【VR FORUM2020】Session2-b ポストCookie時代における、データマーケティングの展望 〜 "人単位"のデータの重要性、業界全体で取り組む必要性 〜
目次
▲[ 登壇者 ](左から) 株式会社電通 データ・テクノロジーセンター プラットフォーマーデータ部 部長 前川 駿 氏/
LINE株式会社 クロスプラットフォーム推進室 マネージャー 泉 貴文 氏/
ビデオリサーチ 企画推進局 データビジネス推進部長 松岡 逸美
世界的にプライバシー保護が強化される動きの中、消費者を捉えるデータも、今後変化せざるを得ない状況となってきました。「ポストCookie時代」において、データマーケティングには今後どのような道があるのでしょうか。将来的な課題に対する直近の対応策および今後の展望についてディスカッションを行いました。
「ポストCookie時代」の現状
アップル社のデフォルトブラウザであるSafariがサードパーティCookie利用を制限し、ブラウザの利用シェア1位であるGoogle Chromeも、2021年中のサードパーティCookieの廃止を表明しました。さらに、iOS端末の広告識別子であるIDFAも2021年初頭にアプリごとのオプトインが必須と言われています。
これまでユーザー識別のキーを利用したリターゲティング広告やアプリ広告をはじめとする広告配信ビジネス、サードパーティCookieを使ったアクセス分析など、影響範囲は非常に広いです。当社のような調査会社も例外ではなく、広告効果計測の代替策について検討を進めています。
打開策として現在、ユーザーの個人データを大量に持つプラットフォームと、個別にデータ連携をする「Data Clean Room」という取り組みが注目されているほか、既存のメールアドレスや電話番号をキーとした「統合ID」を作るという道も模索されています。逆に、これまでのようなキー・IDに紐付いた連携を行わず、 コンテンツや広告の文脈を捉えてその文脈に沿ったコンテンツ広告を差し込んでいく「コンテキストマッチング」や、推計によって属性のデータを付与していく「推計・フュージョン」という手法も存在します。
ポストCookie時代も"人単位のID"でマーケティング
前川氏は、「Data Clean Room」と「CDP(Customer Data Platform:顧客データプラットフォーム)」を組み合わせたデータマーケティングを説明しました。「クライアントにとっては、潜在顧客を捉えることが重要」であり、「広告販促をスケールさせるためにも、自社サービス外のIDを多く持っているプラットフォーマーが用意したData Clean Roomが鍵」になります。
前川氏は「Data Clean Roomから提供されるデータは、個人を特定する"個人情報"とは切り離された有意集合データであり、管理もプラットフォーマー側のクラウド環境で行われ、 媒体出稿が伴う形であれば運用コストは比較的少ない」と語りました。
「顧客の反応を見ながら次の打ち手を繰り返していくために"人単位のID"を継続的に持っていることが重要」であり「"人単位のID"で継続的にマーケティングを仕掛けていくことこそがData Clean Roomの目的なので、顧客の施策とマッチする」と説明しました。
Data Clean Roomが解消しうる広義のマーケティング実践における3つの壁
新規顧客、潜在顧客を捉え、広告/販促施策をスケールさせるData Clean Roomの活用がカギに
❶ デジタルプラットフォーマーのデータって使えないよね?個人情報だし...。
▶個人情報とは容易照合できない形で切り出されたクラウド環境を提供
❷ CDPを持ったとしても、入れるデータも今ないし、運用する体制が課題...。
▶媒体広告出稿に伴って、比較的安価に活用
❸ 施策の後の反応を蓄積して、次の施策に反映できない...?
