組を、TVerを通じて配信しています。そのTVer も、運営を担っていたプレゼントキャストが7月にTVer 株式会社に改め、新たなスタートを切っています。21年はテレビのネットへの展開がより拡大していくことでしょう。
実数系視聴データの活用の試みが拡大
夏にかけて、視聴データの活用に関するリリースが複数ありました。放送セキュリティセンターの「プラクティス(2.0)」の公表、調査会社のサービス拡充、広告会社での広告効果の分析・管理〜広告配信にわたるサービスなど立場・用途は様ざまです。インターネットに接続したテレビから得られる視聴データは、かねてから新たな価値創造への期待と、プライバシーへの配慮の両立が課題としてあり、後者はテレビ視聴データとは関係ないところで起こる個人情報の漏えい事件などの影響も受けるので、常々動向や判断を追う必要のあるテーマともなっています。暮れには、総務省が「テレビ視聴履歴の利活用に向けたガイドラインを2021年度に整備する」との報道もありました。この動きに関連して、後発にはなりますが、当社でも視聴ログ活用の企画検討を行う子会社(Resolving LAB)を設立し、対応を進めているところです。
ローカル局の地域貢献
学校の休校で、入学式などの行事ばかりでなく、授業そのものが行えない状況に対して、自治体と協力した教育支援の取り組みがありました。北海道と熊本では地元の系列民放局が分担してサブチャンネルを使って学習番組を放送、テレビメディアの公共性を示す活動であるように思います。福岡や大阪以外では独立局が多く学習放送に取り組まれたのが印象に残ります。編成的にも営業的にも調整にはご苦労があったと伺っていますが、一斉休校の要請から短い期間で実現された行動力に、敬意を表したいと思います。
5G 時代の幕開け
スタートが19年の暮れだったので、20年が「5G 元年」ということになりそうです。5G は「期待」が語られる一方で、20年末でもいずれのキャリアでもサービスエリアが限られており、当社所在地近くの超有名スポット「日本武道館」であっても5Gは提供エリア外です。5Gの対応端末は続々と発売される、対応端末を購入すると楽天以前の3キャリアでは契約変更(docomo とSoftBank:契約変更、au:SIM交換)が必須となる。しかし、なかなか本来のサービススペックの恩恵には預かれないので、消費者からすると、「実害の少ない不満」が蓄積される構造となっていて、新たなインフラ普及のスタートとしては残念な気がします。
とはいえ、楽天の携帯キャリア参入、NTTによるdocomo の完全子会社化、料金を巡る政府とキャリアの攻防で、21年も通信を巡る動向は目まぐるしいことになりそうです。
仕事も、プライベートも、エンターテインメントも リモート・配信の新習慣
リモートワークの推奨で、出社も、取引先への訪問もままならなくなり、「打ち合わせはテレカンで。アドレス送りますね」というのが瞬く間に浸透しました。仕事のみならず、「飲み会」をオンラインでというのも聞くようになり、公私のコミュニケーションの在り方が変わる兆しも見えているような気がします。ただし、リアルイベントの自粛要請は、スポーツ・エンターテインメント等、興行方面への影響は大きく、海外ですが、あのシルク・ドゥ・ソレイユが経営破綻するというようなニュースも届きました。夏以降、無観客・有料配信のライブ中継企画などを目にする機会も増え、「限られた会場」「公演数」「客席数」のような制約を、リモートで克服して新しく、大きな市場を作る試みは注目したいと思います。
メディアに期待される「ファクトチェック」の役割
コロナ禍で、原因や予防方法などで様ざまなデマが飛び交いました。「コロナ禍でテレビの見方はどう変わっているのか」(2020年04月23日付)でリリースしたように、この混乱期、重視する情報源として「テレビ」の評価は高く、生活者がメディアの機能や役割を再認識する機会になった面はありそうです。ただ、「PCR 検査数は増やした方がいいのか」「11月下旬からの感染拡大(第3波)はGo To 〜が要因なのか」などなど、時々で専門家や識者が番組を通じて言いっ放しで、結論が回収されていないことも多くあるような気がします。
また、米国大統領選に目を向けると、「選挙で大規模な不正があった」「報道が偏向している」といった論争が投票日から1か月経っても続きました。日本でそれに賛同している界隈では、総論として「マスメディア不信」が前提で、「ファクトチェック」が機能していない・届かない層が、少なくない数でうごめいていることを目の当たりにしたりします。米大統領選では「分断」が争点にありましたが、日本国内においても右左、敵味方の単純化された二元論的な「分断」と「対立」は、むしろ様ざまに増えているかもしれません。そこを整理したり、融和したりの役割で、メディアがその機能を果たせるか、未来に向けて改めての宿題なのかもしれません。
2021年に向けて
日本も世界も不安定な状態ではありますが、経済指標についてみると、日経平均は11月17日の終値が2万6014円で、29年ぶりの高値を更新、その水準を維持しています。米国のNYダウ、ナスダックも20年に史上最高値を更新しました。経済指標と生活実感の乖離が広がって迎える2021年は「丑年」で、相場格言によれば『丑はつまずき』と不安を予言するかのような巡り合わせです。
収束の見えない新型コロナの影響で、東京五輪・パラリンピックの開催も予断を許さない状況ですが、それゆえに、メディアのみならず、日本の社会全体が「試される1年」になりそうですし、混乱や変化の最中ゆえに、もっと主体的には『挑戦できる1年』となるようにも期待されます。
本年も大変お世話になりました。2021年もどうぞよろしくお願い致します。