感覚に頼らない!ロジカルにテレビCM効果を最大化するソリューション
▲(左から)営業局 営業企画部 営業推進担当 課長 鈴木康啓
/ソリューション室 マーケティングソリューション部 マーケティング担当 石垣宏樹
15秒、30秒という短い尺で放映されるテレビCM。テレビCMの制作、出稿には多くの費用や時間を要します。
その制作の過程では、どうしてもクリエイティブの判断が感覚や経験的判断に頼りがちになってしまう...。
そんな課題感をお持ちの制作担当者も多いのではないでしょうか。
ロジカル且つ有効な企画の選定・検討を行うためには、目的に応じたゴール指標に貢献度の高いクリエイティブ要素を把握することが肝要です。ビデオリサーチではテレビCMの調査・研究を長年行っており、そこから得られた膨大なデータと知見を組合せ、そうしたクリエイティブ要素をあぶり出すことができます。
広告効果を最大化するソリューションについて、実際のアプローチ事例をもとに、その実現方法を、本件を担当した当社の営業担当の鈴木、分析担当の石垣のインタビューを通じてご紹介します。
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テレビCMの効果を最大化するには、企画段階で狙いに応じたクリエイティブ要素の検討が有効
今回の、効果を出すためのテレビCM作りをサポートしたソリューションについて、経緯は?
鈴木 2020年の夏頃、ある事業会社様より当社宛にお問合せをいただいたのがきっかけです。クリエイティブ制作を担っている部署の方で、テレビCMを制作するにあたって、当社のテレビCMクリエイティブ評価調査サービス「クリエイティブカルテ」の調査データ購入を検討されているということでした。
クリエイティブカルテをご所望されている理由をお伺いしていく中で、「テレビCMのクリエイティブの選定基準が属人的になっている」という課題感があることがわかりました。それを踏まえたうえで、「クリエイティブの構成要素を分解し、KPIに合うものがどれなのか分析する」というご提案をしたんです。
当時のクライアントのコンディションは?
鈴木 KPIに関しては、クライアントサイドで既に分析を経てほぼ決定していました。しかしながら、KPIを高めるためのクリエイティブをどのように作ったらいいのか、といった部分が懸案になっていたようです。広告会社から挙がってくるクリエイティブの企画案に対して、どうしても感覚的・経験的な判断のみに頼る部分が多く、そこへ科学的な判断軸も加えたいというニーズがありました。
"科学的に"テレビCMを選定する、そのために必要なアプローチとは?
鈴木 クリエイティブの構成要素は無限にあって、組み合わせによって効果が異なります。例えば、「有名タレントが出演するから効果が上がる」という単純な話ではなく、有名タレントの出演は一定のプラス効果が結果として出てくるものの、それは他の要素の組み合わせによって変わります。
タレントさんの条件×〇〇の条件、更に×◇◇の条件といった"組み合わせによって変化するクリエイティブ"という、良いのか悪いのか、どう評価していいのかよくわからないものですよね。このわかりにくさのため、最後は宣伝部や担当者の感覚値で決める、といったケースが多いのが実情とお伺いします。
ただ、クリエイティブの構成要素とその条件の組合せによって、どう評価されるか結果が予測できれば、効果を出せるテレビCMにするためにはどういったクリエイティブが良いのか、ロジカルな面からも判断軸ができます。
当社でそれをサポートするために、今回のクライアントでは、先方の掲げている目標に対して効果的なクリエイティブ要素を解明し、更に恒常的にまわしていく仕組みができるようにテレビCM効果のシミュレーターもご提供することにしました。
この取り組みで生かされたのは、当社の長年のテレビCM調査・研究から得られた膨大なデータと知見です。やはり自社テレビCMのクリエイティブ調査結果だけで分析しようとするとどうしても偏ってしまい、有効な結果が得られにくいとクライアントも感じており、当社保有の幅広い業種・大量のテレビCM素材のクリエイティブデータをもとに分析を行いました。
また、シミュレーターについては、当初クライアントのオーダーにはなかったものの、「活用方法までご提案いただけるのはありがたい」と賛同していただけたので進めていくことになりました。
クライアントの要望に合わせたチューニングで、テレビCMの構成を自動でシミュレーション
ソリューションの実現までの流れは?
鈴木 今回のプロジェクトでは、「次のキャンペーンCM制作時に、目標に寄与するクリエイティブ要素を踏まえてテレビCMを適切に選定したい」というオーダーだったのですが、クライアントへのヒアリング、それを受けて提案、その後KPIに合わせたクリエイティブ構成要素を分析し、シミュレーターを作り...半年ほどかかりましたね。
石垣 具体的なアプローチは、当社の長年のテレビCM研究の知見を活かして設計しました。アンサンブル学習(項目やレコードをサンプリングしてモデルを多数作り、合議制によって予測値を決めるやり方)という機械学習の手法のうち、人気の高い「ランダムフォレスト」という手法を用いました。実は、「勾配ブースティング」という手法も試したのですが、精度がほぼ変わらなかったんです。
一方、ランダムフォレストはこれまでも同様のアプローチで成功している実績があり、過去に研究して学会に発表している知見も活かせたので、クライアントにも事前に紹介して合意を得て進めました。ランダムフォレストでゴール指標に影響するテレビCMのクリエイティブ要素を見定めて、シミュレーターを仕上げました。
シミュレーションの結果をクライアントも評価してくださり、納得感のあるものに仕上げられたと自負しています。
今回のソリューションで難しい点は?
