「iOS15アプデによるプライバシー保護強化〜IPアドレス秘匿「プライベートリレー」とは?〜」今さら聞けない!基本の『キ』
日々急速な進化を遂げるデジタルマーケティング業界。
皆さんも、毎日のように各社から発信されるニュースで最新情報をキャッチアップしたり、実務上デジタルマーケティングに関わることも多いかと思います。
このコーナーでは、皆さんがニュースや業務で触れるデジタルマーケティングに関する多くのサービスで頻繁に目にする・・・けれども、"基本"であるがゆえ、詳しく説明されることが少ない「単語」や「仕組み」について、初心者にもわかりやすく説明していきます。
再び業界騒然!Apple社による「プライバシー保護強化」宣言3つのトピック
6月7日(現地時間)にYouTubeでもライブ配信された、Apple社のカンファレンスでの「プライバシー保護強化」宣言を皆さんはもうご存じですか。
昨年のカンファレンスでも、iPhoneやiPadの広告識別子=固有のデバイスを特定するIDである「IDFA」が20年秋のiOSのバージョンアップにより、各アプリごとに「IDFAの取得可否を確認する」仕様に変更する、という衝撃的な発表がなされ大騒ぎになりましたが今年もまた、同様に多くの企業が驚く発表が複数なされましたが・・・
今回の発表では、21年秋よりローンチ予定のiOS15で利用可能なサービス・機能が多数告知されましたがその中でも、デジタル広告業界に大きく影響がありそうな「プライバシー保護強化」に関するトピックが大きく3点発表されました。
①:「Safari」でのIPアドレス保護機能
②:「メール」での第三者保護機能
③:「設定」でのプライバシーレポート機能
①は読んでその通り、「Safari」を利用してウェブページを閲覧する際に、ユーザーがインターネット接続に使用しているIPアドレスを第三者に知られないようにする機能です。
②も①と同様にメールに関する情報を第三者に知られないようにする機能で、ここで"知られない"ようにする情報は大きく2つあります。
・メールを開封したかどうか、という情報
・メールアドレスそのもの
この2つはそれぞれ別の機能として提供される見込みです。
そして③は、iPhoneやiPad上で使用している各アプリにユーザーが過去に与えた"許可"を使って、そのアプリが直近でどんなことを行っていたのかをレポート形式でまとめ、ユーザーに提示してくれるレポーティング機能となっています。
3つとも企業のデジタルマーケティング活動に大きく影響を及ぼしそうですが、本記事ではその中でも①:「Safari」でのIPアドレス保護機能に焦点を当て、現時点(21年7月)でわかっている情報をわかりやすく解説いたします。
【ちなみに...】
昨年の発表による影響はこちらの記事でまとめています。コロナの影響もあってか、オプトイン開始は21年春からとなりましたが現在進行形で多くの企業に影響が出ていますので、ご存じない方はぜひご一読ください。
「iOS14アップデートによるIDFAオプトイン化〜アナタの業務に与える影響は?〜」今さら聞けない!基本の『キ』
「Safari」でのIPアドレス保護機能のカギとなる「プライベートリレー(Private Relay)」とは?
Appleユーザーなら誰しも利用しているであろうクラウドストレージサービス「iCloud」は、21年8月現在、5GB以上のデータ保存の場合は月額課金での有料プランに加入する必要があります。
この有料プランが、この秋から「iCloud+」と名前を変えて提供予定です。
そして、この「iCloud+」にて、利用者には無料で利用可能になるオプションサービスの1つに「プライベートリレー」というものがあります。
「プライベートリレー」は、一般ユーザー向けに平たく言うと
・iPhoneやiPadのデフォルトブラウザである「Safari」において、
・ウェブ上でアクセスする企業に対し、
・ユーザー自身の情報を隠したまままウェブサイト閲覧ができる
サービスです。
"情報を隠したまま"とはどういうことでしょうか?