▶人単位のIDで、データを継続的にストックし、再活用
LINEプラットフォームによるマーケティングを展開
続いて泉氏からは、国内における具体的な事例として、Data Clean Room「LINE Ads Data Hub」について説明頂きました。
「LINE Ads Data Hub」では、8400万人ものユーザーIDを保持するプラットフォーマーのLINEが、Data Clean Roomとしての機能を提供。「LINEの中での広告接触データや購買データ、店舗の公式アカウントとの繋がりや、 クーポン・ポイントなどの利用履歴」と、テレビなどのマスリーチ媒体やオフラインの店舗といったリアルな場での認知・購買行動データを紐付けることで、販促からCRMにいたるまでの領域を「LINEの1 ID」でカバーしています。
電通と共同で、Pontaと連携しユーザーから許諾を得た状態で加盟店舗における購入ログを紐付けたり、電通が提供するマーケティングプラットフォーム「STADIA」と連携してテレビの視聴ログを紐付けたりと、具体的な案件が進んでいます。
泉氏は「より継続購買が起こりやすい顧客に対して、LINEの友達の外でもコミュニケーションを図り、より積極的に継続購買を促すような広告と販促の仕掛けを進めたい」と語りました。
求められる、パネル×実数データの相互活用
実数データの活用が進む中、パネルデータを再評価する声もあがっています。
泉氏は、LINEでもすべての実数データを保有するわけではなく、プラットフォームが完全な実数データを持つことは現実的には難しいことに触れ、「実数とパネルの組み合わせ」が重要となることは変わりないと語りました。前川氏も同様に、広告効果を正しく評価する視点であれば、「補正」が非常に重要なポイントになるため、実数データが取得できる(データに存在する)バイアスと呼ばれる偏りをパネルデータで補正するなど、パネルデータを教師データとしてみていく重要性を指摘しました。
ID レスの、「コンテキストマッチング」「フュージョン」
また、IDを使わない手法として、「コンテキストマッチング」があります。番組コンテンツと親和性の高い広告をマッチングさせることで、視聴感の流れを分断せず、高い広告効果へつなげる仕組みです。
当社の「TVCMマッチメーカーズ」では、番組やCMのマッチ度をAIエンジンで算出し、広告の出稿先としてより親和性の高いコンテンツを提示できます。
他にも、IDでの連携を行わず、「推計・フュージョン」を行い、パネルデータを用いてターゲットを推定することも可能です。
当社の「VR FACE」では、ACR/exの膨大なプロフィールデータを用い、企業が保有している会員情報と組み合わせることで、取得できていない必要なプロフィールを付与し、ターゲットへの効率的なアプローチを可能にします。
「蓄積的なアプローチ」を続けていくためには
これまではIDを取得することで、ユーザー一人ひとりに対して「蓄積的なアプローチ」を行うことができました。「継続的にブランドの情報やメディアの情報に触れて、ブランド体験を向上させていく仕組みができることが企業にとっては非常に重要」と前川氏。「CRMやLTV(Life Time Value)という文脈においては、やはりID単位にこだわらなければいけないと思う」といいます。
ただし、現状のData Clean Roomの考え方では、プラットフォームを横断したID管理は出来ないことが課題です。個別プラットフォー ムでの最適化はできても、全体の最適化は難しい状況では、前川氏は「実際に実施した施策自体をクライアントのIDのほうにより集めていくことができれば、マーケティングをなるべく大きく広くできる」と提案しました。
泉氏も、「クライアントのCDPを中心としたところにLINEがどう寄り添っていけるか、どう連携をシームレスにしていけるかが非常に重要」と、プラットフォーム同士が連携する必要性を説明。前川氏は、「ポストCookie時代での課題は、特定の事業会社や代理店だけのテーマではない。日本全体でマーケティングやデータに関わる一人ひとりが考え、力を合わせていかなければいけない」との意見を述べました。
これまでのような「蓄積的なアプローチ」をいかに継続させていくか、また新たな技術や効果的なマーケティング手法を見いだせるか、各事業者や消費者の動向に合わせた対策を業界全体で模索していかねばならないと考えます。
パネルデータや実数データに関わらず、データの特徴を活用した技術やサービス開発が着実に進む中、CDPやData Clean Roomなど新たなデータマーケティングが加速しています。顧客のマーケティングを進化させるために、当社も様ざまな事業者と連携して取り組んでいきたいと思います。
「VR FORUM 2020」のレポート記事一覧
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■Keynote.2 アメリカの最新メディア事情 〜 日本のメディアビジネス再編の糸口を探る 〜
■Session1 生活者データから予想される複雑化社会への視座と、メディアの価値の示し方 〜 複雑化社会におけるメディアの価値 〜
■Session2-a 複雑化社会のテレビビジネスについて考える。 〜 進化するテレビデータで、テレビの真価を表す 〜
■Session2-b ポストCookie時代における、データマーケティングの展望 〜 "人単位"のデータの重要性、業界全体で取り組む必要性 〜
■Session2-c 個人最適を"超える"、コンテンツメディアの新たな活用 〜 雑誌、ラジオの価値は"コミュニティ"そのもの 〜
■Session3メディアの新しい価値創造に向けたビデオリサーチの取り組み コンテンツの視聴を 個人起点であまねく測ること