石垣 当社のクリエイティブカルテでのテレビCM調査データは3,500素材程あるのですが、そのうちクライアントの業種を考慮した素材に絞って分析のデータベースを作りました。ゴール指標となる購入意向などの数値は調査データとして保有しているのですが、クリエイティブ構成要素はテレビCM動画をそれぞれ見て要素一つひとつフラグ立てをする必要があります。
例えば構成要素のうち、テレビCMの出演者を対象にした場合、出演しているのが有名タレントだったりノンタレといった無名な役者だったり、はたまた動物だったり、と色々なパターンがありますが、どういったパターンでどうフラグを立てるのかを決めます。
ただ、どういったフラグ立てがいいのかというのは、クライアントの戦略等にも関わりますし、それに妥当性があるのかトライ&エラーの部分もあるため、クライアントと当社それぞれ動画を見てフラグ立てして、それらのフラグを突き合わせて最終的に決める。これが難しいんです。本当に素材によって多種多様なパターンがありますから。
分析対象としたテレビCMは、じっくり見たおかげでCM素材の名前だけでどういったテレビCMか説明できますよ(笑)。
鈴木 テレビCMの狙いはCM好意や、認知、商品利用意向など、どの会社でも概ね一緒でわかりやすいですが、クリエイティブの構成要素をどう作るのかはテレビCMを作ったクリエイターや広告主によって違います。その意図を推測してフラグを立てていくのを素材ごとにやっていくことになります。ここが肝であり、パワーを要する部分です。
石垣 テレビCM動画を見ながら「これは恐怖訴求なのか?」など考えながら一定の基準で判断しまとめるのですが、その判断の具合を厳し目にするのか、緩めにするのかを決めることも苦戦しました(苦笑)。
今回は一度フラグ立てを完了したものの、シミュレーターで出てきた結果を見ながら「ちょっとこの辺が思った感じに出ていないな」とか、「ここのフラグを厳し目に付け直そう」など細かい調整をしながら進めました。
鈴木 この手の話は試行錯誤が伴いますから、作り直し一回分は見越していました。マーケティングミックスモデリング(MMM)などもそうですが、変数を一個加えたら結果が全く変わってしまうこともあるので。ただ限界はあるので、どこまでやるのかというのはあらかじめクライアントと決めてやっていきます。
また、構成要素をどう作るかという点では、基本的にクライアントの意向を大事にします。クライアントによって迷っているポイントは異なります。例えば出演者自体を迷っている場合もあれば、出演タレント自体は決めているクライアントもあり、後者であれば検証するクリエイティブ構成要素から出演者は対象から外すという判断になるかもしれませんし。
テレビCMでの訴求をどういった形にするかなど、クライアントによってポイント、やり方は異なるものの、当社としては出来るだけクライアントに寄り添ってソリューションを実現できるようサポートする姿勢ですね。
石垣 それに、機械学習でランダムフォレストを選定したように、当社独自の経験と知見をもってアプローチをご提案するというのもこだわっています。
【Appendix:テレビCM効果に影響するクリエイティブ構成要素とその条件】
今回の取り組みでもベースとなった、テレビCM効果に影響するクリエイティブ構成要素を解明するアプローチをご紹介します。
ここでは「CM認知率」「商品購入喚起度」それぞれをテレビCM効果指標として、それらにプラスの影響が大きいテレビCMクリエイティブ要素を特定し(図1)、それらの要素と消費者反応の関係をシミュレートする(図2)ことで、目的に沿ったテレビCM制作の指針が見えてます。
<図1、消費者反応に対する広告表現要素の変数重要度>
※行動計量学第43巻第1号(2016年)「TVCM表現要素の消費者反応に対する効果」河原達也 表7より引用
変数重要度とは、広告表現要素が消費者反応に与える影響の大きさを相対的に示したものです。
CM認知率に対する重要度は、「個人GRP」が高く、出稿量がCM認知度に大きな影響を及ぼすことが分かります。そのほかには「出演有名タレント人数」「シリーズ性タイプ」の影響も大きいです。また、商品購入喚起度には「テロップ文字数」や「商品効果・利用シーン秒数」の影響が大きいこともわかります。
重要な広告表現要素がわかったうえで、広告表現要素と消費者反応の関係をシミュレートしたのが次の図2です。
<図2、広告表現要素の変化に対する消費者反応シミュレーション>
※行動計量学第43巻第1号(2016年)「TVCM表現要素の消費者反応に対する効果」河原達也 図4より引用
例えば、「出演有名タレント人数」は、テレビCM認知においては出演者ゼロより、1人以上の出演で10ポイント程CM認知率を押し上げていることがわかります。しかし、スコアの上昇幅が大きいのは1人までで2人以上に増やしてもCM認知率はそれほど変化しないこともわかります。
同様に、「シリーズ性タイプ」はシリーズ性があるもの、更に出演者がシリーズ通じて同一タレントである方がCM認知率を高める傾向があります。
また、「テロップ文字数」はCM認知率と商品購入喚起度の両方で「テロップ文字数」が少ないほどスコアが高く、できるだけ少ないほうがいいことがわかります。「商品効果・利用シーン秒数」は5〜6秒の部分で上昇幅が大きくなり、7秒を超えると頭打ちになることがわかります。
このように、求める消費者反応に対して、どの広告表現要素がどう影響するのかを把握することで、目的に沿ったテレビCM制作がしやすくなります。
広告・メディアに関する知見を活かして、最短距離で適切なテレビCM運用を実現
クライアントからの評価は?