この疑問を解く前にまず、そもそも私たちユーザーは普段どのようにしてウェブページを閲覧するのかを振り返ってみましょう。
普段ウェブページを閲覧するときの流れ
通常、インターネット上で私たちユーザーがどこかのウェブページを閲覧する場合、「そのページが見たい」という情報を、ページ提供元の企業のサーバーに"リクエスト"という形で情報を送信します。
その"リクエスト"に対し、企業側が「はい、どうぞ」という形で応える="レスポンス"することでウェブページ情報がブラウザに表示されますが、このやりとりの際、実はIPアドレスも一緒に送信していることが多いです。
(※)
図に表すと以下のようになります。
りさ子さんがビデオリサーチのHPを閲覧するには、
・「ビデオリサーチのHPが見たい」という情報
・IPアドレス
という2つの情報をセットでビデオリサーチのサーバーに伝えている、ということですね。
これは企業側の不正などではなく、インターネット上でスムーズなやり取りを行ったり、自社のホームページへの来訪者がどんな人だったかを分析するためなどに用いられるために企業側が取得している一般的なやりとりとなっています。
「プライベートリレー」ではどのようにしてウェブページを閲覧する?
前述の通り、これまでは一般的なインターネット上でのやりとりの中でユーザーはIPアドレスを提供していたわけですが、Apple社はここで企業が取得している情報が「(りさ子さんなどの)ユーザーが情報提供の認識をしていないまま、情報が企業にわたり広告の配信等に利用されるのは好ましい状態ではない」と考えているようです。
そこで、「プライベートリレー」を選択したユーザーの場合、「Safari」では以下のような流れでウェブサイトを閲覧する仕組みに変わります。
前述の図との違いは、間に「Apple」そして「Appleが提携している事業者」という2つの企業が入っていることです。
りさ子さんのSafari→Apple→Appleが提携している事業者→ビデオリサーチ、と情報がバトンリレーのように受け渡されていくので「プライベートリレー」という名前となったようです。
ここでのポイントは、「誰がどの情報を知っているのか」という点です。
りさ子さんがビデオリサーチのHPを閲覧するために渡す情報である以下の2つは、
・「ビデオリサーチのHPが見たい」という情報 →Appleが提携している事業者だけが知っている
・IPアドレス →Appleだけが知っている
となり、両方の情報を知っている人がりさ子さん本人以外はいなくなることで「りさ子さんは普段どんなウェブページを見ているのか」が第三者に知られずに済むようになることがプライバシー保護につながるということです。
この「プライベートリレー」は、iCloudの有料版限定の機能となりますが有料版ユーザーであれば、オプション代金を追加で支払う必要が無いことから多くのユーザーがこの機能を利用することになるのではないかと想定されています。
【ちなみに】
この「プライベートリレー」を利用するユーザー≒iCloudの有料版ユーザーが世の中にどれくらいいるのかを調査してみた結果を以下の記事で紹介しております。
あわせてご覧ください。
【21年8月実施】iOS・SafariとiCloudの利用実態〜iOS15アップデートが与える影響を調査!〜
IPアドレスが秘匿されることによる影響は甚大
IPアドレスはアクセス解析や広告配信、ユーザー情報収集などの様々な分野で広く活用されており、企業側がIPアドレスを取得できなくなることによる影響は甚大なものとなると言われています。
この記事をお読みいただいている皆様の企業で導入しているアクセス解析ツールやマーケティングオートメーションツール(MAツール)、DMP等への影響があるかどうか、各ツールの担当者に確認してみることをお勧めいたします。
また、「プライベートリレー」機能を選択していないユーザーにおいても、Safariにはトラッキングタグによる計測時など、特定の条件下においてユーザーのIPアドレスを知ることができなくなる機能も別途実装される見込みです。したがって、SafariにおけるIPアドレスの活用はほぼ困難になるものと考えられます。
なお、企業側がIPアドレスを知りたいと思う理由の1つに「IPアドレスから位置情報を割り出し、そのユーザーがいる大体の地域を特定する」ことがあげられますが、今回のiOS15アップデートによる各種変更でも「地域」に関する情報は引き続き企業側でも取得可能になる見込みです。
いかがでしたか。
今回は、iOS15での新機能の中からプライバシー関連情報:IPアドレスの秘匿にフォーカスしてお伝えいたしました。
これ以外にも「Safari」のUI変更、「FaceTime」がAndroid等の他OSでも使えるようになる機能強化など多数のアップデートがかかる予定のため、最新情報は常にチェックしておくことをおすすめします。
【参考】
■YouTube公式アカウントより:Apple社カンファレンス中継の様子
(プライバシー関連の発表は48分47秒ごろからです)
※IPアドレス以外にも、OSやユーザーエージェント(利用しているブラウザのバージョン等を示す情報)、リファラ(1つ前に見ていたウェブページの情報)などが取得されていることが多いです(取得情報は企業により異なります)。
本記事では、プライベートリレーの説明をわかりやすくするために本文中では「IPアドレス」に焦点を絞って説明しています。