石垣 シミュレーション予測結果と、実際に調査も行って確認したところ予測と合致したという報告をいただいたときは、自分たちとしても手ごたえがありましたね。
鈴木 あと、このプロジェクトをきっかけに、関連したご相談もいただけるようになりました。そうやって頼っていただけるのは信頼関係を築くことができた証なのかなと感じています。
今回のソリューションにおいて、ビデオリサーチだからこそ成し遂げられた成果、強みは?
石垣 クリエイティブカルテでの調査結果データの大規模なストックがあったというのは、もちろん大きいです。また、予測の精度が芳しくなかった場合に、データセットを変えてリトライするなどの工夫をしたこともよかったと思います。最初は性年代別のデータセットで分析した結果、予測精度がいまひとつでした。そこで性年代を一変数とみなし全ての年代をひとつのデータセットにまとめて分析することで、分析精度が向上しました。
そういった分析も闇雲に全パターン試すというのではなく、これまでの分析の経験、知見から適した分析手法や、適切な分析軸、切り口、調整の仕方がある程度わかっていますので、それを踏まえて出来るだけ最短距離で目標にアプローチするというのもビデオリサーチならではですね。
鈴木 加えて、ビデオリサーチのメンバーの多くがクリエイティブにおける造詣が深いというのはありますね。仕事だからデータを扱っているのではなく、テレビ番組とCMクリエイティブに愛情がある人が多いのかな。だからこそいい仕事ができると思いますし、求められるとも感じます。
また、タレントさんの人気度などを調査しているタレントイメージ調査データも当社で有しているため、テレビCMクリエイティブを総合的に分析しやすいというのも強みですね。
テレビ、CM、タレントに限らず、生活者の大規模マーケティングデータのACR/ex調査や、さまざまなメディアのデータなども手掛けているので、必要に応じて複数のデータを組み合わせてデータセットが組めて、限られたリソースでも成果の質の向上が図れるのではないかなと思います。
石垣
テレビや広告などメディアに関するデータや知識があるところも評価していただくことが多いですね。データのハンドリングをできる会社は当社以外にもありますが、当社はCMビジネスの仕組みや出稿の仕方、セオリーもある程度わかっています。
クライアントにとっては、限られた時間、費用などリソースの中で、そういった基本情報を共有する手間が省けたり、実務の実態に即したアウトプットの提案ができるので、「任せやすい」と言ってくださります。
今回のように、ビデオリサーチがサポートできるクライアントのタイプは?
鈴木 今回は課題が明確だったので、その点では非常に進めやすかったです。ただ、そういったケースは稀で、漠然と「何かよくわからないが上手くいっていない」「課題がわからない」とお悩みの企業も多いと感じます。その場合は、一般的なキャンペーンを始める前から実施後のフローまでを振り返り、「どこで何ができていないのか」、逆に「ここはできている」という部分などを整理して一緒に悩み、考えていけたらいいのかなと思います。
私個人の考えですが、広告主は、キャンペーンのオリエンシートの内容を明確にすることが、期待通りの効果を出せるテレビCMを作るための一番の近道だと思っています。「KPIを設定する」「ターゲットを決める」「クリエイティブの方針を決める」といったことをそれぞれ明確にすることで、より良いオリエンシートができていきます。
オリエンシートの内容を明確にするということは、テレビCM出稿後に事後評価をすることよりも重要で、その出来でキャンペーン効果の大部分が決まっているのではないか、と思うほどです。
個人的にも非常に興味高い領域ですので、軽い相談でも構いません。お気軽にお声がけいただけると嬉しいです!
最後に、今後の抱負を。
鈴木 現在、多くの企業で実に様々なデータ活用が行われています。しかし、それらが過多となってしまっていて、「どんなデータを見て、そこから何をすればいいのか」という点においては、多くの企業が困惑されているように感じます。そこを当社ならではのバックグラウンドを活用しながら、広告の効果を上げるために何をしなくてはいけないのか、課題をどう説いていくのがベストなのか、伴走しながら「一緒に考えましょう」というスタンスを引き続き持ち続けていきたいですね。
石垣 確かに、課題設定が難しくなってきている印象です。これまでも、KPIやKGIから逆算したプランニングにつながる分析に踏み込んでいけたらと取り組んできましたが、よりカスタマーサクセスに貢献できるよう、柔軟に対応していきたいです。
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